追記:2018年1月26日 15:00 更新
この文章を公開してから既に4年近くが経とうとしています。この間、多くの方にこのページの文章をお読み頂きました。当ブログはこの「靴屋だった私が甲高幅広のあなたにそれでも幅広を薦めない理由。」から始まった、といっても過言ではないくらい、代表的な文章になっています。
そのため、折に触れて加筆と修正を繰り返してきたのですが、その結果、却って文章量も多くなり、またなかなか読みにくい文章にもなってきたかな、と感じるようになりました。またこの文章を書いた後も、現時点までに当ブログでは「革靴のお手入れ」と「革靴の選び方」に関して200以上の文章を書いてきました。
そこで、その中から厳選し、加筆、修正してまとめたものを現在AmazonのKindle書籍として発売しています。価格は700円ですが、Kindle Unlimited会員の方は無料でお読みいただけます。
前半で皆さんが「何か特別で面倒なもの」と考えてしまいがちな靴磨き(本書では「お手入れ」)について、また後半では多くの方が陥りがちな革靴の間違った選び方(主にサイズ)についての誤解を解きたいと思います。
Kindle書籍、というと「Kindle端末」が無いと読めない、と思われている方も多いのですが、お使いのスマートフォンやタブレット端末でも「Kindleアプリ」を入れることでお読みいただけます。スマホに入れて、いつでも気が向いたときに目を通せる、いつも手元に置いておけるものを目指して書きました。
この書籍をきっかけに、より多くの方にとって「革靴って痛いと思っていたけれど、ちゃんと選べば意外と快適なんだな」「靴磨き(お手入れ)って何も特別なものじゃなくて、毎日の歯磨きや洗顔のような日常なんだな」と感じて頂き、より革靴を身近なモノに感じてもらえたら、と願っています。お時間があれば、是非こちらもお読みいただけますと、嬉しいです。
それでは、本文に入りたいと思います。
私が靴屋にいた頃、毎日多くのお客さんの口から出てきたお馴染みの言葉。
私は現在では店頭からも、また靴業界からも離れていますが、当時まだ靴屋で働いていた頃、多くのお客さんから毎日のように聞く悩みがありました。それが、
「バンビロ(ダンビロ)だから、痛くない大きめの靴が欲しいんだけど。」
ということです。突然バンビロと言われて「?」と思われたかもしれませんが「幅広」のことです。「甲高」も合わせて一言「バンビロ(ダンビロ)」と言われる方も多いです。それくらい日本では馴染みのある言葉のようです。
女性の場合にはこの「甲高幅広」に「外反母趾」の悩みも加わります。皆さんの悩みはとても分かります。痛い靴ほど一日辛いものはありません。
ところが、それだけの悩みを抱えられている割に、皆さん実際には靴選びにはほとんど時間をかけようとされません。
皆さん悩みがありながらも、何故か靴選びにはほとんど時間をかけません。
いろいろとお忙しい理由もあるとは思うのですが、最初から「私はバンビロだから」と言ってそれ以上考えるのをやめてしまっている方が多いのです。私はバンビロだから、ゆったり目の靴。バンビロだから、足が痛くない靴が欲しい。ただ、この「痛くない」というのが非常に難しく、また本当に痛くない靴からあなたを遠ざけてしまっている言葉でもあります。
皆さんお忙しい中で靴屋に足を運ぶわけで、さっさといつものサイズなり幅広モデルを買って帰りたい訳です。靴屋さんとしても下手にジャストサイズを選んでお勧めしてもきちんとした履き方をしてくれなければ痛くなってクレームが出るので、面倒なのでお客さんの言うサイズで文句が出なければそのままさっさと売ってしまうこともあります。
人は緩さには寛容でもホンの僅かの痛さでも許せないものです。
その結果、たいてい「痛いからゆったり目」の靴を選んでしまい、また履き方も案外いい加減なため、ますます痛い思いをしてしまう。そしてあなたは思うのです。
「やっぱり革靴って痛いんだな」「スニーカーが楽」「私はやっぱり甲高幅広なんだ」
けれど、実際には多くの方は甲高幅広だから痛いのではなく、甲高幅広だと思って大きめ、ゆったり目の靴を選んでしまうから痛いのです。
大半の方の問題は履き方を間違ってしまっているために、結果として自分を甲高幅広だと誤解してしまっている。
なぜ足が痛いのでしょうか?もちろん中には本当に甲高幅広で、靴に対してそもそも足が合っていない方もいらっしゃいます。ただ、その場合には比較的解決は楽です。そして悩むことも意外と少ない。何故なら思い描いている解決策と実際の解決策がそれほどズレが無いからです。
けれど、実際に店頭で多くの方の足を見ていく中で、大半の方の問題は履き方を間違ってしまっているために、結果として自分を甲高幅広だと誤解してしまっていることにあるな、と感じてきました。実際、最近の若い方はあまり歩かなかったり、骨格の変化もあるのですが、甲高どころか甲自体薄く、幅広というよりも(足の筋肉が衰えていて)足自体がベターっと潰れて平たく横に広がっているだけの方も多くなってきました。これは単純な幅広とは状況がまた違ってきます。
さて、ここで「履き方を間違っている」と書きました。
少し思い浮かべてほしいのですが、あなたは靴をどうやって履きますか?どうやって脱ぎますか?
