前回も触れましたが、革靴の選び方といっても大きく分けて2つの方向性があると思います。一つがサイズなど「自分の足に合った靴」の選び方。もう一つが状況に合わせた形やデザインなど「どの靴を選べばよいか」という点です。
前回はその内後者、その時どきに合わせた革靴の選び方について書きました。
今回は前者です。「自分の足に合った靴」の選び方。一般的にフィッティングと呼ばれているものです。このブログも含め、ネット上、雑誌や書籍など巷にはありとあらゆるフィッティングに関する情報が溢れています。裏を返せばそれくらい誰にでも通用する絶対的な一つの正解というものが存在しない証拠でもあります。
当ブログでも開設当初の4年近く前からアクセスの上位に居座り続ける一つの文章があります。
ただ、今考えてみると、この文章は余程自分の足と靴に興味があり、時間にも余裕のある方でない限り読む必要はありません。むしろ忘れて下さい。
靴を選ぶ前にあなたは何をしますか?
さて、足に合った革靴を選ぼう、と思っても、さし当たって何をすれば良いのでしょうか。雑誌から、こうしたブログまで、巷には情報が溢れています。それぞれにフィッティングのポイントからそれぞれの部位の名前、サイズ表からコツのようなモノまで様々です。少し興味を持ち始めた方にとっては何を信じて良いか悩むのではないでしょうか。
このブログでは過去革靴全体で175、靴の選び方で58記事書いてきました。中には公開から2年、ありがたいことに毎日アクセストップの記事もあります。
けれど、ここで伝えたいと思います。靴を選ぶ前にあなたに薦めたいこと。
全部忘れて下さい。何も覚える必要はありません。
余計な知識は却って邪魔で弊害になります。プライドと一緒に一旦捨ててしまったほうが幸せになれます。
ということで、改めて自分の足に合った靴を選ぶ上でのポイントをまとめてみたいと思います。
フィッティングのポイントは簡単です。たった2つです。
いきなり結論から書きたいと思います。
フィッティングのポイントは簡単です。たった2つです。
その1.何も覚える必要はありません。むしろ先入観と余計な知識を捨てましょう。
その2.足に合う革靴を探すのではなく、自分に合う靴屋さんを探しましょう。
今回改めてまとめてみようと思ったところ、ほぼ一年前に書いた上記の文章でほぼ伝えたいことをまとめてしまっていました。
今見つけるべきは、何となく足に合いそうな革靴ではなく、これから先自分の足のことを長く相談出来る信頼出来る店員。
勿論どんな優れた店員さんでも外れます。間違うこともあります。けれど、大切なことは、今自己判断で何となく足に合いそうな靴を見つけることではなく、これから先自分の足のことを長く相談出来る信頼の置ける店員さんを見つけることです。
もしかしたらその店員さんは数年で他店舗に移ったり、辞めてしまうかもしれません。けれど、その短い期間でも、その店員さんとの間で得た知識や経験は、適当に書籍や雑誌、こうしたブログで聞きかじった情報とは比べものにならないほど、あなたの足に合っています。あなた自身に合っているんです。
元靴屋の店員だからこういうこと言うんでしょ、と思われるかもしれませんが、だからこそ敢えて伝えたいと思っています。何故なら、多くの方がどこかで聞きかじってきた知識で自己判断して、結果として選び方を間違ってしまっているからです。
たとえばバンビロ。愛すべきバンビロ。
幅広。別名、バンビロです。バンビロ。このブログにGoogleからたどり着く方のトップキーワードの一つです。バンビロ。幅広よりバンビロのほうが多いです。
恐らく、日本人の大半が悩んでいます。自分のバンビロ。
お店にいた頃、一つ学んだことがありました。
お客さんが「私、バンビロだから。」と言ってきたので、よしきた、と喜び勇んで幅広靴勧めている内は、まだ若いと。幅広靴持ってきちゃ駄目なんです。痛くない、痛くなさそうな靴を持ってこなきゃいけない。この違い、大切です。
バンビロは全国共通の靴屋でのご挨拶の言葉だと思っているくらいがちょうと良い。
何故なら、言うほどバンビロじゃないことがほとんどだからです。お客さんの悩みは、痛いこと、キツいこと。それを解決することが優先です。
幅広靴だ!と嬉しくなって持っていくと、痛い時があるんです。多々。そうなると、益々私はバンビロなんだ、と勘違いしちゃいます。
ふざけているように思われるかもしれませんが、それくらい多くの方が真っ先に口にする言葉、それがバンビロ。あとは「日本人は甲高幅広だから」「私、外反母趾なんで」。全部同じです。
その結果、どういうことが起こるのでしょうか。
甲高や幅広のあなたが、お店で何故足に合わない靴ばかり選んでしまうのか。
何故足に合わない靴ばかり選んでしまうのか。それは、
あなたが「甲高」や「幅広」という言葉をお店で口にしたから。
です。
