先程取り上げましたが、レノボ・ジャパンが5月に国内教育市場向けにChromebookの新モデル2モデルを投入することを発表しました。この発表については各メディアが取り上げていますが、その中で興味深い部分があったので、引用しつつ、少しこのことについて考えてみたいと思います。
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/biz/1111223.html
政府は2014年に発表した第2期教育振興基本計画において、教育機関において、児童生徒3.6人に1台のコンピュータを設置することを目標に掲げていたが、2017年3月1日時点で、まだ5.9人/台に留まっている。この理由としてレノボは、予算が少ない、教員の低いITCスキル、メンテナンスの複雑さなどを挙げた。
その一方で、子どもたちの未来は、グローバル化や多様化、超高齢/少子化、ARやVRをはじめとしたニューメディア社会、コンピューティング/コネクテッド社会、AI/自律運転/ロボットなどの社会環境に取り囲まれ、そのなかにおいてICTの活用能力や課題解決能力、情報収集能力、コミュニケーション能力、企画発想力や創造性が求められる。
そういったことを踏まえ、学校におけるPCの導入状況をいち早く改善し、今の日本の教室の姿を変えていく必要があるとし、レノボではICTを利用した学習効果を提唱するとともに、新製品のクラウド化がもたらすコスト削減と容易な管理を訴求していきたいとした。
私はレノボの目標について何か言いたい訳ではありません。それどころか、この発表を知って、非常に興味深いな、と感じました。そうした点で、今回の文章では何か特定の誰かや団体を批判したい訳ではないことをご理解いただけると助かります。
「児童生徒3.6人に1台のコンピュータ」は必要なのか。
前述の記事では、2017年3月1日時点で「5.9人/台に留まっている」とあります。ここでふと思ったのは、
大切なのは箱の絶対数を増やすことなのか。
ということです。
もちろん1人に1台、自分のコンピュータがあることは理想かもしれません。ただ、例えば学校に「自分専用のコンピュータ」がある必要があるのか、というと、私は必ずしもそうは感じてはいません。屁理屈になるかもしれませんが、例えば全生徒数1,200名の学校に1,200台のPCがある必要はないと思うのです(目標は3.6人/台なので、この場合333台が目標ということになりますが)。何故なら、1,200人が同時にPCを使う状況は現時点ではない、と思っているからです。
各学年、各クラス毎にPCを使う授業の時間帯は別々でしょう。であれば、その時必要な生徒数だけPCがあれば良いと思うのです。
追記:2018年3月14日 14:00 更新
文科省の推し進める「児童生徒3.6人に1台のコンピュータ」の認識が私の中で間違っていたので、一旦非公開にしていました。4年前になりますが、2014年に文部科学省が出した資料によると、
●教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数 3.6人
①コンピュータ教室40台
②各普通教室1台、特別教室6台
③設置場所を限定しない可動式コンピュータ 40台
が「3.6人に1台」の定義のようです。小中高、地域によっても生徒数は違うと思いますが、これをベースにすると、ここで私が書いた文章も少し勘違いが混じってしまうな、と。
文科省は、新指導要領の実施を見据えて、2018年度以降の整備方針をまとめています。そこでは、児童生徒用コンピューターは「最終的には『1人1台専用』が望ましい」としながらも、当面は各クラスで1日1コマ分程度は活用できるよう、3クラスに1クラス分程度の配置(必要な時に1人1台環境)を求めています。
「当面は各クラスで1日1コマ分程度は活用できる」ことを目指すのであれば、この後に私が書く内容も「言われなくてもわかってる」と言われそうですが‥でも折角書いたので、改めて公開したいと思います。
「児童生徒1人に1つのアカウント」で「どこでも自分の勉強が出来る」ことが大切だと思う。
生徒の数だけコンピュータを、と考えると、なかなか導入に踏み切れない学校もあると思います。けれど、児童生徒1人に1つのアカウントを目指すのであれば、そこまで難しくありません。
そして、その考え方は今後生徒にとっても活きてくると思っています。何故なら、
大切なのはPCではなく、いつでもどこでも、自分のアカウントさえあれば仕事も勉強も出来る
という意識を持てることは、これからの社会において非常に大きなことだと思うからです。
PCが大切なのであれば、そのPCがなければ何も出来なくなります。けれど、アカウントがあればどこでも、また自分のスマホからでもやろうと思えば出来る、という意識が生まれれば、PCにこだわる必要がなくなります。PCは自分の目的を達成するための道具に過ぎず、それはどの道具であっても構わないからです。
「とにかくコンピュータの数を増やそう」と考えて、今までなかなか進まなかったのではないか。
コンピュータの絶対数を増やすことを目標にすると、様々な問題が出てきます。学校がすべてを導入するのであれば、かなりのコストがかかりますし、失敗も出来なくなります。一度導入したシステムを止める、変える、ということは難しくなってくるからです。後には無駄に残されて使われなくなったコンピュータルームだけが残ります。
