株式会社不織布情報が1972年5月より毎月発行している「月刊不織布情報」の2016年3月号に、当ブログの記事「[革靴] 紳士靴から革が無くなる日。合成皮革、そして人工皮革。」をコラムという形で掲載して頂きました。
「月刊不織布情報」では2年毎に3月に【素材特集】人工皮革・合成皮革という特集を組まれています。
私は今回革靴についての文章でしたが、様々な分野で広く使われている合成皮革と人工皮革について知ることが出来る面白い特集でした。一般の書店やAmazon等での販売はなく、購読料も1年30,000円(税抜)となかなかその業界の方でないと手に取ることも難しいかもしれませんが、興味のある方はこちらからどうぞ。
改めて、紳士靴から革が無くなる日。合成皮革、そして人工皮革。
先日リーガル直営アウトレットの決算セールを覗いてきましたが、廃番モデルの木型を用いたアウトレット専用モデルとして新たに人工皮革の紳士靴が1型2デザイン並んでいました。
恐らく数年前に発売され、好評だった01CRBF~03CRBFの木型を用いたモデルだと思います。01CRは甲革にイタリア製のカーフを使った、グッドイヤーウェルト製法の靴でした。今回は人工皮革を使った同様のグッドイヤーウェルト製法の靴です。ソールが若干違うくらいで、実際以前何度も手に取った01CRと今回のこのモデルの甲革の違いはほとんど分からないと思います。
リーガルも2016年春夏モデルで人工皮革の商品を改めて採用。
前回の文章を書いた時にもアウトレット専用モデルから少しずつ人工皮革の紳士靴を実験的に出している、といったことを書きました。実際に2014年2月のシューズ業界専門誌ShoesPostのインタビューでも、リーガルコーポレーションの岩崎幸次郎社長が人工皮革のモデルについて話されています。
■14年の新展開
すでに一部市場でテスト販売していた、人工皮革をアッパーに採用したリーガルを今春から2万円台で発売します。これは5年ほど前から帝人との共同開発を進めて完成したもので、エコ材料で通気性も良く天然皮革の感触があるという人工皮革でウエルト製法での高級品を提案します。
その後、今年2月の記事で、リーガルウォーカーで帝人コードレの人工皮革「エアロエアリー」を使用したコンフォートビジネスモデル3品番が発売されることが発表されました。
「リーガルウォーカー」から16年春夏メンズの新作として、帝人コードレの人工皮革「エアロエアリー」を使用したコンフォートビジネスモデル3品番(240W・241W・242W)が発売される。価格は2万円+税。
リーガルウォーカーが人工皮革を使用するのは初めて。これについてリーガルコーポレーションは、「エアロエアリーについては、通気性の高さをはじめとする高性能素材で新たな価値観を提供できる要素になると認識している。メンテナンスフリーもビジネスシューズとして魅力的」と話す。
今回のリーガルウォーカーでの採用は「快適性を求める傾向が強まっているなか、リーガルのドレスラインから移行する中高年ユーザーの受け皿」として考えているようですが、通常のドレスラインでもこの春夏新商品のREGAL SHOES ORIGINALとして「お手入れ簡単な人工皮革」モデルが発売されます。
店員さんの話を聞いていても、やはり革の調達が(コスト諸々の関係で)どんどん難しくなってきている、という声は変わりませんし、また上記のように「お手入れ簡単」「快適性」を求める傾向は強まっているでしょうから、少しずつ浸透していくのかもしれません。
「メンテナンスフリー」だからこそ、意識して「お手入れ」して欲しい理由。
当ブログでは一貫して「お手入れ」を薦めてきました。靴のお手入れというのは決して特別なものではなく、人間にとっての毎日の洗顔や歯磨き、入浴と同じです。実際には厳密な違いはありませんが、敢えて「お手入れ」と「靴磨き」を分けて書いているのもそのためです。
