「私、幅広なのよ。だから3Eじゃないと駄目なの。」
「えっ?これ、3Eじゃないの?う~ん・・履きやすいし痛くないけど、3Eじゃないと心配だから、やめとくよ。」
私が靴屋さんで働いていた頃、多くの方からこうした言葉を耳にしました。今、目の前のプロ(靴屋さん)と一緒に選び、試し履きをして、その結果折角足に合う(であろう)靴を見つけたにも関わらず、それでも多くの方にとってはそれよりも靴に書かれているウィズ表記のほうが信頼できるのですから、それだけウィズというのは、表記サイズというのは影響力が大きいのでしょう(目の前の私がプロとして信用できなかった、というのは単に私の力不足でもありますが)。
では、その多くの方にとって絶大な信頼感があるウィズ(ワイズ)というのは何なのでしょうか。今回はこの「幅広だからEEE(3E)」という一般的なイメージについて少し考えてみたいと思います。
そもそも3E(EEE)って何でしょうか?
「えっ?幅広のモデルのことでしょ?」
「足幅のことだよ。」
これ、どちらも半分正解、半分不正解なんです。
一般的にこの3Eなどの表記はウィズ(ワイズともいう)と言われます。このウィズ、どうやって決まるかご存知ですか?
3Eなどのウィズ(ワイズ)は、「足長」に対応させた「足囲」と「足幅」によって表記が決まります。また、後述しますが、日本のウィズ表記と海外のウィズ表記は(対応するものが)全く違います。
靴のサイズは足の長さだけではなく、足の太さにも関係するからです。
日本の靴のサイズはJIS(日本工業規格)に基づいて足の長さ(足長)と太さ(足囲)、または(足長)と(足幅)に二箇所の寸法を表示するようになっています。
はい、分かりにくいですね。ごめんなさい。ここで伝えたいのは、ウィズというのは足幅だけで決まらない、ということ。むしろ上記のリンクのように「足幅」を表記しているところは結構少なく、「足囲」自体をウィズ(ワイズ)としているところもあります。
ところが、店頭で多くのお客さんと接してきた中で感じたことは、ウィズ(ワイズ)とは幅のことだと思っている方が圧倒的に多い、ということです。
足囲と足幅は違うの?
勿論全く異なる訳ではありません。
関係はあるのですが、分かりやすく単純化していうと、足囲は「円」、足幅は「線」です。
ますます分かりづらいですね。
例えばJIS規格における靴のサイズ表で、男性25cmのEEEを見てると、「足囲255mm、足幅104mm」とあります。
足長 | D | E | EE | EEE | EEEE | ||||||
cm | mm | 足囲 | 足幅 | 足囲 | 足幅 | 足囲 | 足幅 | 足囲 | 足幅 | 足囲 | 足幅 |
25.0 | 250 | 237 | 98 | 243 | 100 | 249 | 102 | 255 | 104 | 261 | 106 |
ここで手元に紐がある方は、255mmの長さで端同士を合わせて円を作ってみてください。ない方は想像。それが足囲です。
足の最も広いと言われている部分をぐるりと一周させた部分が「足囲」です。
「足幅」はその最も広い部分の単純な横幅なので、104mmの線になります。
何か問題あるの?幅広は幅広じゃん、という方へ。
大抵足のもっとも横幅の広いところが靴に触れたり当たる(気がする)ので、「私は幅広だ」と思ってしまいます。圧迫感を感じた時点で、その靴は小さい、と感じてしまうのです。だから、幅広のモデルが欲しい、となるのですが、足というのは縦の厚みもあります。
先ほどの255mmの紐で作った円。これを思い浮かべて欲しいのですが、この円って、色々な円を作れませんか?
横に長い円、縦に長い円、正円・・。
ということは、同じ255mmの円周を持つ円でも、縦に厚かったり、横に広かったりする訳です。25cmの3Eの靴、足囲255mmというと、極端な例にはなりますが、極端に横は狭くても、縦に厚い細長い足回りの靴でもOKということですね。
これ、幅広ですか?
