梅雨時というのは、何となく気持ちも晴れず、雨が降っていれば憂鬱にもなりがちです。
革靴にとっても、カビや靴の中に雨が染み込んできたりとあまり環境としては良くないように感じます。
そうした視点で雨と梅雨とカビと革靴について過去何度もこのブログでは書いてきました。
けれど、ちょっと視点を変えてみて欲しいのです。
私は、正直な所、雨の日に革靴を履くのが楽しみです。革靴が雨に濡れた時、それは靴が普段とは違う表情を見せてくれるからです。そして、そうした雨の日を経れば経るほど、靴にも表情が出てきます。深い表情が生まれてきます。
もちろん靴は丁寧に履き続けていれば、そのうち独特の良い表情が出てきます。雨はそれを早め、助けてくれるのです。
雨の日に一度履くと、私はその靴とまた一歩近づいた、仲良くなれた気がするのです。
今回は、そんな私の戯れ言にちょっとだけ付き合って頂けると嬉しいです。まだ梅雨明けまで時間はありますから。
革は水に弱い?いえいえ、弱いのではなく、変化を起こしやすいのです。
私は革のなめし職人でもなんでもありません。あくまで一介の靴好きに過ぎません。もちろん革のカバンなども大好きです。
革は水に弱い。一般的にそう思われています。もう当たり前のように。だから皆さん雨を嫌がります。
確かに革によってはシミになります。何となくみすぼらしくなります。放置しておくとボロボロになります。
というよりも、なるような「気がします」。
でも、革って鞣す過程で大量に水を使うんですよ。
本当に革が水に弱いのであれば、私たちの皮膚も、そして牛の皮が鞣されて革になる時も、水なんてご法度、天敵のはずです。けれど、鞣す過程では大量の良質の水を使うのです。
良い革が出来る工場の近くには、大変豊かで良質の水を多く含む川が必要です。
では、なぜ私たちはこれほど雨や水を嫌うのでしょう?
革にだって水分は必要です。ただ、なんでも用法や用量、そして加減を間違えてしまうと、予期していなかった変化をしてしまうからなんですね。
だから、ちょっとシミが出来てしまうと、革を痛めてしまったのではないかと落ち込む。シミを汚いもの、ダメなものだと思ってしまう。確かにシミが出来た部分の革の状態は変化していますから、それが良いか悪いかはまた別の話です。
大切なのは、水に触れさせないことではなく、水と仲良く出来ること。
なんでもそうですが、与え過ぎはよくありません。私たちだって食べ過ぎ飲み過ぎはどこかに影響が出ます。革だって、水に限らず、一箇所だけに大量に何かを加えてしまえば、それは意図しない変化を起こしてしまいます。
けれど、その逆も同じです。全く与えないのも、果たして良いことなのでしょうか?
雨が憂鬱にさせてしまうのは、雨には汚れが含まれていることが一つ。そしてどうしても面ではなく点で革に集中的に水が含まれるので、どうしても意図しない変化が起きやすいからだと思うのです。
これは裏を返せば、きちんと水だけが、バランスよく革に触れるのであれば、何も心配することはないということです。そのために必要なことは、普段から革の状態がある程度バランスが良いこと。そして汚れや傷みの原因となる雑菌は取り除いてあげることです。
革の状態がある程度バランスが良い、って?
普段何もしていない革靴は酷使され、ところどころ繊維が傷んでいます。そして油分も抜けてきています。それらを整えてあげているか、ということ。要はちゃんとお手入れ出来ていれば、まず恐れることは何もないんですね。
そして、大切なのが濡れた後。どうしても水を吸収しやすい部分とそうでない部分が出てきます。それらを整えてあげること。まんべんなく水分を含ませてあげるか、逆に均等に濡らしてあげること。その際に、汚れは取り除いてあげること。
たったそれだけのことです。水は革をダメにするのではなくて、表情を出しやすくするのです。であれば、良い表情になるように、ちょっとだけいつもより意識してあげれば良い。
私は雨が降ると嬉しくなります。いつものお手入れを、雨が、水が、助けてくれるからです。
とはいえ普段からなかなか気軽に革靴と水を仲良くさせるなんて出来ません。けれど、雨となれば別です。雨になれば濡れます。濡れるのであれば、その時期は予め意識してお手入れをいつもよりマメにすればいい。濡れたらその分しっかりお手入れしてあげればいい。
いつもつい忘れがちなお手入れや、不足しがちな水分や、そして気付かなかった汚れまで、雨は気づかせてくれます。
今日も2足、雨上がりのケアをしてみました。
最近よく使っているのが、私のお気に入りとして以前からご紹介もしているタピールの中でも、普段はなかなか使いづらいレーダーオイルです。オイル分が多いため、普段使うには浸透するよりも表面のベタつきのほうが気になってしまうのです。
ただ、このレーダーオイル。軽く布に含ませて、靴全体を軽くマッサージするように擦り込んでいくと、汚れやクリームなども優しく取り除きつつ、油分を補ってくれます。雨の後の、ちょっと普段より水に当たった靴には非常に相性が良い。
あとはすぐにクリームを加えても良いのですが、せっかくオイルが含まれているのですから、少しこのまま休ませて上げるのが一番です。
タピールって以前も書きましたが、比較的気長に時間を使える(待てる)人でないと扱いが難しいモノが多いです。せっかちな人だと、タピールのそれぞれの本領が発揮されないんです。
今日の2足の三交製靴は、梅雨が明ける頃にはどんな表情を見せてくれるでしょうか。
梅雨が明けると靴が綺麗になっています。汚れや余計なクリームも一通り落ちていることが多いからです。それは主に雨だけでなく、水自体を使いながらも表面の余分なものが抜けているからです。そして新しい油分が加わって馴染んでいる。
そうした中で、靴はまた表情を深くしていきます。
私は雨を何度も乗り越えた靴ほど、素敵だなぁ、と思います。
であるために、ついちょっと濡れた程度でもつい丸ごと水洗いしてしまいたくなってしまうのですけどね。