相変わらずの長めのタイトルを見て「そんなことあるわけ無いだろ」「どう考えても違う」と思われた、往年のASUS C101PAユーザーのあなた。そう思う気持ちもとても分かります。この3年、散々待ち望んでいながら、未だにその影すら目にすることの出来ない後継機。私も同じ気持ちです。
でも敢えて、ちょっとこの「C102PA(仮)でも出ない限り解決しない問題」を抱えている方にも、少しの時間で良いので検討してみてほしいモデルが出ました。それが今回ご紹介するエイサーの新作Chromebook、Spin 311(CP311-3Hシリーズ)です。
もちろん後継や代わりにはなり得ないかもしれないけれど、そういう視点で見てみると、国内外を見渡しても、非常にレア、貴重な条件を組み合わせた興味深いモデルであることに気づいていただけるのではないか、と思っています。
ということで、今回は日本エイサーより実機をお借りしてのレビューとなります。俗に言うPR記事となりますが、この後この文章は18,000字近く続きます。いつもの私のレビューと同じ、いや、最近ますます文量が増えてきていますが、それだけ書きたいこと、伝えたかったことの多いモデルです。
すべてを読む必要はありませんが、興味のある部分だけでも是非拾い読みしてみてください。
【仕様】Acer Chromebook Spin 311 CP311-3H-A14N
今回メーカーよりお借りしたのは以下のモデル(JISかな配列キーボード、ストレージ32GBモデル)です。
「主なスペックはメーカー公式サイトをご覧ください」と書こうと思ったら、いつの間にか商品ページが寂しくなってしまっていまして(文章作成時点 2020年10月30日)分かりにくいので、いつもどおりスペックを見ていきます。
本家サイトがストレージ64GBモデルと32GBモデルで別々のURLになっていたようです。
型番の末尾の違いについては文末で触れたいと思います(購入時に注意が必要です)。
私の中で今回のモデルで魅力だと感じた点を赤字に、少し惜しいかな、と感じた点を赤線にしています。
Acer Chromebook Spin 311 CP311-3H-A14N | |
CPU | MediaTek M8183C |
メインメモリ | 4GB LPDDR4 SDRAM |
記憶装置 | 32GB eMMC |
液晶 / 解像度 | 11.6″ IPS グレア液晶 / 1,366×768 / タッチ対応 |
キーボード | JIS配列キーボード (US配列キーボードモデルも選択可) |
インターフェース | USB3.1(Type-C/Gen1、PD対応/映像出力対応) x1 USB2.0(Type-A) x1 microSDメモリーカードリーダー ヘッドホン/スピーカージャック |
その他 | Bluetooth 4.0 |
Webカメラ | 広視野角対応 HDR HDウェブカメラ (92万画素 /1280x720p) |
サイズ / 質量 | 290.0mm x 206.0mm x 18.8mm / 約1.05kg |
自動更新ポリシー | 2028年6月 |
結論から先にまとめると、
私がこのモデルに魅力を感じる部分。
実売3万円台でありながら、
- この価格帯の液晶サイズ11.6″のモデルとしては貴重なIPSパネル搭載。
- JISかな配列キーボードだけでなく、US配列キーボードモデルも並行販売。
- 約1.05kgという軽さは数値以上に持ち運びも気持ちも楽にしてくれる。
私がこのモデルで惜しいと感じる部分。
折角のAndroidアプリとも相性が良い、数少ないARM系CPU搭載モデルなのに(だから?)
