今回は「靴ブラシで歩き方が変わる。」の表紙イラストの打ち合わせの際にイラストレーターの清水久子さんと話していて出てきた話をご紹介したいと思います。
清水さんは前回触れたように「黒内羽根ストレートチップってなんて読めばいいんですか?」といった靴好き、靴マニアが当たり前のようにサラリと流して使ってしまう言葉を一つ一つ丁寧に確認してくれました。おかげで今回の本で、私は難しい説明を避けたのではなく、基本的な説明を怠っていたのだ、ということに気付かせてくれました。これに関しては近々改訂版を出したいと考えています。
清水さんとの会話の中で何気なく出てきたテーマなのですが、恐らく普段あまり靴に興味を持たれていない方にとっては想像がしやすい例えなのではないか、という話がありました。それが「自分の肌に置き換えて想像してみる」ということです。
@SuzukiAkifumi フリー素材のご利用ありがとうございます!「本人です」と答えても問題ありません!
— 大川竜弥(フリー素材) (@ryumagazine) April 26, 2017
日本が世界に誇るフリー素材、大川竜弥(フリー素材) (@ryumagazine) さんから直々に、「訊かれたら本人と答えて問題ない」と公認がおりましたので、今後もし訊かれた場合には上記の写真は本人ということにさせて頂きます。(もちろん違います。)
私は本でもこのブログでも「ブラシとから拭きだけで十分です」と書いてきましたが、別にそれ以外のアイテムを全く無駄で必要ない、と思っている訳ではありません。レビューで書いてくださった方もいてありがたかったのですが、多くの方にとって「敢えて手順を増やしてまでする必要のないもの」だと思っているだけです。時々気分の乗った時に行うフルコースの靴磨きでもない限り、毎日行うお手入れはなるべくシンプルで複雑でなく、続けやすく、かつ効果が高いものだけに絞って行うのが一番です。
もちろん人間の肌のように常に細胞が入れ替わるものと、鞣した後の革になった牛の皮とは全く性質が違います。それでも、ご自身の肌と、お手入れに置き換えて想像してもらうととても分かりやすいかな、と思います。
「ブラシ」や「から拭き」をせず、時々「クリーナー」と「靴クリーム(靴墨)」で済ませている、という方の場合を、肌に置き換えて考えてみましょう。
普段から洗顔をせず、肌に触れることもなく、汗をかいても汚れても皮脂でテカってきても放置。(毎日のブラシとから拭きをしていない。)時々1ヶ月に1度くらい、気が向いた時に少し強めの化粧落とし(クリーナー)で突然肌をゴシゴシとこすって、その上からまた化粧(靴クリーム、靴墨)を厚塗りする。
少し極端な表現になりましたが、クリーナーと靴クリームしか使わないって、こういうことなんです。
もちろんお情け程度にその前後でタオルで肌を擦るかもしれません(簡単なから拭き)けれど、それすらされず、化粧(それもワックスのような固まりやすいモノ)をとにかくツヤが出れば良い、とばかりに毎回毎回上から重ね塗りしていく。固まってヒビが入ってきたり、かなり目立った汚れがついた時だけ、強めの化粧落としでゴシゴシと落とす。
これ、肌に良いですか?これ、気持ち良いですか?
いや、私は一応栄養の入ったクリームを塗ってるよ。何せ、普通のデリケートクリームではなくて、「天然アボカドオイル」配合のリッチデリケートクリームだからね。
いやいや、私なんて時々「シアバター」配合のクラシックシアバターを使ってるからね。靴の状態は完璧だね。
何となくあなた自身のお肌以上にお金かけてそうな気がしますが、もしあなたが自分の肌に使うとしたら、塗ったあとは1ヶ月くらい洗顔もせず放置ですか?
いやいや、人間の肌と牛革は違う。一緒にするな。例えが悪い。そう思われる方もいらっしゃると思うのですが、伺いたいのは、確かにあなたの肌は繊細ですが、その分食生活や日頃の生活で肌は生まれ変わってくれます。それでも化粧塗りっぱなしで一晩寝てしまったら翌朝肌厳しいことになりますよね?それに比べれば牛革は丈夫です。また生きているのとは少し違います。確かに人間の肌ほど悪い影響は受けないかもしれませんが、裏を返せば人間の肌ほどあれもこれもと塗りたくるような過度な栄養は必要ありません。そして、クリーナーだって、人間の肌にとってもそれ程必要なモノではありませんよね?
牛革だって同じです。一発で傷むようなことはありませんし、革が傷むより先に靴自体が傷んでしまうかもしれません。それくらいの影響しかないかもしれませんが、それでもあなたが余程靴磨き(化粧)が趣味でもない限り、お金も時間も無駄だと思いませんか?
最近はスキンケアにおいても、以前のように色々と塗るよりもは、なるべく素肌に近い形で、最低限の紫外線対策だけ欠かさず行う、という方も増えてきているそうですね。もちろん保湿の為に多少は手を加えてはいるでしょうが、少なくとも世の中一般に出回っているような靴磨きフルコースのようなお化粧を毎日されているわけではないと思います。
フルコースの靴磨きは、何か特別な日だけで十分なんです。もちろん、ご自身が趣味として楽しめるのであれば幾らでも試してみてください。毎日やったって構いません。自由です。でもそうでもなければ、そうしたフルコースの靴磨きは、折角の特別な日だけプロにお願いしても良いと思いませんか?
ブラシって何のためにするんだろう?から拭きって必要?このクリームはどうだろう?これって靴にとっては良くない?
正直、何をやっても自由です。あなたが靴に向き合う姿勢が楽しみなのであれば、余程のことがない限り、厚塗りしようが何しようが、何とかなるものです。だから、失敗を恐れる必要は全くありません。
ただ、そうした趣味でないのであれば、迷った時には、自分の顔を思い出してみてください。自分の肌を想像してください。これ、肌に良いのかな?これって気持ち良いのかな?
意外とそれが身近で分かりやすい方法かなぁ、と思います。(顔にブラシしたら痛いですが、何のために毎日ブラシしてるのか、靴にとってのブラシは人の肌にとっては何か、という視点で考えてみて下さいね)
今回の本も、具体的なマニュアル本というよりも、そんな「考え方」がメインです。日々何気なく履いている足もとの靴や足、何気なくしている靴磨きについて、少し意識してみるきっかけになったらいいな、と思って書きました。
より多くの方の元に届いて欲しいな、と願っています。