昨日夜、恒例の「科学映画研究会」に参加してきました。7月の月末、ブルームーンの日ということもあってか参加人数も控えめ。かなり贅沢な時間でした。主催側としては厳しいだろうし、実際私も今回の内容はこの人数だけで味わうにはあまりに勿体なさ過ぎる、過去の科学映画研究会でも屈指の内容だったと思うので、その点では少ないのというのは残念でしたが、個人的にはこれくらいの人数でのんびりゆったり映画が見られるこの「科学映画研究会」が私は大変にお気に入りです。
次回は今月最終金曜日。内容は「蜂」とのことなので、興味のある方は早めに予定を空けておきましょう。
今回見た映像作品はおまけを除くと4作品。
うち2作品は以前ご紹介した科学映像館で実際に見ることが出来ますので、これは是非見ていただきたいと思います。
それぞれ20分程度ですからね。今日の熱風のような暑さの中で、お家でのんびり見るには最適の映像です。けれど中身はかなり濃いですが。
「ダムの水は、いらん!」なんて、ダムを多目的事業にするために、利水の目的を強引に加えようとした農水省はじめとするお役所側が偽りの説明をしたり、死者の印鑑を付かせたり、騙して印鑑押させたりとあらゆる手で必要な数の印鑑を集めようとするわけです。
日本においてはダムというのは利水以外にも様々な目的でどうしても必要な部分もあったのだとは思うのですが、昨年末に公開された映画「ダムネーション」など、ダムというものの役割、意味について改めて考えてみる良い機会だと思います。
ドキュメンタリー映画『ダムネーション』公式 (DAMNATION) by パタゴニア
日本の歴史は水とどう共存していくかの歴史。
それを歴史を紐解きながら、その中で試行錯誤されていく治水事業を追ったのが残りの2作品。
「野中兼山 流れる河は生きている」は樋口源一郎監督作品。土佐藩の家老・野中兼山が南学(朱子学)による遠大な理想を求めて自然改造を実行、その独創的な治水工事・港湾造成・堰など、今も生きている総合開発の足跡を紹介する25分の映像。
野中兼山は高知の方や歴史好きなら有名な方ですが、一般的には岩下志麻さんが野中兼山(良継)の失脚後、4歳にして一族とともに幽囚の身となった婉の役を演じて話題になったこちらの映画のほうが有名か。
もとは小説。
これは贅沢だった16mmによる「洪水をなだめた人びと」
16mmで見られるところも科学映画研究会の贅沢なところです。ちなみに16mmフィルムだとお値段250,000円(税抜)だそうです。
如何に日本が平野が少なく、台風や集中豪雨の度に大洪水に悩まされてきたか。そして、昔から統治者(例えば戦国大名)などが国を治めるため必須だったことは、その土地の治水と水防が如何に出来るか、水との戦いだったわけです。「独創的な治水」を行った武田信玄、「土木の神様」加藤清正など。
築城の技術、収穫高を上げることから防衛まで、全て治水の技術と関わりがあったわけですね。
戦乱の世にあっては、戦時も平時も水は重要な役割を持っています。いつ戦になり、田畑や農民、そして築き上げてきた治水の全てを破壊されるか、また自分たちの命を落とすことになるかわからない中で、自然の脅威と向き合ってきた当時の人びとの知恵と技術は本当に凄いものがあると思います。
常にそうした自然の脅威に晒されてきた中で、自然を知り、恐れ、学んでいった昔の人たち。そして、自然と真っ向から戦うのではなく、真正面からぶつかるのではなく、いかにしてその中でその自然とうまく共存していくのか、そうした大きな自然の中で如何に生きていくのか、ということだったのだと思います。
その歴史を振り返りながら、日本独特の「水の流れをそらし」「勢いを弱め」「洪水をなだめる」という知恵を身につけていく姿をたった30分の映像でまとめてしまったところが凄い。
現役からは退いてはいるものの「西広板羽目堰」なんて凄い技術ですよね。
日本では狭い国土の中で多くの自然に囲まれ生きていく中で自然と戦うのではなく、自然に順応する思想が生まれてきました。それを技術と融合させたのが、この「西広板羽目堰(さいひろいたばめぜき)」です。これ、洪水の危険が高まると、瞬時に分解して開放されるんです。文章よりも一回見てしまったほうが早いかもしれません。
平成15年度デジタルミュージアム構築事業 千葉県の産業・交通遺跡 養老川西広板羽目堰(市原市)
最近では都会に住んでいると、自然の中で生きることを許されているのだということを忘れがちになる。
最近は科学技術の発展で、どうも人間は自然を制御、コントロールできたかのような勘違いを起こしがちですが(そして見事に痛い目に遭いますが)東京などに住んでいると、自然の中で生かされている、何とか生かしてもらっている、という謙虚さであったり、意識を忘れてしまっていることに気づきます。
今では都心にいる限りそうそう大洪水で多数の死者が出たり、ということはありませんが、世界を見ればそうしたことはいくらでもありますし、昔から人びとは自然の中でどう生きていくか、ということを必死に知恵を絞って工夫してきたわけです。
そうしたことを忘れがちになります。
水というのは凄い。身近に当たり前のようにあって、普段はおとなしくしている、私たちの生活を支えてくれ、無くてはならない存在なのだけれど、決して人間の勝手に出来るようなものではない、ということを改めて感じる素晴らしい作品ばかりでした。
見事に予定の2時間をオーバーして、少ない参加者も却って刺激されたのか次々水から話が広がっていって、気が付けば40分近く延長してしまいましたが、非常に素晴らしい、今回で終わらせてしまっては勿体ない内容でした。これはもう一回、いや、そこから色々な方向に広げながら何回かまた取り上げて欲しいな、と思っています。