私には来月90歳になる祖母がいます。実家で私の両親と3人で暮らしています。腰も曲がってはおらず、認知症等もなく、今日も午前中は敬老会に出かけて行きましたし、先程まで洗濯物を干していたのですが、今ちょっと午後のお昼寝をしています。
私の実家は静岡県です。家族親戚の繋がりはかなり濃い(妻と付き合い始めた頃もそう驚かれた)のですが、今結構バラバラに生活していまして、両親と祖母が「静岡県」、私達夫婦が「東京都」、妹夫婦が「ユタ州(アメリカ)」、叔父夫婦が「カリフォルニア州(アメリカ)」ということもあって、普段電話のやり取りはSkypeのビデオ通話が多くなっています。
ただ、実家のPCは2階の父の部屋にあるため、普段はなかなか祖母はSkypeで話すことが出来ません。90歳になりますし、離れて暮らす家族からすると、あと何回会えるのか分かりません。出来れば祖母が気軽に使えて、東京やアメリカの息子、孫と顔を見て話せるモノがないか、というのはここ数年の切実な願いでした。
この数年の紆余曲折は今までにも何度か文章にしてきました。
基本的には私達が幾ら簡単だと思うようなスマホやタブレットでも、私の祖母の場合には難しいな、ということを感じました。指を駆使して操作するには、現状のAndroidもiOSも余計な機能が多すぎるのです。単機能でも指で何かをやる、というのは思った以上に難しいのだな、と感じてきました。
そんな中、一筋の光明のように見えたのが、日本でも発売が開始されたAmazonのEcho Spotです。
発売された当初は日本国内でのビデオ通話が非対応だったのですが、先日よりようやく対応されるようになりました。そこで今回東京の自宅と静岡の実家(の祖母の部屋用)の2台を購入しました。
ひとまず東京の自宅でセットアップをして、妻と何度かビデオ通話を試した上で、「これならとりあえず何とかいけそうかな」と思いましたので、もう一台を持ち帰ってセットアップ、早速実家での昼下がりに祖母とEcho Spotでのビデオ通話を試してみました。
90歳の祖母とAlexa、40歳の孫のビデオ通話の話。
私「ばあちゃん、この小さな丸っこいのが「アレクサ」っていうロボット」だよ。」
祖母「アレクサかね、変わった名前だねぇ。でもカワイイねぇ。」
私「うん、でね、ばあちゃんが僕と話したくなったときには、このロボットにお願いすると電話してくれるんだよ」
祖母「そりゃ、すごいね。高かっただろう?悪かったねぇ。」
私「そんなことないよ。それに、ばーちゃんといつでも顔見ながら話したいからね。僕と○○さん(妻)からの誕生日ブレゼントだよ。」
祖母「ありがとねぇ。○○さんはとてもいい子だから、ばあちゃん大好きだよ。本当に章史と結婚してくれて良かったよ。ばあちゃん嬉しいよ。それじゃあ、ばあちゃん、しっかり覚えないとねぇ」
(祖母、定期預金ハー○ストのチラシをカバーにしたノートにメモをし始める)
私「このロボットはね、人と同じで、ちゃんと名前を呼んであげないと分からないんだ。だから、電話するときには、まず「アレクサ」って名前を呼んであげて。」
祖母「そうかね。アレクサっていうんだね。それにしても変わった呼びにくい名前だねぇ。」
私「うん、このロボット、アメリカで生まれたんだ。だから、○○さん(叔母。祖母からは義理の娘。アメリカ人で日本語も一応話せる)と同じで、最近日本語を少し話せるようになったんだけど、難しい言葉は分からないんだよ」
祖母「ありゃ、○○と同じかね。あの子もいい子だねぇ。」
私「で、名前を呼んであげたあとで、して欲しいことを言うの。だから、アレクサ、章史(私の名前)に電話して。って言うと僕にかけてくれるからね。」
祖母「すごいねぇ。」
私「ちょっと試してみて。」
祖母「はいよ。なんだっけ?」
私「‥アレクサ、だよ。で、その後に「章史に電話して」っていえば良いからね。」
祖母「(ノートを見ながら)ああ、そうだった、アレクサだ。」
祖母「アレクサ」
Alexaが点灯する。
祖母「これでいいのかい?(私に訊く)」
Alexa「ちょっと難しいです。ごめんなさい。」
祖母「何だね?何か悪いことしちゃったかね(ちょっと心配そう)」
私「そんなことないよ。このロボットはね、名前を呼ばれると「あ、ばあちゃんが何かして欲しいんだな」と思って、次に言われたことを頑張ってやろうとするんだよ。だからばあちゃんが「これでいいのかい?」って今僕に訊いちゃったから、アレクサも一生懸命考えちゃったんだよ」
