前回、私のお気に入りの時計ブランドB-Barrel(ビーバレル)の「一旦リセット」の話を書きました。
もともと雑多な低価格腕時計を大量発注する代わりに、非常に限られた1ロット辺りの本数(数百とも)の「うるさい少数の時計マニアの夢と願望」のオタク時計をついでにワガママ聞いてもらって作ってもらう、というある種「マニアの夢に応える、ビジネスというよりむしろ趣味」のような形で続いてきたのがB-Barrelです。
中国における人件費、材料費の度重なる変更(高騰)と、自社ブランド強化及び以前からの大量受注等の関係強化によりスウォッチグループとの提携が決まった、といった噂もある中国メーカーの方針変更により、この仕組みは2011年辺りには厳しい状況を既に迎えていました。と考えると、その後もつい最近まで何とか存続させつつ、新たな方向性を探ってきたこのブランドが今回「一旦リセット」せざるを得なかったというのも仕方がないのかもしれません。
「ただ良い時計を適正価格で」というのは様々な新興時計ブランドが広告費を大量に投入して謳っていることではありますが、実際にB-Barrelのようにそのコンセプトに真正面から真正直に取り組むとなるとビジネスとして成り立たせるのは難しいのでしょう。有名ブロガーやインスタグラマー、有名人などのインフルエンサーを使い、もっと単価も上げ、広告費も投入し、利益も出て、我々ユーザー側も気持ち良く騙されるような仕組みを作るということが出来なかった。それがB-Barrelを作ってきた株式会社ディンクス社長ぶーさんの他にはない魅力でもあり、また限界でもあったのかもしれません。
そんなB-Barrelも前期・中期・後期のように便宜上幾つかの時期に分けることが出来ます。私が出逢ったのは中期。ちょうど今も「B-Barrelの最高傑作」との呼び声高い「シンプル北京」などを出し、またトゥールビヨンを15~20万円前後で、しかもある程度安定した品質で出すことが出来ていた全盛期でもあります。
個人的にビーバレル最高傑作と思ってるのがコレ。表がコールドエナメルの文字盤でブルースチールのブレゲ針。裏が3/4プレートのビス留めシャトンにスワンネック。オニオンリューズも素敵だ。チラネジとかはさすがに無いけど、これほどのこだわりの時計を作ってくれたことには感謝しか無い。 pic.twitter.com/fhISJOpB5I
— キッツ (@22wish) July 13, 2017
今思えばビーバレルのBB0038のクオリティはどうかしてた。
38mm、スモセコ3針、ブルースチール針、コールドエナメル文字盤、3/4プレート、コート・ド・ジュネーブ、ネジ止めゴールド・シャトン、スワンネック緩急調節針、オニオン竜頭。
これで実売3万5千円はどう考えてもおかしい。 pic.twitter.com/tHjPhPnuB1— NEEZ (@neez_watch) June 23, 2017
今市場に残っているモデルは、冒頭でも触れた「苦悩の時期」でもある後期モデルの残骸のようなモノです。流石に新作が発売されなくなってから5年近く経っていますので、今やB-Barrelの存在自体知らない人が大半でしょうし、今見つけても「所詮中華の安売り時計」程度にしか感じないかもしれません。投げ売り価格(在庫処分も入ってますし)になっているのが良くも悪くも現状です。
そうした中での今回の「一旦リセット」があった訳ですが、その残っていたモデルを今回2本購入しました。
想い出補正も勿論入っていますが、単なる「想い出に」購入した、というわけではありません。今回の2本は、前述「シンプル北京」が継続しての販売が難しくなって以降、長らくB-Barrelファンに待ち望まれてきていた38ミリ(38.5ミリ)の余計な装飾の一切無い、シンプルである意味クラシカルな腕時計だったからです。中国の状況だけでなく、国内においても腕時計を取り巻く状況も大きく変わっていく中で、B-Barrelが最後に作った佳作。ある意味徒花のようでもありますが、私にはとても魅力的に映っています。
以下、普段「至高」だ「一生モノ」だといった言葉が好きではない私が思い入れのみで語らせて頂きたいと思います。