- 本体ストレージ容量が32GB。折角ならAndroidアプリも積極的に使いたい。
- インターフェース類が若干少ない(弱い)。USB3.1(Type-C)とUSB2.0(Type-A)が1つずつ。
- 多コア(8コア)を活かせないと、体感速度的には2年前くらいのChromebookの基準モデル並。
以上をまとめると、
- 実売3万円台で軽さも重視、Androidアプリの活用もある程度考慮に入れてタブレット的に使う(2-in-1コンバーチブル)ことも考えているユーザー
が、10.1インチの今年の人気モデルであるLenovo IdeaPad Duet Chromebookと比較検討する際に
- 膝の上に載せて使ったり、キーボードの打ちやすさもある程度重視したい。
- よりじっくりと腰を据えて安定した文章作成をしたい。
といった条件が当てはまる場合に相性が良いモデルです。
以下、少し細かく見ていきます。
【魅力】ARM系CPU搭載の11.6″ IPS液晶を搭載した約1.05kgと軽量なモデル。
このモデルの大きな魅力は3点。
「ARM系CPU」であり「11.6″でIPS液晶」であり「約1.05kg」である点です。
ARM系CPUであることの魅力と、反対に弱い部分等については、この文章の後半でかなりのボリュームでベンチマーク等の結果を用いながら触れていきますので、ここでは省きます。
①3万円台の11.6″モデルにも視野角が広くクッキリした映りのIPSパネルを採用。
エイサーは以前からこの価格帯のモデルでも積極的にIPSパネルを採用してきました。IPSパネルもコストによってピンキリであることは分かった上でも、やはりこの価格のモデルに一般的なTNパネル等と比べればやはり見やすさはかなり違います。
このモデルはコンバーチブル(液晶側がヒンジを中心に360°回転してタブレット的にも使える)タイプであり、タッチスクリーン対応でもあることから、より指の滑りも良く鮮やかなグレア液晶を採用しています。
その分、明るかったり光が強い場所だと液晶に自分の顔や背景が映り込んでしまって見にくくなるので、ここは好みが分かれるところではありますね。
液晶自体はなかなかキレイです。これは非常に好印象。また、(デザイン的に)好みが分かれるところかもしれませんが、ベゼルがかなり厚めになっています。特に液晶下部(acerのロゴ等がある部分)の厚みが気になる方も多いかもしれません。合計で約40mmあります。正直最近の狭縁液晶のスマホやPCに慣れてしまった方からすると、野暮ったく見えるかもしれません。
ちょっとこれは比較対象が悪かったかな‥(どちらも液晶の位置が高めなので)。
液晶の位置が高めだと何が良いか、というと、このくらいの液晶の大きさのモデルだと、長時間眺める上で、頭や目線が落ちる角度が少なくなるので、楽なのです。
上記は以前他モデルのレビューの際に撮った写真ですが、液晶の中心の位置が下がれば下がるほど、首は無意識に落ちていきますし、画面の解像度が広くて文字が細かくなっていけば、同様に前のめりになって首が前に出てきます。最近はスマホ首やストレートネックという言葉をご存知の方も多いと思います。デスクトップPCに比べてノートPCは液晶の高さが低くなるため長時間作業する方は(単にキーボードを打ちやすくするためだけでなく、液晶の高さを上げるために)ノートPCスタンドなどを用いる方も多くなってきています。
そういう意味でも、このモデル、(コスト的に厳しいかもしれませんが)狭縁に敢えてして本体サイズを小さくするよりも、一般的なノートPCとしてより首に負担がかからないようにある程度液晶下(ベゼル下)に厚みを持たせた、と好意的に捉えることも出来ると思います。
液晶自体がクッキリ見やすくて、ある程度高さもあるので長時間眺めていても比較的厳しくない。
当たり前のようですが、コストを下げれば液晶の質の面で厳しくなってきますし、ハイスペックの高価格モデルでも狭縁ベゼルとコンパクトさを優先して液晶の位置が低くて長時間の作業には厳しい場合もある。
結構この辺りのバランスって、意外と難しいんですね。
ということで、これがこのモデルの魅力の一つです。
②約1.05kgという軽さはAndroidアプリとも相性が良いこのモデルの機動性の高さとも合う。
もちろん軽さを突き詰めていけば、他OSであれば800g台といったモデルも普通にあります。ただ、小さく、軽く、けれど耐久性や剛性を損なわない、ということを考えると結局コスト的には高くなってしまいます。Chromebookでもこの辺りの重さ(800g台前後)を求める声もよく目にしますが、実際に製品化されて価格が出た時に、果たしてどのくらいの方が(ビジネスになるだけの台数で)購入に至るのか興味があるところです。
とはいえ、もちろん軽いのは大きな魅力です。求める声もとてもわかります。私も軽くて済むなら、特にこうした自宅据え置きというよりも出先でも気軽に使いたい、といった類のモデルであれば尚更、なるべく軽く、を願ってしまいます。
