ここまで9回に渡って、最近国内でも学校を中心に普及し始めている、Chromebookについて考えてきました。
当初は、なかなかイメージしにくいこのPCについて、最近になって興味を持ち始めた方に向けて、一般的な視点とは少し異なった捉え方を紹介できたらいいな、と思って始めたのですが、思っていたよりも既存ユーザー向けの内容になってしまったかもしれません。
今検討されている方にとっては「で、結局何が出来るの?」「PCなの?スマホなの?」といった具体的な話が知りたかったかもしれません。
ただ、何かの折に、ここで書いてきたような内容がふと頭に浮かんできて「あぁ、こういうことだったんだな」みたいに感じてもらえたらいいな、と思っています。
というのも、実際に何年もChromebookを愛用しているユーザーの間でも、この辺りの「Chromebookって何?」「何が魅力なんだろう?」といった話は本当に人それぞれなだけでなく、結構感覚的な部分も多く、ユーザー同士でこの辺りの感覚的な話をすると「うん、分かる!」となるのですが、使ったことがない方からすれば「イマイチよくわからない(ピンとこない)」と感じられることも多いからです。
そんな中で、今回はこれまでの10回の中で、最も感覚的な話になります。
正直、こんなことを知らなくても、考えなくてもChromebookは使えますし、便利です。ただ、これまで6年近くChromebookについて文章を書いてきた中で、意外とこの表現がしっくりきた、惹かれた、と感じられる方からの声も頂いてきましたので、改めて書いてみたいと思います。それが、
- Chromebookの本体は「自分のGoogleアカウント」です。
- 端末自体は、そのGoogleアカウントで作業をするためにデータを一時的に置いておくための「仮の箱(器)」です。
- なので、感覚としては「Chromebookという端末」を持ち歩く、というよりも「Googleアカウント」を持ち歩く、に近いかもしれません。
なので、正直「巷でChromebookとして販売されているPC」を使わなくてもChromebook的な使い方は出来るし、その意味では「端末自体は何でも良い」のです。ただ、確かに「何でも良い」のですが、その仮の箱(器)の使い勝手によって快適さは変わってくる(からハイスペック、高価格のモデルもある)ということですね。
ちょっとこの辺り、分かりづらいと思うので、少し掘り下げて書いてみたいと思います。
いきなりですが、私の妄想に少し付き合ってください。私の考える「アカウントを持ち歩く」。
いきなりですが、ちょっと私の妄想にお付き合いください。この妄想は、現時点ではまだまだ実用的か、と言われると難しい部分はありますが、Chromebookのあまり意識されていない魅力、特長を説明する上では、わかりやすい気がしますし、この6年でも結構この妄想に魅力を感じてくださった方も多いので。
ある日私は出張に行く必要がありました。数日間。自分のラップトップPCを持っていこうかとも思ったのですが、出先で必要になりそうな仕事の内容を考えると、必要ないな、と判断してPCを持たずに出かけることにしました。
行きの電車の中では、最近少し出てきたリモートワーク車両に乗りました。その車両ではPCの貸出も行っていましたので、Chromebookを借りることにします。借りたChromebookに自分のGoogleアカウントでサインインします。すると、今朝家を出るまで作業していた直後の状態(環境)が数分で復元されました。アプリも、設定も、壁紙も、全てです。私はそのままメールの返信や資料の作成等を到着まで行いました。
返却時には、Powerwashを行うことで、1分程度で端末内から私の環境がキレイに削除されました。
現地で立ち寄ったカフェで、少し仕事の内容をまとめようと思いました。そこでそのカフェでPCを借りることにしました。このお店ではオーダー時に追加料金を払うことでChromebookを借りることが出来ます。ここでもGoogleアカウントでサインインします。先程の電車の中と同じですね。数分で復元され、電車の中での作業の続きから作業が出来ます。カフェを出るときにはまたPowerwashして、クリーンな状態で返却します。
夜、ホテルではロビーや部屋のChromebookで同様に自分のGoogleアカウントでサインインします。以下同文です。
