私はこのブログで常々「靴墨(靴クリーム)なんて手を出さなくていいから、とにかくブラシだけは欠かさずやりましょう」と書いてきました。そんな中で、先ほど靴職人ZinRyuさんがされたツイートを見かけました。
革にオイルを仕込んだら、柔らかくなり耐久性が増すけど、艶は弱くなっていく。それと同様に、靴にクリーム塗りすぎると光沢は消えていきますのでご注意を。
— ZinRyu (@Zin_Ryu) 2015, 8月 2
クリーム塗って出る艶はワックスの艶であって一時的、革の艶ではありません。革本来の艶を育てるには、日々のブラッシング、保革に必要なだけの油分と、丁寧な乾拭き。コレしかない
— ZinRyu (@Zin_Ryu) 2015, 8月 2
革に関して深い知識と経験をお持ちのZinRyuさんにはもっと深い考察があってのツイートかもしれませんが、普段ブログでブラシの重要性をくどいほど書いてきた私としては頷くところ多かったので、今回改めてこのブログなりの靴との接し方について書いてみたいと思います。
靴好きは過保護になり、一般の人は塗りすぎる。
ZinRyuさんの言われるように、革本来の艶を育てるには確かに保革に必要なだけの油分というのは前提だと思います。それに対して何も反論はありません。それを分かった上で「手を出さなくて良い」と書いたのは、この「保革に必要なだけの油分」という程度がなかなか靴好きでも難しかったりするからです。
靴好きはついあれこれ試したがる。その割に靴が多すぎて時々見事に放置する。
靴好きにとってはお手入れは趣味の一つのため、どのクリームが良い、あれは駄目だ、認めないなど、あーだこーだ言うのが楽しいのです。新しい「より良さそうな」クリームをお店やネットで見かけると、手元にまだあるのに試したくなったり。
その割に、ある時期突然スーっと(忙しかったり理由は様々)靴から興味が薄れてしまって見事なくらいに放置してしまったりするわけです。
また、元々靴の足数自体が多かったりすると、一ヶ月に何回履くかどうか。また全てを均等に気に入っている訳ではないので、その時の気分に応じてしばらく完全に履かなくなってしまうことも多々あります。
保革に関しては存在を忘れない程度に放置するくらいがちょうど良いとも言えるのですが、結構困ってしまうのが、飽きてしまうんですね。愛情がなくなってしまう。すると次にまた欲しい靴が出来てしまうと、アッサリと資金捻出のために手放してしまったりする。
靴好きは靴を買っているのではなく、欲しい靴を買うという体験を買っているのです。
そのため、過保護になるか、見事に放置されるかのどちらかになります。
一般の方は塗りすぎる。とりあえず艶だけ出しておけば良いと思ってる。
一般の方も極端です。一般の方にとってのこの場合の「塗りすぎる」は大抵こんな感じのモノです。
とりあえず塗っとくんです。たまに思い出したように。でもブラシなんてしませんし、乾拭きもたまにするか程度なので、時間が経てば立つほど革の表面がカチカチになってきます。テカテカになってるんですね。
そのまま履いている内にヒビが入ってきてしまって捨ててしまうか、もしくはある時汚れが目立ってきてチューブクリーナーでゴシゴシと。で、その後また上のものを塗りたくっていきます。
ブラシと乾拭きと言うと、不安になる人が多いけれど、この2つって結構みんないい加減。
やることが少なくなると不安になる気持ちは分かるのですが、ではこのブラシと乾拭きという「当たり前じゃん」と思われて深く考えられることもない「簡単で詰まらない」と思われていることを、果たしてどれだけちゃんと出来ているでしょうか。
当たり前のことほど軽視されがちで、すぐに分かりやすいモノほど好まれるのは靴のお手入れに限ったことではありませんが、靴に関してはブラシをマメにしていないと、乾拭きを丁寧にできていないと、今自分の靴がどういう状態にあるのかわからないと思うのです。
毎日こまめにこの2つをしていると、自分のお手入れの癖や靴の履き方が分かってくる。
まず分かりやすいのが、「あ、意外と塗りすぎてるんだな」ということ。もしくは「意外とブラシや乾拭きをいい加減にしてたんだな」と言えるかもしれません。艶に騙されてしまうんです。また過保護な時には、ちょっとしたことでももう少し塗っておいたほうが良いんじゃないか、と塗りすぎて革が却って消化不良起こしているような状態の時もあります。
また、一日履いた跡にブラシと乾拭きをするだけで、お手入れ直後は結構ボロボロ黒いモノが出てくるんです。余分なクリームだったり、そうでなくても靴の各部位によってクリームの入り方には差が出てきますから。