この38ミリモデルは合計4タイプ、ケース等をなるべく統一させることで何とか実現させることが出来た。
直径38.5ミリのこのモデルは、今回購入した(今も販売している)自動巻の「スモールセコンドタイプ3針」「レギュレータータイプ」以外に2モデル存在します。手巻クロノグラフを搭載したBB0049、そしてセンターブリッジ付きのトゥールビヨンを乗せたBB0050です。どちらも発売後比較的早い時期に完売となっています。私もBB0050は未だに欲しい、今あったら購入している1本です(探しています)。
前述のように人件費も材料費も高騰し、更に方針転換もされた中国のメーカーに、B-Barrelのような小さなメーカーが非常に限られた本数でうるさい要求ばかりするような形では注文すら受けてくれない状況にありました。そうした中での苦肉の策でもあったのが、「ケースサイズ等規格を統一させ、複数モデルを作ることでトータルの発注数を増やす」ということだったのだと思います。まして世界的な需要としては38.5ミリという(現代では)小ぶりなサイズは主流ではありません。よくもまぁそんな経営者としては鬱になりそうな状況でこの4タイプを通したものだと思います。
今回の2モデルはどちらも21,600振動のST17系「自動巻」ムーブメントを搭載しています。マニア的にはここは「シンプル北京再び」とばかりに(実際「シンプル北京」復活の声は非常に大きかった)ここは手巻き、それも機械にも拘って欲しかったところかもしれません。(様々な事情はあると思うのですが、公式発表では「社員の一人が今回はとにかく自動巻きでいきたかったので採用した」らしいです)
革バンドは恒例の型押しの牛革です。恒例と書いたのはB-Barrelの革バンドってあまり評価はされていません。あくまでオマケ程度に付けられたもの、という印象もあり、折角の本体の雰囲気を台無しにしている、という厳しい意見もありました。
ただ、個人的に今回のバンドは悪くないかな、と思っています。本体側20ミリー尾錠側18ミリの標準的なサイズですので、拘る方は別途自分の好きなバンドを合わせる楽しみもあります。この辺りにコストを使うのであれば、その分本体により精力を傾けて欲しい、というのがB-Barrel好きの正直な気持ちでもあります。
私が今回選んだ2本はどちらもゴールドでしたので、尾錠もしっかりゴールドになっています。ここに手を抜いてシルバーになっている時計も多い中で、一応こうした部分は手を抜かないのは流石です。
手首が細い人にとっての大きな悩みの一つが、一般的な革バンドだと最も短い穴でもまだ余裕が出てしまうこと。というと「穴開ければ良いだけでしょ」と思われる方も多いのですが、実際はそう簡単なことではありません。12時側と6時側のバンドの長さのバランスに問題が出てきてしまうからです。手首の細い人が腕にした場合、一般的な革バンドですと12時側(尾錠の付いている側)のバンドが長くなりすぎて、腕に巻いたときに尾錠が手首手前(6時側)に極端に寄ってしまうという問題が出てきてしまいます。特に最近の直径大きめの時計の場合にこの傾向が顕著になります。
38.5ミリという直径は単純に腕への収まりだけでなく、バンドも含めた全体のバランスとしても個人的には非常に良いと思っています。
今回のこ2モデルも、手首の細い私では新たに1~2個穴を開ける必要がありましたが、それでも極端に尾錠が手前6時側に寄る、ということはありませんでした。
この文章作成時で既に気持ち良いくらいにシルバーのモデルのみ売り切れています。一つには「金時計」に対するマイナスイメージも未だ根強いのかな、という気もしますが、もう一つ挙げられるのが、シルバーのモデルは針が青焼き針(ブルースチール針)である、という点も挙げられるかもしれません(ゴールドのモデルは針もゴールドです)。時計マニア的にはここはブルースチール針のシルバーを選びたくなる、というのも仕方のないことなのかな、と思います。
38.5ミリ。スモールセコンドタイプの3針。コールドエナメル採用のBB0047。
