「三交製靴が再来月で廃業」という話にかなり動揺していた中、長野県松本市から大変嬉しい連絡が届きました。それが私が松本に行く度にお世話になっている靴の館 ヤマザキ屋にお願いしていた、宮城興業の和創良靴のオーダー靴の完成の連絡です。
今回が3足目。この和創良靴というシステムが素晴らしい。世界のどこででもやろうと思えば出来るものの、それを生かすも殺すも取り扱うお店次第というなかなか面白くも怖いものですが、可能性が幾らでも広がります。
その魅力についてはこれからも取り上げていきたいと思っています。私の定番の革靴の一角なので。今回はそんな中でも可能性を大きく感じさせてくれた私の2足目の和創良靴をご紹介しながら、その魅力について書いてみたいと思います。
ちなみに今回完成した3足目は、私自身が長野県松本市まで行かないと受け取れないため、手元に来てからのご報告は少し先になります。恐らくヤマザキ屋のブログでスタッフの泉さんからその内ご紹介頂けるのではないか、と密かに楽しみにしていますので(プレッシャーかけてみた)そちらをお待ちください。
六義でコレスポンドに憧れた。
何がきっかけだったのか、なぜこのページにたどり着いたのかすら、今となってはまったく覚えていません。たまたま、偶然だったのかもしれません。とにかく、その頃、それまでまったく興味も無ければ、むしろ敬遠すらしていたコレスポンドシューズに興味を持ちました。
「六義 コレクション帖」 1 デイアスキンとコレスポンドシューズ : 六義庵百歳堂(りくぎあん ももとせどう)-人生が2度あれば
コレスポンド(コンビ)シューズというのは、数ある男の靴のなかでも、最も ダンデイズムを匂わせる 「一足」 といえるのではないか。
変っていて、目をひくけれども、これは、黒のオックスフォードと同様に まごうことなき、男のクラッシック シューズだ。由緒正しき 靴なのだ。
この靴を、ひと目 見ただけで、30年代の優雅なリゾート地、例えば ドーウ”イルの競馬場とか、白いホワイトフランネルのスーツとか、モンテクリステイ製のパナマ帽とか、、そんな贅沢なシーンが思い浮かぶ。 そういう靴は、他にはないでしょう。
名だたるダンデイ達が この靴を愛用した。フレッド・アステア、ダグラス フェアバンクス JR、スコット・フィッツジェラルド、、、、これだけでも、その由緒正しさは窺い知れる。
ダンデイ達の靴コレクションには、必ず、用意されいた贅沢な靴。 或いは、贅沢な生活を象徴する靴。
六義というお店自体は以前から聞いたことがありましたが、縁なく今まで伺ったことはありませんでした。けれど、このブログの文章に痺れました。履いてみたい、と思いました。けれど、大きな問題があったのです。
なかなか最近では見かけない理由。
鹿皮そのものが、品薄になってきたこともあるが(とくに良質なものは)、とくに、ホワイト(白い)が手にはいりにくいのは、 それが、本来の鹿皮の色だということがある。(鹿皮というのは白いのダ)
、、、白く染められるわけではない。つまり、ホワイトデイアスキンは、鹿皮そのものが良質で、傷がないもの、汚れがないものでなければならない。他の色と違って、染め加工でごまかせず、その白さゆえ、汚れやすく、扱いにくい。鹿皮は、本来 耐久性に優れたものだが、柔らかいので、作り方にも多少のコツがいる。靴屋にとっては、ヤッカイな代物というわけだ。
ホワイトディアスキンが手に入らない。確かに世に多く出ているホワイトバックスでも、本当に真っ白なものはなかなか見つかりません。どうしても若干クリーム色っぽくなってしまったり。コンビ靴であればあるいはホワイトレザーで代用してしまう。実用性を考えると確かにそのほうが楽でもありますが。
けれど、この靴は「楽」とか「便利」とか、そういった基準で選ぶものではない、と思ったのです。そもそもそんなこと考えている時点で野暮だと思いまして。
なんて格好つけたものの、さてどうしようか、と思っていました。いつも通りの松本訪問の折。その前に大抵事前にメールで連絡をしておくのですが、そんな中で思わぬ提案でした。
白い鹿革が見つかった。
「エゾジカのスエードが使えそうです。」
これは、もう作るしかない、いや、単に私が作りたいだけ。それからヤマザキ屋の泉さんとどんな組み合わせ(革から、どの部分に鹿革を用いるのか、まで)、そして仕様にするのか、まで詰めていきました。私は単なる一靴好き。そこに泉さんの靴屋としての、プロとしての、そして多くの靴を見てきた中での経験が加わり修正されていきます。
そうして出来上がったのがこちらのコレスポンドシューズ。
既に製作から2年(その前の打ち合わせから合わせれば3年になるのかな)経っています。この時期くらいになると、履きたくなってきます。