ただ、ご存知の方も多いと思いますが、Chromebookが現在メインの市場としている、まずは普及の第一歩と考えているのは、やはり市場規模としても個人に比べて圧倒的に大きい教育市場です。そして学校の現場では私たちが想像する以上のハードな使われ方をします。
こちらはエイサーではなくDellの教育現場を想定したPCのイメージ映像ですが、こうした状況を考えると結果としてMIL-STD 810Gといった耐衝撃性や耐水性を重視した作りとなり、結果として厚みや重量が増す結果となってしまいます。そしてエイサーも国内ではほぼ教育市場向けのモデルのみを出し続けてきたこともあって、従来のモデルはそれなりの厚みと重さを持ったモデルばかりでした。
そこに今回投入されたのが、個人ユーザー向けでもあるモデルです。その内の一つが今回のSpin 311となります。
素材的にも決して耐衝撃や耐擦傷性に優れたものではありませんが、その分外観のライトな色合いと相まって、実際に手にとったとき、また掴んでカバンなどに入れる際に実際の質量以上に軽く感じました。
今回のモデルは、スタイラスペンにこそ非対応ですが、それでも液晶面がヒンジ部分を中心に360°回転してタブレット的にも使うことが出来るコンバーチブルタイプです。これが教育市場向けの耐衝撃モデルになると、例え同じ液晶サイズ(11.6″)であったとしても片手で持つには少々手強いのですが、今回は約1.05kg、これなら比較的気楽に使ってみよう、という気になります。
ただ、タブレット的に使うには、それなりにタブレット的に使ったほうが使いやすい、使いたいと思える機能が必要です。その一つが現時点ではAndroidアプリになるのですが、これがこのモデルに採用されているARM系のCPUとの相性が良い。
ARM系のCPUはChromebookの主流であるIntel製のx86系CPUに比べると現時点では(前述のように)単純なパワーでは劣るのですが、その分多コアを活かした負荷の分散が可能です。Androidアプリ自体の対応具合がまだまだ未成熟だった数年前に比べるとだいぶ改善(それでもまだまだ感はありますが)されてきている現時点では、主流のx86系CPUよりもより相性良く、また気軽に使えると思います。
そうしたいつでもどこでも気軽に開いて、そこそこのパワーで仕事をこなしながら、Androidアプリも気軽に使う、といった使い方に、この軽さとライト感は非常に合うと思っています。
+αの魅力:インカメラは720pながら広視野角対応のHDR HDカメラで映像も音質も悪くない。
このモデルが教育市場向けモデルと異なる点として、学校向けモデルでGoogleが一つの目安(一つの条件)としている「インカメラだけでなくアウトカメラも搭載すること」という点を満たしていない、ということが挙げられます。
一般的なノートPCと同じインカメラのみ。最近のテレワーク事情で少しずつニーズが高まってきた1080pではありませんが、それなりに映してくれる広視野角対応のHDR HDウェブカメラを搭載しています(まぁChromebook標準のGoogle Meet自体が元々最大720pまでしか対応していない、という事情もあるのですが)。
室内であっても、それなりの照明があれば、そこそこキレイな映像で会話ができます。マイク自体の音質も悪くありません(この辺りは動画も撮ってあるので、どこかでまとめたいと思います。)
【惜しい点】致命的な欠点はないが、細かい部分は価格相応。人によっては気にならないかも。
続いて惜しい点について。
こちらも既に述べているのですが、それらの多くはARM系CPUである点を若干活かしきれていなかったり、ARM系であるがゆえのものだったり、といったものが挙げられます。
「折角Androidアプリと相性が良いのにストレージ容量が32GBと少なめ」だったり「インターフェースが少し弱い」といった部分ですね。
ということで、ここではインターフェース面を見ていきたいと思います。
①USB3.1(Type-C)とUSB2.0(Type-A)が1つずつ。Type-Aがあるのは嬉しいが、出来れば+1ポートくらい欲しかった。
最近は薄型のハイスペックPCなどでもUSB Type-Cが2つのみ、といったモデルも多いことを考えれば、決してこのモデルだけ極端に少ない、というわけではありません。また、Bluetoothが5.0ではなく4.0であることを考えても、敢えてBluetoothマウスではなくてUSBドングル付きの無線マウスを使いたい、といったニーズもあると思います。その意味ではUSB2.0とはいえ、Type-Aが1ポートあるのは評価して良いのかもしれません。
ただ、何となくインターフェース部分の弱さを感じてしまうんですね。
Chromebook自体はバッテリーの持ちも非常に良好で、一般的な使い方でほぼ半日以上持ちますので、実際には出先で充電しながら使う、というようなことは非常に少ないかもしれません。それを考えればUSB3.1(Type-C)ポートも空くわけですし、実際にChromebookではそれほど多くの周辺機器、アクセサリーを付けるわけでもありません。
