前回、雨や雪の日の革靴との付き合い方について書きましたが、そうした濡れてしまった後に限らず、思わぬ時に思わぬ形で現れる悩ましい存在があります。それがカビです。
前回の最後でも触れましたが、どんなに頑張っても、どんな靴好きでもカビを完全に防ぐことは出来ません。普通に使っている限り、絶対的な方法がないんです。また、カビが生えてしまったら基本的には全て取り除くことは出来ません。
そんなものです。
そこで今回は、革靴に限らず、人間と切っても切れない関係であるこのカビとの付き合い方について、今まで当ブログで書いた200以上の靴関連の文章の中からまとめてみたいと思います。
カビは生えるときは何しても生えるんです。
カビ、生えます。人間と共存している、目に見えない色々な微生物や細菌、寄生虫、ダニなどと同じです。ただ、許容範囲を超えなければ良いのだと思うのです。既に人の履くためのものではなく、手の付けられない、カビの巣窟のような何か別のモノにならなければ良い。頑張ったって、生えるときは生えます。
実際、一度生えたカビを完全に取り去ることは非常に難しい。特に私たち一般人には。それに、もしそんな方法があったとしても、面倒で普及しないと思うのです。
正直、カビの絶対的な対策方法は無いと思います。いや、あっても多分それ面倒か面白くないかで普及しません。
であれば、手の付けられない状況にならないように、気を付ければ良いだけなのかな、と思います。生えても、それが酷くならない状態に留める。そのための手立ては幾らでもあります。それらは決して特殊な技術が必要な訳でも、特殊な専用の製品が必要な訳でもありません。
そこで、カビの発生をなるべく防ぐ、また発生してもそれ以上悪化(人間にとって)させないポイントを幾つか挙げてみたいと思います。
結局一番大切なことは、自分の靴を常に意識してあげられるかどうか。
いきなりこれか、と思われるかもしれませんが、私はこれだと思っています。靴に興味がない人から、靴廃人のようになってしまった人まで。
結局一番大切なことは、自分の靴を常に意識してあげられるかどうか、ということかな、と思います。
カビって幾ら環境が良い状態で保管しているつもりでもいきなり発生しているんです。でもそういう時って振り返ってみるとここ少しの間、この靴見てなかったな、履いてなかったな、ということが多い。
これは靴好きに多い傾向です。
反対に靴に興味がない人の場合、そもそも汚れすら落としていないことが多いんですね。とりあえず新聞紙だーと中途半端に新聞紙を突っ込んで、そのままもうそれ以上吸水出来ない状態のままの新聞紙を入れたまま、湿度の高い玄関先に放置してしまう、とか。
それ、カビに生えて下さいと言っているようなモノです。
でもね、それでもカビって生えるときは生えますから。なので、あまり落ち込まずに、ネットでカビで検索してみてください。たくさんの靴好きの阿鼻叫喚の図が覗けますので、それらを眺めながら自分を慰めてあげて下さい。
何故なら、意識出来ていないモノはどんどん力を失っていくからです。また、自分の器を超える量のモノを所有していても同じで、目が行き届かない分、疎かになりがちです。結局誰でも、またどんなに良い状態で保管しているつもりで生えるときは生えます。
靴でもモノでも、自分で把握できない量を所有してはいけません。
自分で把握できる数、それがあなたの器の限界です。それ以上を所有しようとしても、モノにとって可哀想ですし、あなたにとっても悲劇です。
ただ、少なくとも、早め早めのケアが出来ます。常日頃のブラッシングと乾拭きの重要性をしつこいくらい書いているのは、このためです。革にとっての手強い敵の一つ、埃も取り除けますし、革の状態に早く気付くことが出来る、手に取るということは、通気性の良い場所に出してあげる、ということでもあります。
革靴にとっての手強い敵は埃と湿気です。下駄箱というと戸棚のついた、一度しめてしまうと中に何の靴が入っているか分からないけれど、とりあえず安心、のようなタイプが一般的ですが、これも靴に限らず、密閉された空間は幾ら水とりぞうさん入れててもダメです。
あれ、結構早く水一杯になってるんですが、すっかり忘れて季節の変わり目にすっかり効果なくなってるぞうさんを大量に見つけた想い出はありませんか?
