このブログがきっかけで少しでも革靴に、いえ、自分の足に興味を持ってもらえたらとても嬉しい。いつもそう思っています。歩くというのは人間の生活においてとても大切なことです。歩くことで人間は進歩してきました。そんな大げさな歴史でなくとも、歩くというのは健康に大きく影響します。
都会に暮らす人間が外を歩く上では靴は必須です。毎日何千歩、何万歩と歩くにも関わらず、人はそのための道具(=靴)に関してあまりにも無頓着です。人は生まれてから歩くことは誰にも教わりません。そして自然に歩くようになります。だからきちんと教わりません。もちろん大人になっても歩き方を顧みることはしません。けれど、毎日の一歩一歩はその人の健康やその後の人生に大きく影響します。
現代人の多くは好き嫌いに関係なく、革靴を履かなければなりません。その革靴が足に合っているか合っていないかはその人のパフォーマンスに大きく影響します。けれど大半の人は自分の足のサイズも特徴も知らず、適当に履いています。
いきなり壮大な話になってしまいましたが、今日は何らかのきっかけで「そろそろ足に合った革靴が欲しいな」と思った時に読んでもらえるよう、このブログで今までに書いてきたフィッティングに関する内容とポイントをまとめてみました。
興味のある部分だけ拾い読みして頂ければ、と思います。
まずはじめに最も大切なこと。
靴を選ぶ前にあなたは何をしますか?
さて、足に合った革靴を選ぼう、と思っても、さし当たって何をすれば良いのでしょうか。雑誌から、こうしたブログまで、巷には情報が溢れています。それぞれにフィッティングのポイントからそれぞれの部位の名前、サイズ表からコツのようなモノまで様々です。少し興味を持ち始めた方にとっては何を信じて良いか悩むのではないでしょうか。
このブログでは過去革靴全体で175、靴の選び方で58記事書いてきました。中には公開から2年、ありがたいことに毎日アクセストップの記事もあります。
けれど、ここで伝えたいと思います。靴を選ぶ前にあなたに薦めたいこと。
全部忘れて下さい。何も覚える必要はありません。
余計な知識は却って邪魔で弊害になります。プライドと一緒に一旦捨ててしまったほうが幸せになれます。
余計な知識からプライドまで全て捨てて、まっさらな状態で靴屋さんに行きましょう。
人は歳を重ねるにつれてプライドが出てきます。これが厄介。人から素直に教わることが出来なくなります。我も出てくる。自分のほうが知っている、正しい、と言いたくなる。
良くお分かりだと思います。今目の前で偉そうにブログであなたに語りかけている男がまさにその典型です。鬱陶しいでしょう?何となくムカつくでしょう?あなたにはそうはなって欲しくない。
そして、中には自分は客だとばかりに店員さんを見下したり偉そうな態度を取る人も多いのですが、これ、何も得しません。店員さんだって人間ですし、何よりその方面では自分より知識も経験も上なんです。
偉そうな態度の客にあなただったら心を込めて、自分の持てる全ての知識と経験を使って役に立ちたいと思えますか?そういうこと言うと客を差別するのか、とか突然沸騰しちゃう人がいますが、別に差別云々ではなくて、そもそも人としてどうですか?
