Googleが2018年末に発表、発売したPixel Slateは本体とキーボードが分離して、タブレット的にも使うことが出来る(デタッチャブル)モデルとして話題になりました。ただ、その後海外では思ったよりも評価が上がらず、酷評されることもしばしば。中には“Disaster(惨事)”などと表するところも出てきたりと、なかなか気の毒なモデルでした。実際にこのモデルについてはいまいちその特長と魅力がピンとこない方もまだまだ多いのではないか、と思っています。
私自身、現在i7モデルをGoogle Pixel Slate Keyboardで日々愛用しています。評価を大きく下げる原因ともなった純正キーボードカバーも後述するように少し工夫をするだけで非常にキータッチも良くなるため、在庫のある内に予備を買い足しておこうかと本気で考えていたところです。そうした身からすると、まるで「無かったこと」のようにされている現在のPixel Slateの状況は愛用して大変気に入っている者としては非常に複雑な気持ちです。
ちなみに、Pixel Slateは先日発売されたばかりの新作、Pixelbook GoとCPU等が同じなので、今回の自動更新ポリシーの延長で、Goと同じ2026年6月になっています。
以前「Googleが自社製Chrome OS Tablet開発中止」というニュースが流れたことで、なぜかそれが「GoogleがPixel Slateを切り捨てた(Pixel Slate終了)」「タブレット競争に敗れたのでChromebookのタブレット型端末から手を引いた」と勘違いされている方が結構多かったのですが、あくまで「自社製」の開発を中止しただけです。PixelbookとPixel Slateの両面で同時に今後もGoogle自身が出していくのは負担が大きいので自社では開発しないよ、というだけであって、ChromebookでTablet型端末の開発やサポートを終了したわけではありません。今後Pixel Slateの後継がGoogleから出ないのは寂しくもありますが、今回の自動更新ポリシーの延長にも現れているように、タブレットUIなどのサポートや開発は今後も続いていきます。そうした点ではPixel Slateって結構貴重なモデルだと思うんですね。
そこで今回は発売から1年、発売直後に最上位i7モデルを購入、その後事情から一旦は手放したものの、その後結局は買い直し、今では日々愛用している私がたどり着いた現時点でのこのモデルの特長と魅力についてじっくりと書いてみたいと思います。
Pixel Slateは世に出るのが早かっただけでなく、詰めの甘さが今の低評価を生んでいると思う。
Pixel Slateは世に出るのが少し早すぎたモデルだと思っています。まだChromebook、Chrome OSにおけるTablet UIが未成熟な段階で、用途も明確に提案できない状況で出てしまったことがまずは大きかったのかな、と思います。実際、Chromebook Tablet自体も最近ようやく少しずつ「使ってみたら案外便利だった」「案外使えるんだけど、そうなったらパワー不足を感じるようになった」という声が聞こえ始めていますが、Pixel Slateが出た当時はまだまだ「タブレット型なんて何の意味があるの?」「Chromebookの良さを捨てている」などの声がChromebookユーザーの中でも多かったのを覚えています。実際私も出た直後に購入していますが、気に入ってはいるものの「可能性を感じさせ」てはくれたものの、と同時に戸惑いを感じていることをレビューで触れています。
その後私も一度事情があって手放していますが、手放した後で時間を経るにつれて、「あ、こんなときSlateがあったらな‥」「こういうときにSlate便利だよな‥」といった想いが次々と出てきまして、結果として今年の後半に入って改めて最上位のi7版を買い直しています。ようやく自分の中での使い方が定まってきた、このモデルの魅力を実感できるようになってきた、というところなのかもしれません。この辺りはまた回を改めてどこかで文章にしたいと思っていますが、実際ここ最近までほぼメインで使っていました。「最近まで」と書いたのは、現在はLatitude 5400 Chromebook Enterpriseがあるので、そちらをメインだからなのですが、それでもPixel SlateはLatitudeと意外と用途が被らない部分も多く、今も自宅で別途愛用していますし、2台とも持ち歩いていることもあります。そうした意味では今もメインと言えるのかもしれません。