更に、これは店頭にいた時にもよく感じたのですが、店頭では時間があれば店内の靴を乾拭きします。まぁ一番はみなさんつま先持たれるんで、つま先が指紋だらけだというのが大きいのですが、とともに、たった一日でも結構埃って積もるんです。
家でもそうですよね。人が動き回っている時は気づきにくいですが、朝まだ人が活動を始める前と、寝る直前というのが非常に埃が溜まっています。人間は埃と共存しているのですから、当たり前といえば当たり前です。
埃がすぐに革をダメにするわけではないのですが、埃は人を億劫にさせる。
ちょっと最近放置がちだった部屋の片付けをしようと思った時、床に積み上がった書類や本を片付けようとして、埃が積もっていたりするとそれだけで億劫になったりしませんか?片付けをしばらくサボると、部屋のあちこちに埃がつもり始めます。それが直接すぐに影響を与えるというわけではなくとも、この埃が意外と厄介で、人を億劫にさせるんです。「またでいいや」と。
靴も同じです。原因は埃だけではありませんが、埃が積もった靴は徐々にその靴の魅力と力を奪っていきます。
一つ書き忘れ。なんでブラッシングが大事かっていうと、ホコリは革の大敵だから。私も木型削る時、靴がプラスチックのパウダーにまみれ、革にヒビ入ったことがあります。パウダーとホコリは革の表面である銀面が必要とする油分を吸着して、奪い去ります。それで革が乾燥してひび割れ、壊れるってわけ
— ZinRyu (@Zin_Ryu) August 2, 2015
革の本来持つ力を信じてあげましょう。
革ってそれほどオイルだクリームだが必要な訳ではないんです。毎日のお化粧とは違います。却って常にしっかりブラシをして、埃だけでなく、刺激を与えつつ、革自身が持っているオイル分であったりを引き出してあげる。乾拭きで表面を引き締めてあげる。内側から革本来が持つ力を引き出してあげる。
そして、あとは自分の構うことの出来る(私は常々「器の大きさ」と書きますが)足数の靴しか手元に置かない。そしてその靴を積極的に履いてあげる。
よく綺麗に徹底的に磨き上げた靴をそのまま履くのが勿体無いかのように綺麗に飾って半年も一年も、いや、それ以上放置している方もいますが、そんなことするならその表面の磨き上げたモノ全部取り除いて風通しの良い環境で保管してあげておいたほうが余程マシです。履かれないでカチカチに塗り固められたまま放置され飾られている靴ほど可哀想なものはないと思います。履いてあげましょ。
ということで、これから靴のお手入れをどうしようかと考えている方は、ひとまずブラシと乾拭き用の布かグローブだけ買って、靴と心の中で会話をすることから始めましょう。
靴磨き、というと、どうしても「靴磨きセット」「シューケアセット」といったものを選びがちです。今回の文章が腑に落ちた方は分かって頂けるかな、と思うのですが、巷で売られているこうしたセットは、基本的には無駄なものが多すぎてオススメできません。そして、革靴好き、靴磨きが好きな方への贈り物としてもオススメできません。その理由について書いてみましたので、お時間のある方は是非お読みください。
このブログの「靴のお手入れ」と「靴の選び方」が一冊の本になりました。
今回の文章も含め、今までこのブログで200以上書いてきた「革靴のお手入れ」と「革靴の選び方」に関する内容に加筆、修正してまとめたものをAmazonのKindle書籍として発売しました。
前半で皆さんが「何か特別で面倒なもの」と考えてしまいがちな靴磨き(本書では「お手入れ」)について、また後半では多くの方が陥りがちな革靴の間違った選び方(主にサイズ)についての誤解を解きたいと思います。
Kindle書籍、というと「Kindle端末」が無いと読めない、と思われている方も多いのですが、お使いのスマートフォンやタブレット端末でも「Kindleアプリ」を入れることでお読みいただけます。スマホに入れて、いつでも気が向いたときに目を通せる、いつも手元に置いておけるものを目指して書きました。また、Kindle Unlimited会員の方は、今回の書籍は無料でお読みいただけます。
この文章をきっかけに、より多くの方にとって「革靴って痛いと思っていたけれど、ちゃんと選べば意外と快適なんだな」「靴磨き(お手入れ)って何も特別なものじゃなくて、毎日の歯磨きや洗顔のような日常なんだな」と感じて頂き、より革靴を身近なモノに感じてもらえたら、と願っています。