更に気になるのが、通気性の悪さです。そして埃はどれだけ締め切っていても溜まります。
であれば、いっそ開き直ってしまえば良いんです。埃と人間は共存しているんですから。埃はつくもの。むしろ積み上がってしまうと触るだけで痒くなりそうでついつい放置してしまうことも多い(わが家の積み上がった妻の本と書類の山が既にそう)のですから、一日の合間の気がついた時に、気がついた埃だけ軽く指でもブラシでも布でもグローブでも何でも良いので払ってあげるだけです。この習慣がとても大切です。
上記では靴の収納として「奥行35cmのメタルシェルフ」を薦めましたが、無理に新調する必要はありません。ただ、保管場所に意識するだけでもまただいぶ状況が改善されます。
保管場所に気を付ける。水とりぞうさんの人は特に注意しましょう。
多いと思われるのが購入時の箱に入れたまま積み重ねて保管しておくこと。
数が増えてくると、元々の靴の入っていた箱に入れて積み重ねておく、という方も多いと思うのですが、これはかなり気をつけましょう。一切履いていない靴でも長期間そのままにしておけばそれなりに劣化しますが、一度でも履いた靴であれば汗、汚れ、古いクリーム等々様々な条件が加わって、きちんと管理していないとカビの温床、革の劣化が起こりやすくなります。
通気性も良い不織布製の袋に入れて吊るしておくのも手。
不織布製の袋。革製品を買ったり、場合によっては靴を買った時に付いてくる、例のシューバッグとはまた別の思わず捨ててしまいそうなあの袋です。でもこれがかなり使えます。埃を通さず、通気性は良い。まさに保管に最適です。
ただ、吊るしておく場所もそうそうないですし、見た目的にもあまり良くはありません。
何となく当たり前のことを書いているような気がするかもしれませんが、以前店頭にいた頃には多くの方がこの状態でした。たくさんの靴を持っていて、毎回セールになると更にたくさん買って下さるのですが、一足を履き潰してから新しい一足を出す方から、とりあえず玄関先に箱に入れて山積みにされている方まで。でもそれらの山積みの下の方の箱にどんな靴が入っているか覚えていますか?更に、その靴を取り出して履く気になりますか?
箱に入れっぱなしは実はかなり環境は劣悪。カビ生えたり傷む前に対策を考えましょう。
一度でも履いた靴をそのまま古いクリームも落とさず、乾燥も不十分な状態で靴を買った時に付いてきた箱に入れっぱなしで積み重ねておく。最悪です。一番の理由は通気性が悪いこと。そして湿気がこもること。そこに靴の汚れや汗、埃が手伝ってかなりの状態は悪くなっています。
まぁ、それを抜きにしても、靴箱に入れて積み上げ始めた途端に、その中に入っている靴の存在自体忘れ去られてしまうんです。これがもしかしたら湿気よりカビよりホコリより最大の敵かもしれません。
ということで、自分で把握出来る数の靴に絞り、更に埃と通気性に気を付ける。更に一つお薦めの方法があります。それが天日干しです。
カビが気になるなら、晴れた日に干しちゃえばいいんです。
晴れた日のお昼前後の1~2時間で構いません。靴をハンガーか何かにかけて吊しておきましょう。天日干しです。
これ、以前あるメーカーの方に教えていただいたことなんです。晴れた日に靴をハンガーか何かにかけて、内側にも風と日が入るようにして短時間でも良いので干しておくと、カビ対策にも良い、と。
あ、もっとストレートだったかな。この時期カビが気になるなら、晴れた日に干しちゃえばいいんですよ。くらいだったかも。
外側は普段歩いていても日光に晒されていますので、それ程でもないのですが、靴底であったり、靴の内側は日光が当たらないですよね?特に内側は外にいる時は足が入っていて、更に暑ければ汗まで大量に含んだ状態ですし。
雨の後の靴が濡れている状態でこれをやってしまうとリスクを伴いますが、そうした靴が濡れている状態でもない限り問題ありません。何故なら普段からその靴を履いて猛暑の中、街を半日歩いたりしている訳ですから。けれど、下駄箱など保管環境があまり良くなかったり、最近あまり履けてないなぁ、という靴には効果絶大です。ついでにブラッシングと乾拭きをしておきましょう。靴の表情が見違えるように良くなります。
靴のサイズに気を付ける。自己判断で中敷きに安易に手を出さない。
久しぶりに靴のサイズ(フィッティング)について書きますが、特に靴の内側にカビが生えやすい人は改めて考えてみて欲しいと思います。多くの方が脱ぎ履きが面倒だから、と大抵一回り大きいサイズの靴を履かれています。また、汗をかきやすいから、足が臭いから、と気になっている方は誤解して大きめのサイズを選びがちです。
靴のサイズ、合ってますか?