詰めの甘さと評価の低さ。その一番の原因は純正キーボードにあると思う。
今回Pixelbook Goが出た直後の海外のレビューでも、Pixel Slateは結構引き合いに出されることがあるのですが、その際の評価は散々だったりします。ただ、その多くの原因は純正の「Google Pixel Slate Keyboard」の詰めの甘さにあったと思っています。
カバーとして使えるのは良いとしても、Pixel Slate本体の重さを支えるために背面にある程度のスペースが必要になること(フットプリントが無駄に大きいこと)。その割にその恩恵がなく、机の上など安定した広い場所では問題はないものの、膝の上に乗せて作業する、といったことが出来ない安定感のなさ。そして発表時にアピールしていたはずのキーボードが思ったほど使い勝手が良くないこと(これについては後述)などがあって、デメリットばかりが印象に残ってしまったことも大きいかもしれません。そのため、Brydgeが出しているG-Type Wireless Keyboardのほうが純正なのではないか、と思われたくらいです。それくらいキーボード、キーボードカバーとしての詰めが甘かった。
ただ、今回出た新作のPixelbook Goのキーボードが非常に評価が高いですが、このキーボードの方向性って元を辿ると(発表会でも触れていましたが)Pixel Slateのキーボードなんですね。それくらい、Pixel Slateのキーボードって本来は静かで、キータッチも良好なモノなんです。ただ、それを気づかせないくらいに前述のようなネガティブな要素が多かったんです。そして、キーボードカバーとしても想定されたことで、どうしても薄く、軽くならざるを得なかった。けれどキーボード好きな方はご存知のように、快適なキータッチにはある程度の安定性が必要です。キーストロークも含めて考えるのであれば、しっかりした厚みや剛性が必要になってきます。ところがこのキーボードは折角素性は良いのに、薄さがすべてを台無しにしてしまっているんです。薄すぎてキー入力時の衝撃がその下のテーブルや台に直接響いてくる。
ところがこのキーボード、私自身つい1ヶ月ほど前に気づいたばかりなのですが、下に少し厚めの雑誌一冊敷くだけで、キータッチが全く変わってくるのです。何なら少し厚めのレザースリーブなどでも良いのですが、少し厚みとクッション性が加わるだけで、本来のキーの良さが蘇ってくるんですね。
これに気づくまでは私は前述のBrydgeのG-Typeのほうがキーボードも打ちやすくて快適だと思っていたのですが、最近ではG-Typeをほとんど使っていません。時々気分転換で入れ替えるのですが、やはりキーボードが物足りないのです。純粋に文字を多く入力するには、純正のキーボードのほうが明らかに快適だからです。但し、下に何かしら敷く必要はありますが。
で、キータッチの良さに気づき始めると、今度はタッチパッドの反応の良さにようやく気づくようになります。元々タッチパッドも非常に反応が良いんです。この点、どうしても比べてしまうのですが、G-TypeはBluetooth接続なのもあるかもしれませんが、少し反応が良すぎたり、反対に僅かに遅れたりします。いや、もしかしたら、Bluetooth特有の反応の僅かな遅れに気づきにくいように、敢えて反応を変えているのかもしれません。なので、速度等を設定で変更したりしても、意外としっくりこない(これは純正キーボードの良さに気づく前から感じていたG-Typeの惜しい点でした)んです。
ただ、普段の用途としてラップトップPC的な機動性を求めたいのであれば、純正キーボードは完全に不向きです。G-Typeのような形が良いんです。なので、本当はG-Typeに純正キーボードが付けば良いのですが、そうなると今度はある程度キーボード側に重さが必要になってきます。単純なキーボードタイプにしてしまうと、本体自体が重さがあるので、あまり本体を傾けられない(後ろに倒れてしまう)からです。けれど、元々タブレット的に独立して快適に使えることもSlateの良さだと考えると、キーボードだけを極端に重く出来ません。そうすると合計の重量が重くなりすぎてしまう。
その結果、本体と合体するヒンジ周りをかなりガッチリ強固にしたのが、その前に出たHP Chromebook x2になるんですね。
ただ、こうするとどうなるか、というと、今度はキーボード側が薄くても後ろに倒れなくなったものの、角度が付けられなくなります。この中途半端な角度までしか倒せない(のに無駄に重い)のが結果としてx2の使い勝手と印象を下げてしまった。
