年末から年始にかけて、多くの質問を頂いています。一つ一つ丁寧にお返事しているのですが、多くの方が同じような不安や疑問を感じられているということに気づきました。言い訳がましくなってしまいますが、私、お返事しようとすると、それだけでブログ1記事分くらいの量を書いてしまいます(既にお返事した方はお分かりかと思いますが)。ということもあり、結構パワーを使うのと、同じようなお返事の繰り返しとなってしまうため、なかなか進まず、未だお返事できていない方が多くいらっしゃいます。本当に申し訳ない気持ちです。
とともに、それだけ多くの似たような質問を頂く、ということは、それだけこのブログで伝えきれていないということであり、また多くの方にとっての共通の悩みでもある、ということかな、と思いました。
特に多い質問が二つあります。それが
- 「革靴のお手入れは本当にブラシだけで十分なのか。クリームは本当に要らないのか。」
- 「◯◯という靴を買ったのですが、この靴にオススメのクリームを教えてください。」
というものでした。今、「私だ」と思われたかもしれませんが、安心してください。あなただけではありません。というか、何通頂いたかすぐには分からないくらい、多くの方が「ブラシだけで本当に大丈夫なのか」「クリームを塗りたいが、このクリームで大丈夫だろうか」といった悩みを持たれています。
そこで、今回は「ブラシだけで十分なのか」「クリームは要らないのか」という点について改めて私の考えを書いてみたいと思います。「オススメのクリーム」といった疑問に関しては、また回を改めて書きたいと思います。また、今後、よく頂く質問に関しては、メールでのお返事だけでなく、その都度、改めてブログ上でも書いてみたいな、と思っています。
革靴のお手入れは本当にブラシだけで十分なのか。
この種のご質問で多く頂くのは、「ブラシだけで20年、30年と持たせることが出来るのか」というものです。折角手元に届いたお気に入りの革靴です。できれば20年、30年と履きたい。いや、これこそ一生モノと考えている。そうした言葉をよくいただきます。
結論から言えば、ブラシだけで20年、30年と持たせることは
恐らく出来ません。
「なんだよ、あれだけブログや電子書籍で散々ブラシだけで十分ですとか偉そうに書いていたのに、詐欺じゃん」と思われた方もいるかもしれません。詐欺と言われると凹みますが、十分ではありますが、それだけでは20年30年持たせることは出来ないと思っています。ただ、それはクリームが必要だから、といった単純な理由ではなく、革靴を長持ちさせるには様々な要因が関わってくると思っているからです。
私が考える「革靴を長く履き続けるために必要」な幾つかの条件。
革靴を長持ちさせるために必要なこと。それは、簡単に言えば「革靴が受ける負担をなるべく減らす」ことです。負担とは何かというと、主に以下のものをここでは挙げたいと思います。
- 革から油分が失われてしまうこと。
- 履かれ続けることでの靴にかかる負荷。
- 持ち主の愛着が薄れることで扱いが雑になること。
他にも挙げればキリがないとは思うのですが、一般的にはこの3つを考えておけば十分かな、と思っています。そして、この①x②x③の量をなるべく減らすことが、結果として革靴が長持ちすることに繋がるのではないか、と考えています。
一つ一つ簡単に説明していきます。
革から油分が失われてしまう状態をなるべく防ぐ、遅らせる。
①を減らす(革から油分が失われてしまう状態をなるべく防ぐ、遅らせる)ことには主に2つのアプローチがあります。それは、
- 新たに油分を加えること。
- 革から油分を奪ってしまう要因をなるべく減らすこと。
多くの方が考えるのは、この「新たに油分を加えること」ではないでしょうか。その簡単な方法が「クリーム」であったり「オイル」であったりします。加えるだけ。これは分かりやすいので、多くの方がまず最初に考えます。ただ、私の中では、むしろ次の「革から油分を奪ってしまう要因をなるべく減らす」ことのほうがまずは大切なのではないか、と思っています。
それが、埃(ホコリ)です。
以前から何度も書いてきていますが、靴に限らず、モノにとって埃(ホコリ)というのは非常に手強い存在です。ただ、ここではひとまず埃(ホコリ)が革の表面に付着し続けるほど、革の油分を奪ってしまうという点を挙げたいと思います。埃って放置しておくと、革から油分を奪って、どんどん乾燥させてしまうんですね。とはいえ、完全に埃を防ぐことは出来ません。