どんな端末であっても、結局使い手がきちんと使えないと、活かせないと無駄なのは、私の学生の頃から学校に豪華なPCルームがあったのに、結局使ったのは夏場にその部屋だけクーラー効いてるからそこで世界史の授業で「薔薇の名前」のビデオ見た時だけだったとこからして長年の課題ではある。
— おふぃすかぶ.jp (@OfficeKabu) March 8, 2018
かといって、全生徒に学校側が指定したコンピュータの購入をお願いする、というのもまた難しいと思います。生徒、父兄の負担も大きくなりますし、それだけ投資しておいて大した授業も教育もなされないのであれば、当然反発も多く生まれるでしょう。また、生徒が家に忘れてきた途端に授業が成り立たなくなります。そして、毎年、新しい学生が入学するたびに、新たに何百台というコンピュータがまた購入されることになります。
だから、最も大変なのは導入担当者なんだろうな、と思う。学生や父兄からだけでなく、同僚や上司からも色々な声が出てくるだろうし、少しでも何かミスすれば叩かれる訳で、通常業務と兼任で全く一から理想のもの作れ、と言われても(知識あったとしても)私ならやりたくない。
— おふぃすかぶ.jp (@OfficeKabu) March 8, 2018
そして、購入されたコンピュータが卒業後そのまま使われるか、と言われると難しいかな、と思っています。
学校側が教育において同時に必要とされる最低限の数のコンピュータを導入する。
学校側がICT教育において、同時に必要とされる最低限の数のコンピュータを導入。同時に全生徒にアカウントを提供。その上で、アカウントの重要性とその守り方(セキュリティの意識)をしっかり教える。
最近は若い方に限らず、年配の方でも自分のアカウントに対する意識が薄く、乗っ取られたり、安易なパスワードを設定したり、二段階認証すら設定していなかったり、といったセキュリティ意識の薄さが目立っています。またSNS上での安易な言動で炎上する人も減りません。全てはアカウントに対する意識が薄いことにあると思っています。
学校で教える際には自分のアカウントの大切さと、セキュリティの意識をしっかりと持たせる。侵入されるとどういうことになるのか。どれほど大切なものなのか、そのアカウントを使えば、他人が自分になりすますことも出来てしまうという危険性を、その防衛方法とともにしっかり理解してもらう。
そうしたことを考えた時、Chromebookというのは導入において非常に便利なのかな、と思っています。何故なら、Chromebookにおいては、その主体はPC本体ではなくGoogleアカウントにあるからです。Googleアカウントさえあれば、どのChromebookでも、いえ、他のOSでも、スマホでも、自分の環境を再現できてしまうからです。
ある特定のコンピュータに依存する必要がなくなります。授業において、とりあえず学校にあるコンピュータのどれを使っても良い。学校側のスキルと方針によっては、各自のスマホからのサインインを許可しても良いでしょう。
https://resemom.jp/article/2018/01/18/42381.html
個人端末を授業に持ち込むため、東京都はモデル校10校を選定し、2018年度からBYOD(Bring your own device、個人の端末を持ち込んで授業や仕事で利用すること)実現に向けたWi-Fi環境整備を行う予定。
最近ではこのBYODも検討されているようですね。これが更に「BYOA(ただしこの場合は Bring your own account、個人のアカウントを持ち込んで授業や仕事で利用すること)」にも繋がっていけば面白いな、と思います。
注:BYOA自体は既にIT用語として存在しています。→BYOAとは – IT用語辞典 Weblio辞書
(Bring Your Own Access, Bring Your Own Application, Bring Your Own App など)
もちろん最終的には1人1台の環境が出来れば良いな、と思っています。
学生生活というのは小学校から高校まで、合わせて12年です。小学生にアカウントの話をするのは難しいかもしれません。そういう意味では、小学校と高校では導入の方針は変わってくるとは思います。そう考えると、私の「コンピュータの絶対数より、1人1アカウントを優先」は全てにおいて有効だとは思いません。
ただ、Chromebookに限らず、ある特定のOSやコンピュータに依存しなければ教育が出来ない、というのは、学校側も生徒・父兄側にもリスクもコストも大きくて、なかなか難しいと思うのです。実際、現実問題として各家庭に1人1台のコンピュータがあるわけではありません。
実際、教育の現場で教えられることって、限りがあると思うのです。あれもこれも、と何もかもやろうとするから失敗するし、なかなか実現しないのではないか、と思うのです。
であれば、まずはどのOS、端末でも、導入しやすいところから入れば良いと思います。ただ、その際にそのコンピュータにこだわるのではなく、そのアカウントがあれば出来るんだよ、という環境を作ることが、リスクやコストを考えても、より普及させやすい第一歩なんじゃないかなぁ、と思っています。