今日の松本の靴専門店「ヤマザキ屋」 スタッフブログで、私が以前オーダーしたMDラストのUチップをご紹介いただきました。
松本の靴専門店「ヤマザキ屋」 スタッフブログ:和創良靴 パターンオーダーシューズ ”Uチップ”
この靴のオプションの組み合わせに関しては上記ブログで泉さんが詳しく説明して下さっていますし、私も以前この靴について書いていますので、興味のある方はそちらをご覧頂きたいのですが、今日のテーマは、「和創良靴は靴マニアだけの特殊な世界か」です。
[0754-201504] 宮城興業 和創良靴3足目はUチップ。一足ごとに広がっていく可能性を感じます。
シンプルで手頃、気負わない靴と腕時計について書いていながら。
このブログでCASIO STANDARDやSEIKO 5、靴でも三交製靴ラギッドシューズなど、決して「高額」に位置するものを多く取り上げてきたわけではありません。また、それらを勧めたい訳でもありません。
[1055-201510] これからもあなたにとって、物欲を全然そそられないブログでありたい。
にも関わらず、このブログで取り上げる宮城興業の和創良靴に関しては、人によってはマニア臭が漂いすぎているかもしれません。もちろん私は靴マニアの類に入ると思います。
私は、かえって一般の方にこそ和創良靴を徹底的に活用して欲しいと思う。
私が和創良靴で靴をオーダーする度にこのブログでちょっと凝った靴を紹介するのは、もちろん単に「見て見て(はぁと」といった見せたい根性も無くはないですが、どちらかと言うと、和創良靴って単なるカスタムオーダーというだけではなく、店員さんや職人さんとの会話の中で、こんなことまで出来てしまう懐の深さと可能性を持っているんです、ということを伝えたかったからです。
やろうと思えば、私の今までの和創良靴の靴のように、時には10万円を超えるようなオーダーも出来なくはありません。そして、それらは店員さん(私のコンサルタント的役割はヤマザキ屋の泉さん)の技術と経験の引き出しに依るところが大きい。
私の溢れかえる欲求をただそのまま価格とオプションに上乗せするのではなく、プロの目で私の足と好みと靴のバランスを判断した上で取捨選択しながら最適な形を一緒に作り上げていく、という過程が出来るからです。
これは、一般の「靴にあまり興味のない」方にとっても、大きな力になってくれると思うのです。
大量生産大量消費大量投げ売りの中で生まれた低価格が前提の履き捨て靴。
靴屋で働いていて感じたことの一つ。それは世の中の大半の靴は、大量生産を前提に工場のラインが稼働し、一ロット何千から何万足という靴をまずは作らなければならない、そしてそれらを売り切ることが出来る目処が立ってようやく再生産をするかどうか決める、ということです。
そのためには、一足あたりのコストもものすごく低くなります。当然定価ですべて売れるわけではないから、値引きも、更にアウトレットで安く、そして捨て値処分で、それでも無理なら在庫としては残しておけないので処分まで。それらをすべて含めた上でも赤にならないように計算された下代設定で靴が売られ、ということはその子会社、下請けの工場に支払われる給料というのは非常に低くなるのです。
その上で実現している一足1万円にも満たない靴。それが一般の方の靴の平均的な価格であり、それはお手入れなんて考えもしないで、汚れたらみすぼらしくなったらどんどん履き捨てることを前提に、履き捨てても痛くない値段で売られている、ということです。
靴もアパレル同様、結局私達が私達自身の首を締めるだけでなく、それを作っている職人さんや販売員の方々の首も締めている、ということに、安さばかりに目が眩んで気付かずにいるんですね。
画一的な木型。店員が鬱陶しいからネットで購入。それは良いことなのか。
もちろん店員が要らなければ店舗も人件費も必要なくなりますから、更にコストを下げられます。靴なんてどうせ自分のサイズもわかってるし、好みも分かってるから、鬱陶しく声をかけてくる店員なんて無駄どころか害。
接客に嫌な思い出のある方にとっては仕方ないのかもしれませんが、では、その結果として世の中の多くの人は、正しいサイズで、自分の足と身体に負担をかけず、長持ちする靴をきちんと選べているのでしょうか。そして、その靴の正しい履き方を知っているのでしょうか。