靴のサイズなんて、絶対がないんです。これがジャストだと店員が経験から判断しても、100%正しい訳では勿論ありません。また、その人の今までの生活や歩き方、靴の履き方によって、幾らでも変わります。それを、専門店でずっと付き合いがある店員さんなら別ですが、たまたま寄った百貨店や靴屋で、すぐに正解が出せるわけではありません。
人は緩いことには寛容だけれど、痛みに関しては僅かであったとしても厳しい。
緩くてクレームになることって、極端に少ない。お客さんも大抵「やっぱりちょっと大きかったよ。中敷き貰える?」で笑って済んでしまうことが多い。けれど、ちょっとでも靴の中で足が当たってしまうと、大抵クレームになります。「痛いじゃないか!どうしてくれる!誠意を見せろ!」
店員さんも家に帰れば、あなたと同じように家庭があり、生活に、ローンに悩み、ストレスを抱えている1人の人間です。お分かりのようにクレームって結構堪えるんですよ。
もう、聞き飽きてるんです、その言葉
嫌な言い方ですね、私。分かった上で書いています。正直気分が重い。申し訳ないと思っています。ただ、当時の私の心境かもしれない。
もう来る人来る人、挨拶のようにこの言葉を言うので、慣れちゃうんです。聞き飽きてしまう。
そう言う人の場合、とりあえずブカブカか大きめか、幅広モデル、出来れば4Eあたりのボテッと太い靴を薦めておけば、とりあえず問題ないんです。
大きい分には何も言われませんから。何故なら、今まで散々痛い靴を履いてきた、という想い出がお客さんにはあるからです。
どう見てもこの人幅広じゃないよなぁ、全く甲高でも何でもないんだけど、と思っても、それを口にして、下手にジャストで選んで、クレームになったらその後が困ります。
そこで、とりあえず「甲高」「幅広」と聞いたら、オーバーサイズ。これ、よく聞くパターンでした。
本当はこういう心境になってしまう時点で、私に接客業は合わなかったのかもしれません。ただ、だからこそ敢えて伝えたいと思います。何も先入観を持たずに、普通に相談してみて欲しいな、と。何故なら、店員さんは(私のようなひねくれ者は除いて)基本的にはそのお店の靴を、少なくともお客さんであるあなた以上に知っていて、より多くの足との相性を見てきているプロだからです。
買う買わないは別としても、とりあえずそうしたプロの知識と経験を利用しない手はありません。
最終的にネットで買うとしても、一度は必ず店頭で相談してみて欲しい。
以前メーカー直営のアウトレットを薦める際に書いた文章ですが、店頭には知識と経験の豊富な方がたくさんいます。
場数も踏んだ経験豊富な店員さんも意外と多い。
アウトレットというと、安さばかりが注目されがちですが、店員さんも別に安っぽい人なわけではありません。実は結構スキルを持った、経験豊富な方がいる場合も多い。なにせメーカー直営、社員は通常店と変わらないはずです。なにせ名前を背負っていますから。
意外とご年配の方が、元々は通常店で店長を務められていた、とか若い方でも知識が豊富な方も多い。そしてアウトレットといえばとにかく数売りますから場数も踏んでいます。最初の一足をじっくりと選ぶには意外と使えるんです。
下手に辻斬りのように闘いを挑んだりせずに、店員さんを上手く乗せてあげてください。先ほども書きましたが、店員さんもあなたと同じ1人の人間です。同じ接客をするなら、気持ちの良い人に自分の持てる知識と経験を120%、150%出したいと思うのではないでしょうか。こんなこと書く時点で私は接客業失格かもしれませんが。
もしそのお店の靴が足に合わなければ、どうしても通販で買いたければ、買わなくても良いです。ちゃんとお礼だけ言って出ていきましょう。
お店で売れるかどうかはあとは店員さんの問題です。通販以上の価値を提供できるかどうかはお店側にありますから。
その上で、どうしてもそのお店や店員さんと相性が合わなければ、素直にお礼だけ言って帰ってくれば良いのです。
足に合った良い靴を選ぶポイントは、店頭で履き心地を気にしないこと。
散々悩んだ末に、却って分からなくなってしまうこともあります。そんな時に試してみて欲しいことがあります。
フィッティングというと、何かとても難しいもののような気がします。けれど、実は案外簡単なことでもあるんです。自分の足に任せてしまうのです。少なくともあなたの頭よりも足のほうが、靴のことはよく知っているはずです。
といっても、眉間にシワを寄せて色々試してみることではありません。
お店では皆さん、試し履きをされると思うのですが、ここで元靴屋としての足に合った良い靴を選ぶアドバイスをお届けしたいと思います。
大抵、試し履きの際に、おもむろに立ち上がって、足をいろんな角度に傾けたり、重心をかけたり、神妙な顔で履き心地を見る方が多いかと思います。
あれ、やめるだけで、良い靴選べます。
急に痛くなる、きつく感じる時というのは、どういうときか分かりますか?
