2015年5月20日、90年以上続いた浅草の靴メーカー、三交製靴が廃業しました。長く丸善のマナスルシューズを作り続けてきた知る人ぞ知る靴メーカー。私自身靴好きだなんだと偉そうに書いていながらも、その存在を知ったのは2013年後半でした。
この出逢いに舞い上がってしまい、このブログでも熱く暑く書き続けてきました。三交製靴の松田さんからは「ブログを見て来た、という方も結構いらっしゃるんですよ。ありがとうございます。」と最後の最後までお礼を言われてしまったのだけれど、未だに心に引っかかってしまって離れない想いがあります。
丸善での販売を終え一度は畳みながらも、細々とながら一部の根強い愛用者のために「自分たちに出来る限りの」生産と修理が出来れば・・と思っていたところに、私のような靴好きが群がってしまって、その平和な日常を乱してしまったのではないか。なんて書くと「自惚れるな。それ程の力はお前にはない」と突っ込まれそうだけれど、あの突然の廃業までの1年あまりを思うと、そんな思いに襲われてしまうことが未だにあります。最後キチンとお礼が言えなかったから。別れはそれくらい突然でした。
さて。そんな廃業から1年4ヶ月。この間も変わらず手元の6足を履き続け、SNSではこの三交製靴をきっかけに縁が出来た方々とこの靴の話を時折楽しんでいます。贅沢にも6足あることで毎日のように履き込んでも(vibram fivefingersと併用)今も良い状態のまま、特に主張することもなく足もとを支えてくれています。
最後の一足に添えられていた手紙に書かれていた一言、
この先も少しでも長く鈴木様の足もとを守る靴となれれば大変嬉しく思います。
が本当にその通り、これからも長く私の足もとを守っていってくれそうです。ってやはり感傷的になるな、三交製靴の話になると。
6足もありながら、それでも「オーダーしておけば良かった」と心残りだった一足。
廃業前に最後に何を注文しようかと考えた時に、旧MG73、牛革一文字親子穴タイプラギッドシューズを選択したことは今でも満足していますし、本当に良かったと思っているのですが、その時にもう一足追加しておけば良かった、と、この一年時折思い出してはちょっと心残りに思っていました。
それが、茶革の靴が無かったことです。ツヤありの茶(ガラス仕上げ)のものは3足目の時点で「のせモカ茶」として注文していたのですが、ツヤ革ではないタイプはラインナップにあることは分かっていながら後回しにしてしまっていたのです。
茶革、プレーントゥはこのブログでもお馴染みさくらい伸(saku03_)さんが愛用されていて、時折写真付きでツイートされているのですが、それを見る度に「やっぱり茶プレーンは良いなぁ」と最近スーツを全く着なくなってしまっただけにその汎用性の高さに無い物ねだり。
オークションなどで時折丸善時代のデッドストックが出品されるのですが、ほとんどが24センチということもあり、流石にマイサイズ(三交製靴では26センチ2E)は今からは難しいかなぁ、と思っていたところ、久しぶりに別件でオークションを久しぶりに利用したついでに何気なく検索して見つけてしまいました。
丸善マナスルシューズ MG605。牛革プレーントゥ、サイズ26センチ、茶。
三交製靴銘ではなく、丸善時代、まだマナスルシューズと恐らく呼ばれていた頃のモデル。タグ、値札付き、試着のみの美品。マイサイズ26センチ。久しぶりに本気になりました。
そうかぁ、最後は24,000円が16,800円になっていたんですね。品番MG605。もう何種類あるのかサッパリ分かりませんが、まだまだどこかにこうした一足が眠っていそうです。
「登山靴のあの確かな履きごこちと頑丈さを、ビジネスシューズにも。」というユニークな発想から生まれた「マナスルシューズ」。晴れの日はもちろん、雨の日、雪の日と、ビジネスマンの足もとに、変わらぬ履きごこちと軽快なフットワークをお約束します。
