巷では冬のボーナスが先週末辺りから出ているようですね。羨ましいです。ボーナスは人を前向きにさせてくれます。
さて。冬ボーナスで奮発してちょっ高めの革靴を買っちゃおう、と思われている方も多いと思います。普段はなかなか買えない8万、10万、更には20万30万の高級靴ブランドのあの靴も、懐が温かい今なら(税金、ローン、支払いのことを考える前であれば)勢い良く買うことが出来るはずです。羨ましい。
私はこのブログではあまり高級靴ブランドの靴については取り上げていませんが、決して嫌いな訳ではありません。
むしろ買えるのであれば、それがやる気に繋がる、ますます靴に興味を持つきっかけになるのであれば、どんどん買って欲しいと思っています。買えるとき、というのは意外と限られていますし、その購買行動が靴業界の未来を大げさではなく支えていると思っているからです。買いましょう。
靴マニアでこんな文章まで100以上散々書いている私です。訊かれなくても鬱陶しいくらいに色々「べきべき」論や「ねばならない」論は出てきますが、今回はそんなことではなく、ここ最近個人的に感じていることから、ちょっとだけお節介をさせていただければ、と思っております。
「何を買おうがどう履こうが個人の自由。他人がとやかく口出すな。」という方は、この時点でほかのサイトに移られることをオススメします。
高くても、欲しいと思ったのであれば、好きな靴をどんどん買って欲しいと思います。
折角目の前に、先ほどイセタンメンズ地下で買ってきたばかりの噂の高級靴ブランドや孤高の靴職人の手による至高の逸品があるところに大変申し訳ないのですが、今のその熱き心を維持し続けるというのはなかなか手ごわいです。
https://youtu.be/DqYX_hHSg7Y
もちろん買った以上どう履こうが勝手ではありますが、折角そうした靴が手に入ったのですから、是非長く愛着を持って履き続けて欲しいと思うのです。となると、それなりのコツが必要になってきます。
あなたは恐らく高級靴ブランド売り場で色々とメンテナンスの方法なども訊かれたことでしょう。ちょっと高めの純正のシューケアセット(主にブランドロゴ代。製品自体は委託生産。)と、ブランド専用(ただしその靴の木型専用ではない、汎用のモノに微修正とブランドロゴが刻印されたもの)の少し高めのシューツリーも一緒に買われたことでしょう。
これらは茶化している訳ではなく、こうした一つ一つが満足感に繋がる、という意味では、どのブランドにも出来る訳ではなく、これらはある程度ブランドイメージを確立させているメーカーだからこそ出来ることでもあります。だから、これらの選択も正解だと思います。折角良い物買ったんですから、満足感は最大まで高めないと勿体無いです。
そして、早速これからはちゃんとメンテナンスするぞ、と思われたことでしょう。また、初めての高級靴だった場合には、履き始めにどうしたら良いのか、悩まれることでしょう。これらは勿論至福の時ですので、充分に味わって欲しいのですが、ちょっとお節介させてください。
さて。今夜から、この靴どうしますか?
