昨年後半、Chromebook界隈で話題になったテーマの1つに「ゲーミングChromebook」というものがあります。
一部で「失笑を買った」といった評価もあるように、一般的にはこのゲーミングというカテゴリー、ハイエンドChromebook以上に理解がされにくい、というよりも良く分からない方も多いのではないでしょうか。
Chromebookといえば低価格・低スペックでもサクサク動くのが強みであり、ゲーミング以前にハイスペックである時点で本末転倒。良さを失っているし、ハイスペックの、更にゲーミング用途のようなモデルを買うのであれば、最初からSteamなどで対応ゲームも圧倒的に多いWindows PCを選ぶ、というのが大方の意見だと思います。
メーカー、販売店側も混乱しているのか、ゲーミングChromebook=Androidゲーム、という売り出し方をしているところも目にします。まぁこれには国内の様々な事情もあるとは思うのですが、そもそもが「幾らPCとしてハイスペックであったとしても、イコールAndroidアプリも快適とは限らない」という部分の矛盾がどうしても出てきてしまいます。AndroidゲームをするならハイスペックのAndroidスマホやタブレットが最適です。スマホゲームならiPhone、iPadですね。
また、従来のPCに詳しい方、そのイメージを引きずっている方からすれば「ゲーミングPCとは本来、本体内に最低でもGTX1060以上のGPUを搭載していることが条件であり・・」的な意見の方も目にします。
ゲーミングPCとはそもそもそうした「本体内にゴリゴリにスペックを詰め込んで、本体だけのパワーでゲームを快適に動かす」という認識がまだまだ根強いのでしょう。
Chromebookに詳しい方の中でも、このゲーミングChromebook、なまじChromebook界隈の情報に詳しいだけに「Linux版のSteamがようやく対応したので、Steamをインストールしてゲームを遊ぶためのモノ」という捉え方をしている人も少なくはありません。
これくらい、ChromebookユーザーからPCユーザー、更にはメーカー、販売店まで今回の「ゲーミングChromebook」に関しては違和感や戸惑いを感じている、というのが正直なところではないでしょうか。
昨年末にASUSのゲーミングChromebookを実際に使い、ゲームのライブ配信等も行ったことで気付いたこと。
さて。そんなゲーミングChromebook。私自身は昨年末に国内で発売されたASUSのモデルをお借りした上で、実際にゲームをメインにしばらく使い込みました。その時のレビューや印象については、過去文章にしていますし、
またライブ配信等でも、この「ゲーミング」の位置づけについて私なりの捉え方をお話ししています。
お時間のある方はそちらをご覧頂けると嬉しいのですが、如何せんライブ配信なので時間も長めでコンパクトに論点がまとまっているわけではありませんので、ちょっと今から見返すのは面倒かもしれません。
ちなみに下記の動画はChromebookでのPCゲームのライブ配信を20分程度にまとめたものです。
ということで、前置きが長くなりましたが、2023年の第一弾として、ブログでも文章にまとめてみようと思います。
ちなみに、この「ゲーミング」に限らず、個人的にはこうした「機能や用途特化型」のChromebookというのは、非常に面白い、色々な可能性を秘めた方向性だと思っていますので、今後色々な形が増えてきて欲しいな、と思っています。その辺りについても触れてみようと思います。
Chromebookの強みは「安さ」ではない。それはあくまで副産物。
まずゲーミングPC、ゲーミング、と考えたときに、Chromebookの従来考えられがちなイメージをとりあえず一旦取り払ってみて欲しいと思います。
ここではChromebookの強みを、
必要な処理部分の大半をクラウドに預ける、任せることで、本体内の負荷を軽くすることが出来る、本体を身軽にすることが出来る
と考えてみて下さい。これをゲーミング、という分野に当てはめてみます。
従来のゲーミングPCであれば、基本的に本体内にハイスペックなGPU(やCPU、更にはメモリや高速ストレージ等々)をすべて用意する必要があります。実際に使われている方ならお気づきのように、これらをすべて本体内に搭載(準備)させるとなると、かなりのコストがかかります。
また、ゲームの快適さは、その本体内の構成、スペックに依存します。
高ければそれだけ快適に遊べますが、その分お金もかかりますし、あと忘れられがちですが、その分消費電力や発熱も上がります。実際、ハイスペックなゲーミングPCほど(ノートPC、デスクトップPCに限らず)消費電力は大きくなりますし、作業中はかなり激しくファンが廻ります。ノートPCであれば本体サイズも重量も大きく、重くなります。カフェでゲームをすることは少ないかもしれませんが、もしするとなれば、かなりファンも廻りますし、大げさな見た目になりますし、周りに対する存在感もかなり大きくなります。持ち運びも大変ですね。
またデスクトップPCでも(ヘッドセット等を使うのであれば気にならないかもしれませんが)ガッツリゲームをするとなれば、正直(わが家のデスクトップPCはかなり静音に気を使って、静音型のファン等に別途買い替えたり、ファン回転数等をしっかり調整しているのですが)やはりかなりのファン音、ノイズになります。
