靴磨き、靴のお手入れといえばまず思いつくのは何でしょうか。恐らく多くの方は「革に栄養を与える」クリームと「汚れを落とす」クリーナーを挙げられるのではないかと思います。お手入れと言えば「クリーナーで汚れを落としてクリームで栄養を与える」こと。これは靴に限らず、革製品全般で考えられている(完全に間違っている訳ではないものの)誤解です。
そこで今回は、靴墨(クリーム)とクリーナーについてまとめてみたいと思います。
なお、今回の文章は、このブログで今まで200以上の靴関連の文章を書いてきたものの中から、それぞれのテーマに合わせてたどり着きやすいようにまとめようとする試みの一つです。
引用が多くなりますが、全て当ブログ内からのものとなります。
革靴は基本的に「ブラシ」と「から拭き」だけで甦ります。
いきなり結論じみたことを書きますが、まとめるとこうなります。
革靴は基本的に「ブラシ」と「から拭き」だけで甦ります。
特にブラシです。革を甦らせるのはブラシなんです。クリームではありません。クリームで出た艶は、革の艶ではなく、大半は表面のクリームの層の艶です。クリームは量と加減を間違えると、却って革にとっては負担になります。ろくにブラシも磨きもせずに塗りたくるだけのクリームなら、害に過ぎません。
クリーナーも同様。汚れを落とすのはクリーナーではなくてブラシなんです。余程ひどい汚れでも無い限り基本的にはクリーナーなんて要りません。まして、古いクリームを落とすためにクリーナーを毎回使うのであれば、そもそも古いクリームが残ってしまうほど多くクリームを使わなければ良いんです。
表現を変えるなら、前のクリームが変質するほどお手入れをしないで放置しておくのが問題です。そういう人にはクリームは不要です。
つい塗ること、加えることで革が良くなると思いがちです。
お手入れといえば多くの方は、クリームを塗ることを考えます。それが革靴だと名前と少し形を変えて靴墨に変わります。
「靴磨き」「靴墨」「靴クリーム」「クリーナー」「ワックス」
この言葉からイメージされるように、これらはどうも「塗る」という印象が強い。塗り込むと言い換えてもいい。
意識しなくても塗りすぎてしまうんです。いろいろと。あれも必要、これも靴には良いかも。このクリームの成分はうんたら。
さらに一つ一つのクリーム自体もごく微量でいいのに、自然と量が増える。何となく塗れている感がないと落ち着かないんですね。達成感がない。
無駄な工程、無駄なクリームが多いんです。その割にブラシや乾拭きのような部分は結構適当。磨くんだから、取り除くより塗ったほうが綺麗になる、と思ってしまうんですね。
加えること自体が悪いのではなく、加えすぎが良くないのです。人間と同じですね。過食状態になりがちです。
塗るという行為は、ツヤも出ますし、何となくシットリして、革が元気になった気がするので、つい嬉しくなって塗ることばかりを考えてしまうのですが、実際には革に必要な「油分」が足りていない状態はほとんどないのです。にも関わらず、次から次へと塗り込まれていくため、どんどん革の中に無駄に詰まっていきます。それらは革を必要以上に柔らかくしてしまったり、カビの温床になったり、革自体を傷めることもあります。
余程何年も履かれず興味を示されず放置されていたモノなら別ですが、それでもただクリームを加えれば良い、ということではありません。靴好きが趣味の一環として徹底的に磨きたい、という(前回も触れましたが、この場合は「お手入れ」ではなく「靴磨き」に入ると思っています。)のであれば別ですが、そうでもない限り、なかなかその革にあった適量を見極めるのは難しいと思います。
デリケートクリームだって、クリームなんです。
結構重宝されている方も多いと思われるものに、「デリケートクリーム」があります。
デリケートクリームだって、クリームなんです。
恐れる必要も、神経質になる必要もありません。時々思い出してみてください。
ついこの前もクリーム使いませんでしたか?ちょっと濡れたから。ちょっと履いたから。
でも、余程放置状態の靴でもない限り、そう毎回デリケートクリームを月に何度も使うようなことってないと思います。
革って雨や水に弱いとか、ひび割れとか色々気にしてしまいますが、だからといって繊細過ぎるものではないんです。
過保護が却って革を弱くしてしまったり、ダメにしてしまう場合もあるんですね。
普段から革靴に興味のある方であれば、普段は本当にブラシと乾拭きをより念入りに習慣化したほうが良いと思います。
一日放置しておいても埃はどんどん積もりますから。
確かに便利でして、私も良く使います。どうしてもクリームが欲しい、という方にはまずはこれを薦めることが多いです。それくらい、あまり害がなさそう、革に良いことばかりのような気がするこの製品でさえも、使い方(量と頻度)を誤ると、毛穴が詰まったり、革の表面が曇ってきます。
靴墨、靴クリームといっても様々な種類がありますが、あなたに合うものを選べますか?
