ここ最近、革靴のお手入れについてのご質問をまた多く頂くようになりました。また、靴のお手入れと選び方が突然アクセス上位に来たり、と興味を持っていただいている方が増えてきている印象を持っています。とても嬉しいです。ただ、既にお気づきのように当ブログには既に200以上の革靴に関する文章がある(上に一部移行の過程で改行等がズレていて読みにくくなっている)ため、読むのに気力が要るのではないか、と思っています。
また、私も改めて文章にする際に「以前に書いた文章のほうがこの部分については分かりやすいな」と思うとそちらのリンクを貼ってしまうので、人によっては追加で別の文章を読むのが面倒に感じられるかもしれません。
そこで今回は一切他の文章へのリンクは行わず、最近になって革靴のケアに興味を持たれた方に向けて、まとめてみたいと思います。既に以前からお読みの方には新しい部分は特にないかもしれませんが、そういう方が家族や友人知人、同僚に勧める際に、教えやすいものにしたいな、と思っています。
今回のこちらの文章の内容と関連する動画をこの度公開しました。
「毎日のブラッシングとグローブでの磨き?」といまいちイメージが沸かない方にも参考にして頂けたら嬉しいです。
また、今後もこのブログとリンクさせる形で、YouTube動画でも発信していきたいと思いますので、チャンネル登録や評価もして頂けると嬉しいです。
最初にあなたと共有したい基本的なこと。靴磨きと靴のお手入れについて。
別に正式な定義の違いがあるわけではなく、あくまでこの文章を読み進めていただく上で、あなたと私の間で共有したい感覚(基本的なこと)程度に捉えてください。私が何か革靴のケアについて発信する時には、この二つの言葉(靴磨きと靴のお手入れ)を明確に分けています。
- 「靴磨き」は大切な時、ここぞという時のお化粧・メイクのようなもの。靴を美しく見せるため。毎日行う必要はありません。むしろ毎日行うと革靴にとっても負担が大きいと思います。
- 「靴のお手入れ」は日常生活における歯磨きや洗顔、下着の洗濯と同じ。靴を長持ちさせるため、また良い状態に保つために行います。これは毎日、その日履いた靴に対して行います。
こう考えて頂くと、革靴のケアにおいて必要なものが何か、というのが分かりやすくなるのではないか、と思います。そして、あなたも含めた革靴や靴磨きが趣味でない一般の方にとって必要なことは後者の靴のお手入れであり、歯磨きや洗顔、洗濯と同じように生活習慣の一つにして欲しいことです。
生活習慣にするには、手順が複雑だったり、時間がかかったり、特別な技術を習得しなければならないのでは、なかなか難しいと思います。毎日やれ、習慣にしろ、と言われて、ここまで読まれたあなたは既に盛り下がっているかもしれませんが、安心してください。非常にシンプルで簡単です。けれど、効果は非常に大きいです。
その方法について書く前に、もう一つ共有しておきたい感覚があります。それは、靴にとっての天敵についてです。
靴にとっての天敵。それは靴に付着した「埃」です。
私は20代前半から革靴が趣味で、今までに100足以上(それ以上は数えるのを止めました)の靴を買ってきました。何十万もする革靴をまとめて数足購入したこともありますし、1足1万円強の靴も好きです。靴磨きも好きですし、こうしてお手入れについて発信している以上、靴の保管と管理については完璧のように思われるかもしれません。
幻想です。
上の写真の革靴。私の特に好きな革靴の一つですが、数日放置しただけで既に靴の表面に埃がだいぶ付着していますう。持っていることすら忘れていたような靴ではなく、私の好きな、よく履く靴でさえ、こんな状況です。