勿論どう組み合わせるのかは、未だに悩みます。常に悩み、考える一足です。正直面倒くさいとも言えます。けれど、それが良いんだと思います。これを苦痛に感じるのであれば、そもそもこうした靴は私には一生縁のない類の靴だと思うのです。
和創良靴の評価は、ひとえにその靴屋さんにかかっていると思う。
和創良靴を生かすも殺すも、それを扱っている靴屋さんの、担当される方の技量とセンス、気持ちにかかっていると思います。
もちろんどのブランドのどの靴であれ、そして靴に限らず、それは大切なのだれど、これほど影響が大きいブランドは他にはなかなか無いかもしれません。
お客さんがどういう靴をどういう状況で履きたいと思っていて、イメージをしているのか。それをただ単に宮城興業に用紙に書いて伝えるだけなら、どのお店のどんな店員にも出来ます。けれど、そこにプロとしての目とセンス、経験を持って、うまく引き出し、それをただ単にスルーさせるだけではなく、ダメなものはダメ、合わないものは合わない、といったこともしっかり伝えられつつ、宮城興業の職人さんをうまく乗せて、そのやる気と引き出しを開けさせる。
コンサルティングです。
これはなかなか難しい。フィッティングも勿論難しいのだけれど、ただお客さんの我が侭を通すのではなく、かと言って宮城興業側の型通りのパターンにはめられることなく、その両方を活かしながらも、そこにそのお店の魅力を加えていく。言うほど簡単な仕事ではないことはすぐにわかります。
正直書きにくいんですよ、ホントにもう(苦笑)
だって、ヤマザキ屋の泉さん、この前「いつもブログ楽しみにしてますよ」ってサラリと言うんですよ。下手なこと書けません。それは悪いことを書けない、という意味ではなく、正反対。下手に褒められないじゃないですか。ヨイショしてるだけのように見えますし。
普通に書いていても、これって提灯記事じゃないか、スポンサード記事じゃないか、って自分で突っ込んじゃうんです。一切何も頂いていませんが。頼まれてもいません。勝手に書いているだけなのは、今までの三交製靴や銀座ヨシノヤと同じです。
この難しいことをやられているのが、ヤマザキ屋なんですね。あのお店の魅力と強みはその独特のセレクトだけでなく、泉さんと田多井さんというお二人の店員さんによるところが大きいと思います。単に日本で初めてハインリッヒディンケラッカーを仕入れて長年販売してきただけのお店じゃないんです。
そして、勿論そうした客と店舗の要望をしっかり受け取り、それを形に出来るだけの経験とセンスと力がないと完成しないのが靴。そこに宮城興業の強さがあるんだと思います。
私の中の定番革靴。
こうして見てみると、私の最近愛用している定番革靴って、キレイに役割分担が出来ているんですね。
スタンダードな「三交製靴 ラギッドシューズ」、そしてフルハンド、九分半からマッケイまで、本格的な既製靴を提供しながら幅広い対応が可能な「銀座ヨシノヤ」、これでビジネスからデイリーユースまでほぼいけます。そして、そこに靴好きとしての細かい要望にうまく応えてくれる今回の「宮城興業 和創良靴」。そして日本人の足元を支える「リーガル」。贅沢ですね。しかもこうして見回すと、全て国内メーカーです。
国内にはこれだけ幅広く、また層の厚いとんでもないメーカーや工房が幾らでもあるんです。日本にいるなら、それを知らずにいるのは勿体無いです。それは単に「人の知らないブランドを知っているうんたら」といった優越感や満足感ではなく、わかりやすく言えばコストパフォーマンスが高いんです。無駄がない。フードマイレージ、地産地消なんかと同じ考えです。革など部材は一部海外から調達していたりしますが。
フード・マイレージ (food mileage) は、「食料の ( = food) 輸送距離 ( = mileage) 」という意味であり、食料の輸送量と輸送距離を定量的に把握することを目的とした指標ないし考え方である。食糧の輸送に伴い排出される二酸化炭素が、地球環境に与える負荷に着目したものである。注目輸入相手国別の食料輸入量重量×輸出国までの輸送距離(たとえばトン・キロメートル)を表す。食品の生産地と消費地が近ければフード・マイレージは小さくなり、遠くから食料を運んでくると大きくなる。
もちろん海外ブランドにはそれぞれに素晴らしい魅力があります。私も好きです。それを否定する気はまったくありません。けれど、海外に行かなければ見つからない、無いわけでは全くない。その辺りは国内でこれだけ幅広い世界中のブランドを多く揃え、買うことが出来るという世界一恵まれた環境にある日本にいる靴好きであるがゆえの悲劇かもしれませんが、つい海外にばかり目が行ってしまう。
やっぱり日本の靴はダメだね、センスがね、革がね、作りがね。等々。
勿体なくないですか?
ということで、今回3足目となる和創良靴、なるべく早めに受け取りに行ってきたいと思います。長野県松本市まで。泉さん、今回の内容はあまり突っ込まないで下さい。ちょっとドキドキしながら書いてます。