2021年11月26日、ASUS JAPANは国内コンシューマ市場向けに新作モデルである、Chromebook Flip CX3(CX3400)を発表、同日より発売開始しました。
このモデルは、ここ最近国内のChromebookでも採用され始めた第11世代Intel製Core i5-1130G7(Tiger Lake)を搭載した、液晶サイズ14”のコンバーチブルタイプの高パフォーマンスモデルとなります。
今回事前にASUS JAPANよりサンプルモデルをお借りしています。ただ、手元に届いたのが発表前日(25日)だったこともあり、まだしっかりと使い込む段階まで触れておりません。
そこで今回は届いて3日程経った時点でのファーストインプレッションという形でこのモデルについて書いてみたいと思います。
主な仕様を、同時期に発表された富士通FMV Chromebook 14Fと比較。
普段であれば、まずは仕様をサラリと眺めた上で、良い点、惜しい点について触れた後でまとめる、という形を採るのですが、今回はファーストインプレッションの段階ですし、少しだけ変えてみます。というのもちょうど同じ時期に富士通が国内メーカーとしては初のコンシューマ向けChromebook、FMV Chromebook 14Fを発表したからです(14Fの発売は12月10日)。
もちろん違いはあるものの、同じ14″の高パフォーマンスモデルとして、ちょうど比較検討しやすいのではないか、と思いましたので、まずは仕様を比べてみたいと思います。
品名 | ASUS Chromebook Flip CX3(CX3400) |
FMV Chromebook 14F |
タイプ | コンバーチブル(フリップ) | クラムシェル |
CPU | Core i5-1130G7 TDP up 1.80GHz 15W / down 800MHz 7W |
Core i3-1115G4 TDP up 3.00GHz 28W / down 1.70GHz 12W |
メモリ | 8GB | |
ストレージ | 128GB SSD | |
液晶 | 14″ 1920×1080 光沢(グレア) タッチ対応 |
14″ 1920×1080 非光沢(ノングレア) タッチ対応 |
スタイラスペン | 対応 USIペン付属 |
非対応 |
microSDカードリーダー USB 3.2(Gen2) Type-C x2 USB 3.2(Gen2) Type-A x2 ヘッドホン端子 |
microSDカードリーダー USB 3.2(Gen2) Type-C x2 USB 3.2(Gen2) Type-A x2 HDMI ヘッドホン端子 |
|
サイズ | 325 x 219.8 x 19.9mm | 323.8 x 216 x 19.9mm |
質量 | 約1.72kg | 約1.29kg |
自動更新ポリシー | 2029年6月 | |
価格 | 99,800円 | 82,800円 |
同じ時期に出た、同じ液晶サイズ14″の高パフォーマンスモデルですが、並べてみると結構違いがあります。なので、この辺りのモデルを検討されている方には、どちらのタイプを選ぶかでまったく使い勝手が変わってくるのではないでしょうか。
簡単にまとめると、
- あまり持ち運ばないし、USIペンを使ったり、フリップさせて様々な使い方をしたいなら
ASUS Chromebook Flip CX3(CX3400) - 長文入力や資料作成、常に持ち運ぶシンプルなノートPCが欲しいなら
FMV Chromebook 14F
といった感じになると思います。
ASUS Chromebook Flip CX3(CX3400)のレビューなのに、なぜこんな同列の比較をするんだ、と思われるかもしれません。ただ、私も今回レビュー(ファーストインプレッションではあるものの)するにあたって色々考えたのですが、この形が一番このモデルの特長が分かりやすいかなぁ、と思ったのです。
さて、今回のモデル、特長を挙げるなら、
- 現行ハイスペックなCPUを搭載しながらも、省電力低発熱のファンレスモデル。
- 今主流の、タブレット的にも使えるコンバーチブル、フリップタイプでUSIペンにも対応。
- Webカメラはプライバシーを物理的に保護するプライバシーシールド付き。
- 米国の耐久規格「MIL-STD 810H」準拠。
- サイズは一般的な14″と同じ。質量は約1.72kg。
辺りになります。Chromebookで現在主流の、一般的なコンバーチブル、フリップタイプのモデルと言えますね。それだけに、今回比較対象としたFMV Chromebook 14Fのように特色を出しづらい、というのはあるのですが、以下、気になる部分を見ていきたいと思います。
