エレコム株式会社が2022年1月下旬より、“ Works With Chromebook ”認定を取得したコンパクトキーボード2種(USB-C、Bluetooth)を発表、発売しました。既にAmazonでも販売が始まっており、発表初日から一部では話題、更に国内でもお馴染みのChromebookユーザーも続々と購入されているようです。
*Bluetoothモデルは文章作成時点で一時的に「1〜2ヶ月で発送」まで伸びていたくらいの売れ行きだった模様(セラー販売なら若干まだあるようです)
で、私は発表日(25日)に知り、Amazon販売されていることも見つけていながらも、完全に流れに乗り遅れてしまいましたので、今回は単純にこのエレコムのキーボードの話、というよりも「国内向け日本語キーボード」についてちょっと思ったことを書いてみようと思います。
キーボードの付いている「ノートPC」であるChromebookに外付けキーボードが必要なのか。
元々国内外を見渡しても、Chromebook用の外付けのキーボードというのはほとんどラインナップ自体がありませんでした。他OS用ですと、元々のユーザー数も多い上に、デスクトップPC等もありますので、プロ仕様のかなりこだわったキーボードなどもあり、私もそうしたものを愛用していたりするのですが、Chromebookの場合は基本が「ノートPC」であり「低価格であることが魅力(の一つ)」ということもあり、なかなかニーズ自体もなかったのかもしれません。
一部企業向け等で使われていたChromeboxなどでのニーズがあったとはいえ、それ以外ではほぼなかった、というのも確かです。
そんな中での国内向けのキーボードをエレコムが出す、という話です。まぁよく企画通ったな、という気もしますが、それだけ学校で普及し始め、またこのご時世で再び自宅でのリモート、オンライン需要のニーズも高まってきていることもあり、今回の発売に至ったのかな、という気もします。
ただ、ここまで書いてきたような理由で、
「ノートPC」であるChromebookに外付けキーボードなんているの?
と思われる方も多いのではないか、と思うのです。余程キータッチに拘るのであれば別ですが、ここまで話したようなニーズであれば、そうしたこともなさそうです。
ただ、私はこれに関しては「大いにアリ」「むしろもっと推し進めてほしい」とすら思っているくらいです。
それは姿勢の問題なんですね。
世の中のPCの主流が、持ち運びや取り回しが楽で場所を選ばないラップトップPCに変わってきました。それ自体は良いと思うのですが、心配なのはラップトップPCは従来のデスクトップPCに比べて、画面を見下ろす姿勢で長時間作業することが増えてきます。また、画面自体も(通常の液晶に比べて)小さいので、視線に関しても、より狭い範囲に目を固定して凝視する、という状態が続きます。
これ、どういうことか、というと、頭の後ろ、目の動きを支える筋肉や、非常に重い頭を支える首、更に同じような姿勢で長時間作業することで固定される肩周り、すべてに負担がかかってきてしまうんです。簡単にいえば固まって柔軟性がなくなってしまう。なくなるとどうなるか、衝撃を受け止めきれなくなって、負荷がかかり、それが頭痛など様々な症状を生むことになります。
えっ?私は何十年も使ってきてるけど、全然そんなことないよ。
という人ももちろんいると思います。誰もがなるわけではありません。それは人それぞれの生活スタイルや骨格、筋肉の付き方が違うからです。なる人もいればならない人もいる。もしかしたら9割方の人はならないかもしれない。ただ、あなたが残りの1割になる可能性もあるのです。実際私がそうでした。30代まではまったく気にしたこともありませんでした。それが40を過ぎて、突然現れ始め、今では毎週運動療法に通っています。
で、何が言いたいか、というと、こういうのって子どものときからの習慣も大切だ、ということなんですね。子どもの頃、若い頃はまだ体に柔軟性があるので、こうした影響って受けにくいし気にならないと思うんです(それでも私は高校卒業後、腰椎椎間板ヘルニアになって、当時なかなか治らず、授業も座っていられず休みがちになった)。
こういうのって、近視とかと同じで、実際に自分に影響が出てからでないと実感沸かないと思うんだよ。私だって40過ぎるまで「自分には無関係」だと思ってたし、とんでもねぇ姿勢でノートPC普通に使ってたしね。それでも問題ない人ももちろん多いんだろうけど。
— おふぃすかぶ.jp (@OfficeKabu) January 31, 2022