多くの日本のメーカーはJIS規格に「基づいて」靴を作っています。
先程の例のように極端な円(形)の靴はもちろんありません。何故なら「足囲」だけでなく「足幅」も含めてある程度決まっている訳です。そして、それらを規格にして、定めたのがJIS規格上のサイズです。
このJIS、名前の通り「工業標準化法に基づいて」います。工業上の表記なんです。けれど足はナマモノ。歩き方や生活、人によって形も大きさも様々に変わります。その足に対応させた靴という工業製品に「ある程度の規格」を定めているということです。
そこで、各メーカー、サイズ表記に幅を持たせてきます。何故なら、そのメーカーの目指しているフィッティングに基づけば、JIS規格上のサイズ表記通りに作るのが正しいとは限らない訳です。また、さきほどナマモノと書いたように、足の形は千差万別です。メーカーによって、靴の木型も、その目指す方向性も変わってきます。
そこで、メーカーはJIS規格に「基づく」サイズでそれぞれ靴を作っています。あくまで「基づく」だけで、その靴のコンセプトによって、同じメーカー内でも色々な形の靴が生まれるのです。
ちなみに、足長とすると分かりにくいのですが日本のメーカーでは革靴に関しては、おおよそ足長を目安にサイズ表記しています。足長25センチ前後の人用の靴がサイズ25センチ、という感じですね。
そこで改めて。あなたのウィズは何ですか?
この質問について、ちょっと考えてみてください。実は結構難しいのです。単に「私は3E」「私は4E」といった話にならないんですね。例えば上記のリンクより、足長25センチ、25.5センチ、26センチの部分を一部抜き出して見てみると‥
足長 | D | E | EE | EEE | EEEE | ||||||
cm | mm | 足囲 | 足幅 | 足囲 | 足幅 | 足囲 | 足幅 | 足囲 | 足幅 | 足囲 | 足幅 |
25.0 | 250 | 237 | 98 | 243 | 100 | 249 | 102 | 255 | 104 | 261 | 106 |
25.5 | 255 | 240 | 99 | 246 | 101 | 252 | 103 | 258 | 105 | 264 | 107 |
26.0 | 260 | 243 | 100 | 249 | 102 | 255 | 104 | 261 | 106 | 267 | 108 |
面白い一致に気づかれるのではないか、と思います。同じ足囲と足幅の人でも、足長を1センチ上げてみるとウィズが1つ小さくなります。そして、多くの方の足のサイズはピッタリ25センチ、ピッタリ26センチというわけではありません。まして、「正確に測ったことはない。」「なんとなくスニーカーで28センチを履いていたから28センチだと思う。」といった方も多いのです(実際にはスニーカーサイズで28センチを履いている方の多くは、革靴で28センチは大きすぎて履けません)。
ウィズというのは絶対的なものではないのです。(これも表記と説明の仕方によって違うので曖昧ではあるのですが、今回は一応両方を加えておきます。)
あなたのウィズはあくまで足長とセットで考えた場合の「だいたいEEくらい」といった目安にしか過ぎません。
「私はサイズ25センチの靴なら大体ウィズだとEEE(3E)くらい。ただ、その前後のサイズでウィズを変えても合う靴がある可能性が十分にある。」くらいに気楽に考えてもらいたいな、と思っています。
日本の靴のウィズ表記はあくまで日本のJIS規格における表記です。
よく、靴マニアでもいるのですが、英国靴のEと日本靴のEEを一緒くたにして、日本靴はEEだから幅広だ、と結論づけている人がいます。でも、英国靴のEとかDって、日本のEEやEEEという表記と、同じようにA~使っていても、「全く別物」だというのが分かります。
何故なら、日本のEE等はJIS規格に「基づいて」表記している場合もあるからです(時々日本の靴なのに、表記を敢えて英国表記にしている場合もあるので更にややこしいのですが)。また英国靴がご親切に「JIS規格」で表示している訳がありません。
履き心地は足囲や足幅だけで決まる訳ではありません。
「私は幅広だから3E。2Eなんて安心して履けない。」
勿論今まで痛くなかった、不便はなかったのであれば、それも一つの生き方です。何となく2Eだと痛い気がする、と緊張しながら歩いてしまえば、足は緊張しますし、疲れてしまうかもしれません。足なんてひとりひとり違って、歩き方も違う訳で、自分の歩き癖が特殊なことで、とにかくブカブカの靴の方が快適な人もいると思うんです。
それを否定する気はありません。
ただ、「勿体ないと思うのです」
単に履かなかっただけで、2Eのほうが足の形に合った靴もあるかもしれません。2Eなのに、普段履いている3Eの靴よりも幅広に感じられる靴もたくさんあります。また、今まで何となく自分の足は26センチと思ってきたけれど、実際には25センチで探したほうが見つかりやすい、という例も多々あります(その逆ももちろんあります)。
何故なら靴によって全くフィット感はまったく変わるからです。相性は数値だけではありません。数値はあくまで目安です。
足幅なんて、先ほどのJIS靴のサイズ表をちょっと見て頂ければ分かるのですが、あくまで足の長さと対応させているだけなのです。
最後に。一度自分の足の長さを測ってみませんか?他のサイズも試してみませんか?