実際、たまには靴墨買うか、くらいでそれほど靴にも靴磨きにも興味がない方には色付きの靴クリーム要らないと思うんです。失敗や無駄が多いんです。であれば、そもそも靴墨はとりあえず要りませんから、もっと必要なものが他にありますよ、というのが当ブログで一貫して主張していることです。
でもとりあえず、今シューケア用品売り場でスマホ見ながら悩んでいるかと思いますので、交通費も勿体無いですし、ひとまず無色の靴クリームだけ買って帰りましょう。
上記の文章中でそれぞれの靴墨、クリームと呼ばれているものについてある程度触れていますが、実際にかなりの種類があります。そして、実際に店頭に立っていた時も、そして仕事から離れた今、お客さんとして靴売り場を眺めていても、結構多くの方が本来必要(であろう)種類の靴クリームにたどり着けずにいます。
靴でも磨くか、なんて間違った気を起こしちゃった時、近くにあるとつい東急ハンズなどを考えたくなっちゃうんです。家族の買い物のついでに、土日に東急ハンズでも行っとくか、みたいに。でも、店頭で眺めていると、いつもたくさんのお手入れ難民に出くわします。
眺めていると、大抵しばらく色々手にとって悩んで、しかも大抵手に取ったモノはよくやりがちな組み合わせで、恐らく用途にふさわしくないのですが、その後特に店員さんに訊かずにレジに向かっちゃうんです。
中には勿論それが目的で買った人もいるでしょう。でもご夫婦で来て、聞こえてくる会話だと散々悩んでいるんだけど、その内面倒くさくなって「いいや、これで。」と言って訊かずに買っちゃう人も多いのです。こうしたご夫婦の場合、旦那さんにも男としてのプライドがあるので、「分からない」って言えないんです。あと、奥さんが店員さんに聞こう、なんて言い出すと、沽券に関わるので断固拒否して不機嫌になっちゃうんです。
恐らく家に帰っても今まで買った、既に固まってしまった瓶のクリームと一緒でそのまま放置されてしまうでしょう。
靴クリーム自体は私も好きですし、それなりに選ぶ楽しみもあります。最近では質もかなり上がってきていまして、余程私自身のスキンケアよりも高価なものも数多く出てきています。それらを使う喜びもありますが、それらはあくまで「趣味」の世界です。
それでもクリームを使いたいあなたへ。
それでもクリームを使いたいときには、ブラシとその後の磨き上げを徹底的に行ってください。本来、これが出来るのであれば、クリームについてここまで五月蠅く触れる必要はないのですが、どうしても見た目のわかりやすさで、クリームを使ってしまうと塗ることばかりに集中してしまって肝心のブラッシングと磨き上げが中途半端になってしまいます。
個人的には、もしお手入れに興味を持たれたら、まず最初の一ヶ月は「ブラシと乾拭き」のみを行う。この一見単純で当たり前のように見えて放置されがちな行為が与える効果の大きさと重要さに気付いて欲しいのです。
一ヶ月も経てば、靴が身近な存在になってきて、そろそろ何か塗りたくなってくる頃だと思います。それからでも全く遅くはありません。
クリームよりもブラシよりも、まずクリーナーが売れる、靴磨きの不思議。
続いてクリーナーです。もしかしたら最も売れるのがこの種のクリーナーかもしれません。
普段お手入れをほとんどしない方が、お手入れグッズ一式を買おうと思うきっかけは何でしょう?
靴が汚れてきたから、です。
汚れてきた、汚くなってきたので、そろそろ靴墨でも塗ろうと思って、と言って買いにくる。
一般の人にとって、靴は汚れて初めてお手入れをする物のようです。
汚れたからクリーナーで落とす。その上でついでにちょっと靴墨でも塗ってツヤを出しておけば、綺麗になった気がする。確かに見た目は非常に分かりやすくツヤが出てくれます。
古い固まった靴墨(クリーム)を落とすためにクリーナーを使う?
靴墨を塗る。だからクリーナー。
クリーナー。靴墨。固まった靴。
ここで繋がりました。
靴墨という単語から何を連想しますか?
墨。墨汁。
ペンキのような感じです。色を付けて、塗る感じ。塗り重ねる。
だから、パッと見ただけで分かるくらい全体に濃く厚く埋めるような感じで塗っていく。塗り絵の感覚ですね。
お手入れが面倒な人だと、100円ショップにある、先にスポンジが付いたとりあえず艶が出るような簡易のものをとりあえず塗りたくって終わり、という人も多いです。
ブラシなんてしません。乾拭きなんてしません。塗って終わり。だからどんどん厚塗りされていく。
だから、靴墨はインクのようなもの。化粧と同じで毎回汚れと一緒にクリーナーで落とさないといけない。
こんな感覚でしょうか。
それだったら、最初からクリーム塗らなければ良いと思いませんか?クリームで出るツヤが必要?でも幾らツヤがあっても、表面の埃を放置してしまっている方が大半なんです。そちらの方が目立ちます。また、塗りすぎでひび割れを起こしてしまっているものも多々あります。
楽(そうに見える)方法って、実は意外と面倒なんです。常日頃から靴を意識出来る人には良いのですが、楽さになれると、塗っとけば終わり、みたいに考えてしまいがちです。これって先ほどの厚塗り→クリーナー→革がどんどん傷んでいく、という繰り返しですよね?