今も時折、丸善時代に愛用されていた方からその廃業と今では手に入れられない(そして純正での修理も出来ない)ことを惜しまれるメッセージを頂くことがあります。当時を知らない私には丸善マナスルシューズというのが果たしてどういった靴だったのか、24,000円という価格はやはりそう気軽には手を出せない高級靴だったのか。丸善という名前はやはり大きなものだったのか。色々と想像を巡らせてくれます。
登山靴のあの確かな履きごこちと頑丈さを、ビジネスシューズにも。
ごくごく一般的な、特に主張することもないプレーントゥ。日本で昔から愛されてきた靴といえば、やはりストレートチップよりもプレーントゥ、そしてウィングチップだと思います。個人的にはストレートチップがやはり好きですが。
この飾り穴もその辺りの好みが反映されているのかな、とも思います。「登山靴のあの確かな履きごこちと頑丈さを、ビジネスシューズにも。」という発想からしても結構しっくりくるイメージ。
革はある程度の時が経ったことで思っていた以上に表面が乾燥していて、クリームを乗せたらどんどん吸い込む。デリケートクリームだったのですが、見事に色が変わっていき、表情も蘇ってきました。
ちなみに今回載せる写真は全てお手入れ後のものですが、届いた時には表面は少し元気がない感じでした。
中敷きの“Maruzen”ロゴが手元の2足の丸善時代のモノと若干異なります。手元の2足は雪底用のモデルの在庫処分品でしたが、作られた時期が違うのか、こちらが標準だったのか。そんなことをいちいち考えるのもまた楽しくもあります。
踵周りも手元の2足の丸善マナスルシューズ時代のプレーントゥと同じ。こうして眺めてみると、手元のマナスルシューズは全てプレーントゥだなぁ、と気付きました。
手持ちのベルトからこの靴に合いそうな一本を選んでみた。
なんて書くとベルト色々持っているような雰囲気ですがそんなこともなく。
色合いと雰囲気を考えながら数少ない手持ちのベルトを見繕ってみたところ、ちょうど半年前に買ったUNIQLOのイタリアンサドルレザーベルトが合いそうかな、と思いました。
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最近は普段使いのベルトはほとんどUNIQLOになっていますが、このベルトは結構気に入っています。
サドルレザーということを考えても、この表情のプレーントゥとの相性も良いかな、と勝手に思っています。
この先も少しでも長く私の足もとを守る靴となれるように。
過保護にするつもりはないけれど、普段のお手入れは他の靴同様にしていきたいと思っています。
革自体が非常に柔らかいので、下手にクリームを入れ続けるとあっという間に柔らかくなりすぎてしまいそうな様子。ただ、ここ最近の雨でも気にせず履いていますが、勿論撥水スプレーはしているとはいえシミ一つなく染みこむこともなく、安心して足もとを任せられる一足になっています。今回の帰省にも履いていきました。
靴としてはやはり安心感のあるいつも通りの三交製靴のフィット感。はき始めは底の固さ(固くて辛いのではなく、あ、こんなにしっかりしてるんだ、という安心感。)がありながらも、あっという間に馴染んでいくところは相性も良かったんだろうな、と嬉しくもあります。
人にはそれぞれの「私にとっての三交製靴」のような、安心出来る靴が必ずある。
人にはそれぞれの「私にとっての三交製靴」のような、安心出来る靴が必ずあると思っています。それは理屈でも何でもなく、たまたま偶然の出逢いであったり、特に意識していなかったのだけれど、振り返ってみるとこの靴ばかり履いているなぁ、という「気負わない」存在。私にとってはそれがたまたま三交製靴ラギッドシューズであり、丸善マナスルシュースでした。
それは高いお金を出さなければ手に入れられない、といったものでもなく、身近にあると思っています。何も「一生モノ」や「運命の人」を探し続ける必要なんて無く、気がつくか気がつかないか、だけ。
だから、これからも手元にある一足一足を普段から丁寧にお手入れしていきたいな、と思っています。