今は学生の頃からノートPCやスマートフォンを普通に使います。デジタルネイティブといえば聞こえは良いですが、要は私のような40代の(10代の頃からのPCマニア)おっさんとは比べ物にならないくらいに、そうした身体的な負担に晒され続けるわけです。そして、人間の身体の構造というのは、たった10年20年で適応されるわけではありません。だからこそ、家庭にChromebook(やWindows PCでもiPadでも良いですが)が配布されるようになっても、その部分は気をつけてほしいな、と思うのです。
さて、思い切り前置きが長くなりましたが、そんなときに外付けのキーボードです。ノートPCをよく使われる方はラップトップスタンド等を使われているかもしれません。こうしたスタンドによって液晶の高さが上がるので、多少首の負担は軽減します。ただ、悩ましいのは、キーボードの高さも上がってしまうので、当然作業はしづらくなるわけです。そこで考えられるのが、
自宅などではスタンドで液晶の高さを上げつつ、外付けキーボードとマウスを使う
ということです。ただ、これが今までは国内では製品自体がなかった。それが今回、エレコムが出してきてくれたのは、昨今のニーズの高まりもあったのかもしれませんが、とても評価したいと思っています。
懸念される“ Works With Chromebook ”認定の縛り。
今回の製品も“ Works With Chromebook ”認定の製品ということが歌われています。規格の細かい部分については分かりませんが、
“ Works With Chromebook ”とは、Google が提供する Chrome OS を搭載したパソコンである“ Chromebook ”に対して、サードパーティーが製造した周辺機器(アクセサリー)類のために用意された対応認定プログラムおよびロゴの名称です。
とのこと。これはとても良いことなのかもしれませんが、こと日本語環境においては、現時点では足かせになっている部分もあるのではないか、と考えています。それが、キーの配列のバランスです。
学校で導入されているChromebook、というと、液晶サイズ10.1″〜11.6″のモデルが多いのではないでしょうか。これは学生が持ち運ぶことを考えると仕方ないのですが、その結果犠牲になっている部分があります。それがキーボードです。
こちらは国内では未だに人気のある、LenovoのIdeaPad Duet Chromebookです。写真にもあるように、多くの日本語配列(JISかな配列)のキーボードでは、特に右側、Enterキー周りがどうしても窮屈になってしまっています。
これは単に10.1″のモデルだから、と言えるのかもしれませんが、英語(US配列)ではこうしたことはあまり見られません。そして、2枚目の写真のように、これが14″のモデルでも、どこかキーのバランスが不自然なモデルが多々見られます。これは、
英語(US配列)のキーボードの型をそのまま他言語KB用にも流用しているから
なんですね。
なので、英語(US配列)ではバランスが取れていても、それが他言語(特にキー数も違う)のKBだと位置や大きさのバランスが崩れてきてしまうのです。
で、今回のエレコムのキーボードです。これは私はまだ購入できていないのですが、既に購入された方のツイートを見てみると、
想像通りというか何というか、やっぱエンター、バックスペースが幅がなくて使いづらい。せっかくの外付けキーボードだから、ここは確保してほしかったかなぁ pic.twitter.com/VGI1GgBNy8
— へれん(おむらまさひで) (@Helen_Tech) January 28, 2022
今回エレコムは、英語(US配列)のキーボードを元に作ったのではなく、“ Works With Chromebook ”認定をベースに一から日本語キーボードを作ったはずなんです。実際に今回のリリースページを眺めてみても、
- 本体サイズを一般的なフルキーボードの約80%以下に抑えたコンパクト設計ながら、タイピングが快適に行える19mmピッチのキーを採用しています。
- キートップにはスタイリッシュで見やすく、Chromebook のデザインにマッチするオリジナルフォントを使用しています。
など、今回の製品に合わせて設計していることがわかります。それでもこういう部分は従来の日本語キーボードモデルで散々指摘されてきていたクセ、特徴をそのまま踏襲してしまっているんです。
私はこれ、「今回の製品開発担当者が普段日本語キーボードを使ってないんじゃないか」「テンキーは分かるが、それなら何故エンターキー周りをこうしてきたのか、話を聞いてみたい」と当初は書いていたのですが、少し考えを改めました。それが、先程から触れている、“ Works With Chromebook ”認定です。
数年前、この話をしたときには既存のChromebookユーザーからも笑われてしまったり、「そんなことあるわけないじゃん」と結構言われたのですが、GoogleのChromebookは特に昨今は教育市場向けに多く展開していることもあり、ベースとなるハードウェア構成等にある程度一定の規格(仕様)が定められています。