ちょっと分かりにくいですね。
- 「脱ぎ履きをする時に、きちんと靴紐を緩めますか?」
- 「履いたあとはきちんと縛っていますか?」
この質問に多くの方は「そんな面倒なことしないよ」と答えられます。「日本では脱ぎ履きが多いから」と突然日本論にすり替える方もいらっしゃると思いますが、例えば不動産のお仕事などで日に何十回と脱ぎ履きをする方を別とすれば、実際には「朝家を出るとき」「夜家に帰ってきたとき」+α程度ではないかと思うのです。脱ぎ履きしてせいぜい10回にも満たないのではないでしょうか。
ところが、多くの方は脱ぎ履きを面倒だと感じるあまり、靴紐を緩めなくても、きちんと縛らなくても簡単に脱ぎ履きが出来るサイズの靴を履いてしまいます。
常日頃から紐は緩めに縛ったまま。履くときは靴べらを使うか、そのまま強引に足を突っ込む。脱ぐときは両かかとを擦り合わせて強引に脱ぐ。これが容易に出来るサイズの靴を選びます。もしくは、容易に出来るほどに靴自体が既に傷んでしまって本来の意味での足をしっかりと支えることが出来ない状態になっています。
「歩きやすい」靴と「履きやすい」靴は本来はまったく違います。
多くのお客さんは「歩きやすい」靴を探されています。「痛くない靴」というのも結局は同じなんですね。ところが、お店では皆さん「履きやすい」と言われます。どちらも同じじゃないか、と言われるかもしれませんが、この二つは全く違います。
履きやすい靴というのは脱ぎやすい靴です。「脱げやすい靴」と言い換えてもいいかもしれません。
そのためか、店頭で靴を試し履きする際にも、紐をしっかり結ぼうとはされません。また、脱ぐときも紐を緩めようとはしません。私たち店員が靴の中で足をかかと側に寄せて、しっかり甲の部分で足が前滑りしないように、靴の中で足が安定するように紐でしっかり押さえようとすると、嫌がられます。「いや、そんな縛っちゃうと脱げないから」と言われるんですね。
また脱ぐときにも、紐を緩めずに脱げるものを探します。もしくは、紐を普段緩めに縛っておいて(この時点で靴紐は全く本来の役割を果たせていません)簡単に脱げるようにして履かれます。
つまり、いつでも足が脱げそうな状態で革靴を履かれているんですね(実際にはスニーカー等でも同様の履き方をしているのですが、スニーカーは正直適当に履いても「そこそこ」には履ける靴なので、そこまで気になっていないだけです)。
この状態では、足は簡単に靴の中で前に滑っていきます。滑っていけば足はいろいろなところに当たります。そりゃ痛いです。でも痛い理由は靴が小さいから、甲高幅広だからではなく、単に靴の中で足が安定していないからです。
そんな状態で歩いているので、足は常に「脱げないように」と無意識に緊張しています。緊張していれば、足は固くなります。緊張して固くなっている時にどこかに当たれば、どんな靴だって痛いです。
痛いとどうなるか。
元々は緩さが原因で当たりやすく、疲れやすくなっているのに、「痛いから」と更に緩めの靴を探そうとされます。結果、皆さん本来のサイズよりも二回り以上大きめのサイズを選ばれます。理由は2つ。
- 痛くないから(二回り以上も大きいサイズを履けば普通なかなか当たりませんよね?)
- 履きやすい(脱ぎやすい)から(サンダルを履いているような感じですから当然です)
そして、皆さん、思われるのです。
「やっぱり痛いし自分は甲高だな」「幅広だな」→「だからゆったり目の靴を選ぼう」
この悪循環に陥ってしまうのです。大切なことは、
- まずは本当に自分が甲高幅広なのか、一度疑ってみる。
- そして、自己判断ではなく、靴屋さんで一度しっかりと計測してもらう。
ということです。
幅広靴、ゆったり靴が怖いのは、痛み以上に、ジワジワと気付かない内に身体を歪め傷めてしまうことです。
甲高幅広、もしくは幅広だと思い込んでいる方が自己判断で幅広靴を履いてしまうことには、もう一つ怖いことがあります。
「足が痛くて履けない」といったすぐ分かる症状ならまだマシなのです。むしろ怖いのは、「何となく履けてしまうこと」です。何となくゆったりだから楽、と勘違いしてしまうこと。これは実際には足だけでなく、腰や背中、首、頭にまでかなり負担をかけています。それもジワジワと。
何故なら、足は一歩歩く度に安定しない靴の中で必死に歪みを修正しようとします。常に足に力を入れながら、時に足を庇いながら踏み出し、身体を支えるために、徐々に歩き方が変わってきます。変わってくると足だけで支えきれない負担を腰や体全体を使って補い合います。それくらい、足というのは鈍感でありながら、だからこそ気付かない内に身体を歪め、様々な影響が出てきてしまうのです。
また、足は常に緊張した状態にあります。大切な面接や、大事な会議の前の緊張した状態を思い浮かべて見てください。手や足に汗をかきませんか?足は元々非常に汗をかきやすい部位です。そんな足が常に緊張しているとすれば、常に靴の中は汗で濡れた状態になります。濡れた状態で、合わない靴を履いているとどうなるか?