でも日々の生活を思い浮かべて頂いてもお分かりのように、人間と埃は切っても切れない関係、共存しているようなものです。埃が一切ない部屋に暮らす、というのはほぼ無理ですし、毎朝モップがけ(ダスキン)をしても結構しっかり埃が出てきます。アレルギーをお持ちの方でもなければ、普段埃はそこまで神経質になる必要はありません。ただ、革靴にとっては大きく2つの意味で非常に手強い天敵になります。
- 物理的な悪影響。埃は革から油分を奪っていきます。人間の皮膚と違って、革靴は自ら脂を補う、生まれ変わることが出来ません。放置すると、どんどん表面が乾燥していきます。また埃と汚れ、そこに湿度が加わると、カビなど別の悩みも出てきます。
- 心理的な悪影響。片付けをする時、埃の積もったモノを片づけるのって、面倒になりませんか?何となく触りたくなかったり。革靴も同じです。表面に積もった埃は革靴をみすぼらしく見せてしまいます。それは持ち主にとって「何となくボロボロだな」という印象を与え、興味関心、愛着を薄れさせてしまいます。
一日履いた靴はそれだけでもダメージを受けていますが、実際には革靴自体は非常にタフです。革は水に弱いと言われますが、状態の悪い革靴が弱いだけであって、革自体は決して柔ではありません。そうした革靴を常に良い状態に保つために必要なことは非常にシンプルです。この天敵である「埃をマメに取り除き」、表面を整え、「存在自体を忘れない」ことです。
ここまでの感覚をあなたと共有出来た上で、この後で、ではどうするのかについて考えていきましょう。安心してください。非常にシンプルで簡単で、時間もかかりません。
革靴のお手入れは簡単です。「毎日、その日履いた靴にブラッシングとから拭きを行う」だけ。
さて。本題に入りましょう。以上の前提の価値観を共有してみると、革靴のケアについての基本が既に何となくお分かり頂けたのではないでしょうか。
「毎日」、その日履いた靴に「ブラッシング」と「から拭き」を行う
これだけです。この言葉についてちょっと補足すると、「毎日」というのは、単に私たちは毎日何かしらの靴を履くからです。ですので、一日の終わりに家に帰ってきたら、靴を脱ぎ捨てずに、その日履いた靴のお手入れをしてあげましょう。といっても、あなたも毎日お忙しいしお疲れだと思います。でも私は習慣にして欲しい、と言いました。ですので、方法は簡単です。そして時間も1分で終わります。
この毎日のお手入れに必要なケア用品は2つです。
- 埃を落とす、表面に刺激を与えるための「ブラッシング」に必要な靴用のブラシ。
- 表面を整える、革本来の艶を出してくれる「から拭き」に必要な磨き用のグローブ。
もしかしたら既にあなたの家の靴棚かどこかの上のちょっと手の届きにくい場所にある、ご大層に保管してあるたくさんのシューケア用品の中に既にこの2つはあるかもしれませんね。ちなみに2つめの磨き用グローブ、これは聞き慣れないかもしれません。その代わりにコットンなどの布をお持ちの方も多いかと思います。この辺りについてそれぞれ少し触れてみたいと思います。
埃を落とす、表面に刺激を与えるための「ブラッシング」に必要な「靴用のブラシ」。
皆さんお馴染みの靴ブラシです。多分お持ちだと思いますが、もしお持ちでなかったり、折角だからこの機会に新調しよう、という方のために、参考にこの辺りの商品を挙げておきます。ただ、正直、自分が磨きやすければ何でも構いません。
先ほどの写真のブラシはこのブリストルブラシかな。東急ハンズで500円程度で買いました。豚毛と馬毛の違いなど気になる方もいらっしゃると思いますが、靴磨きが趣味でもない限りどちらでも、何でも良いです。何故なら目的は表面の埃を落とすことだからです。
ただ、一点補足するとすれば、あまり小さいブラシはオススメ出来ません。一度にブラシ出来る面積が小さいので手間が多少かかって疲れちゃうのと、小さいのって意外と使いにくいので。ただ、この辺りはもしお店で買われるなら、実際に手に取って、一番持ちやすそう、毎日使いたくなるものを選んでみてください。ただ、お店に行かれる際には余計なモノを買わないように気を付けて下さい。必要な気がして欲しくなっちゃうんです、色々と。
