昨年春にこんな文章を書きました。
[0746-201504] 歌舞伎を知らないのはクラシックを聴かないのと同じで勿体ないと思うよ。私も知らないけど。
学位授与機構と同様、言いっ放しになりそうな危険もあったのですが、これがまた、ハマってしまったんです。12月から3ヶ月連続で観に行っています。
[かぶ] 0008-1512 初めて歌舞伎に行ってきた。緊張の先にあったのは、難しくも退屈でもない魅力的な世界でした。 – おふぃすかぶ.jp
[かぶ] 0028-1601 2回目の歌舞伎観劇。初春歌舞伎公演「通し狂言 小春穏沖津白浪」(国立劇場) – おふぃすかぶ.jp
歌舞伎などちょっとしたお出かけ関連はこちらで書こうと思っているのですが、思った以上にハマり、今月は歌舞伎座へ、さらに文楽デビューまでしてしまったので、改めて書いてみたいと思います。
歌舞伎の魅力。
歌舞伎ってユネスコの無形文化遺産に選ばれていることもあって、国が運営していると思っている人も結構いると思うのですが、その興行のほとんどを松竹という民間企業が手がけている民間ビジネスなんです。更に、きちんと利益を上げている。これって伝統芸能として凄いことだと思うのです。単に保護、守るためにファンは通っているわけではなく、(そうした気持ちは多少なりともあるにせよ)純粋な娯楽として楽しんでいるということです。
歌舞伎って聞いただけで難しそうな、古そうな、ご年配の方の老後の楽しみのようなイメージをもたれがちですが、確かに言葉は難しい。とはいえ元々は知識層の娯楽ではなく、大衆芸、町人達の楽しみだったわけです。普通の学の大してない平民が見て楽しんでいたものです。
日本語は明治に入って、また戦後と大きく全く別の言語として変わってしまったこともあり、今では古文どころか文語文すら読めなくなっています。そうした私たちにとっては当時の平民が楽しんでいた言葉でさえ分かりにくいのは仕方がないのだけれど、台詞の調子(リズム)が心地よい上に、あらすじに目を通しておけば何となく分かります。
眠くなればウトウトしても良いし(いびきは駄目)役者の衣裳ばかり眺めていても良い。激しい舞台の変化を追いかけても良い。何となくその世界に浸っていても良い。自由です。
そして、この歌舞伎、まだ3回しか観ていない私には偉そうなことは言えませんが、これから観れば観るほど益々私の中で歌舞伎に対する知識が深まっていって、益々面白くなるのではないか、というワクワクがあります。
冒頭の記事でも書きましたが、クラシック音楽だって同じです。何でも最初はよく分からんものがドッと押し寄せてきて訳も分からず終わりますが、それでも「何となく楽しかったな」というのがまた良いモノです。そして歌舞伎は歴史も長ければこれから先も続いていく娯楽です。
価格も大して高くはありません。私が国立劇場で観た2回は通し狂言だったのでそれなりにしましたが、それでも3千円ほどです。演目切り売りの一幕見席であれば千円ちょっとです。そういえば大学時代の友人はそれでよく観に行っていた、と言っていました。当時は全く興味を持たなかったのだけれど、あの頃から試しに観に行っていれば今頃もっと楽しめたのに、と残念。
とりあえず最初の一冊としてお薦めする歌舞伎の書籍。
歌舞伎の魅力については色々本が山のように出ているけれど、とりあえず私のようなタイプの人間が試しに、と一冊選ぶなら、以前から何度も紹介している成毛 眞さんの「ビジネスマンへの歌舞伎案内」(NHK出版新書446)を薦めます。書籍版、Kindle版ともにあるので、気楽に読めます。
雑誌ではPenが最近歌舞伎を特集した回がKindle版にもなっているので、その辺りも読んでみようかな、と思っています。
文楽の魅力。
なんて偉そうに書きましたが、私はまだ今月はじめて観たのでそんなもの書けません。
ただ、初心者として感じたのは「文楽?あの人形芝居でしょ?ちょっと難しくて退屈そう。」と歌舞伎以上にハードルが高かったのは確かです。
ところが私も妻も、もしかしたら歌舞伎以上にハマってしまったかもしれません。文楽にはハマってしまうタイプの人間がいるようですが、私たちもその例に漏れず。
もう歌舞伎以上によく分からないはずなのですが、人形が凄い。太夫の、三味線の、もうその全てが新鮮で、かつしっかり調和していて、これはまだほとんど観たことのない私にはどこを見て良いやら、けれどどこを観ても面白いのです。
勿論あらすじは予め目を通しておくことを薦めますが、これまたもっと若い頃から観ておけばよかったなぁ、と後悔。何故なら、ちょうど今回の文楽公演、八代 豊竹嶋大夫引退披露狂言だったのです。昨年七月に人間国宝の指定を受けたばかりの嶋大夫が引退。今回私たちはこの回のチケットを取ることが出来なかったので、結局生で聴くことが出来ませんでした。
文楽の豊竹嶋大夫さん引退へ 来年初め 人間国宝不在に:朝日新聞デジタル
歌舞伎と違って色々と経営面でも大変な文楽協会ですが、コアなファンが付いているのも確か。ようやくこの入り口を知った私たち夫婦にとってもこれから長くお世話になる楽しみであって欲しいと思っています。夏には大阪に文楽観に行くか。
とりあえず私たち夫婦が買った文楽に関する書籍。
ちなみにこちらも文楽については全く知識のなかった私たち夫婦。本を早速2冊買いました。
一冊は直木賞作家でもある三浦しをんさんの「あやつられ文楽鑑賞」(双葉文庫)。
三浦さんが何がきっかけで文楽に興味を持ち、ハマっていったのかの過程がないのは残念(ぜひ読みたかった)のですが、文楽初心者にその魅力が伝わるような軽妙なタッチのエッセイは非常に読みやすく、あっという間に二人とも読み切ったかと思ったら、「大阪行こう(夏は国立劇場ではお休みなので)」と。
もう一冊はドナルド・キーンさんが書かれた「能・文楽・歌舞伎」(講談社学術文庫)。
こちらは外国人(キーンさんは日本国籍を取得されましたが)の目から見たこれらの芸能を海外の人に非常に分かりやすく素直に伝えられた名作。民俗学的な視点なども織り交ぜつつ、平易な文章で語るこの本は、もし日本人が同じことをやろうとしてもなかなか出来ないと思いました。日本人よりもこれらの芸能をきちんと知り、見つめておられると感じます。
どちらもKindle版がないのが残念ですが、非常に興味深い内容なので是非どうぞ。
次の国立劇場での文楽は五月。歌舞伎座では三月に大歌舞伎。
もう毎月何かしら何処かしらで文楽や歌舞伎が観られるというのは幸せだと思います。とりあえず最近は国立劇場にお世話になることが増えてきたので「あぜくら会」に申し込みました。
文楽に関しては同じく五月に「社会人のための文楽鑑賞教室」が開催されるので、それから入っていくのも良いかもしれませんね。
今年も引き続き、これら素晴らしい娯楽を楽しませて頂こうと思っています。