そう考えると、気分の問題なんですけどね‥。
USB3.1(Type-C)が映像出力も兼ねているのですが、MediaTek製のモデルはLenovo IdeaPad Duet Chromebookでもあったのですが、若干映像出力回りが癖があります。今回細かい検証は出来なかったのですが、実際出力できる解像度が少し限られていたり、といったレビューも目にしています。
https://www.helentech.net/review-acer-chromebook-spin-311-cp311-3h-a14n/#toc11
ついでにMediaTekであることのデメリットをもう一つ挙げておくと、外部モニタへの出力が最大2,048×1,080に制限されてしまうことも問題だと思います。
例えば、Celeron N3350なら2,560×1,440以上に出力することができますので(実用的かどうかは別)、外部モニタがフルHD以上のものへ接続することを考えている方は、インテルCPUのモデルを選ぶ方が無難です。
多少癖のあるインターフェースであることは、心に留めておいても良いかもしれません。
ただ、ヘッドセット/スピーカージャックを省かなかったのは人によっては評価したい点かもしれませんね。
②キーボードはUS配列も選べるのは好印象。ただ、JIS配列はやはりこのサイズの洗礼を若干受ける。
今回お借りしたのはJISかな配列キーボードのモデルです。特殊なキー配置等はありませんので、そうした癖のようなものはありません。また、US配列キーボードのモデルも併売されているのは大きな魅力です。
液晶サイズ11.6″のモデル全般に言えることではあるのですが、やはり元がUS配列を前提で作られていることもあり、JISかな配列にした時に若干左右端辺りのキーに影響が出やすいのはいつも通りです。細かく言えば上の写真のオレンジ枠の部分。特にEnterキーとその上のBS(←)キーですね。
ここは各社それなりに工夫の後が見られていて、
- 中央のよく使うキーの打ちやすさを重視して、中央のキーピッチをフルサイズ(約19mm)になるべく近づけ、その分端のキー幅を短くする。
- 全体のキーバランスを考えて全体的にキー幅、キーピッチ自体を無理にフルサイズ(約19mm)に近づけない。その分、全体的にキー幅が短くなる。
- 上2つのいいとこ取りがなるべく出来るように、本体横幅(縁)ギリギリまでキーボードを配置する。
エイサーの場合には比較的2.に近い(全体のサイズバランスを考える)モデルが多い印象だったのですが、今回は比較的1.に近づけつつも、キーピッチ自体は17.5mmとある程度までは余裕をもたせたのかな、と思います。
ちなみに同じ11.6″のDellの教育市場向けモデルであるChromebook 3100 2-in-1の場合は、今回のエイサーのモデル以上にキー幅も短く(約14.5mm)、その分Enter回りも幅を広めにとっています。全体のキーピッチもSpin 311に比べて約1mm短くなっています。
各メーカーによって意外とこの辺り分かれますので、ご自身にとってより相性の良いキーボードのイメージを持っておくと良いかもしれませんね。
【比較】ベンチマーク結果やAndroidアプリの挙動から同世代の競合モデルと比較する。
まとめに入る前に、少し細かい部分を数値から見ていきたいと思います。
最近は何かと「Androidアプリが動く」「安くてもサクサク動くのが魅力」「起動が激速」といった部分ばかりが取り上げられがちですが、実際のところ今回のモデルはどの程度のパフォーマンスを持っているのでしょうか。
何度も触れますが、今回のモデル(Acer Spin 311)はChromebookでは一般的なIntel製のx86系CPUではなくMediaTek製のARM系CPUを搭載したモデルです。そして、このARM系のモデルは最近ではLenovoの出したIdeaPad Duet Chromebookが国内では非常に人気です。
そこで、現時点でのスタンダードなx86系(主流)のChromebookや、このIdeaPad Duet Chromebookなどと比較する上で、お馴染みのベンチマークやAndroidのベンチマーク、更にはAndroidアプリ自体のインストールの相性などをまとめてみました。
お馴染みのWebブラウザー系ベンチマーク比較
まずはChromebookではお馴染みとなった、ブラウザー上での処理速度を計測するベンチマークです。Octane 2.0は特にお馴染みですが、最近ではブラウザー上で行える作業も多種多様になってきたことから、現役のベンチマークではありません。ただ、長年国内外問わずとりあえずChromebookのスペックの目安を見るならOctane、として計測されてきたこともあって、比較しやすいのが強みです。
CPU / 世代 | Octane 2.0 | Speedometer 2.0 | Speedometer 1.0 | |
[参考] Google Pixel 3 XL (Snapdragon 845) |