あと、ブラシというと上記のようなブラシ(丸いタイプだけでなく長方形のものもありますが)を思い浮かべる方も多いのですが、これらは全く別の用途に用いるモノなので、間違って買わないようにしましょう。
さて、あとは毎日、その日履いた革靴の表面を満遍なくブラッシングするだけです。革に傷が付いてしまうのではないか、と非常に優しくブラッシングされる方もいらっしゃるのですが、あまり神経質にならなくて大丈夫です。傷付いたりしません。むしろ自分の髪の毛のブラッシングと同じような意識、感覚で行って頂ければ、と思います。あと、一点ついつい忘れがちな部分があります。
それがこの表面の革とコバと呼ばれるせり出した部分の間(隙間)の部分。この辺り、埃が溜まりやすい上に、縫い目などもありますので、歯磨きで歯周ポケット部分を磨く時と同じように少しブラシの縁の辺りで念入りにブラシをしてあげると良いと思います。
ここまでで片足10秒から15秒、両足やって30秒くらいでしょうか(勿論やりたければもっとじっくりやって下さい。ブラッシングは靴磨きが趣味の方でも結構疎かにしがちでササッと済ませてしまう方も多いので)。
続いて「から拭き(磨き上げ)」に入ります。
表面を整える、革本来の艶を出してくれる「から拭き」に必要な「磨き用のグローブ」
磨き用のグローブ、といってもピンと来ないかもしれません。こんなグローブです。
これも500円から高くても1,000円もしません。ただ、拘れば片面がセーム革だったりムートンだったり、というモノもあります。基本的には上記のようなモノで構いませんが、こういうお手入れで一番大事なのは気持ちです。毎日使いたい、と思えるモノというのは馬鹿になりません。使いたいなぁ、と思うモノがあれば、それを選んでみてください。
このグローブで先ほどブラッシングした革靴の表面を念入りに磨いてあげてください。特にクリームなどを使う必要はありません。ここまでで「クリーム要らないの?」「クリーナーは使わないの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。忘れていたわけではなく、
靴のお手入れにとって、基本的にクリームもクリーナーも全く不要です。
これらは「靴磨き」に入ります。そして、毎日のお手入れに使うと無駄になるだけでなく、革にとって悪影響を与えてしまうこともあります。この辺りは後半で触れたいと思います。
さて、何故「布」ではなく「グローブ」を薦めるのか。理由は簡単です。楽だからです。
グローブだと手を突っ込んで磨くだけなんです。力も入れやすいですし、グローブが外れてしまうこともない。非常に簡単なんです。
これが一般的な布だと、まずどうやって持って磨くか、という点があります。慣れればそこまで面倒ではないと思われるかもしれませんが、結構磨いてる途中で布がズレてしまったり、力を入れにくかったりするんです。
毎日の習慣にするにはなるべく面倒さを排除することが大切です。面倒だと続かないんです。
ここまでで2つ、揃いました。これで基本的に終了です。この2つを玄関先、下駄箱の上など帰ってきてすぐに手に取れる場所に置いておきましょう。決してご大層なシューケアセット用のケースなんかにしまっちゃダメです。ケースから取り出すひと手間が増えるだけで、人は面倒になっちゃうので。
ということで、この2つを使ってまずは1ヶ月間、
「毎日」、その日履いた靴に「ブラッシング」と「から拭き」
をしてみて下さい。毎日1分で構いません。1ヶ月も続けると、大きな変化が起きてきます。
1ヶ月続ける上でのアドバイス。疲れちゃったり忙しくてどうしてもやるのが面倒な日は・・。
