先日、日本国内を一つの刺激的かつ衝撃的な話題が駆け巡りました。それが、
富士通が国内初となる小学生向けに設計・開発したノートパソコン、はじめての「じぶん」パソコンです。
若干炎上気味なネタになりかけていたのですが、私も発表から色々とTwitter上で呟いていました。ただ、その中で僅かではあるのですが、このパソコンに対して好意的な意見も目にするようになりました。
また、この話題に際して嬉しいことにChromebookについても結構取り上げられることも多く、Chromebook好きとしては嬉しかったのですが、ここでふと思ったのです。
はじめての「じぶん」パソコンが理解できない人は、もしかしたらChromebookの最新の動向も理解しがたいかもしれない
と。あ、これ、別に「私は前からそう思ってました」といった上から目線的な話ではなく、先程取り上げた「ARMからx86へと変わった新生Samsung Chromebook Plus V2から見る、今後のPlusとProの方向性。」という文章に絡めてふと感じたことなので、
妄想や思い込みもだいぶ入っていると思いますが、興味のある方は是非お付き合いください。
教育の現場は私たち個人ユーザーとは別の論理で動いている。求められているものも全く違う。
先程のはじめての「じぶん」パソコンに絡めて、少し話題になったツイートがあります。
…もうね、高校生なのにね、パソコンの扱いがものすごく荒いんですよ。ベッドの上に放り投げたりする。テキトーに持ってるから平気で廊下に落下させたりする。で、常に10台ぐらいの修理要請が溜まってる状態で、しかも保護者の苦情が凄いので、教員や事務職員の端末保守まで後回しになる。
— タクラミックス (@takuramix) 2018年6月13日
防水と耐荷重性を考えるとこの値段は妥当ですね。
スペック的にはウンコだけど、小学生とか中高生みたいに物を上手く持てずにぽこじゃか落としますし、丁寧に使えと言ってそんな出木杉くんみたいに丁寧に使う子供は少ないですからね。
俺なら落として液晶割るか飲み物溢して即オシャカにしてますわ。— 出落ちはたしなみのDNA (@DNAtypeR) 2018年6月13日
ちょっと長いのでその中で今回私が書きたいことに絞って貼らせて頂きました。なかなか凄い現状(そして現場)です。もちろんすべての学校がこういう状況というわけではないと思いますし、多少大げさな部分もあるのかもしれません。ただ、私、こうした例充分すぎるほどあると思っています。
さて。日本の教育市場におけるChromebookの話に入ります。幾つかの教育関係のセミナーに参加して、導入担当者や取扱店関係者、メーカーの方々とも色々お話する機会に最近は恵まれているのですが、そこでも同種の話はよく耳にします。
ちなみに教育市場向けモデルって何が人気があると思いますか?(もちろん各メーカー様々なモデルがありますので、大体の印象で構いません)
軽くて小さくて持ち運びも便利なASUS Chromebook Flip C101PA?