翌日、仕事先に向かいます。仕事先には一台Chromebookを置かせてもらっているので、そちらで自分のアカウントでサインイン。この仕事先のChromebookに触るのは数ヶ月ぶりですが、サインインした途端に環境が昨夜ホテルの部屋で作業した最後の状態に同期されています。その状態でミーティングを行います。
そんなこんなで数日間の出張中、必要に応じてその場その場で端末を借りれば、常に自分の最新の環境で作業の続きが出来ます。また、その端末を返却するときには、1分程度で端末内から私自身のデータはすべて削除されます。もちろん、ストレージ内はアカウントごとに完全に分けられているので、他の方のアカウントからでは、私が一時的に使っていたストレージ内を覗くことも、手を加えることも出来ません。
また、この出張中、移動中は自分のスマートフォンでGmailやGoogleドキュメント等の確認やちょっとした資料の修正なども行っていましたが、それらもその都度リアルタイムで同期されています。
さて、自宅に帰ってきた私。自宅でChromebookを開きます。数日間空いていましたが、早速またGoogleアカウントでいつものようにサインイン。すると、早速一瞬で同期され、私が出張先で最後に触ってサインアウトした時点の環境が復元されます。
さて、この出張中、私は仕事をするために何を持ち歩いたのでしょうか。それは、自分のGoogleアカウントです。そして、必要に応じて、そのGoogleアカウントに紐付けられた環境を一時的に復元するための仮の箱として、出先でChromebookを借りています。
これが私が、
Chromebookの本体は「自分のGoogleアカウント」です
と書いた意味です。
という妄想には幾つかの疑問点があります。それについて。
この妄想のとおりにことが運ぶのであれば、私は毎回出先にPCを持っていく必要がありません。ただ、現実世界ではこのようにうまくは行きません。一番の理由はもちろん「そこまで一般に広くChromebookは普及していない」ということがあります。
また、これを読まれたあなたはもしかしたら「別にこの程度のサービスなら、基本GoogleのサービスかWebサービスしか使っていないだろうし、他のOSのPCでも出来るんじゃないか」と思われたかもしれません。
確かに出来ます。ただ、少し考えてみて欲しいのですが、これ、他OSのPCで今話したような手軽さで環境の復元と、使ったあとのクリーンアップ、きれいな削除が出来るでしょうか?
実際に私、旅行先のビジネスホテルのロビーにあるWindows PCを使おうと思ったことはあります。ただ、どうしても自分のPCという感覚が持てなかったんですね。あくまで他人(ホテル)のPCを一時的に使わせてもらっている、という印象です。使ったあとに私の履歴等はちゃんとすべて確認して削除しないとホテル側に分かってしまいますし、勝手にアプリを入れることも出来ません。何よりホテル側でアプリのインストール自体制限している場合もあります。要は、他人のPCに過ぎないんです。
これは友人や同僚のノートPCを一時的に借りて使った場合にも同じことが言えます。確かに自分のMicrosoftアカウントやAppleアカウントを使えば、ある程度までは自分の普段の環境を再現できるかもしれません。でもいつもの見慣れた、使い慣れた環境で作業するためには、色々なアプリを入れて自分なりにカスタマイズをし直す必要がありますし、場合によっては下手な作業をすれば、同じPC内に入っている、その友人や同僚の環境にまで影響を与えてしまうかもしれません。なので、あくまで気を使いながら、最低限の機能だけ使わせてもらうような感じでしょうか。というよりも、私の場合には、気を使ってしまうので、多分借りる、という行為自体が出来ないかもしれません。
それは逆も同じで、もし友人や同僚が半日私のノートPCを貸してくれ、と言われても躊躇すると思います。私のデータや環境が覗かれるリスクは低いかもしれませんが、(意図していなかったとしても)何か変なアプリを入れられたり、環境設定に手を加えられてしまった結果、私の環境にまで影響が及ぶ可能性もあるからです。
- あなたは他人のPCを自分のPC(それも自分がつい先程まで作業していた、最新の状態の)として気軽にどこでも使えますか?