1ヶ月のあいだには、仕事や日常が忙しくて、疲れ切ってしまって、ついつい面倒になっちゃう日もあると思います。もう靴脱いでさっさとベッドに潜り込みたい。そんな日もあるでしょう。
全然構いません。そういう日は素直に心と身体に従いましょう。
一日や二日やらなくても、革靴自体には大して悪影響はありません。繰り返しますが、革靴はそこまで柔ではありません。ただ、だから放置して良いか、というと、放置すると不思議なことにいつの間にか革靴はボロボロになっていきます。みすぼらしくなっていってしまうのです。
先ほど初めの方で挙げた革靴への2つの悪影響の内の1つ。心理的な悪影響。これ、実は結構大きいのです。これがあるので、私は「毎日」「習慣」と考えています。
その日履いた革靴を毎晩手に取って、例え1分間でも自分の手で触れ続ける。この一番の効果は実は、「今まで単なる履き捨てのモノに過ぎなかった靴が、気がついたら自分にとって身近なモノになる」ということなのです。今まで意識することすらなかった靴のことを意識するようになります。
意識するようになると、雑には扱わなくなります。粗末に扱わなくなります。そうなると、踵を踏んで履いたり、いい加減に脱ごうとしなくなります。また、靴を毎日見るようになるので、靴の小さな変化に気付くようにもなります。
革靴のケアにとってまず大切なことは、シューケア用品を揃えて念入りな靴磨きを気が向いた時に気合いを入れて行うことではなく、革靴がどこか面倒で遠い存在ではなく、親しみのある身近な存在として意識を向けてあげられるようになることなんですね。自分の革靴の変化に気付けるようになると、自然と今その革靴に何が必要なのか(乾燥してるのか、どこが傷んでいるのか、傷があるのか)考えるようになります。そうなってから初めて、その他のシューケア用品について考えても全く遅くはありません。まずはそこを目指しましょう。
ということで、毎日続けて欲しいのですが、前述のように疲れ切ったり、面倒になってしまった時のコツがあります。それは下駄箱にしまったり、脱ぎっぱなしにせず、こんなモノを用意して、その上に置いておくのです。
単なる厚紙(ダンボール紙)です。Amazonなんかで注文すると無駄に毎回入ってるやつですね。これ、1~2枚捨てずに残しておきましょう。で、この上に靴を置いて、玄関先の邪魔にならない場所に置いておくんです。
靴をそのまま部屋の床の上に置くのは抵抗があると思いますが、ダンボール一枚間にあるだけで気持ち的にだいぶ変わってくるのではないでしょうか。で、部屋に持ち込んでも良いですし、玄関先に置いておいても良い。で、翌日でも、入浴後でも気が向いた時にその靴を先ほどの1分ケアをしてあげて、それから下駄箱にしまいましょう。
これ、結構効果的(でお金もかからない)なので、試してみて欲しいな、と思います。
1ヶ月後、靴が身近になり始め、何となく靴の状態が気になり始めたら。
気がつけばあなたは自分の足もとが気になるようになってきます。歯磨きや洗顔と同じく、毎日やらないと落ち着かなくなってきたらしめたものです。ここで「よーし、張り切ってシューケア用品一式揃えちゃうぞ」と考えたくなるかもしれませんが、ちょっと待って下さい。まだそこまでしなくて良いです。急に張り切り出すと、力尽きるだけでなく、今まで1ヶ月続けてきた基本的なお手入れすら疎かになってしまう危険もあります。
とはいえ、我慢するのも身体に良くありません。そこで、ちょっとだけここに加えてみましょう。どれもより靴が身近になるモノばかり。意味を分かって使うには効果的なモノばかりです。ちょっと試してみてください。
ただし、予め言っておきます。面倒に感じたら、難しそうに感じたら、以下のケアもモノも不要です。ここまでの毎日1分間のお手入れだけで充分です。あくまで、ちょっとムラムラきはじめたら参照する程度の気持ちで眺めて見てください。
