2020年12月8日、日本HPは海外でEnterprise向けに発売されている同社のハイエンドモデル、Elite c1030を国内コンシューマー市場向けに発表、発売しました。
今回ありがたいことに事前に1週間弱という期間ではありましたがサンプルモデルをお借りすることが出来ました。
ここ最近国内個人向け市場でもハイスペックのChromebookが続々と発売されています。それらと比較しつつ、このモデルの特長と魅力について、ファーストインプレッションではありますが、レビューしてみたいと思います。
HP Chromebook x360 13c (スーペリアモデル 13c-ca0001TU)
今回のモデルは文章作成時点でCPUとRAM容量違いで3機種が展開されています。今回お借りしたのは、その中でCPUにCore i3-10110U、8GB RAMを搭載した、スーペリアモデル(13c-ca0001TU)です。
主なスペックはこちら。
個人的に特徴的・魅力的だと感じる点を赤字、気になる点を赤線にしています。
モデル | HP Chromebook x360 13c スーペリアモデル(13c-ca0001TU) |
プロセッサー | Intel Core i3-10110U (第10世代Intelプロセッサー Comet Lake) |
メモリ | 8GB (DDR4-2666Hz) |
ストレージ | 256GB SSD(PCIe NVMe M.2) |
ディスプレイ | 13.5” WUXGA+ IPSタッチ(1920×1280 / 最大1677万色 / 1000nit / 171ppi) HP Sure View Reflect (Gen4) 反射型プライバシースクリーン内蔵 |
内蔵無線LAN | Intel Wi-Fi 6 AX201 (IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax) Bluetooth5.1 |
通信モジュール | Intel XMM 7360 LTE-Advanced |
キーボード | JISかな配列バックライトキーボード |
インターフェース | Super Speed USB Type-C 5Gbps x2 (USB Power Delivery , DisplayPort 1.2) Super Speed USB Type-A 5Gbps x1 ヘッドホン出力/マイク入力コンボポート SIMカードスロット x1 microSDカードスロット x1 |
ほか | MIL-STD 810G準拠(19項目)・カメラキルスイッチ・指紋認証リーダー USIペン対応(別売) |
サイズ / 質量 | 294.5 x 216.9 x 16.7 mm / 1.36kg |
価格(税込) | 140,800円→108,900円(キャンペーン価格) |
側面インターフェースの配置はこちらです。
CPUやRAM、ストレージ容量等はここ最近国内で続々と発売されている各社のハイエンドChromebookと同じになります。なので処理速度周りのみで選ぶのであれば、現在各メーカーから出ているハイスペックモデルのどれを選んでも基本的にはほとんど変わりはありません。
ということで、上記スペック表でも赤字と赤線で表した部分を中心に、以下、このモデルならではの特長、魅力と、個人的に惜しいな、と感じる部分に焦点を合わせて触れていきたいと思います。
【魅力①】国内個人向けChromebook初の4G LTE対応(4キャリア)モデル。
恐らく今回の一番の目玉はこの国内個人向けChromebook初の4G LTE対応(4キャリア)モデルである、という点ではないか、と思います。
2020年12月現在、国内だけでなく海外を見渡しても、個人向けの4G LTE対応モデルは北米市場向けの1モデル(Samsung Chromebook Plus V2 LTEのみ。こちらはVerizon Only。)に過ぎません。文教法人向けモデルに目を向けると、国内でも教育向けに数台、法人向けにDellのChromebook Enterpriseモデルがあるのみです。
そうした状況もあり、今回個人向けのモデルとしては4G LTEモデルは初となります。また、4キャリアの対応をメーカー自身が謳っている、という点では文教法人向けを合わせても初とも言えるかもしれません。
私自身、LTE対応のEnterpriseモデルを既に所有、愛用していますが、こちらも基本的にはドコモ回線を前提に作られている印象です。実際、SIMを認識させるのも、ドコモ本家のSIM以外はかなり苦戦した想い出があります。
そうしたこともあり、今回折角なので手元の楽天モバイル(UN-LIMIT)のSIMを挿して試してみました。まだ初期セットアップもしていない状態でSIMを挿して起動したところ、