まずはスモールセコンド(秒針が6時位置の小さな丸い窓の中にある))3針タイプのBB0047です。各モデル「アラビア数字」「ローマ数字」、更に色も「シルバー」「ゴールド」とありますが、私は今回「アラビア数字(AR)のゴールド(GP)モデル」を選びました(BB0047は他にバーインデックスタイプもあります)。
私、シンプルなスモールセコンドタイプの3針はアラビア数字が好きなんです。特にゴールド系のケースの場合には、表情に柔らかさが出てくるので、個人的に非常に好み。上記はランゲ&ゾーネの1815ですが、当時(スモールセコンドではないものの)ローマ数字のリヒャルトランゲとどちらを選ぶか悩んだ時もあっさりこちらを選びました(スモールセコンドなのも大きかったですが)
同じく愛用時計の一つ、CITIZENのQ&Qもアラビア数字です。ローマ数字の引き締まった印象も悪くはないのですが、こうして見てみるとどうも私はシンプルな時計の場合には無意識にアラビア数字を選んでしまうようです。
特にゴールドケースだと、ゴールド自体の持つ存在感や主張の強さを和らげてくれる気もしているのかもしれません。
先ほども触れましたが、(最近の若い方は分かりませんが)日本人ってどうも「金時計」に嫌らしさであったり、着けづらさを無意識に感じているような気がしています。バブル期の成金のイメージが残っているのかもしれませんが、実際には肌との相性は悪くありません。また、金の色合いにもよりますが、全体的に柔らかさや優しさも出てきますし、バンドや文字盤も黒、白どちらも相性が良いので、オンよりもむしろオフでも積極的に試してみてほしいな、と思っているくらいです。
文字盤が真っ白でありながら安っぽい印象を受けないと思いませんか?これは文字盤にコールドエナメル(処理)を使っているからです。プラスチックや単なる表面の印刷と違って、高級感も出てきます。エナメルにはホットエナメルとコールドエナメルがありますが、ホットエナメルがより手間もコストもかかります。文字盤を均等に仕上げることも難しかったりします。コールドエナメルが決して簡単、という訳ではありませんが、エナメルの持つこの雰囲気はこのコールドエナメルが果たす役割も大きいかな、と思っています。
ガラスはお馴染みサファイアガラスです。といっても最近はどうも「高級素材の一つ」として格安の腕時計では妙に押し出されている気がして、敢えてここでこの点に触れるのは気が進まなくもあります。サファイアガラスだから素晴らしい、という訳ではないと個人的には思っています。もちろんサファイアガラスならではの文字盤や全体を含めた表情や、耐久性、傷への強さなどはありますが、どうも最近は「サファイヤガラスでない時計は安物」みたいな安易な評価が増えてきているのが少し寂しくもあります。
サファイヤだから高い、サファイヤだから素晴らしい、ということではありません。それは私が常々革靴でも書いてきている「手縫い靴だから、ハンドソーンだから素晴らしい、という訳では決してない」というのと同じです。「グッドイヤー製法、マッケイ製法、セメント製法それぞれの良さがあり、用途やその靴のデザインに合わせて適材適所で用いる、使い分けるのが良い」というのと同様、「サファイヤにはサファイヤの良さも欠点もあり、アクリルにもアクリルの良さがある」と思っています。
既に在庫処分価格ではシルバーモデルは在庫が綺麗になくなっていますが、元の価格でも充分に価値のあるモデルです。敢えて今、適正価格でシルバーを選ぶも良し、まずはゴールド入門として価格が手頃(4980円~)となってしまっているゴールドモデルを試してみるも良し。ただ、これは「単なるMADE IN CHINAの安物使い捨て時計」ではないよ、ということだけは最後に触れておきたいと思います。
レギュレータータイプながら12時間表記が大きく主張するBB0048。
「レギュレーター」といっても、時計好きな方でないといまいちピンとこないと思うのですが、ここでは「時針が12時位置の小窓に独立して付いている」タイプのものとして書いてみたいと思います(これも色々なパターンがあるので)。