毎日の1分のお手入れに、もう10秒追加。変なモノを踏まなくなる「魔法のブラシ」。
あなたは自分の靴の靴底、見たことありますか?変なモノ踏んでませんか?意外と色々なもの踏んでるんです。変なモノ踏んだとき、何となく嫌な気分になりません?触りたくないし、取るのも面倒だし。
靴の基本的なお手入れとしてウェットティッシュや濡れタオルなどで靴底を拭き取ることをオススメする方もいるのですが、ウェットティッシュ、手が滑って直接指に付いちゃったら嫌ですよね。濡れタオル、雑巾でも良いのですが、グチャグチャな正体不明のものを拭き取った後、洗うのも、置いておくのも気分的に私ダメです(結構潔癖症かもしれません)。
ところが、意外と簡単なモノを加えるだけで靴底の掃除が楽になるだけでなく、気がつくと変なモノ踏まなくなります。それが上記の写真にある、靴底ブラシです。
タワシでも良いじゃないか、と思われるかもしれませんが、タワシってどっちが持つ面か考えたりしちゃうので、面倒なのです。とにかく面倒、気になる、などの要素は排除です。つまり靴底専用のブラシを別途用意しちゃうのです。
このブラシ、結構しっかりしたブラシでして、靴底ゴシゴシやるだけで靴底が綺麗になります。またしつこく貼り付いてるモノや、溝に詰まったモノは、この持ち手の先端の尖った部分で削り落とすことが出来ます。
1,000円弱ですし、最初に靴ブラシとグローブと一緒に揃えてしまっても良いかもしれません。先ほどの基本的な1分のお手入れの前に10秒弱。靴底のブラシを加えるだけです。
また、先ほど触れた「面倒で力尽きた日」にダンボールの上にとりあえず乗せておく際にも靴底だけはブラシしてから置く習慣を持っておくと、より室内に靴を置く精神的なハードルが下がるかもしれません。
靴底に意識が向くようになると、不思議なことに変なモノを踏む頻度が極端に減ってきます。個人的にオススメの一品です。
革靴を物理的にも心理的にも支えてくれる、反りを直し、見た目を変える「シューツリー」。
シューツリー、必要ですか?という質問をよく頂きます。必須です、と言いたいところですが、最初から張り切って買うのも少し気持ち的にハードルが高ければ、お手入れが習慣になってきた1ヶ月後辺りに考えてみて下さい。その頃には恐らく靴の反り返りが気になってくる頃だと思います。
靴には色々な部分に弱点のような箇所があります。その内の1つが靴が屈曲する際に出来るシワのある部分。ここは足に合ったサイズの靴を履かないとかなりダメージの大きい箇所でもあるのですが、そうしたことにも1ヶ月後に気付けるようになってくると良いなぁ、と思います。
シワの部分、一度切れてしまうと自分では直すことも出来ませんし、どんどん傷んできてしまいます。また、シワの部分は伸ばしておかないと、そこから傷みやすくなってしまうのですね。また、脱いだ直後、汗もしっかり吸い込んで、湿気も温度も高くなってしまっている時、靴は最も変形しやすくなります。
そこで、シワを伸ばしつつ、反りを直して本来の靴の姿に戻してくれるのがシューツリーです。よく汗を吸い取る、といった効果を挙げられる方もいらっしゃいますが、実際は大した効果はありません。
反り返りを直す、防ぐことを考えるのであれば、簡易的な格安のバネの付いたものでも全然構いません。それなら最初に購入するハードルも低いかもしれません。また、お持ちの靴全足分を揃える必要もありません。1つ用意して、その日履いた靴の中に、基本的な1分お手入れの後に入れておく。それで充分です。
シューツリーに関してはどれを選ぶのか、選択肢が多すぎて悩まれることが多いのではないかと思います。悩んだ時には、
気分で選んで下さい。