Qualcomm Snapdragon 845 | 16549 | 32.6 | 63.8 |
Acer CP311 | MediaTek M8183C | 9718 | 28.12 | 47.27 |
Lenovo IdeaPad Duet | MediaTek Helio P60T | 9703 | 25.8 | 46 |
Acer C871T-A14N | Celeron 5205U 第10世代 Comet Lake |
17277 | 57.4 | 93.3 |
ASUS C204MA | Celeron N4000 第8世代 Gemini Lake |
14188 | 36.7 | 78.4 |
2020年10月末時点では、国内外問わずChromebookにおける普及価格帯モデルにおけるCPUはIntel製、更に世代も徐々に第8世代のGemini Lake(Gemini Lake Refresh)から第10世代のComet Lakeに移行し始めています。上記表で言えば5段目の先日ほぼ同時期に発売されたAcer C871T(712)が現行のComet Lake(Celeron 5205U)ですね。
Octaneスコア的には数年前であればIntel製CPUでも8,000~10,000が一般的だったのが、今では倍の17,000超えが一般的です。当然体感速度もかなり変わってきます。細かい作業の合間の僅かなモタツキが更に減るので、全体的に慣れてしまうと非常に快適に感じるのではないか、と思っています。
そうした中、今回のSpin 311はIntel製ではなくMediaTek製のCPUを採用してきました。Intel製のCPUがx86系と呼ばれるのに対して、MediaTekや(ASUS C101PAなどで用いられた)Rockchip製OP1などはARM系と呼ばれています。後述しますが、Intel製に比べると比較的同価格帯でもコア数が多く、またAndroidアプリとの相性も良いのが分かりやすい特長です。
ということで、今回のSpin 311、体感速度的には2年前、ちょうど前述のGemini Lakeのもう一つ前のスタンダードモデルだったCeleron N3350(ASUS C223NAなど)辺りよりも更に若干落ちるくらいの処理速度になります(とはいえ、それでも数年前ならそれなりに快適な部類だったのですが)。
極端に重い、遅い、というようなことはありません。
ただ、幾ら「Chromebookは低スペックでもサクサク」とはいっても、Webの世界も必要とされる処理速度が年々上がってきているのは確かです(もちろん通信環境も含めて、ですが)。その点では比較的抑えめのスペック、イメージとしては同じく今年夏に発売されて国内でも人気のLenovo IdeaPad Duet Chromebookと同じような体感速度をイメージしていただければ、と思います。
Androidアプリ版の主要ベンチマーク比較
最近は「ChromebookといえばAndroidアプリが使える」というのを一つのウリにしているようなところもあります。この辺りの普及価格帯モデル(Chromebookとしては現行のスタンダードなスペック)のモデルの場合、出来ればAndroidタブレット的に、また普通にAndroidアプリが使えたら良いな、とアプリ使用を前提で検討されている方も結構いるのではないかと思います。
では、実際のところ2020年後半時点での普及価格帯ChromebookはAndroidアプリを動かす上ではどの程度のパフォーマンスを発揮できるのでしょうか。
ここでは幾つかのベンチマークを行いました。参考として一昨年(2018年)のGoogleのスマートフォンであるPixel 3 XLでも数値を出しています。
例えば、基本的にAndroidアプリはスマートフォンやタブレット上での安定した動作を想定して開発が行われています。単純な画面解像度等への対応だけでなく、純粋なAndroid OSとChrome OSでは挙動も異なります。後述しますが、モデルによってインストール自体出来ないアプリや、インストールは出来ても思ったような動作が出来ないアプリも存在します。
Geekbench 5 | 3DMark Sling Shot Extreme OpenGL ES 3.1 |
PCMARK Work 2.0 Performance |
KineMaster | |
[参考] Google Pixel 3 XL (Snapdragon 845) |
Single: 505 Multi: 1670 |
Overall: 3351 (Graphics: 3497) (Physics: 2925) |
Performance: 7440 Web Browsing: 6290 Video Editing: 6481 Writing: 6074 Photo Editing: 14769 Data Manipulation: 6236 |