JIS規格に基づいたサイズ表は確かに便利です。大きく外れることがないからです。ただ、時代とともに足の形も変わってきています。今の若い方とご年配の方、また仕事で日々とにかく歩く方とデスクワーク中心の方では、足の形が全く違うのです。それを一つの靴という工業製品に定められた「ある程度の規格」上の表記だけで分けることには無理があると思っています。
ちなみにあなたはご自身の足の長さを測ったことがありますか?測ってみると、意外と今履いている靴のサイズとの違いに気づかれるのではないか、と思います。そのサイズで、そのウィズで、本当に正しいのでしょうか?もしかしたら、もっと足にとって楽なサイズとウィズが、いえ、そんな表記を全く抜きにして、足に合う靴が、見つかるかもしれません。
多くのスニーカーは、靴のサイズ、足のサイズに対する許容範囲が広く、何となくでも何となく履けてしまうので、それを基準に選ぼうとすると、本当に足に合った、足に良い靴のサイズというものに気づきにくくなります。
だから、自己判断で何となく決めてしまうのではなく、一度しっかりと測ってみませんか?そして、他のサイズも、また他のメーカーの靴も試してみませんか?
一番良いのは、信頼できる店員さんと長く良い関係を築けることです。
などと電子書籍で書いたところ「無責任だ」というご意見を頂いたのですが、ネットで適当な情報を集めてきただけで自分の都合の良いように解釈して自己判断で自分に合った靴を選ばせようとすることのほうが余程「無責任」だと思っています。だから私は、あなたに情報を教えたいのではなく、「ちょっと自分の足のサイズを測ってみようかな」「こんどはもう少しお店でじっくり(ちゃんと店員さんの言うことにも耳を傾けつつ)時間をかけて選んでみようかな」と思うきっかけになれば良いと思っています。
このブログの「靴のお手入れ」と「靴の選び方」が一冊の本になりました。
今回の文章も含め、今までこのブログで200以上書いてきた「革靴のお手入れ」と「革靴の選び方」に関する内容に加筆、修正してまとめたものをAmazonのKindle書籍として発売しました。
前半で皆さんが「何か特別で面倒なもの」と考えてしまいがちな靴磨き(本書では「お手入れ」)について、また後半では多くの方が陥りがちな革靴の間違った選び方(主にサイズ)についての誤解を解きたいと思います。
Kindle書籍、というと「Kindle端末」が無いと読めない、と思われている方も多いのですが、お使いのスマートフォンやタブレット端末でも「Kindleアプリ」を入れることでお読みいただけます。スマホに入れて、いつでも気が向いたときに目を通せる、いつも手元に置いておけるものを目指して書きました。また、Kindle Unlimited会員の方は、今回の書籍は無料でお読みいただけます。
この文章をきっかけに、より多くの方にとって「革靴って痛いと思っていたけれど、ちゃんと選べば意外と快適なんだな」「靴磨き(お手入れ)って何も特別なものじゃなくて、毎日の歯磨きや洗顔のような日常なんだな」と感じて頂き、より革靴を身近なモノに感じてもらえたら、と願っています。