なぜわざわざ太字に赤線まで引いたかは、ここまでお読み頂いたあなたならお分かりかと思います。気分、とても大切なんです。「これ入れると格好いい気がする」「これ、なんかこの靴に合いそう」、そうした気持ちが結果として靴を身近な存在にしてくれます。
シューツリーも含めて、靴のお手入れに「しなければならない」「こうでなければならない」といった厳格なルールや正解は何もありません。悩んだ時には「自分の心が動くこと」を優先して下さい。
その上で、今回シューツリーを「心理的にも」と書いたのは、やはりシューツリーの入った靴って素敵なんです。なんというか、疲れ切ってクターッとなっていた自分の靴の背筋が伸びるというか、威風堂々とした姿になるというか、本来の元気な靴の姿になってくれるんですね。脱ぎ捨てられた靴って何となく頼りなげで、時にボロボロに見えてしまうのですが、シューツリーを一晩入れるだけでも、何となく靴が元気になる気がする。魅力が出てくるんです。そうした惚れ直すこともとても大切です。
あ、いま「惚れ直す」って言葉出したので、折角なので触れておくと、毎日のお手入れの際に、ブラッシングしながら、磨きながら、「いいね!綺麗になったね!」「うん、最高だね!」「お疲れさま!今日もありがとう!」などと口にしながら(恥ずかしければ心で思いながらでも構いません)行うと非常に効果的です。これ、試しにやってみて下さい。それくらい、感情って大切です。
もっと気軽に、マメに使おうよ。「撥水スプレー」はあなたの気持ちを楽にしてくれます。
室内の密閉された空間で使って、違った意味で気持ち良く(というかむしろ気持ち悪く)ならないように気を付けて下さいね。風通しの良い場所で、ベランダや外がオススメです。
撥水スプレー、一般的には防水スプレーと呼ばれている品物。何となく雨の日だけかける、もしくは一回かけて終わり、的な印象を持たれている方も多いのですが、これ、あくまで表面を毛羽立たせて薄く膜を作って弾きやすくするだけなので、数回履けば効果も落ちてきます。裏を返せばその程度なので、靴好きがたまに革への悪影響とか考えてあまり使わないこともあるのですが(つま先の鏡面仕上げ、ワックス仕上げをすると相性悪いのもありますが)、むしろマメに使って下さい。コツは「付いているのか分からないくらいの距離」で「全体にサラッと潜らせる程度」のライトな感じです。それで充分。その代わり、雨の時期はその都度、そうでないときにも10日~半月に1度程度はかけて問題ないです。
撥水スプレー、防水スプレーと言われますが、実際外を歩いていると様々な汚れが付着します。車の排気ガスを浴びたり、気がつくと表面には結構色々なモノが付着しやすいんです。そうした汚れも表面で弾きやすくしてくれるんですね。忘年会や新年会のシーズンに、(衣類にも使用可のものに限りますが)服や鞄などに吹き付けておくと、醤油やソースこぼされた時にショックが少なくて済むこともあります。あとは男性だと飛び散ったお小水とか。
ということで、付き合い方は「量より頻度」。一回の量は抑えめに(不安になるくらいで充分)。その代わり、小まめに活用しましょう。
ということで、世の中には様々な特殊効果もある(その分高い)撥水スプレーがあるのですが、日本が誇るアメダスで充分です。この量でこの価格。流石日本の足もとを昔から支えてきただけあって、どこでも買えて気軽に使える名品だと思います。あ、これも勿論好きなモノ選んで構わないんですけどね。
普段から撥水スプレーかけてると、靴の汚れを気にしながら歩かなくて良いですし、急な雨を心配する必要もなくなるので、気持ちが楽になります。気持ちが楽になると足もとも軽くなります。この気持ちが楽、「関心がない」とは違いますので、ご注意下さい。
なんとなく靴がくたびれてきたな、と感じたら。忘れがちな2つのポイント。