祖母「ありゃ。そうかね(笑)。頭のいい子だねぇ。でも悪いことしたね。」
私「そんなことないよ。いま、ばあちゃんの話してること、一生懸命聞こうとしてるんだよ、きっと。じゃあ、もう一回やってみようか。「アレクサ、章史に電話して」で大丈夫だからね。」
祖母「はいよ。アレクサ‥あれ、何か試してみようってここに出てるね。」
Alexa「うまく答えられません。ごめんなさい。」
祖母「ありゃ、またやっちゃったね。アッハッハ(笑)」
私「良いんだよ。この子(アレクサと呼ぶと反応してしまうので)はこういうお話するの好きだから。気にせず話しかけてみて。章史に電話して、って付けてね。」
祖母「アレクサ…(沈黙。私が横で小声で「章史に電話して、だよ」と話す)‥あれっ?動いてるのかね。大丈夫かねぇ」
Alexa「あなたが話しかけてくださって、Wi-Fiがある限り、私は大丈夫です。」
祖母「アッハッハ。なんか楽しいねぇ(笑)」
そんなやり取りを1時間以上、ようやく私のスマホと何度か繋がるようになりました。
祖母「わぁ、こりゃ凄いね。これで章史や○○(叔父)といつでも話が出来るね。嬉しいねぇ。」
上は私のスマホ上のAmazon Alexaアプリの通話画面。Spotで撮った祖母の顔がしっかりわかります(モザイクをかけています)。
我が家で試したときはEcho Spotのカメラだと暗いかなぁ、という印象だったのですが、日当たりの良い実家なら十分にきれいなようです。
ちなみにこちらは自宅のEcho Spotで試したときのSpot側の画面。暗めの室内で試したのですが、スマホのフロントカメラで取った顔はEcho Spotの液晶では鮮明に映ります。
どうしてもアレクサ、と呼びかけた後に、ちゃんと分かってるのかが分かりにくい(一応画面上は点灯するのですが)ので、使い慣れていない人にとっては、その後につい「大丈夫かなぁ」「これでいいの?」といった独り言や、隣にいる私に思わず訊いてしまいがちです。そのため、「○○して」を認識させるのが意外とハードルが高い、いうことに気づかされました。
あとは、私の名前は「章史」で「あきふみ」と私のアカウント上も、祖母のアドレス上も登録してあるのですが、何故か「章史に電話して」というと「すずきあきらしさんですか?」と「章史」が勝手に「あきらし」となってしまうのです。このために、その後再度「はい」「そうだよ」と返さなければ繋がってくれないのも困ったところです。
一番大切なことは、ビデオ通話ができることよりも、Alexaを通して祖母と楽しい時間を過ごせたこと。
もちろん私や叔父、妹にとっては、祖母がAlexaを使えるようになって、いつでも好きな時にテレビ電話が出来ることはとても嬉しいことです。
ただ、音声認識だけでも、
「アレクサ、章史に電話して」
と言って、私にビデオ通話をするだけでもなかなか大変でした。実際、一時間近く練習しましたが、まだ多分私が東京に戻ったら使われずじまいになってしまうとは思います。
ただ、こうして祖母と一時間以上笑いながら話をしているのはとても楽しくも幸せな時間でしたし、祖母も「これで章史といつでも顔見て話せるようになったら嬉しいねぇ」と言いながら、今も「章史、またちょっと練習しよう」と言ってきてくれます。
大切なことはデバイスが使えるようになることではなく、家族の楽しい時間が増えることだと思うのです。
そのためにデバイスは必須ではない。ただ、そうした家族の時間が過ごせる、ということが一番の幸せだし、そのためのきっかけとしてこんな小さな丸っこい可愛らしい喋るロボットがいてもいい。
もちろんこれからも祖母が興味を持ってくれている限り、このEcho Spotを使っていきたいと思っています。もちろんその結果、いつでも祖母が私やアメリカの叔父、妹にいつでも電話が出来るようになれば更に嬉しいけれど、もしかしたら祖母にとっては、それよりも何よりも、孫と1時間以上もあーでもないこーでもないとワイワイ話を楽しんでいるこの時間のほうが大切で楽しいのかもしれないなぁ、と思いました。
祖母「章史、また綺麗な500円玉見つけて取っといたから、これお礼にあげるよ。ピカピカだろ?」
今回も祖母からピカピカの500円玉を3枚もらいました。ばあちゃん、いつもありがとう。