コーデック性能: 15.9MPixel /s 編集&共有: 2160p レイヤー枚数: 1x2160p 8x1080p 8x720p |
Acer CP311 (MediaTek M8183C) |
Single: 261 Multi: 920 |
Overall: 1097 (Graphics: 940) (Physics: 2645) |
Performance: 6687 Web Browsing: 6080 Video Editing: 5922 Writing: 6852 Photo Editing: 9967 Data Manipulation: 5439 |
コーデック性能: 12.0MPixel /s 編集&共有: 1080p レイヤー枚数: 4x1080p 5x720p 4x540p |
Lenovo IdeaPad Duet (MediaTek Helio P60T) |
Single: 262 Multi: 909 |
Overall: 1131 (Graphics: 973) (Physics: 2667) |
Performance: 6768 Web Browsing: 6009 Video Editing: 5924 Writing: 6903 Photo Editing: 10598 Data Manipulation: 2667 |
コーデック性能: 7.0MPixel /s 編集&共有: 720p レイヤー枚数: 5x720p 5x540p 4x360p |
Acer C871T-A14N (Celeron 5205U) |
Single: 464 Multi: 885 |
Overall: 1756 (Graphics: 1864) (Physics: 1460) |
Performance: 8493 Web Browsing: 8994 Video Editing: 5542 Writing: 8387 Photo Editing: 15680 Data Manipulation: 6742 |
コーデック性能: 15.8MPixel /s 編集&共有: 1080p レイヤー枚数: 4x1080p 4x720p 4x540p |
ASUS C204MA (Celeron N4000) |
Single: 429 Multi: 798 |
Overall: 1468 (Graphics: 1453) (Physics: 1525) |
Performance: 7719 Web Browsing: 7367 Video Editing: 6013 Writing: 8434 Photo Editing: 14065 Data Manipulation: 5214 |
コーデック性能: 15.8MPixel /s 編集&共有: 1080p レイヤー枚数: 3x1080p 2x720p 3x540p |
さて、単純に表して数値を並べられても何をどう見れば良いのか分かりづらいと思いますので、ここでは私なりに気がついた点を触れておきたいとおもいます。なお、今回レビューしているAcer Spin 311は3段目になります。
前項のブラウザーベンチマークが、従来のChromebookにおいてはパフォーマンスを測る非常に分かりやすい目安となっていました。そうした点で見ていくと、MediaTek製のCPUを載せている同機は、
単純なChromeブラウザー上での作業において(つまり従来的な使い方において)
- 2019年~20年のIntel製の基準モデル比で約71%
- 2020年後半のIntel製の基準モデル比で約51%
と控えめになっていることは前項で触れたとおりです。
ただ、実際にはそうしたブラウザーベンチマーク上の数値なりの体感差は確かに感じられることも多いのですが、意外と反対に数値の高いIntel製の基準モデル機では若干動作がモタツクような作業がむしろ今回のAcer Spin 311や同じMediaTek製のCPUを載せたLenovo IdeaPad Duet Chromebookのほうがモタツキが少なかった(比較的快適に動いた)といった話も最近では耳にするようになりました。
これには今回採用されているMediaTek製のCPU(M8183C)の特長でもある多コア(オクタコア=8コア)が大きく影響してきていると感じています。実際今年後半の基準モデルのCPUの一つであるCeleron 5205Uも、昨年の基準モデルのCPUであるN4000もで2コア(2スレッド)です。
Chromebookでも以前からMediaTek製に限らず、ARM系のCPUが時々用いられてきましたが、基本的に単体の周波数で勝負というよりもマルチコアで数で処理するような印象を受けていました。
今回でもGeekbench 5におけるMultiの数値においては前述ブラウザーベンチでは倍近い差をつけられていたCeleron 5205Uに近い数値を出していますし、3DMarkにおいてもGraphicの数値では差を開けられていますが、CPUの利用効率を測るPhysicsテストにおいてはむしろ1.7倍近い差をつけて高い数値を出しています。
