未だによく覚えている出来事です。もう数年前かな。
ある時当時いたお店に大学生くらいの男性が相談に来ました。
靴を買ったのだけれど、サイズが少し大きいので中敷きが欲しい、ということでした。
紙袋から無造作に取り出した（これ自体切なくもあるのですが）靴は、JMウエストンのゴルフ。
メンズドレスシューズ ブラウンダービー641 Blucher? J.M. J.M. J.M. Weston
ジャーナリストシューズとも言われる、ウェストンの名靴の一つですね。
訊くと古着屋で見つけて買ったとのこと。
お店では良いと思ったのだけれど、少し大きいと言うのです。
そこで履いてもらったところ、少しどころか明らかに大きい。サイズは8 1/2。
彼の足はどう見てもウェストンのサイズなら6 1/2、人によっては6を選んでも良いくらいです。
彼は盛んに「自分のサイズを買ったんだけれど」と言います。普段のサイズを訊いてみると、27から28くらいとのこと。
古い靴を買ったから伸びて馴染んで少し大きくなったから履きにくいのだと思っているようです。
「履き潰します」と言って帰っていきました。
出来るだけのことはしたいと思い、幾つか対策はお伝えしたのですが、それでもこれだけサイズが違うと難しいです。
特にウェストン、ゴルフは固い。そして彼の場合もやはり靴紐は飾り程度に思っていて、目の前で緩く結んだまま脱ぎ履きしています。
[0560-201501] 靴紐ちゃんと結べますか？デビッド・リースの人生の教科書で「正しい靴紐結び」を学ぶ。
中敷きで何とかなると思ってしまっている。そして、自分のサイズがこれだと、全く疑っていない。
結局彼は「履き潰します」と言ってまた無造作に紙袋に放り込んで帰って行きました。
世の中はサイズが合わずたらい回しにされた名靴で溢れている。
オークション、ブランド買い取り店、覗いてみると多くの名靴がほとんど履かれず、けれど変な履き皺が入った状態で販売されています。
以前あるお店で訊いたことがあるのですが、買い取りも大体UK9以上がよく売れるし、買い取りも高くなるそうです。
UK9なら27cm、それでも小さいくらいで、最近の若い方は28.5とか29cmでもっと足が大きいですから、と店主。
オークションでもやけにUK9.5だ10だ、といったサイズが多く出回っています。まぁ一部はアメリカなどから仕入れてくるので必然的に大きくなるのもあるのですが。
勿論そのサイズが適正の方も多いです。ただ、全体の比率を考えると明らかに多すぎる。
足が大きい方には助かりますね。誰かが適当に買って、合わないから、とほとんど履かずに半値以下で売ってくれる。お得です。ありがたい。
お店も需要が多いから、適当に買い叩いても、すぐ特に考えずにブランド名だけで買っていってくれる人がいる。
あのゴルフはその後どうなったんでしょうか。
最初の男性の話に戻ります。そのゴルフも踵周り（スベリ）がボコボコに穴があいて、更に一部糸も解れていました。
皺もおかしいんです。明らかに元々もオーバーサイズで履かれ続けたんだろうな、という入り方。
それが古着屋で恐らく二束三文で買い取られて（一応ウェストンなので買い取りはしてくれたのでしょうが）たまたま見かけた大学生の彼はウェストンだから、雑誌でも出てるから、と買った。
ほとんど革靴も履いていない、ちゃんと計ったことがないので、27くらいだろうと思った。お店もお客さんが「これでいいです」と言えば何も言いません。
実際多いです。
「少し大きいけれど、この方が痛くないし、中敷き入れれば良いから、これにするよ。」
彼のゴルフはその後どうなったんでしょうか。あの無造作に投げ入れる感じを思い出しても、恐らくそのまま捨てられてしまったかもしれませんね。
[0396-201412] 「大きければ中敷き入れれば良い。」簡単便利な靴の中敷きについて今日はじっくり考えてみる。
靴のサイズ、甘く見過ぎです。
最初から特に考えずに適当にサイズ選んで中敷き入れれば大丈夫、と考えてる時点で甘く見過ぎです。靴だけでなく、自分の足を馬鹿にしすぎてます。
お店はいいんですよ、サイズ合わなくても大きなクレームにならなければ。
何度も書いていますが、お客さんは緩さには寛容ですが、僅かな痛みでも許せません。緩めに勧めておいた方が無難なんです。