確かに前モデルC100PAの頃から、このタイプは導入希望の声が多かったそうです。ただ、最近は少し状況が変わってきているそうです。それが、
やはり耐衝撃・耐水性のあるモデルほぼ一択
なのだそうです。一度C101PA(もしくはC100PA)を導入しながら、「でも今回はC213NAにしたい」という声が多いとのこと。これは日本エイサーの日本展開モデルがほぼこの種の耐衝撃性・耐水性に優れたモデルばかりを積極的に展開していることからも見えてきます。
もしあなたが学生だったらごめんなさい。失礼を承知で書かせていただくと、
学生は私たち大人が想像するよりも遥かによく落とすし、よく零すし、丁寧に扱わないんです。実際、いま販売側が一番頭を悩ませているのが、例えばC101PAであれば「次から次へと落として割れたと修理に出してくるので、正直追いつかないしコストに見合わない」ということだそうです。耐衝撃性のある保護ケースも一緒に販売したほうが良いのではないか、という案も出ているくらい、けれど、ケースに入れろと言ってもまったく聞かないという状況も多いとか。
さて。ここで冒頭のはじめての「じぶん」パソコンです。何となく感覚が掴めてきましたでしょうか?教育現場においては、私たちが求めるような要素よりも遥かに重要なことがあるんです。ある意味死活問題。そして、(もちろん様々な内部の事情や癒着だなんだと言いたい方もいらっしゃるでしょうが)富士通が何だかんだ言っても日本の教育市場で大きな勢力を持ってきた、そしてそうしたニーズを掴んでいる理由。それが教育市場独特の論理を肌感覚で掴んでいるか、ということだと思っています。
…まぁ、子供の使い方ってメチャクチャ荒くて、平気で投げるわ落とすわ、ジュースこぼしたりもするんですよ。だからね、そういう事を想定した機種を選んで、保守のコストも上乗せしなきゃ利益なんて出ないんですよ。
— タクラミックス (@takuramix) 2018年6月13日
Chromebookが、Googleが迷走している?そもそも個人ユーザーなんて見てもいないんです。
ちょっと挑発気味な文章ですが、別にあなたに向けて言っている訳ではなく、自虐も入ってます。そんなものなんです。
ただ、ここ最近の動きが個人から見ても要求に合致するようなものが多いので個人ユーザーからも期待されたり求められたりしている訳ですが、多分たまたま視点が一時的に重なっただけで、Androidとの融合とかその辺も実はまったく考えてない可能性もあるかな、と思ってます。
— おふぃすかぶ.jp (@OfficeKabu) 2018年6月13日
そもそもChromebookが米国の教育市場において6割近いシェアを取っているとはいえ、米国市場全体で6割のシェアを取っている訳では決してないのと同じことです。日本の教育市場において非常に大きなシェアを取っている類のPCが必ずしも日本全体のPC市場でも大きなシェアを取っているとは限らないですよね。富士通のはじめての「じぶん」パソコンと同じです。富士通は教育市場ではシェアが大きいですが、富士通の教育モデルが日本のPC市場を席巻している訳ではありません。
その上で、前回ちょっと考えがまとまらなかったSamsungの新モデル、Chromebook Plus V2を眺めてみましょう。何故こういうスペックになったのか。なぜOP1をやめてx86にし、厚みを増し(13.9mm→16.0-17.78mm)、また増量(1.07kg→1.32kg)したのか。
Chromebook plusは割と挑戦的な仕様だったのに、教育現場では割と不評だったのではないかと推測します。解像度高すぎ、動画コンテンツに合わない、構造的に弱い、電池が持たない、知らんけどそういうのがあって既存のノートPC的に作り直したのかなと。増加分300gが何に使われてるかが鍵でしょう。
— Jiro@Jota+開発 (@jiro_aqua) 2018年6月15日
彼らの販路ではAndroid対応があまり重視されていない、ということなんでしょうね。https://t.co/KTzT3L2Q2c
— Jiro@Jota+開発 (@jiro_aqua) 2018年6月15日
個人ユーザーの私たちから見れば「Androidアプリ対応が遅れたから」とも言えますし、逆に「なぜAndroidアプリをもっと重視しない」といった疑問から、これらの動きが時代とは逆行するような方向にも見え、人によっては迷走感すら覚えられるかもしれませんが、これらもすべて米国教育市場の論理と需要で動いているからなんです。
別にGoogleからしたら、ChromebookユーザーにChromebookでミリシタやってもらいたい訳でも