靴ずれを起こしやすくなるんです。
誤解している方が多いのですが、靴ずれの多くは(全てではありませんが)小さい靴を履いていることで起きるのではなく、ゆったり目の靴を履いていることで、足と靴の間に余裕が出来てしまうことで起きます。足が安定せずに前後、上下に動くことに加え、足自身が緊張して汗をかいているため、余計に皮膚に負担がかかりやすくなっているのです(靴ずれは湿った足に起きやすい)。
更に、緊張したときの汗は普段の爽やかな汗とは分泌物が違う、という研究結果もあるようです。普通の汗より臭いんです。そして、常に汗を書いているので蒸れやすくなります。臭い汗が更に蒸れれば‥当然靴も足も臭くなりますよね?
まとめとして。まずは自己判断をやめましょう。そして信頼できる靴屋さんで最低でも1時間かけて靴を選んでみてください。
ネットではなくまずは信頼できる靴屋さんに行って下さい。
そして、最低でも1時間はかけて靴を徹底的に選んで下さい。
忙しくてそんな暇はない?本当に忙しい人はそんなセリフ吐きません。
そして、本当に忙しい人ほど、一日の、そしてそれから先何年も、何十年ものパフォーマンスに大きく影響する靴に関しては妥協しません。それは値段とかデザインに、ではなく、フィッティングに、です。プロのアスリートもそうですよね?
一度徹底的に自分の足に合う(と思われる)靴が見つかった、と思っても、そこから歩きグセや歳を重ねるにつれて足の形は変わっていきます。その都度自分に合う靴は変わってくるでしょう。けれど、その時にはもうあなた自身が一番自分の足のことは分かっていると思います。
だから、もう一度だけ、甲高幅広なんて言葉はすっかり忘れて、最低1時間かけて、信頼できる靴屋さんで靴をしっかり選んでみてください。その際はサイズ表記も「幅広モデルで楽」表記も一切無視して選んでみてくださいね。
最後に。もしあなたやあなたの大切な人が外反母趾や内反小趾で悩んでいたら。
こちらも合わせて読んで頂けると嬉しいです。靴屋で働いていた頃、当然女性のお客さんも多くいらっしゃいました。そして、幅広や幅広甲高に関しては同様に悩まれているのですが、それ以上に皆さん気にされている、苦しまれているのがこの2つ。「外反母趾」と「内反小趾」です。
既にそう診断されて治療を受けている方でも、靴を選ぶ段階になると皆さん揃って「更に悪化させてしまう」靴の選び方をしてしまうのです。それが「外反母趾(内反小趾)が痛いから、大きめのサイズ、幅広の靴が欲しい」と言われること。
このブログでは主に下の2つでこれらについての傾向と対策に触れています。簡単なことで足への負担は大きく変わってきます。お時間のある時に是非お読み下さい。
大切な娘さんのローファーをもしこれから選ぶのであれば心に留めておいてほしいこと。
また、大切な娘さんのローファーを選ぶ際にも、気をつけて頂きたいことをまとめています。成長期だから、すぐボロボロにするから、と大きめのサイズを選んだり、そもそも初めての革靴で分かるはずもない履き心地を本人に判断させてしまうことで、これから先、同様に外反母趾や内反小趾、足のむくみや変形といった悩みを抱えさせてしまうことも多くなります。是非合わせてご参照下さい。
改めて。このブログの「靴のお手入れ」と「靴の選び方」が一冊の本になりました。
冒頭でも触れましたが、今回の文章も含め、今までこのブログで200以上書いてきた「革靴のお手入れ」と「革靴の選び方」に関する内容に加筆、修正してまとめたものをAmazonのKindle書籍として発売しました。
前半で皆さんが「何か特別で面倒なもの」と考えてしまいがちな靴磨き(本書では「お手入れ」)について、また後半では多くの方が陥りがちな革靴の間違った選び方(主にサイズ)についての誤解を解きたいと思います。
Kindle書籍、というと「Kindle端末」が無いと読めない、と思われている方も多いのですが、お使いのスマートフォンやタブレット端末でも「Kindleアプリ」を入れることでお読みいただけます。スマホに入れて、いつでも気が向いたときに目を通せる、いつも手元に置いておけるものを目指して書きました。また、Kindle Unlimited会員の方は、今回の書籍は無料でお読みいただけます。
この文章をきっかけに、より多くの方にとって「革靴って痛いと思っていたけれど、ちゃんと選べば意外と快適なんだな」「靴磨き(お手入れ)って何も特別なものじゃなくて、毎日の歯磨きや洗顔のような日常なんだな」と感じて頂き、より革靴を身近なモノに感じてもらえたら、と願っています。