TDPの関係か。ファンレスのCore i5-1130G7はCore i3-1115G4より若干低いくらいのスコアに。
今回比較対象として、以下の2モデルを選びました。
- 富士通 FMV Chromebook 14F(FCB143FB)
‥同時期に発売される同じ14″モデル。CPUは同じ第11世代Core i3プロセッサー。 - HP Chromebook x360 14b(2021)
‥今年のミドルレンジ、普及価格帯スタンダードなモデルの一つ。
現行の標準的(より若干上くらい)のモデルとして。
ASUS Chromebook Flip CX3(CX3400) |
FMV Chromebook 14F(FCB143FB) |
HP Chromebook x360 14b(2021) |
|
CPU | Core i5-1130G7 | Core i3-1115G4 | Pentium Silver N6000 |
ブラウザーベンチマーク | |||
Octane 2.0 | 37,445 | 57,855 | 22,533 |
Speedometer 2.0 | 125 | 174 | 74.5 |
CrXPRT2 | 151 | 146 | 83 |
Androidアプリ版ベンチマーク | |||
Geekbench 5 | single : 1,104 multi : 1,805 |
single : 1,143 multi : 2,279 |
single : 723 multi : 1,733 |
PCMark Work 3.0 | 11,088 | 10,553 | 10,632 |
3DMark – Sling Shot | 5,185 | Maxed Out! | 4,543 |
3DMark – Sling Shot Extreme | not compatible | not compatible |
ChromebookではChromeブラウザー上で作業を行うことが多くなります。そのためベンチマークもブラウザーベンチマークを中心に評価されます。上記の表の内、最初の3つがそうしたブラウザーベンチマークです
2番めのSpeedometer 2.0はAppleのWebKit開発チームが公開している、モダンなWebアプリケーションのための応答性ベンチマークになります。
3番めのCrXPRT2は最近使われるようになりました。Chrome拡張機能として使うことが出来、Chrome OSの総合性能を計測できる、HTML 5ベースのベンチマークテストになります。
ざっと眺めてみた限りでは、十分に現行のハイエンドChromebook並のCPUパフォーマンスを発揮していると思います。ただ、(これは私の測定環境のみかもしれませんが)若干気になった部分があります。それが上の表の赤字の部分。ブラウザーベンチマークのOctane 2.0とSpeedometer 2.0の値です。どちらも極端に落ち込んでいます(それでも十分に高いスコアではあるのですが)。
ただ、Octane 2.0は既に古いベンチマークテストとなっていますし、Speedometer 2.0もChromebookにおいてはそこまで一般的ではありません。それを考えると、最近使われるようになったCrXPRT2のスコアを見る限りでは十分に良い数値を出していますし、Androidアプリ版の各種ベンチマークも同様です。なのでそれ程気にする必要はないのかもしれません。
ただ、同じ第11世代Intel製Core i5プロセッサーを搭載した同社の15.6″モデルであるFlip CX5(CX5500)ではこうしたスコアの低下は見られなかったんですね。そうしたこともあったので、今回のCX3では何度か再起動したり、測定をやり直したりもしたのですが、ほぼ変わりませんでした。
で、そこで気がついたのですが、今回のCX3(CX3400)に搭載されているCore i5プロセッサーが、Flip CX5(CX5500)で搭載されているものとは別のものでした。それが、先程挙げたTDP、Thermal Design Power(熱設計電力)に繋がってきます。
今回のCX3(CX3400)は静音性を重視してファンレスとなっているのですが、そのためにこのTDPの低いCore i5-1130G7というプロセッサー(TDP up 1.80GHz 15W / down 800MHz 7W)を搭載しています。このため、CX5(CX5500)に搭載されているCore i5-1135G7(TDP up 2.40GHz 28W / down 900MHz 12W)やFMV Chromebook 14Fに搭載されているCore i3-1115G4(TDP up 3.00GHz 28W / down 1.70GHz 12W)よりも動作周波数も低くなっているんです。一部のベンチマーク結果が振るわなかったり、Core i3-1115G4のFMV Chromebook 14Fとそこまで変わらない(か若干低いものもある)程度なのは、この辺りの影響もあるのかなぁ、と思いました。