売上になりますし。中敷きも一緒に売れて買い上げ点数、付帯率アップです。
また私のように、時々オークションで掘り出し物探す人間にとってもありがたい。ほとんど履かれず市場価格の半値か３分の１以下で落札出来る名靴が多いので。
新品なんて買う気無くなっちゃいます。日本人の中古を好まない感覚と合わせてそれくらい相場が下がっている。悲しいことですが。
でもね、肝心のあなたの足は、どうなんでしょうか。
足は悲鳴を上げている。
いや、もう諦めて悲鳴すら上げなくなっているかもしれません。身体って何度も言いますが必死に適応しようとするので、歩き方から体重のかかり方まで無意識に変化させていく。
サイズ合ってない方の歩き方って一発で分かります。姿勢も変わるんです。どんな高いブランド物履いていても、身につけていても、分かっちゃうんです。
人はその靴や服が幾らかなんてどうでもいいんです。サイズが合ってるか合ってないかだって、普通の人には分かりません。
けれど、何となく合ってないな、何となく変、というのは感覚で分かるんです。それが出やすいのが、適当に思い込みで選んだ自分のサイズ感。
そして、単に変なだけならいいんです。足はどんどん負担が増えていく。ふくらはぎ、腿、腰、腰を庇えば背中。そして歩きかたによっては接地した時の衝撃を見事に受けて首から頭まで。
足がちょっと痛いから、だけの問題じゃないんです。別の問題のように思えて、全部繋がっているんですね。
お金払ったんだからどう履こうが勝手だろ。
もしそう思われている方がいるなら、格好悪いからやめてください。
金払ってるんだから云々は、金払う側の言う事じゃないです。金払う側が言ったらダメです。お客さまは神様云々と同じです。
「お客様は神様です」の本来の意味を知ってほしい – NAVER まとめ
時々お店でもいきなり不機嫌になる人がいるんです。
勿論お店側の問題もあるのでお互い様ですが、合わないサイズ了承の上履いて、数ヶ月後に靴が傷んで、勝手に足痛めて、どうしてくれる誠意を見せろという人。
ここ数年は分かりませんが、比較的30代から40代に多い。それ以上は割り切っているオッサンが多いので、比較的紳士です。20代はムッツリ黙って二度と来ない。
30代から40代って、仕事の最前線でバリバリ働いてきている自負とプライドがあるんですね。お金も自由に出来るものが増えてきている。
自分の感覚、知識を否定されるのが嫌なんです。たかが店員ごときに。あ、私も同じですか。確かに36です。時々自分が恥ずかしくなる時あります。小さなプライドに。
これから靴を選ぶあなたへ
余程自分のサイズが分かっているのでも無い限り、通販はお薦めしないです。他のブランドでこうだから、いつも履いているから、で選ぶと失敗します。
でもどうしても近くに自分の欲しいブランドの靴がないんだ、と言う人もいるでしょう。本当はそんな近くにないブランドの靴ならその後も考えれば買わなければ良いんですが。
その場合は、とりあえず自分の足の長さ測ってみてください。その数字だけ覚えておいてください。
靴のサイズじゃないです。足の長さです。これ、だいぶ違います。靴のサイズはこの際すっかり忘れてください。今まで足の長さ測ったことのない人の靴のサイズなんて大抵適当ですから。
その上で、一度お店に行って下さい。その際に店員さんは履いている靴で判断して下さい。
格好いいとか俺のセンスに合う靴履いているとかではなく、綺麗に履いているか。で、素直に靴のサイズを言わずに、足の長さ伝えるんです。
[0343-201410] 就職活動を迎えるあなたへ。これからの25年間に差が出る革靴とスーツの選び方。
もしそのお店の靴が足に合わなければ、どうしても通販で買いたければ、買わなくても良いです。ちゃんとお礼だけ言って出ていきましょう。
お店で売れるかどうかはあとは店員さんの問題です。通販以上の価値を提供できるかどうかはお店側にありますから。
ただ、それでも一度はお店でちゃんと履いてみて欲しい。その時も自分で勝手に判断せずに、ちゃんと聞いてみて欲しい。余計なこと言わなくて良いですから。
で、いつかそのお店でも何か買おうと思えるくらい、関係が築けるといいですね。馴染みの靴屋さんがあるというのは非常に安心感に繋がりますので。