軽視しがちだけれど、一番大切なのは「靴」より「靴に気が向くあなたの気持ち」
これだけで何が変わるのか。
あなたの「意識」が変わります。靴も勿論変わりますが。
これが今回の話の一番のポイントです。靴に対する見方が変わるんですよ。これだけで。今までみすぼらしく、何となくくたびれて見えていた靴が何故か愛おしく感じられるようになってきます。
これだけ書くと、精神論だとか、気分の持ちようだとか言われそうですが、でも「気持ち」って馬鹿に出来ません。気にも留めない「物」って何故か劣化が早い。
まぁ、下着屋さんで、「洗濯してますか?」なんて聞かれないし、「いやぁ、パンツなんて面倒で半年以上洗ってないよ。いつも履きつぶして終わりかな。仕事忙しいしね。時間出来たら洗うよ。」なんて言わないだろうし。いや、そんな人、いたら嫌だけど。
だから、別に毎回クリーム塗って、何々して、ピカピカにしなくていいんです。そんなことじゃなくて、単に一日履いたら、埃だけでも払って、出来たら軽く乾拭きしてしまってあげてね、ということ。
私は人工皮革が駄目だとは思いません。いえ、むしろ素晴らしい素材だと思っています。画期的です。
ただ、それと「メンテナンスフリー」で「楽」で「お手入れ簡単」は少し方向性が違うと思っています。メンテナンスフリーは全くメンテナンスされなくなるんです。元々お手入れする人はメンテナンスフリーだろうがフリーでなかろうがするんです。
問題は今まで「革は水に弱いからなぁ」と誤解してせめて靴墨塗りたくったり防水スプレーかけるくらいはしていた人が「お手入れ簡単」になった途端にしなくなることなんです。
この辺りは私が雨用の靴にゴアテックス採用のものを敢えて薦めようとはしない理由と同じです。
でもね、大抵のゴアテックスだから雨大丈夫、って思ってる人ってもう雨靴として履き倒しちゃうんです。散々雨に濡れて帰ってきた後に、ちゃんと表面を拭ったり、お手入れしたりしない。撥水スプレーもかけない。
表面の革はゴアテックスでも何でもありませんから。多少の撥水仕上げはしているかもしれませんが、それでもお手入れしなければどんどん劣化します。
だから、まずは靴墨よりもブラシと乾拭きを覚えて欲しい。
これから少しずつ「人工皮革」のモデルも増えてくるでしょう。タグの表記でもチェックしない限り、表面はほとんど革と区別が付かないものも増えてきます。勿論最初は履き心地や馴染み方など違いはあるでしょうが、それも徐々に技術の進歩とともに見分けが付かなくなってくるでしょう。むしろ人工皮革のほうが履きやすい、と思われるようになると思います。
ただ、現時点でも大半の方が靴に関しては無関心な状況です。靴磨きと言えば奥様に任せっきりで、時々リキッドタイプや100円ショップにある簡易艶出しワックスで光らせる程度。マメな奥様の磨いた靴を除けば、大抵のこれらの磨かれた靴には想像している「栄養」なんてほとんど入っていません。
多くの人が靴磨きだと思ってやっていることの大半は、革に栄養を与えている訳ではないんです。それどころか厚塗りして表面を覆ってしまって、却って革を傷めてしまっていることも多いのです。
それくらい革に対して無頓着な人が多い中で、それが人工皮革に取って代わっても、大した影響はないとも言えます。けれど、合成皮革であろうが人工皮革であろうが、結局は傷むことに変わりはありません。
人工皮革や合成皮革になり、もしかしたら益々安く靴が買えるようになるかもしれません。けれど、その時には、ますます使い捨て、履き捨てになってしまっているのではないか。
だから、まずは靴墨よりもブラシと乾拭きを覚えて欲しい。それは実際の効果以上に、持ち主の意識に大きく影響を与えます。
これがこのブログでもクドいくらいに何度も何度も触れているポイントです。
人工皮革だからこそ、天然皮革よりもむしろ意識してお手入れをして欲しい。それがこんな文章を日々書いている私の想いです。