昨日あるショップブログで一時アップされたものの、その後恐らく諸般の事情により削除された文章。ここではどこのお店だとかそういったことは触れませんが、個人的には非常に共感できる内容も含まれていたので、改めて私なりの感じていることを書いてみたいと思います。
革なら無条件でインポートレザー。作りならMADE IN ASIAよりJAPAN。
日本人の欧米信仰、インポート信仰は素晴らしいですね。もうアノネイだデュプイだと何かしらの名前が付くだけで無条件で良いものと思ってしまう。+高級ブランドであればとにかく革は良い物だと思い込んでいる。
思い込むのと、実際にそう感じるのは全くの別問題です。
同様に作りであれば、革靴であればMADE IN ENGLANDやITALYなど、やはりヨーロッパが良い。そこでMADE IN JAPANは作りの緻密さや丁寧さといったイメージで押してきた。それでも勝てないのが「センス」という訳の分からないもの。けれど「センス」を謳う人の大半は恐らくそんなセンスなんてわかってないと思うのです。もしタグが反対に付いていても疑いもしないかもしれません。
例えば同じアノネイでもピンキリがあり、また割り振る国によりランクがあり、更にブランドにより格付けがある。
当然と言えば当然の話で、アノネイだろうがデュプイだろうがホーウィンだろうが全てが良い革ではありません。
ここで言う良い革の定義というのは難しいけれど、ここでは漠然と世間一般に「この靴、良い革使ってるね」と言う時の漠然とした「良い」程度の話です。
また、同じように出来た革をアノネイが割り振るときには、当然ブランドによって割り振りがあるわけです。かなりの量をかなりの価格で常にまとめて買ってくれる大手、更に力のある高級ブランドが大体良い所は持って行ってしまう。良いブランドほど良い部分の革を買い上げられる率は高くなる。
けれどさらに言えばそのブランドの中にも、それを販売する市場によって格付けがされる訳です。まずはビスポークだ特定の限られた層のためにもっとも良い部分の革は使われる訳で、そんな革は大抵出てこない。
更に出荷する国によって革自体も大抵ヨーロッパ市場で上から割り振られていくわけです。日本なんて幾ら靴好きが多くて高い靴を他の国の相場より高く買ってくれても、所詮革のことなんてわからないわけで、全体の中ではランクとしては下なんです。
余り物を私たち日本や中国といった大きな市場はインポートブランド、インポートレザーだといってありがたがって買ってくれるわけですね。
けれど、もしあなたの手元にそんな普通で回らない革が届いても、ちゃんとそれを使いこなせますか?
これだけ書くと陰謀論だ、そんなの常識だ、など色々声は出てくるかもしれませんが、今回伝えたいのはそんなことではないのです。
世の中というのはうまいようにできていて、革のことが分かる人のところには、もしくはその革の良さを引き立てられる人のところには、そのランクの革が届くようになっているんです。私たちのように名前でありがたがって、靴のお手入れよりもまずはシワを如何に綺麗に入れるにはペンが必要かどうかのほうが雑誌で特集されてしまうようなところには、革よりも広告費を大量にかけて名前とブランド力で満足してくれる一見見栄えの良い作りの靴と革が来るようにちゃんとできているんです。
それは決して悪いことではありません。だって一般に出回らないような素晴らしい希少な革が普通に私たちの手元に来て、ちゃんとそれを維持できますか?
本当に良い革にするためには、手元に来てからのほうが余程大変です。
どんなに良い革であっても、結局それを生かすも殺すも持ち主次第です。一生モノだ、って20万も30万もする靴を買って、勿体無いから冠婚葬祭しか履かなくて、それ以外は大切に保管しているようであれば、決してその靴の状態なんて20万だ30万だの価値は無いわけです。あると思っているのは自分だけです。
https://office-kabu.jp/daily-necessities/something-that-will-last-a-lifetime
結局自分にとって普段気負ってしまって履けない靴というのは、自分の器じゃないんです。いつかそれが履けるような時が来るときのために奮発して買って頑張るんだ。よく聞く話ですね。でもそんないつかは来ません。第一、その靴が果たしてそんな何年後、何十年後に履けますか?自分の足の形一つとってもきちんと日々維持メンテナンスしていないとドンドン衰えて形も大きさも変わっていくんですよ。
世の中にはたくさんの適当に履かれた、もしくはほとんど履かれていない高級ブランドの靴が中古市場に半値近くで溢れかえっています。靴好きは結局長く手元に靴を置けないんです。どんどん増えていく靴。いくら買っても満たされない欲求。一生モノや憧れで買った靴が半年後には他の靴を買うための資金になっている。
奮発して最初から高級靴を買いなさい、と言われますが。
そのほうがお財布にも優しいと言われますが、優しい訳がありません。ここから辿る道は2つです。
結局最初に選ぶ高級靴は、まだ未熟な自分にとって決してベストな靴ではありません。その高い勉強代として消えていきます。この道を歩む人はそもそもそれから先、優しいどころかどんどん靴が増減していきますから、もうお財布じゃなくて消耗品のような趣味と快楽なんですね。
もしくは普段から履けないだけでなく、履こうと思った時には既に履けなくなっているか何となく魅力が感じられないまま、靴から離れていくパターンです。これは確かにお財布には優しいかもしれません。結局この後高い靴を買わないのですから。
結局自分が一番気負わず履けて、マメになれる革がもっとも良い革です。
インポートレザーが不要だとは思いません。インポートレザーにはインポートレザーの良さがあります。けれど、これだけ世界的に革の価格が上昇している中で、「革質」という自分にとって分からないものが理由なだけで選ぶ必要はないと思うのです。
国内にも良い革は幾らでもありますし、面白い革もあります。何より、靴は革質だけではありません。
あなたが本当に足に合っていると思っている靴は何でしょうか?
一番出番の多い靴は何でしょうか?
それをつい選んでしまう、という靴は何でしょうか?
それがインポートレザーでなければならない理由は何かありますか?
もちろん国産のレザーでなければならない理由もないかもしれません。
けれど、「革が良い」という漠然としすぎている、値段の付けようのない基準を一度外してみると、今までとは全く違った世界がまた見えてくると思います。