繰り返しますが、これらの結果はあくまでChrome OS上におけるAndroidアプリのベンチマークでの一部の計測結果に過ぎませんが、従来のAndroidアプリとの相性がそこまでこなれていない1~2年前に比べると、よりAndroidタブレット的、もしくはコンパクトな2-in-1モデル的にAndroidも併用しながらライトに使っていく上では、最近のMediaTek製のモデル(今回のレビュー対象でもあるSpin 311)も十分に実用的、むしろ用途によっては現行のスタンダードから若干高スペックのモデルとも十分に比較検討できるものになってきたかな、と感じました。
ただ、現時点では単純なブラウザー上での動作等においては馬力で勝るIntel製CPUのほうがまだまだ安定して快適に使える、という部分は大きいと思います。
Androidアプリ版のインストール可否と一部の動作確認
今年2020年の初めに当ブログではこんな文章を書きました。
2016年9月(4年前!)に僅か数モデルが対応したことで話題になったChromebookのAndroidアプリ対応。
当時に比べれば、動作の安定性も、相性も、かなり改善されてきました(私のような人間だと、その頃からのイメージが強いので、あまり期待していなかった、出来ずにいる、というのが正直なところです)。
ただ、最近はネット上を眺めていても、様々な記事でAndroidアプリが使えることを前面に押し出していますし、実際にChromebook上でゲームを動かされている方も見かけます。また、動画や画像の編集などクリエイティブな作業には不向き、と言われてきましたが、実際にAndroidアプリ等でLightroomやPowerDirector等でそれらを行っている方もいらっしゃいます。
どの程度の使い勝手を求めるかは多種多様なので、プロには不向きだからといって、一般ユーザーや更にライト層にとってもクリエイティブ全般が不向き、と結論づけるのは違うのかな、と最近の流れを見ていて感じます。
ということで、ここでは文章作成時点での、特に今回比較する上でモデルによって差が出たアプリを一覧にしてみました。ここに載っていない有名どころのアプリは動かない、という意味ではなく、KindleやSkype、TwitterやInstagram等は普通にどのモデルでもインストールできてしまった、くらいにお考えください。
Acer Spin311 |
Lenovo IdeaPad Duet |
Acer 712(C871) |
ASUS C204MA |
Google Pixel Slate |
|
CPU | MediaTek M8183C (ARMv8) |
MediaTek Helio P60T (ARMv8) |
Intel Celeron 5250U |
Intel Celeron N4000 |
Intel Core i7-8500Y |
Model | jacuzzi | kukui | hatch | octopus | |
Lightroom | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
Premiere Rush | × | × | × | × | × |
PowerDirector | ○ | ○ | ○ | × | ○ |
ZOOM Cloud Meetings |
○ | ○ | × | × | × |
Minecraft | ○ | × | × | × | △*1 |
Last Shelter | × | ○ | × | × | ○ |
オクトパストラベラー 大陸の覇者 |
未検証 | × | 未検証 | △*2 | ○ |
*1 Education Editionのみインストール可能。
*2 インストール、プレイは可能だが、文字入力が出来ない。
前項までで、Chromebookにおいて現時点で主流(大半を占める)Intel製のx86系CPUよりもMediaTek製などのARM系CPUのほうがAndroidアプリとの相性が良い、と書いてきました。また実際に全体で見ればそうした傾向はまだまだ強いと思っています。
ただ、今回せっかく手元に複数台の最新モデルが集まりましたので検証してみたところ、単純なx86系、ARM系の違いだけでなく、CPUの世代など様々な要因でインストール自体が出来なかったり、出来てもまともに動かなかったり、といった状況が起きることに気が付きました。
例えば、同じMediaTek製のCPUを載せた今年発売の2モデルでも、
- Acer Spin 311(M8183C)ではMinecraftがインストール出来るが、Last Shelter(ゲーム)はインストール不可。
- Lenovo IdeaPad Duet(Helio P60T)は反対にMinecraftはインストール出来ず、Last Shelter(ゲーム)はインストール可。
- 他のx86系モデルは軒並みZOOM Cloud Meetingsがインストール不可だったが、この2モデルはインストール可。