そこで、この項で伝えたいことはたった一つです。
お店で素直に店員さんに教えてもらいましょう。
結局一番大切なのは「人との縁」なんです。
「甲高幅広だから」「足のサイズは」「痛い靴は嫌」など、あなたがお店で伝えようと思っていた言葉は全て余計です。
こんなことを書くと不愉快に思われるかもしれませんが、これも何かの縁だと思って偉そうな私にもう少しだけ時間をください。
実際問題そうなんです。あなたの先入観や聞きかじった、読んで知った(このブログ含め)知識というのは大抵無駄です。かえって足に合う靴を選ぶ際の弊害になります。
知識って結局邪魔しちゃうんです。目を曇らせる。他の選択肢を受け入れられなくなる。
みなさん同じこと、お店で言うんです。さっきあなたが伝えようとしていたことと全く同じ台詞です。で、結局足に合わない靴を買って帰る羽目になる。何故なら、先ほどの言葉を使った時点で、既にあなたの足に合う靴は除外されてしまったからです。
もう来る人来る人、挨拶のようにこの言葉を言うので、慣れちゃうんです。聞き飽きてしまう。
そう言う人の場合、とりあえずブカブカか大きめか、幅広モデル、出来れば4Eあたりのボテッと太い靴を薦めておけば、とりあえず問題ないんです。
大きい分には何も言われませんから。何故なら、今まで散々痛い靴を履いてきた、という想い出がお客さんにはあるからです。
どう見てもこの人幅広じゃないよなぁ、全く甲高でも何でもないんだけど、と思っても、それを口にして、下手にジャストで選んで、クレームになったらその後が困ります。
これも理由があるのですが、ここで書くと長くなるので、また靴屋さんから帰ってきて、このブログをまだ覚えていたら是非下の記事も読んでみてください。
ちょっと寄り道。靴屋さんにはいつ行く?夕方が良いと言われていますが。
さっき書いた通りです。
「忘れてしまって問題ありません。」余計な知識です。
何で?夕方のほうが足がむくんでいるでしょ?
あ、あなたどこかで聞きかじってきましたね。
足ってむくみがひどい人とさほどむくまない人がいます。更に朝のほうがむくんでいる人もいます。ついでに言えば、夕方のほうが足はむくんでいるけれど、一日の疲れで足が落ちてアーチが潰れて朝よりも甲が低くなっている人もいます。もちろんその逆もあるでしょう。
立ち仕事か、デスクワークか。営業の仕事か。これは日によっても違うでしょうし、半年後どうなっているかも分かりません。それぞれ違うんです。
足は毎日、毎時間変化します。その日の体調や気分によってさえ感覚は変わります。
であれば、今の時点であなたにとってどの時間帯、どの状態、どんな体調の時に合わせれば良いかなんて分からないはずです。勿論店員さんも分かりません。ならば、余計な知識や前提は要らないと思いませんか?
もし何か覚えていくとしたら、店員さんを見分けるコツくらい。でもコツより相性。
店員さんも一人の人間です。革靴が好きでこの世界に入って更にこじらせちゃった人から、何となく諦めのような思いを抱いている人まで、更に他に選択肢がなかったから仕方なく続けている人まで様々です。
ただ、それなりにそのお店で売っている靴に関しては、少なくともあなたよりは知識を持っています。靴の癖も分かっています。
勿論あなたの足のことは分かりません。けれど、一日に何人、いや、何十人もの足を見てきている。それなりに傾向やパターンは掴めています。
そこで素直に店員さんを信じて(信じられないかもしれませんが)まずは訊いてみましょう。教えて貰いましょう。
もしそこで横柄だったり、もしくは何となく相性が合わないな、と思ったら、そのお店は止めましょう。あなたが悪いのではありません。その店員さんと相性が合わないだけです。中には本当に駄目な店員さんもいます。
店員さんの履いている靴を見るのもお薦めです。
一つだけ。意外と効果的なポイントです。その店員さんの靴を見てみましょう。
綺麗ですか?汚いですか?つま先がボロボロだったり、変に皺が入っていたりしませんか?