いきなり一覧に「LTE 楽天(rakuten.jp)」の文字が。APNの登録が既にあるようです。(ただ、上記画像で補足しているように、この後設定で再スキャンする必要がありましたが。)
これはAPN設定も記録されていて、このまま何もせず繋がるか、と思ったのですが、そこは甘くなかったようで、その次の画面で一応アクセスポイントを入力して保存する必要がありました。でもそれだけです。
Wi-Fiに特に繋がなくても、これでいきなりLTEで接続が始まり、この後自分のアカウントでサインインしたところ、アカウントに紐付けされているWi-Fi設定も自動で同期してくれて、その後はいつもどおりのWi-Fiにも繋がりました。うん、楽。そして便利。
今回、この項の最初の写真でも触れましたが、SIMのサイズが現在主流のnanoSIMになっているのもありがたいところ。私の持っているEnterpriseモデルも、過去のモデルも基本的に一回り大きいmicroSIMだったので、簡単に使いまわしが出来なかったんです。
Wi-Fi環境のある場所ではWi-Fiで、それ以外では自動でLTE接続してくれる、というほぼ常時接続環境は実際の使用頻度以上に気持ち的に楽です。
【魅力②】画面比3:2、13.5″では実用的な解像度(1920×1280)の映り込みの少ないIPS液晶。
現在、Chromebookは液晶サイズ11.6″と14″の画面比16:9のモデルと、12″や13.5″といったその間を取る形での画面比3:2のモデルに分かれています。これは普及価格帯モデルもハイスペックモデルも同じで、この画面比が選ぶ上での一つの指標にもなっています。
一般的にそれぞれの画面比は主に次のような用途に適しています。
- 3:2は写真で一般的。
また縦に広くなるので、ウェブや資料の閲覧、文章作成などに適している(情報量が増える) - 16:9は動画の視聴などに適する。
3:2だと上下に余白が出来てしまう。
横長の16:9のほうが、ウィンドウを左右に2つ開いて作業しやすいのではないか、という意見もあると思いますが、現時点での3:2液晶は、ベースとなる16:9の解像度に縦に表示領域を数百ピクセル増やした形になります。なので、横のピクセル数は変わらないんですね。
今回のこのx360 13cの場合も、通常の16:9のFHD(1920×1080)から縦に200ピクセル分広げた形(1920×1280)になります。横は維持しつつ縦に広げる、という意味でも、動画の視聴(上下が余ってしまう)などを除けば画面いっぱいに活用できるので非常に便利です。
更に最近はベゼル部分を非常に狭くすることで、本体サイズに比して液晶サイズを大きくすることが出来ます。今回も画面占有率90.1%と非常に広い。そのおかげで本体サイズはそこまで大きくならずに、12″のサイズ感で15.6″の高さの表示領域を確保出来ているようです。
また、液晶の縦が広がる、ということは、その分相対するキーボード側のタッチパッド部分とその横のパームレスト部分が縦に広くスペースを取れる、という利点もあります。それも地味にありがたい点。
そして、個人的に評価したいのは、過度に最大解像度を上げず、1920×1280に抑えたこと。もちろん高解像度で表示したほうが、情報量が増えるだけでなく、同じ解像度でもフォントや画像などが綺麗に見える、という利点はあります。ただ、実際に最大解像度で使う、となると、文字が小さすぎて見にくかったり、と実用的でないことも多々あります。何より悩ましいのは、4Kや高解像度で普段から使っていると、その分バッテリーの減りが速くなってしまう、という点です。
このあたり、元々がエンタープライズモデルということでビジネス向けでもあることから、しっかりと実用性重視で絶妙なバランスの1920×1280で抑えてきたことは素晴らしいと思います。実際この解像度に合わせてこの液晶パネルも最適化されていますので、最も見やすいのがこの解像度、というのも無駄がなくて良いです。
【魅力③】MIL-STD 810G準拠(19項目)ながら、厚さ16.7mm、重さ1.36kgと程よい重量感。
意外と目立たない点ですが、これも結構重要だと思っています。13.5インチサイズのハイエンドモデルながら、この外観でMIL-STD 810G、俗に言うミルスペック対応です。それも、きちんと検査項目数も明記(19項目)しているところも好印象です。でいながら、重さも1.36kgと決して重すぎず、また厚さも16.7mmに抑えています。
最近は剛性を損なわずに、より軽く、より薄くするための技術や素材、成形方法で作られた軽量モデルも出てきています。確かに軽さは正義、という部分もありますが、私は用途に依ると思うんですね。