大丈夫だと思いますが、念のため確認しておきましょう。暑いから、汗をかくから、蒸れるから、臭うから、と大きめのサイズを選ぶなんてことしてませんよね?そんな汗と臭いを増長させるような逆効果の典型的なパターン。
革靴は決して通気性が良いとは言えません。けれど、それを更に悪化させてしまう代表格。それが靴の中にゆとりを持たせることです。ゆとり、いい響きですねぇ。でも中に余裕があればあるほど、ますます臭くなります。
体質などがありますので、劇的に変わるかどうかは個人差がもちろんありますが、ひとまずこのサイズ合わせはスプレーや中敷き以前に大前提です。汗拭かずに幾らヒンヤリスプレー身体にかけても快適にならないでしょ。
その上で、それでも靴の中が気になるのであれば中敷きを敷く。中敷きはあくまで次善の策です。なかなか機能的なモノも増えていますので、かなり快適にしてくれるものも確かにあります。ただ、ブカブカな靴にして中敷きを敷くくらいならジャストのサイズの靴を選んでこまめにスプレーするほうがまだ遥かにマシです。
結構多いんです。「うちの主人、汗かきですぐ靴ダメにしちゃうんです」って靴持ってくるんですけど、中敷き含めてこれどう見ても全く機能してないでしょ。このシワ加減見ても、これは体質以前に汗わざとかかせてるよ、みたいなパターン。で、相談の内容が、「なので、もう少し大きめのゆったりした靴がいいかな、と思って買いに来ました」。
いや、本人が来てください。このまま同じこと繰り返していても一向に改善しませんから。
懐かしい思い出です。
サイズの合わない靴を履くことで大量の汗をかいてしまい、更に靴の中に気を留めないので、つま先周辺には埃が大量に詰まったまま。さらに中敷きを敷きっぱなしにすることで靴の中の環境が更に悪化、中敷き自体が変色、靴に貼り付いてしまった上にカビが大量発生。よくあります。
中敷きを全否定する気はありませんが、今回は汗という観点から。
確かに汗を吸ってくれる機能性の中敷きもあるので、活用する分には構いませんが、定期的に靴から剥がして陰干ししていますか?
結構忘れて敷きっぱなしと言う人が多いです。これだと逆効果です。中敷きが傷むだけでなく、中敷きと靴の中底の間が常に不衛生な状態になるので、中底が早く傷みます。
靴を長く履くために敷いた中敷きのおかげで靴が早く傷む。皮肉ですね。
勿論靴の中に吹き付けるための、防カビ成分も入った様々なスプレーなどが存在します。けれど、基本的なサイズ感を間違ってしまうと全て無駄になってしまいます。スプレー自体それなりのお値段がします。せっかく買うなら、効果的に使って欲しいのです。
自己判断でなく、専門のドクターに診て頂いた上で、オーダーでインソールを必ず入れるように薦められた。
それなら別です。それはもうドクターとの相談の上で靴も選んで欲しいと思います。
私の出る幕じゃありません。ただ、もしそのインソールも持ってきた上で、ちゃんとフィッティングをする気持ちがあるなら、店員さんもそれに合わせた相談は出来ると思うのです。自己判断が一番怖い。
何度も書いてますが、自己判断で「腰痛持ちだから」「膝が痛いから」と適当に「それっぽい」中敷きを買ってきて入れている方が一番怖いです。結構訊いてみると、もっともらしい症状の名前(難しめの漢字だったり、横文字)を、自信持って言われる方が結構いたのですが、実際見ると正常だったり、そもそも「そんな気がする」だけの方も多い。
それに、もし本当に心配なのであれば、靴選びにもそれくらい時間と手間をかけてください。靴は本当に適当。足が入る袋。大きい方がお得。くらいの人が結構いて、中敷きで何とかすればいい、と思っている。
でも本当にそれを解決させるのであれば、歩き方であったり、色々なところから多方面で解決していかなければいけないと思うんです。
3000円くらいの中敷き買って、それ入れれば一発。なんて、それじゃお布施と一緒です。
汗や臭いはその人の体質も勿論あります。ただ、体質だから仕方ない、と思われている方でも、それだけでは大抵の靴はそこまで酷くはなりません。靴の中が酷くなるとしたら、体質以外の別の、もっと簡単に解決出来る部分に多くの原因があると思って欲しいな、と思います。
それでもカビが生えてしまったら。
色々と挙げてみましたが、それでもカビは生えます。では生えてしまったらどうすれば良いのでしょうか。
一般的には前述のような環境改善だけでそれ以上の悪化を防ぐことは可能です。マメにブラシと乾拭きを続けるだけでも進行を止めることは意外と出来てしまいます。
また、普段のお手入れではあまりお薦めしていませんが、防カビ成分を配合したクリーナーなどで全体を拭ってしまっても良いと思います。