- あなたは気軽に他人にPCを貸すことが出来ますか?
これが比較的行いやすいのが、Chromebookなんですね。何故なら、
端末自体は、そのGoogleアカウントで作業をするためにデータを一時的に置いておくための「仮の箱(器)」
に過ぎないからです。私の最新の仕事(作業)環境は常に私のGoogleアカウントに紐付けられてクラウド上にあり、それを必要に応じて、その場所にあるChromebookという「仮の箱」に一時的に同期させて使っている。
これはPCに詳しい方ならツッコミどころもあるとは思いますが、こうしたことを難しいことを考えずに比較的簡単に行えるのがChromebookの魅力です。
だから「仮の箱」は自分の用途とシチュエーションに合わせて複数台持ちしたって良い。
多くの方はPCの複数台持ちはしません。それは一番の理由はお金(お財布)の問題だと思うのですが、同様に
どのPCにどのデータが置いてあるのか把握するのが面倒。それらを同期管理するのが面倒。
といった、管理の面倒さがあると思っています。それだったら1台にすべて集約させてしまったほうが楽。だから出先でも自宅でも同じPCを使う。これは非常に効率的ですし、お財布にも優しいですし、面倒でなくて楽です。
ただ、人によってはあらゆる作業を1台のノートPCで行うことに、無理が出ることってありませんか?
- デスクトップPCは自宅での作業には非常に便利だが、持ち運ぶのは無理。
- ノートPCはどこでも出来て便利だが、自宅で腰を据えて作業をするには画面が小さい。
- 持ち運ぶのであれば、より軽量のモデルが良いが、実際はそこまで持ち運ばないなど、サイズや重さで悩む。
- 枕元でタブレット的に使いたいと思ってタブレットタイプを買ったけれど、それ以外の作業で意外と使いにくかった。
一つにまとめるってなかなか難しくて、だからこそPCユーザーにとっては永遠のテーマであり楽しみでもあります。更に先程の「かといって複数台持ちは管理が面倒」とのせめぎあいで、自分なりの妥点を探すことになるんです。
ところで、あなたはChromebookユーザーの一部が、新しいモデルが出るたびに盛り上がったり、実際に買ったり、複数台を同時に使っているのを見かけて「マメだな」「まぁマニアだし」「よくやるね、そんな面倒で無駄なこと」と思ったことはありませんか?
確かにお財布面で考えたら、複数台買うわけですからそれなりにかかっていますし、その辺りはもちろん趣味も入っていますので、ご理解いただきたいのですが、ただ、それ以外にも理由があります。ここまでの長い文章をお読みいただいた方なら既にお気づきだと思うのですが、Chromebookは、
複数台持ちが非常に楽
なんです。どの端末で作業をしていても、常に最新の環境で、どこからでも同じデータにアクセスが出来るんです。
なので、持ち歩くのは、出先での用途に合わせてタブレット的なもの、軽量、コンパクトなものにする。で、自宅ではハイスペックの大きめの液晶サイズのラップトップタイプのモデルを使う。といった使い方が出来ます。それをしても全く面倒ではない。何故ならいちいち同期なんて意識しなくて良いからです。
起動して、自分のGoogleアカウントでサインインすれば、どの端末からでも自分の最新の状態から続きが出来る
これが(お財布の問題は別として)複数台持ち、使いをする人がそこそこいる理由でもあります。(あとは幾ら高価格帯のモデルも増えてきた、とはいっても、全体的にはまだまだ他OSに比べれば平均価格は安いですし。)
他OSのPCとの複数台持ちとも相性が良いのがChromebook。
とはいえ、もちろんChromebookも万能ではありません。多くの方がイメージされるように、本体内に専用のアプリケーションをインストールして、端末自体の処理能力をフル稼働させて、内部ストレージのデータをゴリゴリ処理していくような作業には向きません。なので、
「フルスペックのWindows PCを持っているなら、Chromebookを使う必要(意味)なんてない」