もちろん完全モバイル用途でより小さく、より薄く、軽く、というのも一つの方向性ですが、今回のモデルは13.5″液晶のビジネスモデル出自ということを考えても、少し方向性が違う気がするんですね。もちろん無駄に思い必要はありませんが、耐衝撃耐水性と剛性をしっかり維持しつつ、据え置きでも、社内や家の中での簡単な持ち運び程度であればそこまで苦にはならない重さ、というのは個人的にはアリなんじゃないかと。
で、実際に短い期間でしたが何度か外にも持ち出しましたが、特にスリーブ等気にしなくても鞄にそのまま入れて持ち歩けますし、大きさ(面積)と重量、重心のバランスが良いのか、そこまで重いとは感じませんでした。
ちなみに今回のこのモデルは「オーシャンバウンドプラスチックを使用」したChromebookというのも一つの特長でもあるのですが、上記のようなペットボトル再生素材で作られたスリーブケースが製品ページに掲載されていました。こちらも合わせて使ってみたい気がしています。
【惜しい点①】キーボード配列の選択肢が「JISかな配列」のみ。せめてUS配列の選択肢が欲しかった。
キーボードは一般的なJISかな配列、キーボードバックライト搭載です。
HPのPCというと、ごく一部のモデルを除いて、右端Enterキー横に、縦一列に並ぶキー配置が良くも悪くも話題ですがChromebookでは今のところJISかな配列モデルでもそうした特殊配列のモデルはありません。今回のx360 13cも一般的なキー配置です。
一部14インチモデルで右端のEnterキー幅が少し短めに詰められてしまっているモデルがありましたが、今回はそうしたこともなく、パッと見は非常にスタンダード。若干キーピッチが17mmと狭めなのと、キー幅が15mmと少し小さいのが人によっては気になるかもしれませんが、たわみもなくキータッチも良好です。
見出しの惜しい点とは少しズレますが、キーボードバックライトがフォント自体が光るタイプのため、シルバーのキー色と合わせて、明るい場所で点灯してしまうと視認性がかなり落ちます。
これ、ASUS JAPANのフラッグシップモデル、C434TAやC436FAでも気になっていたパターンなのですが、シルバーのキーでフォント部分が光るのは、カッコいいかもしれないけど、やっぱりちょっと見にくいです。この点は少し惜しい点。まぁデザイン上仕方ないのかもしれませんが。
そして、個人的に残念なのが、このモデルを国内で欲しいと思っている層を考えると、キーボードにUS配列の選択肢があっても良かったのではないか、という点があります。
Chromebookは最近は国内でも話題になってきているとはいえ、まだまだこの辺りのハイエンドモデルは、既にある程度Chromebookに馴染んできて、更なる快適さを求めてたどり着くユーザーも多いと思うのです。で、そういう方って結構US配列キーボードを好むことも多いんですね(私も)。
もちろん、このあたり国内で出す以上、JISかな配列でなければ、というニーズを考えてのことかもしれませんが、単にUS配列にしてくれ、ということではなく、両方の選択肢を用意してほしかった、ということです。
確か最初に出たハイスペックモデル、x360 13ではJISかな配列モデルとUS配列モデルの両方から選べたんです。このx360 13cは海外から個人輸入したくてもエンタープライズ向け中心でカスタマイズも必要なため(そしてLTEの対応バンド等を考えても)国内での発売を待ち望んでいた層も存在します。そういう層にとっては、このキー配列だけでかなり変わってくるので、ぜひこれからでも構わないので、そして最上位構成だけでも構わないので、HPの中の方には検討して欲しいな、と願っています。
この点、最上位構成だけとはいえ、今回のハイエンドモデル、C436FAにUS配列キーボードモデルも用意してきたASUS JAPANはこのあたりよく分かってくれているな、という気がしています。(Acerのハイエンド、Spin713も敢えてUS配列キーボードのみですし)
【惜しい点②】HP Sure View ReflectはGen4と最新ながら、画面の色むらが気になる。
さて、今回のx360 13cが既に同社が先行して出しているハイスペックモデル、x360 14cと異なる部分があります。一つが前述の「LTE対応」、そしてもう一つがこの「反射型プライバシースクリーン」です。
ちょっと角度が甘かったのか、あまり違いがわかりにくいかもしれないのですが、上がオフの状態、下がオンの状態です。
実際にはオンにすると、横から眺めても画面全体が黄色(茶色?)がかったフィルターがかかっているようになって、非常に見えにくくなります。(メーカー公称では視認性を45°で1.5%未満まで抑制。)
ブログの画像と文章では伝えきれなかった、反射型プライバシースクリーンプライバシースクリーン、HP Sure View Reflect (Gen4)について動画を撮ってみました(無音)