そこで、今まで散々ブラシの重要性を発信してきました。毎日、履き終えた後に、汚れとともに埃も取り除いてあげる(ブラシには他にも様々な効果がありますが、ここでは埃という点に絞って書いています)。
なるべく埃を被った状態で革靴を放置しない。これが第一歩です。そして、同時に私が今まであまりクリームやオイルを薦めてこなかった理由でもあります。何故なら、表面に無駄に残ってしまったクリームやオイルは埃を吸い寄せてしまうからです。
もちろん、クリームを加えることで、油分を補うことが可能です。そう考えれば、本当に長く履き続けたいのであれば、たまにはクリームやオイルを加えてあげるのが良いとも言えます。ただ、多くの方は塗りすぎて、また塗るだけで済ませてしまうため、表面に厚く層を作ってしまって結果として劣化を早めてしまったり、またその後のブラシや磨きが不十分で埃を付着させやすくしてしまうのです。
油分を加えるためにクリームやオイルを塗って、結果としてそれらを奪ってしまう埃を表面に付きやすくしてしまうのであれば、まずは加えるよりもブラシだけ徹底して行うことで、埃を取り除き、油分が失われるスピードを遅らせることに集中したほうが良いのではないか。
必要最低限の油分を補う、ということを考えるのであればクリームは大切です。また、大雨の中で履き続けたのであれば、コンスタントにクリームを入れてあげたほうが良い。ただ、この辺りは私が敢えて「◯◯なときにはクリームが必要です」などと書かなくても、皆さん何となく肌で分かっていると思うのです。「あ、クリーム加えたほうが良いんじゃないか」。
ただ、そのためには常に革の表面の状態に意識がいかなければなりません。でないと、そうした状態に気づかないからです。そのためのポイントは、雨や水のようにわかりやすくは無いけれど、実は影響の大きい埃という気づきにくい存在に気づくこと。そして、それを取り除くために簡単な方法が「ブラシ」です。
革靴を劣化させる大きな要因。それが自分の足に合わない靴を履き続けることです。
①が長くなりましたが、②に移ります。「履かれ続けることでの靴にかかる負荷」です。これがあるので、私は冒頭で、
ブラシだけで20年、30年と持たせることは恐らく出来ません。
と書きました。これがあるので、一つの革靴を20年、30年と履き続けることが(修理がいくら出来たとしても)難しいとも言えます。何故なら、私達の足は年とともに大きく変化するからです。足の形や大きさが変われば、今までは合っていた靴が合わなくもなってきます。足に合わない靴を履けば歩き方も変わってきます。歩き方が変われば、正しい履き方が出来なくなる。いい加減な歩き方、履き方をすれば、靴はどんどん負荷がかかってきます。傷んでいきます。
いくら雑誌で「名ラスト」で「上質な革を用いた」、至高の一足、成功する男が持っているあの名門ブランドの靴であったとしても足に合わなければ幾ら丁寧に扱っていても長持ちはしません。
そう考えると、もちろん20年、30年、時には一生モノのつもりで大切に履こうと思うことは大切ですが、そうなるためにも、
- 常に自分の足に合った靴を選ぶ。
- 長く履き続けたいのであれば、自分の足の状態にも意識を払う。
必要があるともいえます。靴だけでなく、足もメンテナンスが必要。常にデスクワークであまり足を使わない人と、常日頃から歩いている、足を使っている人では、10年後、20年後に靴だけでなく足の形も変わってきます。足が変わり、靴が足に合わなくなってくれば、靴の劣化は早まります。ただ、だからその靴を履いてはいけない、という訳ではありません。その結果、寿命が短くなったとしても良いではないですか。それでも履きたい、と思って履き続けるのであれば、その靴は実際の年数に関係なく、既にあなたにとって一生モノです。
靴への愛情が薄れると、革靴は一気に劣化します。それを防ぐためには‥。
時々「◯◯万円でビスポークした靴を持っていますが、勿体無いので冠婚葬祭など大切な時しか履きません」という方がいます。
もちろん履き方は個人の自由ですが、このほうがむしろ勿体無いな、と私は思うのです。何故なら、何年かに一度の大切なときが次に訪れた時に、自分の足がその靴に合っているかどうかは分からないからです。一生モノのつもりで買ったとしても、20年後には革の状態ではなく、履いても足に合わなくて履けない(履かない)という可能性も十分にあります。それは先程書いた通りです。