動画思う存分に見たり編集したり、ペンタブレットの代わりにしてもらいたかったりしたいわけじゃまったくないんです。米国の教育市場で求められていることを基準に考えているだけなんですね。だから現実問題としてSamsungはChromebookに関しては米国事業部が独自に動いているだけであって、海外への展開なんて現時点ではまったく考えていないのだと思います。
その視点で考えた時、従来のSamsung Chromebook Plusでは「米国の教育市場が求めるレベルに対して」剛性に不安があった。そして傷が付きやすかった、キーボードが若干打ちづらかった、思ったほどAndroidアプリを活用する需要とアプリに要求するスペックが高くなかった。むしろより耐水性(今回はキーボードが耐水仕様になっています)であったり、より従来のノートパソコンに近いような用途をする際の処理速度等々に対する要求が高かった。
そういうことなのかなぁ、と思います。
教育市場の求めるものも2つに分かれてきたのかな、と感じています。
「Chromebookはその安さが魅力であり、だから米国市場においてシェアを取れた」
確かにその通りだと思います。
「だから最近のChromebookは調子に乗って高いモデルを出しているが、それは市場における優位性と魅力をスポイルすることになる」
分からなくはないですし、私もそういう気持ちが無いわけではありませんが、ここはもう少し考えてみても良いのかな、と思います。
導入においては2つのパターンがあると思うんです。
- とにかく導入時のコストを安く抑え、また故障時には安く新品と買い換えてしまえば良い。
これが一つ。もちろんこの場合、巷で言われる「米国では$100、$200くらいで普通に売っている」Chromebookです。ただ、最近はそれだけではなくなってきたのではないか、と思っています。それが、もう一つのパターン。
- ある程度導入時のコストは上がっても良いので、耐衝撃性や耐水性も上げ、処理に関してもある程度の負荷に耐えられるモデル。故障時は自分で直す、もしくは修理に出す。
というものです。高価格帯のChromebookが出てきたのは、別に個人ユーザーが求めているからではなく、たまたま米国の教育市場などの大きな現場で求められているものを作ったら勝手に個人ユーザーが食いついてきたというほうが現実に近いのかな、と思っています。
もちろん、この場合には単に大きな米国の教育市場だけでなく、増えてきている法人向け市場の需要に応えている、とも考えられます(実際日本でも企業に好意的に迎えられているのが、ASUS C302CAの更にRAMを8GBにカスタマイズしたものだ、という辺りにも現れているのかな、と感じています)。
でも個人ユーザーは遠慮せず好き勝手に求め、自由に楽しみましょう。
そう考えると最近のハイスペックモデルやWindows、Linux対応といった話も、そうした想定している市場のことを考えた時に、その開発環境も整備したいというGoogleの思考が見て取れるのかな、と思いました。
なので、今後、低価格、シンプルなChromebookが日本だけでなく海外でどの程度出てくるか、は結局は米国の教育市場次第ということなのかな、と思っています。市場に需要があれば継続して出てくるでしょうし、そこに魅力を感じる個人ユーザーも付いてくる。
同様に、もし米国の教育市場がAndroidアプリへの完全対応を強く求めるようになったら、Googleは本気で対応に取り組むかもしれませんね。
新しいChromebookが出た時、そしてそれに疑問を感じた時、ちょっと距離を置いて考えてみる。
自分たちがターゲットではなく、今のChromebookのメインとなる市場で求められているものの姿がそこにはある。
それがもし自分と合うものだったら、楽しめばいい。買えばいい。手に入れればいい。
何度も出しますが、ちょうど、富士通のはじめての「じぶん」パソコンが出てきた時のような目で見てみると、今までとは違った印象が楽しめるかもしれません。冷静に見られるかもしれません。
そんなことを言ってしまうと身も蓋もありませんし、ちょっと悲しくもありますが、別にだからと言って私たち個人ユーザーが遠慮する必要なんてまったくないんです。好き勝手に自由に言いたい放題言って、好きに楽しめば、付き合えば良いと思っています。
せっかく自分と相性が合うのであれば、Chrome OS端末は非常に自由ですし、また軽さを感じさせてくれる、楽しいモデルです。そして私にとっては多くの方と出会わせてくれた相棒のような存在でもあります。
これからも自由に、あまり深く考えずに、気楽に付き合っていけたらいいな、と思っています。