これは同様に、大量生産が前提で、どの人の足にも「ひとまず50点から60点くらいのクレームの起きない」木型で作られた靴が安く入ることが、果たして良いことなのでしょうか。
では、学校卒業数年の独立職人の30万円オーバーのオーダーしかないのか。
それはオーダーメードしか無理でしょ、とよく人は言います。足に本当に合わせるにはオーダーメードしかない。ビスポークしかない。そしてそれには一足何十万もかかるでしょ。それじゃ、一生モノだよ。
結局、靴学校を卒業して数年修行後、自分の名前で独立してブランドを立ち上げる若い方がいます。すべてがダメだとは言いません。けれど、価格設定は20万だ、30万だ、と高級ブランド以上の価格になります。
もちろんそれらには理由もありますが、もう一つには、ビスポーク一本それくらいの価格設定でなければ今の世の中では食べていけないからです。注文後半年や一年待ちが前提な作業工程(ここが昔の職人さんとの腕の違いらしいのですが)で生活費や材料費、その他諸々すべて賄うには、20万、30万でも安いくらいです。
和創良靴がこれらすべての問題を解決してくれるわけではない。けれど。
和創良靴は一足4万円弱からです。お店によってベースの金額は若干違いますが、たいていそれくらい。そこから、色々なオプションを希望によって加えていく。革の変更であったり、デザインの変更であったり。ただ、履き心地に直接関係するようなオプションは非常に良心的な価格設定になっています。これは、マニアに向けた価格設定ではないからです。
最も重視されるべき靴のサイズやウィズ、履き心地に関わる部分。
例えば革をコードバンに変えれば36,000円アップ、スキン+シャドウステッチを加えれば24,000円アップです。これらが一般の方にとってその価格ほど履き心地に影響する部分ではありません。
それに比べて例えば九分仕立て。これは最近値段が上がりましたが、それでも24,000円アップです。幾つかの意匠を変えたり加えるのとさほど変わりません。
そして、ウィズもAウィズからBウィズから(←すみません、ご指摘頂き訂正しました。)展開がある。更に左右で別サイズ、別ウィズ、という選択から乗せ甲などの微調整も可能です。これらはほとんど価格は上がらないはずです。
こうしたことは、すべて経験豊かな店員さんとの会話の中で、一つ一つ修正しながら作り上げていくものです。
それでも、別に普通の特に特別な意匠にこだわらない限り、左右のサイズ&ウィズ違い&微修正などを加えてこのみのデザインで普通に作っても5万円はいきません。
もちろん宮城興業の和創良靴もまだまだ発展途上です。
その一番の理由は、店員さんの知識経験、そしてやる気から信頼関係、職人さんとの信頼関係によって大きく差がでてしまうからです。単にこの取扱店は他のお店より安いからおトク、というレベルの話ではないのです。ほぼこのコンサルタント的な役割である店員さんとの関係性によって大きく出来が左右してしまうのです。
とはいえ、もし本当に良いお店に出会えた時、それは全く靴に興味のない人にとっても最良の選択肢になるでしょう。そういう人にとっては5万円は高すぎる、と感じるかもしれません。けれど、キチンとサイズから履き方、お手入れ、その後の修理までサポートしてくれ、更に履き癖から好みまで知ってくれているのですから。
今までの履き捨ての靴とは全く別の存在です。履き捨ての靴を5年間で5足、いや、恐らくそれ以上履き捨ていているだけのお金で、自分の足にもお財布にも優しい靴が安心して購入できるからです。
そこから靴を好きになったら、更に幾らでも広げていける安心感もある。
そのままその店員さんと、より好みや服装に合わせた靴を少しずつ組み合わせて、加えていけば良いと思います。その時には既に店員さんとも、宮城興業の職人さんとも、しっかりした信頼関係が築けているでしょう。
その時、5万円という価格は、高すぎるどころか、もっと本当であれば店員さんや職人さんの給料を考えたら払っても良いのではないか、と思えるモノになるでしょう。本当の意味でのプライスレスであり、3方(ここでは世間ではなく、自分、店員さん、職人さん)良しの世界になるのではないか、と思っています。
これらの話は、まだ夢物語かもしれません。そして理想論かもしれません。けれど、そうした未来を期待させてくれる可能性を充分に持ったカスタムオーダーシステムとして、宮城興業の和創良靴はあるのではないか、と思っています。
宮城興業の和創良靴に関する、今までに書いた記事はこちら。