「靴磨き」ってどんなイメージがありますか?薄暗い部屋でウッドチェアに座ってパイプの煙をくゆらせながら、ウイスキー片手に月の光に照らされたお気に入りのあの至高の一足を愛でながら磨く。そんなイメージを抱いている方も・・いないですね。はい。今適当に考えました。
今日の午前中に何となく玄関の靴棚の靴の入れ替えを行いまして、折角なので天日干ししたり、少し靴を入れ替えたりしていたのですが、その過程でここ最近少し酷使気味だった革靴を一足、久しぶりに磨きました。普段私がお薦めしている「お手入れ」よりも少し手間も時間もかかる、趣味の領域でもある「靴磨き」です。時間にして10分くらい。あ、前振りの割に大した時間かかっていませんが、この靴を「お手入れ」以外で手を加えるのは恐らく半年ぶりくらいです。
そこでふと思ったのですが、これを読まれているあなたは、私が靴を磨く、というとどんな光景を想像されますでしょうか?靴ブログを4年近く発信し、電子書籍出してまで「靴のお手入れ」暑く語っている私って一体どんな素敵な、ファビュラスなお手入れをしているのだろう、と思ったことはないでしょうか。あ、全くないですか。すみません。
「靴磨き」というと最近はプロもいらっしゃいますし、マニアの領域でもありますので、皆さんそれはそれは素晴らしい芸術的な艶のある愛靴をSNSなどでも投稿されます。何か凄い高等で複雑で難しい世界のような気がしてきます。専門のコダワリの道具とその組み合わせの妙。更に長年の間で自分なりに生み出された最適な指加減。もう一言で言えば他人にはどーでも良い世界ではあるのですが、意外とこの作られた幻想が靴磨きを何か特別で、入りにくい世界にさせてしまっているのではないかなぁ、と思いました。
特にそういう印象がない方は、この後の文章は特に読む必要はないと思います。普通の靴磨きの光景が晒されるだけですので。
多くの方にとっては、そもそも靴磨き自体必須ではありませんが、けれどいざ少し気分が乗って靴磨きなんてしちゃおうかな、と思った時にも、決して気後れする必要も身構える必要もありません。靴磨きも決して特殊な世界でもなんでもないんです。今回はそんな靴磨きについて少し書いてみたいと思います。
2017年8月。私が久しぶり靴を磨いた話 in 自宅。
わが家にはウッドチェアも暖炉もパイプもブランデーもありませんが、靴磨きは普通に出来ます。
なんかいきなり写真に少し汚れた段ボール紙が写っていますが、これ、Amazonを活用される方ならご存じの、あの梱包の下に敷かれている段ボール紙です。Amazonにお世話になっていると、この紙、どんどん溜まっていくんですよね。で、これ、靴磨きに限らず、自宅で靴のお手入れをする時にオススメです。
自宅に戻ってきたものの、何となく疲れていて今日はお手入れすらもする気がないときには、ひとまず玄関先にこの段ボール紙を敷いて、その上にとりあえずタピールのシュムッツブラシで靴底の汚れだけ落とした靴をそのまま乗せておきます。本当はブラシとから拭きをしたほうがもちろん良いのですが、毎日お仕事だなんだと頑張っていると、何もやる気力が無い日ってあると思うんです。
そういう日は自己嫌悪に陥らずに、とりあえず下駄箱にしまわず、玄関先にも脱ぎっぱなしにせず、このワンアクションだけやっておくのです。で、翌朝とか、翌夜に2足まとめて、とかお手入れしちゃうんです。2足合わせても2分です。
おっと、お手入れの話になってしまいましたが、靴磨きに戻ります。それで、今回は玄関先だと8月の猛暑の日で暑くて辛いので、この段ボール紙と一緒にクーラーの効いている自室に持ってきました。この紙あるとどこでもお手入れや靴磨きが出来るのでオススメです(オススメするような大層な商品でもありませんが)。
雰囲気出したい、気分盛り上げたいなら切りっぱなしの一枚革(敷き革)とか用意してもよいですが、その辺はお好みで。
POINT:偉そうなこと言ってる靴好きも、普通に段ボール紙敷いただけの環境で靴磨いてます。
道具に特にコダワリはありません。敢えて挙げればせいぜいブラシくらい。
今回「靴磨き」なんて大層なテーマを挙げましたが、実際に使ったモノは大して変わりはありません。写真を見て頂くと気付かれると思うのですが、ブラシとグローブは先日の「忘れがちな旅先や出張先での靴のお手入れ用品を税込1,600円で揃える」で買った950円(税込)の組み合わせです。まぁブラシはお手入れの必需品なので、普通にお好みのブラシを選んで良いと思います。
ブラシの右に見えるペネトレイトブラシは何となく靴好きっぽい気もしますが、単に手が汚れると面倒だと思ったので買っただけです。
手がクリームで汚れるのが気にならなければ磨き布を指に巻いて、先に微量の靴クリーム付けて塗り込んでも良いくらいです(実際靴屋さんではそうされている方も結構いらっしゃいます)。
靴クリームくらいは拘っているに違いない、と思われるかもしれませんが、これも数年前にこのブログで取り上げたイングリッシュギルド ビーズリッチクリームです。これにコダワリがあるのではなく、あの時に折角なので黒だけでなくブラウンも買ったのですが、未だにかなり余ってしまっているので、そのまま使っております。無くなったら、またその時の気分で選びます。