一生モノの靴だからこそ「趣味」と「基本」は分けておいて欲しい。
既にこのブログの様々な文章を読まれている方にとっては今更感が漂っていると思いますが、世の中の靴に関する情報の大半は「趣味」に属するもので、決して必須ではありません。覚える必要すらありません。
靴好きのブログ(当ブログ含む)やサイト、雑誌や書籍を眺めていると、この「趣味」の部分と「暮らしの基本」に当たる部分が一緒に語られていることに気づきます。大半は「趣味」です。
この「趣味」に当たる部分は、靴に興味のない方にとっては不要な知識です。それどころか混乱させてしまう原因になっているかもしれません。
反面、靴好きであろうが靴に全く興味がなかろうが、覚えておいてほしいこと、というのも存在します。それが「暮らしの基本」的なことです。「箸の持ち方」「きちんと挨拶をする」「肘ついて食事をしない」といったことと同じです。多くは子どもの頃に親から教わります。もしくは一人暮らしを初めて自炊をしたり、掃除洗濯をしたりする中で意識して身につけていくものです。
靴にもそうしたことが少しですが存在します。
では不要かと言われれば、靴の状態を保つためには(ほぼ)不要ですが、大切なものではあると思っています。何故なら「趣味」に属する情報は、その靴への興味を持続させ、より深め、ますます靴を好きになるきっかけを与えてくれるからです。ブランドヒストリーや伝説の靴職人、様々な匠の技や革の名前などは、その意味が分からなくてもその靴にたくさんの魅力を与えてくれます。
ただ、その分、それらの「趣味」の情報ばかりが目立ってしまって(派手なので)、肝心のことが疎かになって、結果として靴の寿命を縮めてしまっている方が多いことを現役時代から目にしてきました。
「趣味」は素晴らしいですが、革靴が趣味になってからでも遅くありません。
それよりも、それらの影になってしまって見えにくくなってしまっている「生活の基本」のような基本的な知識だけは忘れずに覚えておいて欲しいな、と思います。
高級靴を手にして気になるであろう幾つかの疑問を挙げてみます。
「綺麗に履き皺が入るように、履く前に一度ペンなどで履き皺を入れておいたほう良いのでしょうか。」
要りません。趣味の領域です。特にコードバンの靴を履かれる方に多い質問です。実際に薦めている靴マニアも多くいらっしゃいますし。ただ、冷静に考えて下さい。靴マニアです。その方々は「靴は趣味」でもあるんです。
もちろん、これだけ美しい靴を最初に履き下ろす際には、変な皺や傷がついてしまったらどうしよう、と心配になることでしょう。ただ、正直、今後の靴の状態を左右するのは、こんな最初の「○○の儀」のようなものではなく、後ほど触れるような「生活の基本」のような地道な作業だったりします。
考えて欲しいのですが、あなたが綺麗だと思って人為的につけた皺が必ずしもあなたの靴らしくなると思いますか?あなたの足に寄り添って、ともに歩む中で自然に出来てきた皺こそがあなを表していると思いませんか。
実際のところ、本当に美しい皺を作るためには、革の表情を見極めた上で、靴以上に自分の足の形と足の骨格などを矯正していかないかぎり難しいんです。そして、今ジャストだと思った靴も、履かずにいたり、自分が不摂生な生活をして足が太ったりすれば、履き心地からフィット感まで全く別物になります。
とはいえ、それも趣味なら非常に楽しいことには変わりありません。ですから、「必須」ではなく「趣味」です。
「シューツリーは脱いですぐ入れたほうが良いのでしょうか。それとも一晩置いてから?」
どっちでも良いです。「趣味の領域」です。どちらも正解です。好きな方にして下さい。大して影響ありません。
「靴底が減るのが勿体無いから、予め靴底にラバーを・・」
貼りたければ貼って下さい。「趣味の領域」です。
ただ、靴底が減るのが勿体無い、と思っているような靴って、結局普段使いできなくなってしまう気がします。それに、あなたが買った高級紳士靴って、普及価格帯の靴に比べて良い靴底使ってるんですよ。それを活かさず、一般的なラバーを貼っちゃうのは、何となく勿体無い気もします。
また、雨の日の滑り止め防止のために、という方もいますが、雨の日に滑る理由ってそれだけではないんです。ただ、気持ち的な安心感に繋がることは確かです。ただ、雨が染み込まない、という効果はほぼありませんので、それが目的であれば意味はありません(雨が入ってくる仕組みを誤解されている方は多いので。)
つまり何が言いたいのかというと・・