結構画面全体が暗めの銅色に変化します。 pic.twitter.com/QA3kZkmS64
— おふぃすかぶ.jp (@OfficeKabu) December 8, 2020
このHP Sure View Reflect、Chromebookでの採用は初めてになりますが、同社のビジネス向けWindows PCなどでは以前から採用されてきました。ただ、確かに横から見にくくはなるものの、その分正面からの視認性や色味等がイマイチになってしまったり、といった声も目にしてきました。
それが今回、Gen4にアップデートされたことで、斜めからの見えにくさだけでなく、通常使用時の見え方も改善された、というのが謳い文句だったようです。
ただ、ごめんなさい。正直、この1週間弱、という短い期間では、色ムラ感と何となくモヤッとした全体の画面感(オフの状態でも)に慣れることは出来ませんでした。
キー一つで簡単にオンとオフの切替が出来るのは便利なんですが、ファーストインプレッションの時点では、
これだったら素直に別売りで市販のプライバシーフィルターを必要に応じて貼ってしまったほうが良さそう
と感じてしまったのです。このSure Viewのおかげでノングレアっぽい画面になっているのか、それとも元々ノングレアなところに上からSure Viewが載っているのか分かりませんが、折角の最大輝度1000nitを謳う液晶なのに、ちょっと勿体ないなぁ、というのが正直なところです。
【まとめ】JISかな配列キーボードとSure Viewの視認性が気にならないのであれば、現時点で最高の選択肢の一つ。
前回リリース直後に文章にしたときにも触れましたが、
私、このモデルを本当に待ち望んでいました。でも流石にまだ日本市場では厳しいかな、と思っていたんですよ。
ここまで冷静に並べてきましたが、これを見た時には本当に興奮しました。いや、ここ最近各社、国内でも個人向けにハイエンドモデルを発表してきていたので、もしかしてHPもElite c1030を日本に持ってくるかもしれないな、とは思ってはいたんです。
ただ、このElite c1030、元々Sure View対応やLTE対応といった点、またParallels Desktop for Chromebook Enterpriseの推奨モデルに挙がっているモデルでもあることから、もし入ってきたとしても恐らくDELLと同様、Enterpriseモデル(法人向け)のみだろうな、とも思っていたので、まさかx360 13cと名前を変えて、個人向けに販売してくるとは思ってもいませんでした。
そして、1週間弱の試用期間を終えても、その評価はほとんど変わりはありません。現時点において、個人向けハイスペックChromebookで選ぶのであれば、真っ先に選択肢に入れてほしいモデルですし、正直やられた、と思いました。素直に欲しいです。だから、この発表を知った時には、ほぼ9割方購入を決めていました。それくらいほぼ文句のない全部載せの理想的なモデルなんです。実際触ってて気持ち良いんですよ。諸々。満足感も非常に高い。
そこに持ってきての今回のキャンペーン価格です。何だよ、いきなり発売日当日から3万円前後も安くして一気に攻勢かけてくるとは、ホントHPらしいというか‥もう黙って買えと言っているようなものじゃないですか。
- HP Chromebook x360 (13c-ca0001TU) スーペリア(i3-10110U/8GB/256GB)
:140,800円→108,900円(税込) - HP Chromebook x360 (13c-ca0002TU) エグゼクティブ(i5-10210U/8GB/256GB)
:151,800円→121,000円(税込) - HP Chromebook x360 (13c-ca0003TU) スイート(i7-10510U/16GB/256GB)
:173,800円→136,400円(税込)
なので、個人的には、
「ハイエンドのモデルが欲しいけど、US配列キーボードは馴染めない。JISかな配列キーボードのモデルがほしい」
と思われていた方なら、そしてここ最近魅力的なハイスペックモデルが次々と出てきて、ある程度価格のするChromebookもありだな、と思っていた方には、まさにうってつけのモデルです。だってi3モデルで税別10万切っちゃうんですから。
ただ、出来れば念の為Sure Viewの視認性だけは実物を見てチェックして欲しいな、と思います(こちらでも動画などでお見せできたら、と考えています)。
私の場合は、そうしたここで挙げたような事情もあって、日本HPがUS配列キーボードの選択肢を用意してくれるのを期待して待ちたいと思います。US配列キーボードモデルが出たら‥勿論買うよ。