Chromebookを使われている方の中にも、ハイスペックモデルが良いとは思いながらも、ファンが廻るのがあまり好きではない、という方もそこそこいるので、そういう方には今回のCX3(CX3400)はあまり体感上も差がない状態でファンレスである、という点は魅力的ではないか、と思いました。
「究極のタイピング体験」を謳うキーボード。であれば、JISかな専用で設計してほしかったところ。
続いてキーボードです。実は今回この文章を作成するためにリリースをしっかり見るまで気づかなかったのですが、今回のモデルでは究極のタイピング体験を謳っておりました。
究極のタイピング体験
ASUS Chromebook Flip CX3(CX3400)は更なる快適さを求め、キーボードからタッチパッドに至るまで多くの改良を施しました。フルサイズのキーボードへは1.4mmのキーストロークとバックライトを搭載しています。バックライトにより薄暗い環境でも難なくタイピングすることが可能です。
ただ、個人的には謳われているのに気づかなかったくらいなので、至って普通(悪くはないけど)といった印象です。そう感じてしまう一番の理由が、やはり配列(各キーの位置や大きさ)のバランスなんですね。これは米国市場がメインとなるグローバルモデルを日本に持ってくる以上、コストを考えると仕方のないことではあるのですが、元のUS配列のキーボードの型に合わせて、そこにJISかな配列(日本語配列)のキーボードを詰め込んでしまうのがあるかな、と思います。どうしても一部の大きさや位置がJISかな、日本語入力に最適化されている、とは言いづらいのです。
US配列とJISかな配列ではそもそもキーの数も違います。それを同じ穴に入れようとすれば、当然詰まってしまう、不自然な大きさのキーが出てきてしまいますし、また場所もズレてきます。なので、本来(US配列)であればもしかしたら実際に拘っていて「究極のタイピング体験」が得られたのかもしれないのですが、ちょっと違和感を感じてしまうのがありました。この点、先程から比較対象に挙げている富士通のFMV Chromebook 14Fのキーボードと比べてみると(本体サイズはほぼ同じです)
FMV Chromebook 14Fのほうは、単純にJISかな配列用に一から作られている、というだけでなく、キーの中心部分と左右端のキーとで硬さを変えていたり、キーに窪みを付けていたり、軽いタッチでも強いタッチでもしっかり反応するように作られていたり、と細かい部分で調整がされています。
もちろんまだまだ小さい市場である日本専用に別パーツを起こすのはコストに見合わない部分もあるとは思うのですが、3万円前後の普及価格帯のモデルではなく、Chromebookではハイエンドに近い10万円のモデルです。当然この辺りを選ぶユーザーというのは、細かい部分も気にします。せっかくの究極のタイピング体験を実感できるように、より良いキーボードを作って欲しいな、と思いました。(タッチパッドの感触、反応は非常に良好で好印象でした。)
ちなみに「バックライトにより薄暗い環境でも難なくタイピングすることが可能です。」とのことなのですが、これもなかなか悩ましい部分です。というのも、ASUSのバックライト搭載のChromebookの場合、最近はフォント部分が光るようになっているのですが、キー自体がシルバーでもあるため、明るい場所だとキーが光ってしまうとフォントが逆に見づらくなってしまいます。
バックライトは「alt+最上段の明るさキー」で明るさを調整できるのですが、明るい場所で自動でオフになるわけではありません。毎回調整する必要があります。普段は基本オフにしておいて、暗い場所で作業する時だけ手動で明るくすれば良いのかもしれませんが、次にまた暗いところで使わないのであれば、使い終わったときにオフにしておかないと、次もライトが点いてしまうんですね。これはここ数年のASUSの上位モデルに共通の悩み(惜しい点)だと個人的には感じているので、好みはあるとは思いますが、私としてはちょっともったいないな、と感じました。
一番惜しい点。「重い」。MIL-STD 810H準拠は分かるけど、質量約1.72kgは持ち運びやタブレット用途には厳しい。
質量約1.72kg。
個人的にはこれが一番惜しい、とともに、このモデルの選択を難しくしているポイントかな、と思いました。お馴染みの米国の耐久規格「MIL-STD 810H」準拠なのは分かるのです。ただ、このモデルをコンバーチブル、フリップタイプとして使うには、ちょっと億劫だと思うんですね。1.72kgのタブレット、持って使う気になりますか?