そう考えると、このPixel Slateのようなタイプって意外と難しいんだな、と思っています。結局ここに満足のいく答えを見つけられず、詰めの甘い状態で作ってしまったのが純正のキーボードなのだと思っています。
もちろん全く駄目なわけではないのですが、結果としてあまり理解の得られにくかった出来になってしまったのが、全体としてのPixel Slateの評価に響いてしまったのかな、と思っています。
ではこれらのネガティブな要素が薄まってくると、どんな魅力が見えてくるのでしょうか。
Pixel Slateの一番の魅力。それはノートPCの呪縛から解き放たれたこと。
簡単に言えば「タブレットとして使える」ことなんですが、ここの部分が結構説明するのが難しいんです。
Chromebook Tabletが当初多くの疑問の声とともに迎え入れられたように、ChromebookのTablet UIは今でも決してiPadや純粋なAndroidタブレットと比較すれば完成されているとは言い難いんです。ただ、単純なタブレットでもここまでの魅力はないんです。ただのタブレットにキーボードが付いても、それはあくまでタブレット+αに過ぎない。
ノートPCがキーボードから離れて自由に使えることに大きな魅力があるんです。
ここではスタンドに設置して、ミニデスクトップPCとして使っていますが、こういう使い方もあり。好みのキーボードとマウスで、かつノートPCの欠点でもある「視線が落ちることで頭が前に傾く(ストレートネック)」といった辛さが消えます。自由な高さで使えます。わざわざキーボード下にスタンドを付ける必要もなく、それ以上の高さで作業が出来ます。
そして、Chromebookとしては大容量なストレージとAndroidアプリを活かせば、中に大量のPDF書籍や資料、電子書籍や映画、動画ファイルなどを保存して使えます。液晶も高解像度(最大3,000×2,000)で実際美しく、またスピーカーも液晶の左右にあるので、動画などを見るときにも、また音楽を流しながら雑誌や書籍を読むときにも、液晶正面から音が迫ってきます。
また、それならコンバーチブルでも良いんじゃないか、と思われるかもしれませんが、12.3インチにもなると、キーボードもあると邪魔なんです。重く、厚くなり過ぎてしまうんですね。使いにくければ結局使用頻度は減る。「無理をすれば使える」程度では結局使わないんです。でもPixel Slateは12.3インチの普通のタブレットとして使える。私はこのおかげで最近タブレットを別途必要としなくなりました。
これはもちろんChromebook Tabletでも出来るのですが、現時点ではやはりパワー不足気味なのと、9.7インチになるとタブレットとしてはメインで使えても、ノートPCとしては私には画面が小さすぎて辛いんですね。
世にたくさんの2−in-1が出ています。その多くはコンバーチブルタイプですが、Pixel Slateと同じような形としてSurfaceのようなタイプもあります。また、以前からデタッチャブルとして、キーボードと合体、分離するタイプは色々出てきましたが、その利点をあまり活かせていないものが多いな、と感じます。にも関わらず、これほどコンバーチブルタイプが増えてきているのは、タブレット的な要素、もしくは液晶部分だけを使うような使い方を求める声がある、もしくはそういう形を今も模索しているからだと思うのです。
ノートPCと言われる形からの脱却。そのイメージの呪縛から解放(開放)される。その模索の過程なのだと思います。
その一つの形がPCのUIとしても、またTabletのUIとしてもそれなりに使い物になる、完全に分離する、PC寄りのモデル。それがPixel Slateなんだと思います。それにはChrome OSというものの持つ特長との相性の良さもあるのだと思っています。
私もクラムシェル派でキーボードを必要としちゃう人間です。なので、理想はクラムシェルだけど液晶の高さが自由に変えられる(目線まで上げられる)ことなんですね。これが簡単に出来るのがPixel Slateなんです。だって、本体とキーボード離せるから。もちろん普通にも使える。 >RT
— おふぃすかぶ.jp (@OfficeKabu) November 24, 2019
なので、個人的にはPixel Slateをタブレットとして見てる、というよりも、液晶だけ自由に見やすい位置に動かせてビューワーとしても使える、持ち運びも出来る、というところがデタッチャブルの魅力なのかな、と。ただ、デタッチャブルは何かしら欠点があって、その辺、今回触れてみました。
— おふぃすかぶ.jp (@OfficeKabu) November 24, 2019
