革靴の値段はどんどん上がってきています。私が靴に興味を持ち始めた10年以上前の時点でも、既にそれ以前の革靴の相場を知っている方から見れば「最近は革靴が高くなった」と言われていましたし、私が見ても今の革靴の相場は高くなりました。
それ自体は仕方ないことですし、昔を懐かしんでも仕方ありません。革質が云々なんて話も同じですね。
大手メーカーも革以外の道を模索し始めて。
どんどん良い革が確保出来なくなっています。まして末端にいる日本なんて、言うまでもありません。そんな中、私も色々な可能性を考えながら毎回オーダーを楽しんでいる宮城興業の和創良靴も先日料金の値上げがありました。
例えば新喜皮革のコードバンが¥20,000-から¥36,000-と、何と¥16,000-の値上げ。アノネイレザーが¥14,000-から¥16,000-と、こちらはコードバンに比べれば上げ率は低いですが、とはいってもこの価格帯で¥2,000-上げです。
リーガルも人工皮革の靴を試験的に展開。
確か一昨年あたりだと思うのですが、リーガルのアウトレットで「人工皮革のグッドイヤーウェルト靴」が展開されました。店頭で始めて見た時には、一瞬人工皮革だとは思わないくらい表情がありました。
事情や理由は色々あり、単に革不足だけが原因ではないと思いますが、国内最大手のリーガルコーポレーションでも革以外の本格紳士靴も通常展開として真剣に考え始めたということかな、と思います。(もちろん以前から合皮の靴はありましたが)
このままいけば、革の値段はどんどん上がっていきます。革が全くなくなることはないまでも、今までのような満足のいく質が保てるかどうかは分かりません。そして、年産で物凄い足数の靴を展開せざるを得ない大手メーカーであれば、その一部を敢えて人工皮革などの素材で定番展開させるというのも良いのではないか、と思います。
人工皮革って何?合成皮革と違うの?
さて、先程から人工皮革、人工皮革、と書いていますが、合成皮革と何が違うんでしょうか?同じじゃない?そもそも革なの?革じゃないの?といった話もあると思います。
私も専門家ではないのでこの辺りは間違っている部分はどんどんご指摘頂きたいのですが、幾つか調べてみた中で、専門用語が並ぶ説明だと分かりにくいので、敢えて分かりやすかったサイトを引用させて頂くと、
合成皮革とは
布地をベースにして、その上に合成樹脂を塗り、
表面層のみを天然の革に似せた人工素材のことをいいます。
合成樹脂はポリウレタン樹脂や塩化ビニールを使っているので、
簡単に言うとプラスチック製 や ビニール製
ということになります。
また、このサイトでは人造皮革の説明がありますが、
合成皮革は表面のみを革に似せたものですが、
人造皮革は天然皮革の機能 と 構造 を人工的に再現した人工素材
です。
人工的に革に近い風合を持つ素材を目指して作られているので
感触も天然の革に近いです。また、天然皮革と同じように
起毛させる スエード加工 や 銀付き革に加工 することもできます。
どちらも革ではないのですが、革と同じような作りを革以外のモノで人工的に作り出したものが人工皮革、くらいに考えていても大きな間違いはないと思います。細かい部分が気になる方は以下あたりのサイトを参照下さい。
世の大半の人の紳士靴の履き方を見る限りでは革靴は不要。
なんて書くと、また批判を頂きそうですが、そう思うんです。革の良さが、大半の人にとっては却って悪さになってしまっている。大きく挙げて2つ。「革の馴染みの良さ」と「お手入れ次第で長く保つ」ということです。
馴染みの良さは、履き方を知らない人にとっては逆効果。
革は最初は硬く、痛さも時には感じますが、革ならではの良さがあります。それは履いていくにつれて、その方の歩き方や足の重心のかかり方、足の形に合わせて形を変えて馴染んでいってくれる、ということです。
これは合皮や人工皮革には出来ません。ほとんど伸びず、型崩れも革に比べてしないので。