なんて言われる方もいます。まぁ気持ちはわかります。ただ、ここで先程の話に戻ります。そのフルスペックのWindows PC、自宅でも出先でもどこでも使う、もしくはそもそもPCを使う場所が限られている、それで何の不満もない、というのであれば、確かにその方にとってはChromebookの存在価値自体ないかもしれません。
ただ、例えば、
出先で簡単な資料作成をしたい、メールの返信等くらいはしたい、ただスマホだとちょっとつらい
そんな悩みがあるのであれば、活きてくると思いませんか?そういう用途でしか使わない出先にも、そのフルスペックのWindows PCを常に持ち歩く、というのも一つの流儀であり、その人なりのこだわりかもしれませんので、それは全然良いとは思うのですが、それだったら、先程のようなコンパクトで軽量な端末を一台持ってても良いのではないか、と思います。
複数台持ちが面倒、と思われるかもしれませんが、ここまで長々と書いてきたように、ChromebookはGoogleアカウントでサインインすれば、数分で最新の自分の環境に同期、復元されるのが魅力です。
だって、先程の妄想にもあったように、ビジネスホテルのChromebookでも気軽に自分の環境で使えるんですから。
そしてChromebookの本体はGoogleアカウントです。つまり、あなたの自慢のフルスペックのWindows PCにおいても、Googleアカウントが関係するもの、またGoogleのサービスであれば、Chromebookと同じく、常に最新の状態で作業の続きが出来ます。また、普段からChromebook的な使い方を意識していれば、つまり、
ある特定の専用アプリケーションを使わなければ絶対に出来ない作業を除いて、基本的にWebサービスやWebアプリに無理のない範囲で移行しておけば、またそれを意識しておけば、
あなたのWindowsライフ、macOSライフもまた今までとは違った身軽さ、快適さを感じられるかもしれません。
まとめ:まだまだ世の中、Webサービス、Webアプリだけで全ては出来ないし、そもそも普及もしていませんが。
さて、文中でも触れましたが、実際には世の中、まだそこまでWebサービス、Webアプリだけでは成立しません。
また、実際にChromebook自体も普及していません。それどころか「アプリが入れられない低スペックの産廃w」とか言われてしまうくらいです。
まだまだ世の中、インストール型アプリ全盛で、「何かをするにはとにかくアプリをインストールする」という感覚が主流ですし、幾ら社会においてシェアが高いとはいえ、Officeというある特定のアプリケーションに依存してしまっている仕事も多いと思います。そうした中では、今回の前半でお話したような妄想は、まだまだ先、もしかしたら永遠に来ない夢物語かもしれません。
でも、特定のOSやアプリケーションに依存しないで仕事や作業、趣味が出来る世界って気楽で気軽で良いと思いませんか?そんな選択肢があっても良いと思いませんか?
もちろん今回のような妄想、与太話は、多くの方にとっては知る必要もないかもしれません。
ただ、Chromebookの魅力って何?特長は?といった話は最近盛んに耳に(目に)するようになりました。
確かに「低スペック、低価格でもサクサク動く」「起動が爆速」は分かりやすい魅力かもしれません。多くの人にとっては、それが理由で良いと思いますし、そうしたきっかけで気軽に試してみて欲しいと思っています。
ただ、既に6年以上、Chromebookを使ってきて、こうして800以上の文章を書いてきて、こんなことばかり考えてきた私としては、こうした魅力、特長も感じていただける人が増えてくれると嬉しいな、と思っています。
前回なぜアメリカの教育市場でここまでシェアが伸びたのか、また国内でもこれだけ急に導入されるようになったのか、を業者の癒着や国家の陰謀、価格面とは別の視点でまとめました。
こうした気付かれにくい部分がChromebookの魅力でもあり、特長でもあります。そして、そこがまだまだ未完成でもあり、それだからこそ未来に可能性を感じ、私のようにChromebookを楽しんでいるユーザーがいる、ということも、知っていただけたらいいな、と思っています。