この部分もあくまでオプションです。今回、1回でお手入れについてまとめようと考えていますので。なので、最初から考える必要はありません。とりあえずサラッと流した上で、あとで思い出したときに読み返してみてください。
日々愛用しているあなたの靴。身近な存在として、日々意識してあげていることで、恐らく今までよりも長持ちしているのではないか、と思います。小さな変化に気付いてあげられることで、傷が小さい内から意識出来るので、結果として大事にならないんですね。とともに、歩き方も自然に変わってきます。また、足に合わないサイズの靴を履いていれば、そうしたことにも気付けるようになってきます。
そんな中で、あなたの靴。そろそろ元気が無くなってきたかもしれません。そんな時、ちょっと思い出してみて欲しいポイントが2つあります。まずはそこを試してみてください。それが、コバ周りと靴ひもです。
日々あなたの靴を守ってくれるバンパーのような存在であるコバ。それを補色してくれる「コバインキ」。
靴の主に前から両側面にかけて、少し突き出ている部分(靴底の部分ですね)。それがコバです。先ほどブラッシングでもコバ周りを念入りに、と書いたのを覚えているかもしれません。この部分、普段から歩いている中で、ぶつかったり、靴底自体が削れてくる中で、色が落ちてきます。
一番突き出している部分なので、結構目立つんです。ここの色を戻してあげると、見た目が一気に蘇ります。
コバインキには靴底の種類(革底か合成底か)によって種類が変わってきます(革底は水性、合成底は弾いてしまうので油性)。それぞれの靴のコバの色と種類に合わせてコバインキを持っておきましょう。
普段の1分のお手入れの際にも、このコバ周りと踵部分を軽くチェックしておきましょう。
あまり減りすぎていると見た目だけでなく、歩く際にも影響が出てきます。また、あまりに減りすぎていると踵やつま先だけの修理が難しくなります。早めに気付けばその分手頃な価格で補修も出来るからです。
コバの補色。必須ではありませんが、してあげるだけであなたの靴が買ったばかりのような表情を見せてくれるかもしれません。
消耗品なのに切れるまで忘れられがちな「靴ひも」。見た目が一気に蘇ります。
靴ひも、ちゃんと脱ぎ履きする際には毎回解いていますか?そのままでも脱ぎ履き出来るように適当に緩めに結んでませんか?靴ひもは飾りではありません。靴ひもはフィッティングや足の負担を大きく左右する大事な部分です。そのため、基本的には消耗品です。1~2ヶ月でも結構くたびれてきます。でも気付かれにくいんですね。
靴ひもは何かのついでに自分の靴の紐の長さ、色でまとめ買いしておきましょう。気がついた時に手元にないと、つい「またでいいや」ってなっちゃうんです。または一生来ません。
紐を替えてみると、結構皆さん驚かれるんです。思った以上に靴ひもってヨレヨレになってしまっているんです。それだけ頑張ってあなたの足の動きを支えてくれているんですね。小まめに替えてあげましょう。
最後に。靴クリームやクリーナーは不要なのか。
ここまで、一般的な靴磨きの定番品、必需品だと思われている靴クリームやクリーナーについてほぼ触れてきませんでした。なので、普段からよく聞かれます。要らないんですか?と。
あなたにとって、靴が身近な存在になってきたら、日頃の1分お手入れが習慣になったら、靴と相談(会話)しながら使ってあげてください。その時で充分です。靴クリームで出る艶は革本来の艶ではなく、一時的なクリーム自体の艶ではあるのですが、靴に艶が出ると、やはり気持ち良いですし、綺麗な靴は自信にも繋がります。但し、その際も塗りすぎないように。多くの方は基本的なケアをほとんどせずにクリームを塗りすぎて厚化粧になってしまっているんです。
冒頭で「靴磨き」と「靴のお手入れ」を分けたのには理由があります。もう一度先ほどの文章を載せておきます。