靴のことなんか、足のことなんか、すっかり忘れて適当に歩いている時なんです。
そんな時でも痛くない靴を見つける為に、同じように靴をすっかり忘れた状態で試し履きてきますか?
靴のことなんかすっかり忘れた状態で靴の履き心地を見る。
禅問答みたいですよね。
無理です。私も出来ません。靴好きですし余計に無理。
履いてみて、何となく良いな、と思ったら、意外とそれが正解かもしれません。たくさんの情報や知識で混乱してしまった時には、一度すべて捨て去ってみるのも一つの手だと思っています。
痛かったら、相談すれば良い。調整すれば良いんです。
最後に改めて先ほどの文章を挙げつつ、まとめたいと思います。
失敗は誰でも嫌です。痛い靴も嫌だと思います。私も嫌です。でも未だに失敗しますし、半年前に買ってジャストだ!と思った靴が、最近履いたら痛くて嫌になったこともあります。
そんなものです。
でもそれって靴に限らず、ですよね?痛くはないかもしれませんが。服でも何でも失敗して覚えますよね?
それよりも、お気に入りの靴屋さんを一つ見つけてください。信頼出来る店員さんを見つけてください。そして普通で構いません。関係を築いてください。
その店員さんもあなたからたくさんのことを教わります。あなたもきっと色々なことを教えてもらえるでしょう。
痛かったら、相談すれば良い。調整すれば良いんです。
調整出来ないくらい合わないのであれば、それを店員さんと共有して、次に活かしましょう。
少なくとも、最初から「私は甲高」「私は幅広」「私は外反母趾」と先入観をもって、それ以外の考えは受け入れない、と無意識に身構えているよりは、きっと良い靴に出会えると思います。
私の短い店員人生の中で出会っただけでも非常に多くの人が、自分の足とサイズを誤解していました。年齢は関係ありません。革靴を今まで履いたことのない若い方に多いかと思いがちですが、むしろご年配の方も同じくらい多かったと思います。長年自分の中で作り上げてきた我流のサイズ感と履き方があるので、店員の話をろくに聞こうともしない方もいらっしゃいます。
それはそれでご自身の中で完結されているのであれば問題ありません。
人間というのは素晴らしいもので、どんな間違ったサイズや間違った履き方をしていても、その内慣れてきます。歩き方から骨格まで、それでも何とかなるように変わってくるんですね。
そうした点では、ご自身が何も不便を感じていないのであれば、それは間違っているとは言えないのかもしれません。
けれど、ちょっとサイズを試しに変えてみたり、紐を結んでみたり、履き方自体を変えてみるだけで、劇的に足が楽になった瞬間というのも何度も目にしてきました。そうした時の驚かれた表情、嬉しそうな表情を見るのが私はとても好きです。
自分にとって相性の良い店員さんと出逢えるかどうか、というのはもちろん運(縁)もあるとは思います。ただ、決してそうした店員さんというのは特殊な存在ではなく、案外身近にいたりするものです。ただ、靴のプロである店員さんを「失敗をすることももちろんある、同じ一人の人間」と思って素直に相談できるかどうか、に過ぎないのかな、と思います。(別に店員さんが偉いと言いたいわけではありません。本来であれば店員さんの側にも努力は必要です。)
フィッティングにたった1つの絶対的な正解はありません。ただ、自分の中だけで判断しているだけでは解決はしません。是非気軽に相談してみてくださいね。