NECがGIGAスクール向けに販売したChromebookの一部において、製造工程の不備が判明したため、自主点検を実施する、と発表したことが本日ネットでは話題になっています。
NECパーソナルコンピュータ(株)が製造し、日本電気(株)が自治体や教育機関に販売したGIGAスクール向け端末「Chromebook Y2」の一部において、製造工程の不備による余分なネジの混入が判明しております。この不具合に起因し、端末の落下による強い衝撃が加わったことで、バッテリー下に混入したネジがバッテリーを破損させ、発煙・熱損に至った事案が1件確認されております。
つきましては、今後も安心してご利用いただくため、「Chromebook Y2」など下記の端末5機種に関して自主点検を実施いたします。具体的な回収方法・時期などについては自治体や教育機関と調整の上、決定いたします。なお、「Chromebook Y2」などにおいてケーブルの組み立て不良により、ケーブルが周辺部品と擦れて損傷しショートしたことで発煙・熱損に至った事案も6件確認されており、この不具合に関連する部位も今回あわせて点検いたします。
感染者数が急増して、休校等も増え、オンライン授業が求められている一番の時期でもあり、まさにタイミングとしては非常に悪いですし、そのために自宅での学習が進まなくなることは問題です。ただ、その辺りのことは別にわざわざ文章にしなくても、興味を持たれた方なら想像はつくと思いますので、今回はそこから一歩踏み込んで考えてみたいと思います。
「Chromebookだったから余分なネジが混入された」訳ではなく、あくまで「NECの工場の品質管理の問題」
一部では早速「Chromebookなんてゴミを学校に導入するからだよw」といった声も目にし始めています。
ただ、今回の件、まず大切なのは、「Chromebookだからダメだった」という話ではない、ということです。「Chromebookだったので、製造工程の不備による余分なネジの混入が起きた」のではなく、「製造工程の不備による余分なネジの混入が起きたのが判明したのが(たまたま今回は)Chromebookだった」ということです。この2つ、似ているようで全く違います。
Chrome OSなどのOS、システム上の致命的な不具合が発見された、ということではなく、あくまで製造上のハードウェアの問題です。NECの工場の品質管理の問題だった訳で、つまりWindows PCでも起こり得た可能性がある、ということです。
このGIGAスクールの動きの中で、Chromebookは国内でも一気に販売台数を増やしました。もちろんそれは今回の問題の言い訳にはなりませんが、その急激に伸びた販売台数の中で、工場側の品質管理で何らかの問題があり、それが今回Chromebook、Chrome OSを載せた端末で発生してしまった、ということです。
これは別にNECを擁護したい訳ではありません。もちろん今回のことを踏まえて、こうしたことがまた起きないようにすることは非常に大切です。その点では、7件確認された現時点で、同じ期間に製造された対象となる約124万台を自主点検に踏み切った、という姿勢は評価して良いのではないか、と思います。
ただ、今回私が思ったのは、不謹慎かもしれませんが、むしろ「この問題が起きたのがChromebookでまだ良かった」と感じています。このことについて少し説明してみようと思います。
Chromebookの魅力って何でしょうか?
多くの方はChromebook自体ご存じないでしょうし、今回初めて「NEC、Chromebook作ってたんだ」って思った方も多いでしょう。また、既に使っている方にとっても「低価格低スペックでもサクサク動くのが唯一の魅力」と思われている方が多いと思っています。実際間違いではありません。そして、誰にでも分かりやすい特長がこれくらいしかない、むしろ多くの人にとっては「Windows PCやMacBook、iPadなどに比べて出来ることが限られている」という印象の方が強いと思います。実際、Chromebookユーザーとしては、それだけに普段説明するのに困ります。
ただ、何故アメリカの教育現場では非常に高いシェアを獲得することが出来たのか。そして、今回国内においても、多くの学校で導入されるようになったのか。その理由が、
導入と設定、復旧の容易さ
にあるんですね。
個人ユーザーだと気付きにくいのですが、Chromebookを企業や学校で導入する際に、他OSの端末と比べて圧倒的に簡単で時間も手間も少なくて済むのが、このキッティングの容易さです。(あとは、導入後の保守管理の容易さ)
キッティングとは
パソコンやモバイル端末などのIT機器の各種設定、ソフトウェアのインストールなどを行い、それぞれの環境に最適な状態にセットアップすること。特に社員が使用するIT機器を業務で使える状態にすることを指す。新入社員の入社時や、IT機器の買い替えを行ったとき、オフィスの開設・移転時などに必要とされる。
従来のPCでは、このキッティング作業が大変だったんですね。つまり、今回のNECの自主回収の件で考えれば、一度学校から回収されたら、また点検が終わって戻ってくる際に、このキッティングをやり直さなければならない可能性がある。そうなったときに、従来のPCだと、非常に時間がかかったんです。実際に学校で導入する際には、販売代理店もそうですが、学校側でも学校の先生が休日返上で一つ一つこの作業を行っていかなければならなかった、とも言えます。
それが、Chromebookだと非常に簡単なんですね。これはGoogle自身も企業や教育市場向けに実は一番押し出している点です。
例えば、
これだけでも大きな負担軽減です。国内の教育市場、今回のGIGAスクールにおいてもChromebookがシェアを伸ばしたのは、確かに価格面の優位性(同じ価格でもWindows PCよりも快適に動く作業が多い、iPadだと少し高い)などは確かにあったかもしれませんが、実はこの容易さが、何か不具合が発生したとき、もしくは大きな管理保守上の変更を加えたい時に、非常に重宝するのです。
生徒用のアカウントとClassroomなどのオンラインサービス、その大半がクラウドに保存されているChromebookの強み。
って、ちょっと小難しい表現になってしまいましたが、要は私的には
「現場は混乱するし、担当の先生は大変だと思うけど、NECもその辺はスケジューリングしっかり考えるだろうし、再セットアップ自体は大して手間はかからないと思うよ」
ということです。
このキッティングの容易さ。これは個人ユーザーだと実感しづらいのですが、私が常々このブログでも触れている「Chromebookの本体は端末ではなくてGoogleアカウント」という表現に表れていると思っています。
つまり、
Chromebookの本体自体は、あくまでGoogleアカウントに紐付けされた情報を呼び出して活用するための、一時的なデータの保管場所、作業場所に過ぎない
ということなんですね。何故なら、基本的にChromebookにおいては、本体内にアプリケーションを入れることはほとんどありませんし、基本ブラウザーでの作業になります。いや、ブラウザーでの作業に特化させたOSと言っても良いかもしれません。
なので、私も含めたChromebook好きなユーザーは意外と複数台を、その時の気分や用途に合わせて並行して使っています。それが気楽に出来るのがChromebookでもあるからです。
それが、「今回問題が発生したのがWindows PCやiPadでなくて、Chromebookでまだ良かった」とする理由です。
もちろんそれは問題が起きて良かった、という意味ではありませんが、Googleとしては、またNECとしても、この失敗を、Chrome OSの本来の強みを世の中に知って貰える、良い挽回の機会と捉えて、問題解決に動いて欲しいな、と思っています。
今回、回収されることで、一時的にとは言え学習に支障をきたすことになってしまった学生さんやご家族の方、また先生方にとっては、そう簡単な話ではないかと思いますが、私たち外野の人間が心ない声や、よく分からないまま騒ぐことのないように、今回の出来事についての理解の助けになったらいいな、と思っています。