パッと見てお気づきかと思いますが、この時計は本来あるべき場所に「分針」しかありません。では「時針」はどこにあるのかというと12時位置の小窓の中にあります(6時位置が「秒針」)。慣れればこれはこれで面白いのですが、慣れるまでは一瞬いま何時か分からないのが大きな特徴です。
レギュレータータイプの38ミリ時計ということで今回のB-Barrelのモデルの中でも注目されたのですが、時計好きとしてはちょっと「変則的」ちょっと「デザイン重視」な惜しい気がしてしまう悩ましいモデルです。それが、
レギュレーター、分針だけなのに、外縁の目盛りが何故か12時間表記がメインだということです。
だって、要らないんです。12時間表記の目盛り。分針しか無いんですから。これ、アラビア数字であろうがローマ数字であろうが、本来この目盛り、不要なんです。むしろその外周にある60分目盛りのみで充分なのです。
ただ、こんな細かいところは時計マニアでなければ気にもならないかもしれません。実際デザインを考えると、例えば今回私が買ったローマ数字モデル、決してデザインとして破綻しているわけではありません(妻にこの話をしたら「でもこのローマ数字あったほうが良くない?」と言われました)。
実際、株式会社ディンクス社長ぶーさん曰く、「デザイン性を重視して敢えて入れた」とのことです。一般的にはこれもありなのかもしれません。私は単に「アレー、出来上がって届いてみたら中国人、親切心で勝手に目盛り入れちゃったヨー」みたいなオチかと思っていたのですが、そうでもなさそうです。
前述のようにシンプルな時計ではアラビア数字が好きな私ですが、このレギュレーターモデルでは敢えてローマ数字を選びました。数字をなるべくデザインの中に溶け込ませたい、との判断からです。アラビア数字だと何となく数字が目に飛び込んできそうで(分表示の目盛りもアラビア数字なので)気になってしまいそうなのと、あとは単純に2本買うので先ほどのBB0047がアラビア数字だったので、こちらはローマ数字にしようかな、と。
ただ、選ぶ際には完全に好みで選んで問題ないと思います。間違いというわけではないので。前回「問題作」と書きましたが、別に不正解だとか、これは失敗作だ、と言いたいわけではありません。正直どーでもいい部分ではあります。腕にしていて楽しい、つい何度も「時間を知りたいわけでもないのに」何となく時計ばかり見てしまう、といった好みの時計を選びましょう。
こちらも青焼き針(ブルースチール針)の影響か単なる金時計が無意識に避けられているだけなのか、シルバーモデルのみ完売状態です。ゴールド、良いと思うんですけどねぇ。却って私のような「まずは金」と思っていた人間には選び放題でありがたかったくらいです。
あの頃、私たち時計好きを熱くさせてくれた、夢のある中国製の腕時計があった。
21世紀の初め、巨龍が眠りからようやく覚めようとしていた頃、その時代の大きな節目であり狭間であった僅かな時期に、日本と中国を結ぶ、熱くて暑い、適当でいい加減だけれど熱気とパワーに溢れた大陸で生まれた腕時計がありました。
21世紀の初めの10年あまりという短い時ではありましたが、腕時計バブル、そして世界の激動の中で、逞しく、細く、小さく、けれど図太く生きてきたこのブランドは、今年2017年、一旦その役割を終えました。多くのファンにとって、別にこの時計が最高だったわけでも至高であったわけでも一生モノであった訳でもないとは思います。ただ、多くの夢とワクワクを与えてくれた希有な中国製の日本の腕時計であったことは間違いありません。私はその中のわずかな時期しか接することが出来ませんでしたが、今もその時の胸の高鳴りや「時計って楽しいな」と純粋に思える気持ちを忘れることが出来ません。
別にそんなたいしたもんでもないんです。たかが腕時計なんです。
そんなものです。暑く書きましたが、そんな凄いモノでもありません。でも私にとっては暑く語るに値するだけのモノでした。そして、そんな時計ブランドが一旦役目を終えるその最後の時に私の手元にやってきた2本の38ミリの腕時計。またいつか第二章が始まるときがきたら、この時計を眺めながら「久しぶり」とまたその想いを書きたいな、と思っています。
ありがとう。B-Barrel。これからもよろしく。