もちろん使い方はタブレットモードだけではなく、360度自由な角度で使えるわけですから、プレゼンのときに便利、といった使い方も分からなくはないのですが、だとしても持ち歩くのが今度は億劫になってしまいそうな気がするんです。
となると、自宅で動画を視聴する時、ゲームを遊ぶ時、といったときに使うとも考えられるのですが、そこにどの程度価値を見出すか、求めるか、という点が結構大きいと思っています。
また、今回は「スタイルとデザインにマッチする新色、エーアイブルーをボディの色に採用」しているのですが、ではこの価格に見合うプレミアム感、高級感があるか、と言われると、そこまででもありません。
もちろん安っぽい、チープな印象、といったものは全くないのですが、でも特別な印象もないので、ちょっとインパクトは弱いかな、と。もちろんすべてのモデルがアルミボディである必要も、見事な仕上げや独特の天板である必要もないのですが、この項で触れた重さを考えても、少し悩ましいかな、と思いました。
ファンレスでもパワーのある、USIペン対応の14″ コンバーチブルタイプのモデルが欲しい方向けのモデルです。
今回のモデル、若干厳し目の評価になってしまいましたが、決して悪いモデルなわけではありません。
今回はほぼ触れませんでしたが、例えばインターフェースもHDMI端子こそないものの、USB-A、USB-Cともに2端子ずつありますし、左右にバランス良く配置されています。
Chromebookとしては最新世代のプロセッサーを搭載し、パワーも当分は安心して使えるだけの余力もありますし、それでいながら最近のハイスペックモデルでは貴重なファンレスモデルです。
また最近これだけコンバーチブル、フリップタイプのモデルが多いのは、やはり市場的にはそれだけのニーズがあるからだと思うのです。USIスタイラスペン対応(付属、しかも本体収納可)など、押さえる部分はしっかり押さえてきています。
なので、今主流のそうしたスタンダードな14″のChromebookが欲しいのであれば、選択肢に十分に入ってはくるのですが‥
このタイプ・価格帯は、競合がもの凄く多いんです。
各メーカーが今14″辺りでしっかりハイエンドモデルを出してきています。また、最新世代ではないとしても、例えば指紋認証やLTEに対応しているモデルもあります。液晶比が3:2のモデルもある。
その中で、10万円弱(99,800円)のモデルと考えたときに、どの辺りに価値を見出すか。
各社魅力的なモデルがしのぎを削っている価格帯でもあるだけに「+αの何か」が欲しい。
今回比較対象として挙げた富士通のFMV Chromebook 14Fであれば、確かに地味で華はない普通のクラムシェルですが、82,800円で富士通らしさを出しています。(また、CPUやRAM、ストレージ容量違いでAmazon限定の5万円前後でも展開。)
また、同じASUS JAPANのモデルで眺めてみても、15.6″には同世代のプロセッサーを搭載して、テンキーも付いているCX5(CX5500)が既に発売中です。
ハイスペックのモデルに関しては、必要性に疑問を感じる方もそれなりにいるとは思うのですが、各社その中でもしっかり魅力的なモデルを出してきてもいる、結構激戦区です。ASUS自身も国内では発表されていませんが、米国市場ではCX9(CX9400)というZenBook的なモデル(クラムシェルタイプながら、こちらも14″で、重さは1.05kg~)を既に発売済みです。
ということで、まだファーストインプレッションの段階ではあるのですが、このモデルは非常に評価が難しい。完成度が低いわけではなく、むしろ丁寧にまとまっているモデルです。だからこそ、個人的には「+αの何か」を期待してしまうのです。その辺り、このお借りしている期間中に見つけられれば、と思っています。