どうしても革靴は履き始めが痛いので敬遠されがちですが、馴染めば馴染むほど下手なスニーカーなどより履きやすくなる場合があるのは、この馴染みの良さが影響しています。だから、革靴になると、修理を繰り返しできるように、底付けなどの製法も手間がかかります。
けれど、「革=痛い」というイメージの強い方や、そもそも履き方を知らない多くの日本人にとっては、この馴染むという感覚がありません。それよりも履き始めから柔らかい、痛くないサイズを選んでしまいます。
結果、オーバーサイズで、足をつま先側に突っ込んで無理やり履きます。どんどん前が伸びていって、型崩れを起こしていきます。革の馴染みの良さが、却って革が伸び伸びになって益々足を痛める結果になってしまうのです。
お手入れ次第で長く保とうが、そもそもしないから履き捨て。
革靴は、お手入れを欠かさなければ、長く履くことが出来ます。もちろんサイズが合わなかったり、雨にやられてしまったりすれば、その分余計な負担がかかってしまって傷みやすくなる、といったことはありますが、基本的には30年前、50年前の靴でも、甲革の状態さえ良ければ大抵修理すれば直して履き続ける事ができます。
合皮や人工皮革はそれが出来ません。登山靴を数年ぶりに久しぶりに履こうとしたらウレタンのソールが裂けた、というのも、甲革とソールの違いはありますが、ウレタンなど革以外の素材を用いることでの弱点の一つです。
ただ、今、世の大半の人は、お手入れなんてしません。時々ツヤ出し靴墨を厚塗りするか、キツいクリーナーを多用して終わりです。そもそもの革の寿命以前に、数年持たずに履き捨てられてしまいます。
飽きもあるでしょうし、1足履きつぶしたら、下駄箱の上から買いだめしてある一足を新しく出す、なんて人も多いのです。
そもそもお手入れなんてしない人にとっては、下手に雨の後にお手入れが面倒な革よりも、軽く拭っておけば問題ない合皮のほうが楽ともいえます。どちらであろうが1年程度で履き捨てです。
大半の人にとっては不便な革。けれど、それでも革が好きな日本人。
正直、こうして考えてみると、革靴を履く人、いえ、履かざるを得ない人にとっては靴が革である必要は無いんです。合皮や、質感が気に入らなければ下手なガラス革より余程表情も豊かに出せる人工皮革のほうがはるかにオススメです。
お手入れ簡単。元々ダボダボ靴履いてる人には伸びない合皮や人工皮革が最適です。さっさと履きつぶして次いきましょう。
けれど、革、好きなんです、日本人。
革でないと分かった途端、嫌な顔をする人も多い。
革靴のほうが柔らかい、というのもあるのでしょうが、単純に合皮は安っぽい、って印象が強いのでしょう。試しに履いてみて、表面の質感も気に入って、値段も気に入って、最後の段階で「人工皮革」と知った途端に止める人も多いですから。革じゃないと嫌だそうです。けれど、その人の履いてきた靴、ボロボロなんですよ。
それでも、革が好きなんです。
人工皮革、合成皮革への抵抗が無くなったとき。
これから10年後、20年後。世の中から靴に使える革というのは本当に希少になっているかもしれません。革靴ってホント高くなったね。という世界が来るのもそう遠い未来ではないかもしれません。
そうなったとき、革靴は今とは違った意味での冠婚葬祭のみの靴になるのかもしれません。
そもそも革靴なんて履かなくなってしまうのかもしれません。
靴は使い捨て。履き捨て。
けれど、それって本当に良いことなのでしょうか。別に良いんですよ、合皮だろうが人工皮革だろうが、自分の履いている靴に愛情を注げるのであれば。けれど、メンテナンスフリーのように見えれば見えるほど、どんどんモノは使い捨て、履き捨てになり、寿命は短くなっていきます。
革が一部のマニアのものになる。そうなったら、革を使うこと自体叩かれる世の中になるかもしれませんが、モノを大切にする、という精神だけは変わらず受け継がれて欲しいな、と思っています。
当ブログの「革靴のお手入れ」に関する記事はこちら。