更に、拘る方はモニターのリフレッシュレート等も気にされるでしょう。当然リフレッシュレートや解像度を上げれば、その分負荷も上がりますし、それなりにしっかりしたモニターが必要になってきます。
と、ちょっと説明が長くなりましたが、こうして自分にとってそれなりに納得する構成のゲーミングPCを自分で用意するとします。例えば予算を30万としましょう。
Chromebook、それもゲーミングChromebookであれば、極端な話、10万円で済みます。
しかも消費電力も普通のChromebook並(45W等)、ファン音もほとんどしません。
何故か。
先ほどのゲーミングPCでコストが最もかかっている部分、CPUやGPUなどは本体内に搭載する必要がないからです。これらはすべてクラウド側に置いておくことが出来る。これは「クラウドゲームサービス」だから実現出来ることです。
その結果、どういうことが可能になるか。流石に30万円でゲーミングChromebookを発売することはないと思いますが、例えば10万円でゲーミングChromebookを作る場合にも、(意外と忘れられがちなのですが)
従来であればCPUやGPUなどの構成内でも特にコストがかかっていた部分を、それ以外の部分にその分(コスト)かけられる
ことになるんです。
従来であれば本体内のコストとしてかかってくる部分を外部(クラウド)に任せられることで、本体コストを抑えることが出来ることでの恩恵。
ちょっと分かりにくいですね。つまり、従来のゲーミングPCであれば、GPU等だけでなく、更にハイリフレッシュレートのモニターやゲームに特化したキータッチ(誤入力を防ぐアンチゴーストや、同時に複数のキーを押しても正確に反応するためにキーボードの性能を上げる、など)や通信環境の安定化(Wi-FiやEthernetなど)にも別途コストがかかるわけです。その結果として、例えば先ほどの例で言えばトータルで30万かかっていた。
それが、ChromebookではGPU等にお金が発生しないだけでなく、排熱やその他にもそこまで気を使わなくても良い分、10万円程度に抑えられるだけでなく、その分の浮いたコストを前述のモニター性能の向上やキーボードの性能向上、といった部分に充てられるんですね。
実際にASUSのゲーミングChromebookも、単純に目に見えるCPU等のスペック、というだけでなく144Hzのモニターやキーボード性能の向上など、ゲームを遊ぶ際に大切な部分にコストをしっかりかけた上での10万円前後という価格設定です。
つまり、これって単純な10万円のChromebookとはコストのかけ方が違うんです。同じ10万円でも、ゲーミングに特化した部分にコストを重点的にかける、ということが可能になるんです。
ちなみに「クラウドゲームサービスならそもそも本体のスペック自体必要ないんだから、2〜3万円の低スペックのモデルでも良くない?」と思われるかもしれませんが、そうではない理由は今挙げた通りです。
2〜3万円の低スペックのChromebookでハイリフレッシュレート、高解像度高精細のモニターを快適に動かす、その上でキーボード性能なども妥協しない、ということは無理です。実際、前述のASUSのゲーミングChromebookでも、決して五月蠅いほどではありませんが、ある程度のスペック(第11世代Core iプロセッサー)であっても、そこそこ低音ながらファンは廻っています。ゲーミングとなると、表示性能含めて、それなりに全体的に負荷は高い、ということです。
最もコストのかかる主要部分をクラウドに任せることで、今後機能や用途に特化したChromebookが出てくる可能性が出てきた。
さて。ここで前半の話に戻ります。私は前半で、
「この「ゲーミング」に限らず、個人的にはこうした「機能や用途特化型」のChromebookというのは、非常に面白い、色々な可能性を秘めた方向性だと思っています」
と書きました。Chromebookの本来の強みである
「必要な処理部分の大半をクラウドに預ける、任せることで、本体内の負荷を軽くすることが出来る、本体を身軽にすることが出来る」
ことが、ゲーミングChromebookに限らず、こうした機能特化型のデバイスと非常に相性が良いと思っているのです。どういうことか最後に簡単に触れておきたいと思います。
まだそうした予定があるわけではありませんが、例えば「動画編集」に特化したChromebookが出たとします。というと、多くの人は鼻で笑うかもしれません。何故なら現時点ではまだまだ未完成な部分も多いからです。
ただ、先ほどのゲーミングChromebookの考え方で眺めてみると、動画編集に必要な部分の中で、GPUやRAM容量といった部分のコストをChromebook+クラウドサービスを活用すれば、抑えることが出来ます。
(実際に動画編集自体ではありませんが、BlackmagicのCloudサービスなどは今後の可能性を非常に感じさせてくれますね。)
この場合、GPU等に本来であればかける必要がある部分のコストをすべて、例えば動画編集に最適化された液晶モニターであったり、動画編集に特化させた機能に充てることが出来たらどうでしょうか?