その店員さんの靴を見れば、大体その人が靴が好きか、きちんと足のことを考えているかが分かります。何より、靴屋のくせに自分の履いている靴がボロボロな時点で、お客さんに対して失礼です。
あ、この時点で大切に長く履かれている靴と、雑に扱われた靴の見分けは付かないかもしれませんが全く問題ありません。赤の他人(更に靴に興味のない人)から見て「えっ?」と不快に思わせてしまうような靴の履き方をしている時点で既に靴屋としてはダメだと思います。
高い靴かどうかなんて靴好きが見たって正確なところは分かりません。誤解されがちですがお客さんの革靴を見て云々の話も別に高い靴かどうかを見てる訳じゃ無いんです。
きちんと手入れがされているか。傷がそのままにされていないか。汚い皺が入っていないか。まずは汚れていないかだけでも充分です。よく作業着だから、履き潰しだから、と雑に扱う人がいますが、本当に自分の仕事に誇りを持っているのであれば、その仕事に向かうための仕事道具を雑に扱わないはずです。
今見つけるべきは、何となく足に合いそうな革靴ではなく、これから先自分の足のことを長く相談出来る信頼出来る店員。
勿論どんな優れた店員さんでも外れます。間違うこともあります。けれど、大切なことは、今自己判断で何となく足に合いそうな靴を見つけることではなく、これから先自分の足のことを長く相談出来る信頼の置ける店員さんを見つけることです。
もしかしたらその店員さんは数年で他店舗に移ったり、辞めてしまうかもしれません。けれど、その短い期間でも、その店員さんとの間で得た知識や経験は、適当に書籍や雑誌、こうしたブログで聞きかじった情報とは比べものにならないほど、あなたの足に合っています。あなた自身に合っているんです。
失敗してはいけない、と思うから、身構えるし革靴の印象も悪くなるのだと思います。
失敗は誰でも嫌です。痛い靴も嫌だと思います。私も嫌です。でも未だに失敗しますし、半年前に買ってジャストだ!と思った靴が、最近履いたら痛くて嫌になったこともあります。
そんなものです。
でもそれって靴に限らず、ですよね?痛くはないかもしれませんが。服でも何でも失敗して覚えますよね?
それよりも、お気に入りの靴屋さんを一つ見つけてください。信頼出来る店員さんを見つけてください。そして普通で構いません。関係を築いてください。
その店員さんもあなたからたくさんのことを教わります。あなたもきっと色々なことを教えてもらえるでしょう。
痛かったら、相談すれば良い。調整すれば良いんです。
調整出来ないくらい合わないのであれば、それを店員さんと共有して、次に活かしましょう。
少なくとも、最初から「私は甲高」「私は幅広」「私は外反母趾」と先入観をもって、それ以外の考えは受け入れない、と無意識に身構えているよりは、きっと良い靴に出会えると思います。
まとめ。フィッティングのポイントは簡単です。たった2つです。
その1.何も覚える必要はありません。むしろ先入観と余計な知識を捨てましょう。
その2.足に合う革靴を探すのではなく、自分に合う靴屋さんを探しましょう。
このブログの「靴のお手入れ」と「靴の選び方」が一冊の本になりました。
今回の文章も含め、今までこのブログで200以上書いてきた「革靴のお手入れ」と「革靴の選び方」に関する内容に加筆、修正してまとめたものをAmazonのKindle書籍として発売しました。
前半で皆さんが「何か特別で面倒なもの」と考えてしまいがちな靴磨き(本書では「お手入れ」)について、また後半では多くの方が陥りがちな革靴の間違った選び方(主にサイズ)についての誤解を解きたいと思います。
Kindle書籍、というと「Kindle端末」が無いと読めない、と思われている方も多いのですが、お使いのスマートフォンやタブレット端末でも「Kindleアプリ」を入れることでお読みいただけます。スマホに入れて、いつでも気が向いたときに目を通せる、いつも手元に置いておけるものを目指して書きました。また、Kindle Unlimited会員の方は、今回の書籍は無料でお読みいただけます。
この文章をきっかけに、より多くの方にとって「革靴って痛いと思っていたけれど、ちゃんと選べば意外と快適なんだな」「靴磨き(お手入れ)って何も特別なものじゃなくて、毎日の歯磨きや洗顔のような日常なんだな」と感じて頂き、より革靴を身近なモノに感じてもらえたら、と願っています。