上で幾つか挙げたような例は、他にも幾らでも出てきます。そして、それらが「やらなければならないのではないか」という不安になって、靴を楽しむことを遠ざけてしまうんです。
先ほど「趣味の領域」と書きました。そして、その下で触れた考えも、あくまで私の考えです。それが正しい、正しくない、ということではなく、これらのことは
「それは効果があるか」「やるべきかやらざるべきか」といったことを純粋に楽しんでいる靴マニア向けの趣味の領域の話なんです。
それで失敗しようが趣味なので、自分でなんとかしようとするし、その時間が苦にならない。時間が経つのも忘れて、奥さんや子どもたちとの貴重な時間をすっかり忘れて靴のことばかり考えてしまうような人が、楽しみで考えることです。だから、正解も一つではないし、それぞれに一家言お持ちなのです。
でも、普通は必要ないことです。とりあえず最初からは要りません。あとで余裕が出てきてから、余裕のある時に考えれば良いことです。
必要なことは、100万の靴も、1万の靴も変わりません。
一日履いたら必ず埃を落として、全体的に念入りにブラッシングして下さい。
そして、専用のグローブや布でしっかり磨いてからしまってあげて下さい。
それだけです。これは100万円の靴も1万円の靴も変わりません。むしろ、100万円の靴は、このたった2つのことを疎かにするだけで、幾ら高級な良いクリームを使おうが、前述のような様々な「趣味の領域」のコツをしようが、無駄になります。
常日頃から靴を触って下さい(つま先はダメ)。
上の2つを毎日するだけで、あなたは自分の履いている靴と会話が出来るようになります。
あれ、ちょっと艶が落ちてきたな。
あれ、やけにつま先が削れるなぁ。
あれ、こんなところに傷が。
そして、
あぁ、やっぱり良い靴だなぁ。頑張って買って本当に良かった。
先ほどのような「趣味の領域」について悩むのは、そうなってからで全く遅くありません。むしろ、そうなって、自分の革靴の表情が分かるようになってから出ないと、何が良くて、何が失敗したのかがわからないからです。
実は、あなたが買ったような高級な靴ほど、下手なクリームやクリーナー、その他諸々よりも、むしろこうした基本的なことで非常に差が出やすいのです。それだけ上質な革を使っていたり、しっかり作りこまれているので、基本的なことを怠れば怠るほど、どんどんみすぼらしくなっていきますし、反対にきちんと会話ができていると本当に良い表情に変わってくれます。
高級靴だから、と特別なことは何も必要ありません。
だから恐れる必要もないんです。そして、気合入れてお手入れしたり、保管場所や保管方法に気をつける必要もありません。今のあなたの靴との接し方がダイレクトに表に出てくるだけです。
高級靴だから、と気合を入れて色々なクリームやクリーナーを多用すれば、ますます悪化します。余計な手を加えれば加えるほど、却って裏目に出ることもあるんです。その点、普及価格帯の靴のほうがお手入れは楽かもしれません。多少のことでは顔色一つ変えません。
だからこそ、今まで通りの基本を大切にして欲しいのです。基本、それは「ブラッシング」と「磨き」だけです。
その上で、前回や今回触れたように、靴と会話が出来るようになって、細かい表情の変化に気づくようになったら、是非その時は思いっきり趣味色出して思う存分に色々なことを楽しんで下さい。
きっと靴もあなたの想いに応えてくれることでしょう。何故なら、あなたが本当に欲しくて、頑張ってようやく買うことが出来た、あなたにとってかけがえのない大切な一足なのですから。
ご購入おめでとうございます。高級靴の世界は素晴らしいです。もちろん靴は価格だけではありません。自分の足に合う靴が、必ずしも名ラスト、一生モノの逸品と世間一般で呼ばれているものあるとは限りません。けれど、たくさんのことを教えてくれます。
今度は、その靴の魅力を、ご自身の言葉で是非多くの人に伝えていって欲しいと思います。それは、メディアが押し出す作り上げられたストーリーやヒストリーではなく、自分で履いて感じたこと、買うに至った思いや想い出。そういう血の通った話が、きっとより多くの人の心に響くでしょうし、靴って良いな、と思うきっかけになると思います。
私もそんな交流ができたら良いな、といつも思っています。
当ブログの「革靴のお手入れ」に関する記事はこちら。
同じく「革靴の選び方」に関する記事はこちら。
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