正直、カビの絶対的な対策方法は無いと思います。いや、あっても多分それ面倒か面白くないかで普及しません。
単純に古いクリームや汚れを落とすだけでなく、中には防カビ剤が含まれているモノも結構あるんです。それを有効に使いましょう。濡れてしまった靴を一通り汚れを拭った後に、敢えてこのクリーナーで全体の汚れを落としてしまうんです。
落とすこと以上に、クリーナーに含まれている防カビ成分にも頼るようなイメージです。
もちろんすべてのクリーナーに含まれているわけではないので、一応確認だけはしておきましょう。
とはいえ、このクリーナー、靴の長期保管をする際にも便利です。しまう前に靴全体をクリーナーですべてクリームなどを落としてしまうんです。その状態で保管。古いクリームなどが靴を痛めてしまうこともありますので、一度落としてしまうんです。スッピンの状態にしてしまう。結構効果的です。
また、この時にも含まれている防カビ成分が役に立ってくれるかもしれません。
カビ除去用の製品は幾らでもありますが、一つ書くとすれば、あまりお金をかけすぎないこと。割り切りも必要です。あまりにも気になるなら専門の業者にお願いするのも一つの手ではあります。
ただ、そこまでその靴に愛情を持てているのであれば、敢えて水洗いを薦めてみたいと思います。
暑い日も、辛い日も、大切な日も。履き続けた革靴には多くの汗が染み込んでいるから。
ならそんな汗も思い出として残しておけよ、というツッコミもあるかもしれませんが、履く機会が多ければ多いほど、靴の中には多くの汗が染み込んでいます。いくら乾燥させても、汗の分泌物から汚れ、更には埃までもが積もっています。
カビや傷みの一番の原因は、水そのものよりもむしろ、その水に付随するものだと思っています。雨であれば、雨自体よりも雨の中を歩くことでの靴の汚れを放置してしまうこと。それは汗も含みます。
それらを放置したまま、抜ききれないまま、カビの温床となる環境を作ってしまうこと。湿度。水。そして栄養です。
普段から履いた後は毎回ブラシと乾拭きを勧める理由も、傷みの一番の原因となる埃を取り除いてほしいからです。(勿論毎回靴に触れることで、靴の細かい部分に気づきやすくなる=意識しやすくなる、というのが一番の理由ですが)
カビが生えているのに、更に元気にさせる水!?とここだけつまみ読みした「けしからん」方が、ここぞとばかりに叩きそうな気もするのですが、私結構真面目です。
勿論これでカビを全て取り去ることは出来ません。ただ、この洗いの過程の中で、ひとまず汗や埃、汚れや古いクリームといった、カビが更に増えやすくなる要因を取り去ってしまうのです。(それだけで全ての要因は取り除けませんが)。
もちろん靴の中もしっかり洗ってしまう。更に、乾かす過程で防カビ成分の入ったスプレーなども吹き付けておく。陰干しして充分に乾かした後は、更にしつこくクリーナー、その上でクリーム、ブラシ、乾拭き。充分に乾かした後は天日干し。この辺りは勿論リスクは伴います。誰にでも薦めるものではありません。けれど、その過程で得られるものも多い。
そして、水洗い自体は何もマニアだけのモノではありません。革靴の水洗いの経験はなくても、小さい頃スニーカーや運動靴を水洗いした経験はありませんか?
色々書きましたが、カビ、そこまで嫌なモノでもないですよ。
お気に入りの靴にカビが生えれば勿論鬱になります。カビ大好きとは言いません。ただ、そこまで毛嫌いしなければならないものでしょうか。
革靴にちょっと生えた程度のカビであれば、実際クリーナーその他使わなくても、大抵まめなブラシと乾拭きだけでそれ以上の悪化は防げます。そして、「あ、カビを生やしてしまうような状態で放置していていたんだな」と教えてくれます。靴の状態を教えてくれるんです。
雨の日に履いた後は確かに心配になります。ただ、それも前回、今回に挙げたようなことを一切せずに放置してしまった結果として起こることが大半です。
冒頭でも書きましたが、人間と共存している、目に見えない色々な微生物や細菌、寄生虫、ダニなどと同じです。ただ、許容範囲を超えなければ良いのだと思うのです。既に人の履くためのものではなく、手の付けられない、カビの巣窟のような何か別のモノにならなければ良い。
革靴にとっては、多少生えるカビよりも、むしろそうなる状態まで放置されていた環境の方が劣悪かもしれません。そして、今はまだ生えてないとしても、実際には靴の中ではとんでもないことが起こっているかもしれないんです。カビすら生えず、既に絞りかすのようになってハリもツヤも、弾力も元気も失ってしまった革靴をたくさん見てきました。
カビを過度に恐れないで下さい。むしろ、ブラシと乾拭きをマメにする良い機会だと思ってもらえると嬉しいです。