従来のPCであれば、それらはGPUや本体スペックのコスト+αで必要になりますので、その分高くなってしまいます。消費電力やファンノイズの問題もありますね。
けれど、この場合もゲーミングChromebook同様、10万円前後で収まる可能性が出てきます。
最近はゲームなどで配信をされる方が増えてきました。また、Webミーティングなどをされる方も多いと思います。では、従来のPCでは+αのコストが必要だった部分をこれらのChromebookで強化させた「Web配信」や「Webミーティング」に特化させたChromebookが出たらどうでしょうか?
例えばその為に必要な安定した通信環境を実現する技術にコストをかけられる。従来のノートPCではあまり力が入れられていなかったWebカメラ部分をノイズリダクションやバーチャル背景、AI追従といった機能も完備したプロユースのカメラを搭載させる。ヘッドセットを使わなくともノイズリダクションがされるだけでなく、非常にクリアな音声を、AIで背景音と分離させて相手に届けることが出来るマイク。
これらがもし今後開発されたとき、従来のノートPCに搭載させるとなると、基本的なスペック(従来の価格)+αで載せる必要があります。けれどChromebookだったらどうでしょうか?そうした部分をすべてクラウドに任せられる(そもそもそういう仕組み、使い方がChromebookの強み)分コストを下げられるのであれば、そこでこうした用途に特化させたハードウェアを強化、搭載することも現実的になってきます。
クラウドに任せられる部分が多くなればなるほど、Chromebookにおいては、クラウドに任せられない部分、つまり手元の出力、入力環境に依存する部分に「従来のPCであれば発生していたコスト」を使うことが出来るようになります。
これはこれで面白い世界が広がってくると思いませんか?
そう考えてみると、ゲーミングChromebookというのも、現時点ではまだまだ未完成な部分も多いとは思いますが、洗練されてきたらなかなか面白いデバイスになるような気がしています。
現状ではまだ国内ではクラウドゲームサービス自体が144fpsに対応していないため(海外では120fpsまで対応)折角搭載した液晶も正直本領はほぼ発揮できていません。また、キーボードについてもレビューでも触れたように、国内モデルになったときに中途半端感が拭えない部分もあります。
従来の「本体のスペック依存」「本体にすべてを入れる・本体側ですべてを完結させる」感覚とは全く違った世界。
ただ、今回の文章を読まれてみて、一般的に考えられているような「本体内にゲームをインストールして、本体のスペックでゴリゴリ遊ぶ」「LinuxでSteamを入れて比較的ライトなゲームを遊ぶ」「Androidゲームを快適に遊ぶ」といったイメージとは違った世界があることを知って頂けたのではないでしょうか。
ちなみにクラウドゲームサービスの強みはもう一つあります。
本体内にゲームをインストールする必要がないだけでなく、アップデートも必要ありません。なので、始めようと思えばいつでもすぐに繋いで遊べるんですね。また、ゲーミングPCに限らず、従来のPCをゴリゴリにカスタマイズして使っている方なら経験されていると思いますが、例えばGPUなどのドライバーのアップデートや、それに伴う相性問題や突然の不具合、といったこともありません。何故なら、本体内で設定する部分がほぼないからです。なのでボイスチャットなどを行うときの設定も非常にシンプルで簡単です。そうしたメンテナンスの気軽さも大きな魅力だと思っています。
そして、そうした気軽さは、ゲームに限らず、ここで将来的な可能性としてあげたような動画編集であったり、Web配信、Webミーティングに特化させたようなデバイスがもし出てきた場合でも同様です。自分の手元でこうした環境をすべて構築するのに比べて、手間は大幅に軽減されます。
現時点ではまだまだ夢物語な部分もあるとは思いますが、少なくともゲーミング、クラウドゲームサービスに関しては、現時点でも十分に体験して頂くことが可能です。
こうした機能特化、そこにコストを重点的にかけた専用Chromebookというのも、クラウド環境が発展していくにつれて、十分に現実的な話になってくるのではないか、と私は思っています。