私がPixel Slateに感じているタブレットとしての魅力って、「キーボードが要らない」ことではなく、キーボードと合体していなくても(分離していても)自分の見やすい位置と高さで見ながらキー入力が出来る、という機動性の高いビューワーとしての魅力なんだな、と思っています。つまり、キーボードのある位置に液晶がなくても良い、ということですね。なら普通にデスクトップPC使え、という話もあるかもしれませんが、デスクトップPCは自由に持ち運べない。その点で機動性が落ちてしまう。
これ、タブレット単体だと私の中ではまだ個人的に厳しくて(Googleの音声入力はかなり精度が上がってきましたが)、やはり昔から慣れたキーボードが使いたい。スマホやタブレットだと長文は入力できないし、何かを参照しながら文章を書くのが難しい。マウスに関しては持ち運びを考えるとChromebookであればタッチパッドの使い勝手が良いので、その意味ではクラムシェルタイプのノートPCで私は十分なんです。
ただ、私が歳を取ったからか、日頃の生活習慣が祟ったからか、ノートPCでの長時間の作業が辛くなってきました。その一番の原因が度々触れる液晶の位置。デスクトップPCだと液晶とキーボードの位置は自由ですよね?だから液晶を目の高さまで上げられる。
そうした「ノートPCなのにいざとなったら気軽にキーボードから切り離せる」ことの自由さ。もちろんビューワーとして考えるなら、資料や本を読み込みたいとき、ちょっとしたWeb閲覧程度ならキーボードも要らないので、そのときには単体で使えます。この場合、コンバーチブルに比べて、キーボード側の重さと厚みがないのも強みです。
改めて長めの補足になってしまいましたが、読み返してみて分かりにくいかな、と思ったので追記させていただきます。
Pixel Slateの悩み。それは結局純正キーボード以上のChrome OS配列のキーボードとタッチパッドが見つからないこと。
でありながら、Pixel Slateの弱い部分。それがこれなんですね。前半でも触れた純正キーボードの詰めの甘さなんです。そして、先程上げたようなスタンドに付けたミニデスクトップであっても、出先でちょっとしたスタンドを使ったとしても、純正キーボードは使えないんです。なぜならこのキーボードはBluetooth接続など、無線接続ではないからです。直接接続しないと使えないんです。
結局純正キーボードを使おうとすると、先程のような弱点(安定性が悪い、膝の上や手に乗せて、などが出来ない)が目立ってしまう。
かといって、無線キーボードで純正キーボード以上に快適なキーボードにまだ出逢えていないんですね。正確に言えば、Chrome OS配列の、ですが。
その点では今回、Pixel Slateの方向性を更に進めたPixelbook Goのキーボードというのは個人的には羨ましいんですよね。そう考えるとPixelbookシリーズはどれもキーボードとタッチパッドが非常に打ち心地が良いことは共通していますね。
結局Pixel Slateの惜しさは、このモデルの本来の魅力を発見したり、様々な「自分なりの使い方を試してみよう」という気持ちになる以前に、純正キーボードの詰めの甘さを感じてしまうこと。けれど、代わりのキーボードを探そうとしても、結果として純正キーボード以上に使いやすい(打ち心地の良い)キーとタッチパッドを持ったChrome OS配列のキーボードに出逢うことが出来ない、ということにあるのかな、と思っています。
けれど、それでも、確かに試行錯誤は少し必要だけれど、熟成させてみるとこれ、とても味のあるモデルなんだよなぁ。私も1年経っての感想が結局これだけまとまりのない文章になってしまうわけですが、これから更に使い込んでいくとまた新しい魅力が発見できるかもしれない。
自動更新ポリシーも最新モデルと同じになり、実質Goと同じスタート地点に改めて立ったSlate。あなたはどう使う?
先程も触れましたが、今回の自動更新ポリシーの延長により、昨年末に発売されたこのモデルは、先日発売されたばかりの新作モデル、Pixelbook Goと同じサポート期間になりました。考え方によっては、改めてスタート地点に立てた、と言っても良いかもしれません。
あなたならどう使いますか?
このモデルは決して終わったモデルではありません。自社製タブレット型端末の開発は中止されたとしても、このモデルは2026年6月までじっくり使えます。そして、Googleが出した最後のデタッチャブルタイプのモデルになるかもしれません。
あなたもあなたなりの付き合い方で、このモデルを使いこなしてみたくありませんか?