昨日、東京大学本郷キャンパス理学部2号館講堂で開催されたこちらの講演会。「ネアンデルタール人の絶滅の謎に迫る」に行ってきました。
会場はかなり埋まった状態。比較的各分野の専門家から一般の参加者まで幅広く、また充実した内容に知的好奇心を刺激されっぱなしです。
文部科学省科研費補助金「新学術領域研究」:ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相: 学習能力の進化に基づく実証的研究
ネアンデルタール人、覚えてますか?
私、名前だけであとは完全に記憶の隅に追いやられていました。非常に申し訳ないのですが日常生活でネアンデルタール人に思いを馳せる機会がなかなかありませんでした。
ただ、この交代劇についてはここ数年各方面で話題になっていて、私もひかりTVでナショジオ等を見る際に時々番組を見た覚えがあります。
ネアンデルタール人絶滅で新説 欧州で4万年前、現生人類と交流 – 47NEWS(よんななニュース)
またネアンデルタール人とホモサピエンスが一緒に生活していた、という話は上記ナショジオ等の番組や海外ドラマBONESの第8シーズン第11話「繭の中の考古学者」で取り上げられたりと時折目にしていたので、興味は持っていました。
面白いですね。絶滅した旧人ネアンデルタール人と世界中に拡散した新人ホモ・サピエンスの命運を分けた真相は何なのか。また否定されていた両者の交雑の証拠など。充実しすぎて忘れていましたが、そもそも基本的なところ。ネアンデルタール人って何でしたっけ?
今の高校の教科書を調べてみた。
私の先史時代の知識というのは学生時代でストップしています。このブログを読んでくださっている方の大半も恐らく基礎知識は数十年前でストップされていると思います。
ということは、自分に興味のない分野というのは当時のまま止まっているということです。それを前提に歴史を考えている訳ですから、歴史認識や常識にズレが生じても仕方ありません。
そこで復習の意味も込めて今の高校生はどんな風に教えられているのでしょうか。高校の歴史教科書と言えばお馴染み山川世界史Bです。
半年ほど前に買いました。この辺りの知識は常識としてきちんと身につけておきたかったので。他に日本史、政治・経済も買ってあります。
早速該当箇所を読んでみましょう。
さらに約20万年前、より進化した旧人が出現した。ヨーロッパに分布したネアンデルタール人がその代表である。旧人は現代の人類とかわらぬ脳容積をもち、死者を埋葬するなど精神文化を発達させた。彼らはヨーロッパから西アジアにかけて住み、また剥片石器を利用して、氷河に適応した生活を送っていた。
以上。ドラマチックな交代劇は勿論ありません。いや、他の猿人や原人、新人と扱いはほぼ同程度なので、それほど重要でもなくサラリと流されてしまいます。寂しい。
当たり前といえば当たり前ですが。ドラマチックな教科書だったら困ります。
私、大学は史学科に進んだので歴史好きだったはずなのですが印象にまったく残っていないのは、そもそも高校ではこれくらいしか扱いがなかったということですね。入試にも出ないのでサラリと流されたんだと思います。
各方面の専門家がそれぞれの分野の研究成果を持ち寄る。
私自身クロマニョンだネアンデルタール人だといった用語は今回久しぶりに思い出したくらいですから。唯一アウストラロピテクスだけ何故か微かに用語として出てきたくらいです。
その程度の知識レベルの私でも充分に興味深い話が続いて既に消化不良を起こしていますが、私が改めて印象的だったのは、各方面(歴史に限らず)の専門家、研究者が世界各地で様々な調査を行っているわけです。それはネアンデルタール人とは全く関係のない、気候変動についてであったり、全く関わりのないと思われている分野だったり。
世界にはあらゆる事を専門としている人たちがいるんですね。
それらは別個に素晴らしい成果を上げられている事と思います。それらを掛け合わせた時に思わぬ発見が生まれるかもしれない。
例えばネアンデルタール人が絶滅へと向かっていく時期はハインリッヒ・イベント5からハインリッヒ・イベント4への時期なのですが、その時期の特徴を例えば気候変動の専門家はその分野なりの研究の蓄積があると思います。
けれどそれがどうネアンデルタール人と関わるかは、気候変動の専門家はそもそもネアンデルタール人の知識はないかもしれない。
ただ、気候変動についてはネアンデルタール人についての専門家よりも遙かに詳しいわけです。それをどう組み合わせるか。
最近はゲノム研究も盛んになってきているようで、そのゲノム研究の成果がどうネアンデルタール人とホモ・サピエンスの研究に生きてくるか。これも分かりません。
昔はそうした他分野の研究が思わぬ結合や変化を生むことというのはなかなかなかったかもしれません。移動距離や連絡手段の問題がありました。けれど今これだけネットワークとデータベースの活用の技術が発展すれば、そうした交流も盛んになると思うのです。
あまりに充実の4時間半。これだけで終わりにしては勿体ないので、早速ネアンデルタール人に関する書籍が何かないか、帰りにAmazonで調べてしまいました。
ざっと調べただけでも今回のプロジェクトが始まった2010年以降でも4冊見つかります。
特に最後の「ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか (角川文庫)」は文庫及びKindle版で出ているので、読みやすさも含めてこれから入っていくのが良いと思います。
次の公開講演会は高知会館で3月7日(土)8日(日)
人間の起源に関わることであるだけに、非常に興味深いです。そして次回のチラシが入っていたのですが、なんと場所は高知。土日とはいえ旅行で行く気にでもならないとなかなか行けません。
こういう公開講演会こそ、是非オンデマンドその他でネットでも見られるようにして欲しい。それができるようになると、より世界は広がると思います。
ちなみに冒頭でも挙げたこのプロジェクトのサイトでは、交代劇に関する論文のダウンロードやデータベースの検索が出来ます。英語の論文等が多いので手強いのですが、興味のある方は是非。