なので、各メーカーが色々なモデルを出しているように見えながらも、実際にはメーカーが違って色が違うだけでほぼ似たようなスペック、外観のモデルが多くなっています。最近で言えばLenovo IdeaPad DuetとASUS Chromebook Detachable CM3なども同じですね。教育市場向けモデルであれば、ほぼ同じスペック、コンバーチブルでカメラが2つついていて、タッチ対応でサイズと重さが似ていて耐衝撃耐水性に優れて、インターフェースの一もほぼ同じ、というような感じです。
なので、Chromebookでは一部を除くと、ほぼ特殊なモデルは出てきません。たまに出てくることもあるので絶対ではないのですが、それらはGoogleが新しい機能等を考えていて試験的に導入を想定されているためのモデルであったり、メーカーがかなり強力にプッシュしてGoogle側と交渉して規格自体を変えた場合に限ります。
最近でいえば、富士通が出したFMV Chromebookにおけるキーボードがそれに当たります。
Chromebookは、Windows PCとは異なり、仕様が細かく定義されている。キーボードに関しても同様で、Googleから仕様が定められている。だが、FCCLでは、キートップの文字や、カーソルキーの配置などについてGoogleと交渉。見やすい文字をキートップに入れるとともに、カーソルキーは同社がWindows PCで採用している逆T字型の配置とし、Fラインと呼ばれるFCCL独自のデザインも採用した。
つまり、キーボード一つとっても、Googleの仕様が定められていて、そこから変更を加える際にはそれなりに交渉が必要なわけです。で、これが世界的にメインの市場ではない日本においては、足かせになっているのではないか、と考えられるのです。というのは、あくまで私の予想に過ぎないのですが、この「Googleの仕様」、恐らく
本国(米国)Googleの仕様
だと思うんです。あくまでその仕様をベースに、海外向けモデルを作っているのではないか、と。つまりキーボードも英語(US配列)のキー仕様に則ったまま日本語(JISかな配列)のキーをそこに当てはめているのではないか、と思うのです。それが、先程挙げたような各メーカーの日本語キーボードモデルの、少し不自然なキーバランスになってしまっているのではないか、と思っています。
で、ここで出てくるのが、先程の“ Works With Chromebook ”認定です。これもあくまで
本国(米国)Googleの仕様
に基づいた認定なのではないか、と。
そうなると、この認定に沿って作られた日本語キーボードは、今回のエレコムの製品のように、折角テンキーまで加えて、しかも全体のサイズバランスまで調整しながらも、どうしても「あと一歩惜しい」ツメの甘い製品にならざるを得ないのかもしれないな、と感じています。
これが、メーカーが「究極のタイピング体験」などと謳うモデルも中にはありながら、日本語キーボードモデルだとそれが感じづらい微妙なキーボードになってしまう原因の一つになってしまっているのではないか、と感じています。
キーボードの使い勝手もスペックです。より幅広いニーズに応えられるくらいシェアが伸びると良いですね。
ということで、雑感の割に長くなってしまった今回の文章ですが、繰り返しますがあくまで私の意見、感覚に過ぎません。実際にはそんなことはなく、各メーカーこだわって今のキーバランスにしているのかもしれませんが、今の所私が個人的に「これは良かった」と思える日本語キーボード搭載のChromebook(個人向け)が前述のFMV Chromebookくらいしかすぐには思い浮かばないことを考えると、
こうしたキーボード、入力デバイスにまでこだわったモデルが出てくるようになるのは、国内でももう少しシェアが伸びてこないと難しいのかもしれないな、と思います。
「Chromebookは安さが唯一の魅力であって、キーボードなんて打てれば何でも良い。むしろそんなところに拘らずに、手軽に買える安さを追求してほしい。」
というのも確かに一つの意見ではあると思うのですが、安ければ何でも手を抜いて良い、ということではありません。
中にはChromebookの使い勝手に魅力を感じて、普段の入力デバイスとして重宝している人もいます。そして、それを重視する人も。もちろんプロセッサーやメモリ容量などの数値に見える部分のハイスペックが理解されにくいように、キーボードなどは更に理解が得られにくいかもしれません。
ただ、今後はこうした幅広いニーズに応えられるくらいに、国内でもChromebookのラインナップ(単なるモデル数ではなく、用途に応じたバリエーション)が充実して、意識も変わってくると良いな、と願っています。