といった違いが出たくらいです。細かい動作検証までは行なえませんでしたが、Chromebookにおいては更にモデルの違いだけでなく、OSの更新によって突然インストールが可能になったり、不可能になったり、といったことも起きるので、ネット上での最新の情報のチェックが必要です(なかなか個別のアプリの対応具合までは載せているサイトがありませんが)。
初期バージョンでは今回確認したモデルではインストール自体出来ないか、もしくは出来ても起動しない、などの症状があったのですが、文章作成時点での最新バージョンでは、タブレットUIモードに出来る(つまりコンバーチブルやデタッチャブルなどの2-in-1タイプ)x86系のChromebookであれば、とりあえずインストールだけでなくプレイも出来そうです。反対に相性が良いと思われていたARM系のLenovo IdeaPad Duet Chromebookでは現時点ではインストール自体が出来ません(対応していません、と出てしまう)。
【まとめ】ASUS C101PAの後継を待ち望んでいる人も一考の価値あり。Androidアプリとも比較的相性が良い軽量コンバーチブルの現行モデルを選ぶならこれ。
ここまでお疲れさまでした。最後にまとめに入りたいと思います。といっても、既に冒頭で挙げたとおりです。
- 実売3万円台で軽さも重視、Androidアプリの活用もある程度考慮に入れてタブレット的に使う(2-in-1コンバーチブル)ことも考えているユーザー
が、10.1インチの今年の人気モデルであるLenovo IdeaPad Duet Chromebookと比較検討する際に
- 膝の上に載せて使ったり、キーボードの打ちやすさもある程度重視したい。
- よりじっくりと腰を据えて安定した文章作成をしたい。
といった条件が当てはまる場合に相性が良いモデルです。
これ、ありそうで意外とないんです。Androidアプリとも相性が良い、という意味ではARM系CPUを選ぼうとした時点で、現行では非常に限られた選択肢になってしまいます。
また、コンバーチブルモデルで探しても、メインが教育市場向けのモデルとなるため、どうしても耐衝撃耐水性には優れるものの、本体重量がそれなりにかさんでしまいます。
敢えてこのタイプのモデルを挙げるとすれば、2017年11月に国内でも発売された、ASUS JAPANの10.1インチの名機、ASUS Chromebook Flip C101PAくらいになります。方向性としてはこのモデルに結構近いのです。
本体重量的なものや、大きさといった点ではもちろん10.1″と11.6″では違ってきます。ただ、現時点でC101PAの後継機の出る気配がないことを考えると、このモデルの後継(C101PAの自動更新ポリシーは2023年8月です。そしてOP1は現時点では若干力不足感が否めません。)を求めている方にとっては選択肢がほとんどないんですね。その中での次善の案として考えると、このモデルは案外ありなんじゃないか、という気もしています。
そして、文中で何度も触れましたが、以前に比べるとAndroidアプリの対応具合、相性もかなりマシというか、ある程度は実用的になってきています。そう考えると、こういうモデルはかなり貴重ではあるけれど、求めている人も多いのではないか、と思っています。
手頃な価格の他と代わり映えのしない11.6″コンバーチブルタイプのChromebook的に想像していたら、実は意外と希少で、しかもかなり面白いところを突いてきているモデルです。
これ、下手すると化けるモデルかもしれません。
ということで、ここまでお付き合いくださりありがとうございます。この文章のどこか一点でも、あなたのChromebook選択の一助になれていれば嬉しいです。
購入の際の注意(型番の末尾を意識して選びましょう)。
今回レビューしたAcer Chromebook Spin 311(CP311-3H)は文中でも触れたように、JISかな配列キーボードモデルとUS配列キーボードモデルの2種類が存在します。更にストレージ容量も64GBと32GBの2モデルが存在します。
細かくは、型番の「CP311-3H」以降の末尾に注目します。
- ストレージ容量は「A14P」が64GB、「A14N」が32GB。
- 更にUS配列キーボードモデルはその後に「/E」が付きます。(但し現時点では32GBのA14N/Eのみ)
Amazon.co.jpで販売しているJISかな配列モデルはストレージ容量が64GB eMMCモデルのようです。これだと今回の惜しい点の一つとして挙げたストレージ容量の少なさは解消されるかもしれませんね。
Amazon.co.jpではUS配列キーボードモデルが文章作成時点(2020年10月30日現在)、20%OFFクーポンが配布されています。こちらを適用させると表示価格から20%オフになります(配布終了時期は未定)。ただし、こちらはストレージ容量が今回レビューしたJIS配列モデル同様32GB eMMCであることに注意が必要です。