ただ、もう一つあるのが、
モノって常に意識していないと、意外と愛着って薄れてしまうんです。
このことについて書き始めると、それだけで終わってしまうので省きますが、それを防ぐために効果的なことが、靴に触れる頻度を増やすこと、靴との物理的な距離を近づけること、です。そうしたこともあって、ブログでも電子書籍でも、その簡単な方法としてのブラシを挙げてきました。
そこで、冒頭の質問の答えにも繋がってきます。
クリームは本当に要らないのか。
雨が降った後など、そうした必要なケアという点以外にも、クリームって結構効果的です。何故なら、クリームを塗った後、磨いた後の靴って
なんか艶があって素敵に見える
からです。どんなボロボロになってしまった靴でも、クリーム塗って磨いて(クリームの)艶が出た状態で、更にシューツリーを入れてピシッとなっている姿を見ると、惚れ直します。人って結構単純です。でもそれで良いんです。
素敵に見えると、また履こうかな、と思うようになる。もう少し丁寧に履こうかな、と思うようになる。それはブラシを常日頃から欠かさないだけでも十分に感じられるのですが、クリームのツヤって分かりやすいんですね。もう、なんかそれだけで嬉しくなってしまうくらいです。
だから、もしあなたが「毎日のブラシは欠かさずやるようになりましたが、クリームは必要ないんだろうか」と思い始めたのだとしたら、
是非クリームを使ってください。
だって、それはあなたが靴の変化に気づくようになった、意識するようになった、ということじゃないですか。私がこのブログでも電子書籍でも伝えたいことは、「やってはいけない」ではなくて、「もっと自分の足と靴に意識を向けられるようになってほしい」ということです。
あなたがクリームを使いたいな、と思うようになったら、それがクリームを使うときです。
ただ、今回の文章でも触れましたが、「余分なクリーム」は革を傷める原因にもなりますので(神経質になる必要は全くありませんが)履くたびに塗る、とかたくさん塗る、とか考えないでくださいね。ただ、塗りすぎてしまったとしても、私は結構安心しています。何故なら、その時のあなたは
ブラシの習慣が根付いている
からです。いつも以上にマメにブラシとから拭き(磨き)をしてあげれば、大事には至りません。だから、安心してクリームを使ってください。
ただ、この文章で初めて私のブログにたどり着いて、まだブラシの習慣が無い方は、まずはクリームのことは忘れて、ブラシから始めてほしいな、と思います。
「一流の男」でも「成功する男」でなくても良いから、もっと気楽に靴と向き合って欲しい。
革靴というと、趣味性の高い世界のためか、巷に溢れる情報を眺めていても「成功する男は」とか「一流の男は」みたいなものが多いな、と感じています。正直、そんなことはどーでもいいと思っています。
一流だったり成功だったり、仕事が出来る何かに結びつけようとするから手順が複雑になったり、なんか特別なこと、特別な世界になって面倒になってしまうのじゃないかなぁ、と思うのです。靴のお手入れなんて、一部の人だけがやることではなく、靴を履く人なら誰もがする、手洗いや歯磨きや洗顔と同じくらい身近で手軽で簡単でシンプルなものなんです。
この年末年始、多くの方から質問やメッセージを頂きました。そして、多くの方が「これは良いのでしょうか」「これは駄目なのでしょうか」「◯◯でなければならないのでしょうか」といった不安を感じられていることに改めて気付かされました。
誰でも最初はそういうものだと思います。それは恥ずかしいことではありません。私も同じです。靴以外のことになれば、同じような心境になり、不安になると思います。
ただ、それは今まで靴に対してあまり意識してこなかった、ということ。そして、今それに不安を感じた、心配になった、ということは、靴に意識が向くようになった、ということです。嬉しいことですよね?
今回は、不安に思っている方に、ただ「大丈夫」というだけでなく、いつものメールでのお返事をするようなつもりで書きました(この時点で既に5,000字です)。何を言われても不安になるかもしれませんし、不安が解消されないかもしれませんが、今回の文章の何か一つでも、不安や疑問を解消させるきっかけになったらいいな、と思っています。