結局、何故そこまでクリーナーが売れているのか。そして薦められているのか。それは単純な理由です。
何故クリーナーが売っているのか。
矛盾するようですが、必要だからなのです。
クリーナーを使わないと駄目になってしまうくらい、一般的には靴墨を塗りすぎているからです。
塗ることが却って靴を痛めてしまっている。
靴はそこまで弱くはありません。汚れも大半はクリーナーを使うほどではありません。であれば、汚れ落としとして用いることは少ないはずです。大半の汚れは濡らして固く絞った布やタオルでしっかり靴自体を拭ってあげるだけでも充分に取れます。それすら普段は必要ありません。
クリーナーでふき取るよりも、靴の縫い目やコバ周りの隙間など埃が溜まりやすい部分をブラシで念入りに綺麗にしてあげる方が靴は長持ちします。
クリーナーはむしろこうした用途に活用して欲しいと思います。
と散々言いたい放題書いたクリーナーですが、実は意外なところで大変重宝します。それがカビの除去と予防です。
正直、カビの絶対的な対策方法は無いと思います。いや、あっても多分それ面倒か面白くないかで普及しません。
普段の靴磨きにチューブ型のクリーナーは一切要りませんが、このカビの季節には活躍してくれます。
単純に古いクリームや汚れを落とすだけでなく、中には防カビ剤が含まれているモノも結構あるんです。それを有効に使いましょう。濡れてしまった靴を一通り汚れを拭った後に、敢えてこのクリーナーで全体の汚れを落としてしまうんです。
落とすこと以上に、クリーナーに含まれている防カビ成分にも頼るようなイメージです。
もちろんすべてのクリーナーに含まれているわけではないので、一応確認だけはしておきましょう。
靴に根を張ってしまったカビは、クリーナー程度で落としきることは不可能です。ただ、余分な栄養素でもあり、またカビにとっての点滴でもある通気性を妨げていた表面にこびりついたクリームを落としつつ、更に防カビ剤によってある程度までカビの繁殖を防いでくれます。
普段から多用する必要はありませんが、最近下駄箱の隅に放置していて久しぶりに履くような靴や、季節が変わってしばらくは履かない予定の靴を保管する際に、このクリーナーを活用する、というのはなかなか便利だと思います。
このクリーナー、靴の長期保管をする際にも便利です。しまう前に靴全体をクリーナーですべてクリームなどを落としてしまうんです。その状態で保管。古いクリームなどが靴を痛めてしまうこともありますので、一度落としてしまうんです。スッピンの状態にしてしまう。結構効果的です。
また、この時にも含まれている防カビ成分が役に立ってくれるかもしれません。
カビって幾ら環境が良い状態で保管しているつもりでもいきなり発生しているんです。でもそういう時って振り返ってみるとここ少しの間、この靴見てなかったな、履いてなかったな、ということが多い。
これは靴好きに多い傾向です。
反対に靴に興味がない人の場合、そもそも汚れすら落としていないことが多いんですね。とりあえず新聞紙だーと中途半端に新聞紙を突っ込んで、そのままもうそれ以上吸水出来ない状態のままの新聞紙を入れたまま、湿度の高い玄関先に放置してしまう、とか。
それ、カビに生えて下さいと言っているようなモノです。
もちろん完全ではありません。あくまでカビの防止に一番必要なのは、靴自体の存在を忘れない、ということです。こまめに意識に留めているモノは、靴に限らず傷みにくいものです。多用する必要はありませんが、もし手元にクリーナーが余ってしまっているようなら、ちょっと試してみても良いかもしれません。
まずは自分の革靴の力を信じてあげましょう。
私は別にクリームやクリーナーが害で不要だ、と言いたいわけではありません。ただ、多くの方にとっては不要だよ、ということを伝えたいのです。クリームやクリーナーにはそれなりに良さもありますが、それを活かすためには常日頃のこまめなお手入れが必要です。
革の力をもっと信じてあげてください。革はあなたが思っている以上にタフですし、生命力があります。それを阻害しているのは、過食状態にさせているあなたかもしれません。
まずは塗る、加える、といった「足す」ことをやめてみましょう。
足すのは、本当に足りなくなってからで充分です。
けれど、本当に足りないかどうかは、実際に靴に触れてみないと分りません。それもちょっと触った程度で分るものではなく、常日頃から10秒、15秒程度のお手入れを続けてきたことでようやく気付く余裕が生まれます。
そして、もしその10秒、15秒すら面倒だと考えているようでしたら、それ以上に後始末が面倒なクリームやクリーナーをまずは辞めてみて欲しいな、と思います。その方がお財布にも優しいですから。
次回は基本的なお手入れ方法についてまとめてみたいと思います。方法自体は簡単です。1足1分もかかりません。是非試してみて欲しいな、と思います。