- 物理的な悪影響。埃は革から油分を奪っていきます。人間の皮膚と違って、革靴は自ら脂を補う、生まれ変わることが出来ません。放置すると、どんどん表面が乾燥していきます。また埃と汚れ、そこに湿度が加わると、カビなど別の悩みも出てきます。
- 心理的な悪影響。片付けをする時、埃の積もったモノを片づけるのって、面倒になりませんか?何となく触りたくなかったり。革靴も同じです。表面に積もった埃は革靴をみすぼらしく見せてしまいます。それは持ち主にとって「何となくボロボロだな」という印象を与え、興味関心、愛着を薄れさせてしまいます。
普段の自分の顔やお肌のケアを考えてみて下さい。多くの方が無意識にやられている「クリーナー&靴クリーム」の組み合わせって、顔に化粧品を塗り重ねて、時々クリーナーで無理矢理落として、また化粧品を塗り重ねているようなものなのです。
革に栄養、と皆さん言われますが、基本的にはそこまで栄養を加える必要ってないんです。多くの方の靴は、むしろ塗りすぎて詰まってしまって、皮膚呼吸が出来なくなっている、栄養過多の過食状態なんですね。
なので、まずはこの文章の前半で触れたブラシとグローブによる毎日1分間のお手入れを習慣にして下さい。その内、革の表面の状態に少しずつ気付くようになります。毎日接しているあなたにしか分からない、あなたと靴だけの感覚です。その時、何となく最近色が落ちてきて元気がなさそうだな、乾燥してきてる気がするな、と思ったら、その時に少し、クリームを加えてあげてください。その後はいつも以上に念入りなブラッシングとから拭き。
それで充分です。毎日しっかり接してきたあなたの靴であれば、きっとその愛情に応えてくれる筈です。
おわりに。膨大な情報の中で戸惑い、混乱して疲れてしまったあなたへ。
ここまでお読みくださりありがとうございます。なんと既に1万2千字です。お疲れさまでした。
あなたがどんなきっかけでこの文章に辿り着いたのか分かりませんが、ここまでの文章が、あなたの悩みを少しでも解消出来ていたら、と願っています。却って混乱してしまいましたか?
もし混乱したり、面倒に感じられたら、基本に戻ってください。色々書きましたが、基本はシンプルです。
「毎日」、その日履いた靴に「ブラッシング」と「から拭き」を行う
これだけです。このために必要なものはたった2つ。靴ブラシとグローブです。
それだけで充分です。他は要りません。何もしなくて構いません。
気負う必要もなければ、張り切る必要もありません。時には忙しかったり、辛かったり、疲れてしまって、靴なんかに構ってられない時もあると思います。その時は、そのことに集中してください。お仕事やプライベートに全力を傾けてください。一番大切なのは、あなたと、あなたの生活、そして家族や友人です。
脇目も振らず頑張らないといけないとき、というのはたくさん存在します。その時にはそれで良いんです。
そして、そうした諸々がふとひと息ついたとき、もし心に余裕があったら、その間も黙ってあなたの足もとを支えてくれた靴を手に取ってあげてください。少しで構いません。「ありがとう。お疲れさま。」と声をかけてあげてください。「これからもよろしく。」と。
そんな時、今回の文章を思い出してもらえたら嬉しいです。あなたのそんな日々の何かの力になれたのであれば、それはとても嬉しいことです。そして、もし不安になったり、分からないことがあったら、お気軽に声をかけてください。
人間は日々、歩き続ける生き物です。一歩一歩の歩みは小さくても、積み重ねるととても膨大なものになります。その足もとを死ぬまで支えてくれるのが靴です。靴は一生モノにはなれないかもしれませんが、靴のお手入れの方法は一度身につけてしまえば一生あなたの足もとを支えてくれます。
その上で、今よりも少しだけ、靴を好きになって貰えたら嬉しいです。