あとはこの靴、今回磨こうと思った理由が、この2ヶ月、梅雨時から梅雨明け後にかけて度重なる豪雨の時や、雨の日についこの靴ばかり選んでしまったため、だいぶ濡れて乾いてを繰り返していますし、今後もそうした少し厳しめの環境で履くことも多いだろうなぁ、と思ったからです。あ、別にこの靴は一軍半でも二軍でもありません。しっかりと一軍のお気に入りの一足です(そもそも私の靴に一軍半も二軍もない)。
ただ、それくらい雨の日の登板も多い、使用頻度の元々高い靴でもあるので、今回は奮発して撥水スプレーもかけました。
前回ご紹介した「コロニル カーボンプロ」です。ただ、この靴、履き始めの頃は豪雨の場合、幾ら撥水スプレーかけても羽根まわりやのせモカ部分の縫い目から水が入ってくることが多々あったのですが、最近は気がつけば特に気にしなくても全く入ってこなくなりました。革が馴染んだのか、お手入れが功を奏しているのか、理由は分かりませんが、最近は全く気になりません。
「お手入れ」でも「靴磨き」でも、個人的に一番大切だと思うのは「道具のセレクト」でも「技術」でもなく、「靴との対話」だと思うんです。ちょっとスピ系入っているかもしれませんが、要は「この靴は羽根まわり、特に左側の外側が水が入りやすいな」とか「この靴だとのせモカのこの部分がよく水が入るんだよね」「最近はそういえば全く問題ないなぁ。よく頑張ってるなぁ。いつもありがとう。」といった、別に直接声をかけなくても良いのですが、心の中での対話、言い方を変えれば意識をすることが出来るかどうか、というのが大きいと思っています。これは誰が何と言おうと変わらず発信し続けたいことでもあります。
POINT:人が薦めるセレクトではなく、靴との対話の中で生まれる自分なりの道具のセレクト。
少し分かりづらいですが、その靴の癖が分かっていれば、雑誌やこのブログのようなネットの情報に惑わされずに、その靴にとって必要な道具って自然と選べます。間違っていたっていいんです。失敗しても、大した失敗にはなりません。自分が靴を見ながら選んだ選択は、決して無駄にはなりません。
所要時間10分程度。それでも磨いた途端にその靴を「今日これから」履きたくなる。
靴底の汚れを落とす(シュムッツブラシ)→ 紐を外す → ブラシ → グローブクロスでから拭き → クリームを全体に加える → ブラシ② → グローブクロスでから拭き② → 撥水スプレー → グローブクロスでから拭き③ → 靴ひもを新しいものに替える
文字にするとやけに細かいことをやっているように思えるのですが、今回普段のお手入れに加えた+αは太字で示した部分だけです。(「紐を外す」「クリームを全体に加える」「撥水スプレー」「靴ひもを新しいものに替える」)
その合間にいつも通りの念入りなブラッシングとから拭きを行っただけです。いつもが1分なら、太字部分を加えて、それらのために更に念入りにブラッシングとから拭きを9分行って、合わせて10分程度。結構頑張りました。
えっ?これだけで「靴磨き」?と思われる方もいるかもしれません。お馴染みクリーナーも出てこなければ、ワックスも出てきません。別に全く普段から使っていないわけではありませんが、今回半年ぶりくらいに「少し靴磨きしようかな」と思いながらこの靴を眺めた時、これで充分だと思ったからです。そして、多くの方にとっては、あと加えるとしてもコバインキくらいだと思うんです。
でもこれだけでも全く印象は変わります。それは靴以上に自分自身の心境の変化の方が大きいのかもしれません。そこには「薄暗い部屋」も「ウッドチェア」も「パイプの煙」も「ウイスキー」も「月の光」もありません。けれど、私はこの10分の後、
この靴を「今日これから」履きたくなってしまいました。
既に今日履く靴は決まっていて、服装も決まっていたにもかかわらず、です。
靴のお手入れ同様、靴磨きも別に特別なことでも難しいことでもありません。
私は靴ブログを4年近く発信し、電子書籍出してまで「靴のお手入れ」暑く語っているような靴好きです。靴にも散々お金を使ってきました。ただ、別にそんなことを誇りたいわけではなく、そんな靴好きのちょっと変な人でも、実際普段のお手入れや、靴磨きといっても、特殊な環境や特殊な技術なんて何一つないんです。あるのは毎日、適度な距離感で靴と接している、という習慣だけです。気負いもしませんが、忘れもしません。私にとっては一軍の靴しかありません。
今回敢えていつも通りの内容を書いたのは、靴のお手入れも靴磨きも、特殊なもの、特殊な世界だと思わないで欲しいな、と思ったからです。ブラシ一つあれば、グローブクロス一つあれば、いや、布一枚あればお手入れは出来ます。また、「○○があるから靴磨き」といった基準もありません。私が使っているのはAmazonの商品が貼り付いている段ボール紙です。
モノのセレクトなんて、実際どうでも良いんです。環境も整える必要はありません。ただ、すぐに手に取れる場所に、靴も、ブラシも、グローブも、場合によっては段ボール紙も、置いておいて欲しいな、と思います。シューケアって、それだけのことです。けれど、それがあなたの気持ちに大きな変化をもたらしてくれます。たまには奮発して、ちょっと靴磨いてみませんか?